第42話 砂漠の領域
「話すって……そう語るようなものでもないがな、まぁ、少し話させてもらうよ」
真耶はその場に座り込み話を始め……る前に、ちょっと暑いから涼しい空間を作り出して日を遮る結界を張り話し始めた。
「3日前くらいかな。仲間と仲違いしてな。愛人とも食い違ってしまった」
「何でそうなったんだ?意見の食い違いか?」
「……考えの相違なのかもな。敵を……神を殺す。俺はずっとそう考えてきた。神殺しが俺の目的だとずっと思ってた。でも、俺らが仲間が殺されて悲しいように向こうも仲間が殺されたら悲しいと言われた。でも、俺の仲間は数え切れないほどその命の灯火を消されてしまった。本当に殺していいのか……そう考えていると、自然と仲間を捨てて1人で旅を始めてしまってな」
真耶は少し悲しそうな顔をして語り出す。カネンはその話を聞いてうんうんと頷きながら何とかいい答えを出そうと考えていた。
「なるほどな。俺はあんちゃんがどんなやつで、その仲間がどんなやつか分からねぇが、別に仲間に合わせなくて良いんじゃねぇのか?あんちゃんが今やってる事が正しいって思うんなら、それが正しいんじゃねぇのか?……いや、違う。ごめん、今の嘘だ。多分誰が正しいとか無いんだ。人にはそれぞれの意見がある。それはどっちも正しいんだ。だから、どっちがあっててどっちが間違ってるとか決めなくてもいいんじゃないのか?色々あったあとで、やっぱり俺が正しかったとか、お前が正しかったんだな、とか言って笑い合えるくらいになったら良いんだと思うぜ」
カネンはそう言った。真耶はその言葉を聞いて心にくるものを感じた。そして、涙が溢れてきそうになる。しかし、真耶は何とかその涙を堪えて押さえ込んだ。
「……?泣いてんのか?」
「……あぁ、泣いてるよ。心も体もずっと悲しみの涙の雨が降り注いでるよ」
真耶はそう言って手のひらで目をおおって涙を落とさないように、そして見せないようにぬぐい取る。そして、泣いていたことを隠すように不敵な笑みを浮かべカネンを見た。
「ありがとな。カネンの力で元気が出たよ。ほら、カネンも元気出せよ。一緒にこの空間から出ようぜ」
真耶はそう言ってカネンに手を差し伸べた。カネンは少し安心したように微笑んで真耶の手を掴みとる。そして、勢いよく立ち上がった。
「とは言ったものの、あんちゃんはどうやってここから出るつもりだ?てか、あんちゃんの名前まだ聞いてなかった。なんて言うんだ?」
「名前?月城真耶だよ」
「っ!?まさか、あんちゃんが真耶なのか!?」
名前を聞いた途端カネンが驚き焦り出す。
「どうした?俺が真耶だったらまずいのか?」
「あぁ!まずいよ!あんちゃん、今魔王軍からお尋ね者にされてんぞ!まさか……神を殺したって本当だったのかよ。夢の話かと思ってたぜ。あんちゃんが真耶だって言われれば納得が行くな」
カネンはそう言って納得する。しかし、真耶は全く納得できない。何故自分がお尋ね者にされなければならないのか?不思議なことが多すぎる。
「なぜ俺なんだ?」
「なぜって、だってあんちゃんだろ?神を殺したのは。結構有名になってんぜ。あの毒ガスを作り出してた神を殺してるのを魔王様がたまたま見たらしいんだよ。それで、あんちゃんの力が欲しいとかで探してんだとよ。もしかしたらあんちゃんがここにいるとまずいかもしれんぞ」
「……まぁ、まずいな。とりあえず早く出ようぜ」
真耶は少し考えた後少し疲れたような声でそう言って歩き出した。そして、ため息を1つ着いた。
「……あんちゃん、待ってくれよ。歩き出したけどどこに行くつもりなんだ?」
「どこって……どこだろうな?まぁ、なんか歩いてたら見つかるんじゃね?って訳にも行かねぇしな」
「ほんとそうだぜ。1体どうしたものか……」
「……」
2人は今の状況をどうするか深く悩み会話が無くなる。そして、かなり集中しだした。そんな中真耶は静かに目を瞑る。そして、魔力を溜めるといきなり見開いた。
その目に映っていたのは世界眼だ。右目は眼帯をしていて左目でしか使えないが、この目の力を使えばもしかするとこの砂漠地帯の終わりが見えるかもしれない。
そう思っていきなり世界眼を使う。その突然のことにカネンは思わずびっくりした。
「ど、どうした?」
「……いや、世界眼を使えば見えるかと思ったけどな、全く見えなかった。ループしてないと言っていたが、そうだとするならこの領域はクソがつくほどでかいぞ」
真耶はそう言ってもう一度目を瞑り左目に浮かぶワールドアイを収めた。そして、カネンの方を見る。
「……なるほどな。じゃあ本当にどうするかを考えないといけないでは無いか」
「……まぁ、この空間から出られる方法がないこともないぞ」
真耶は少し嫌そうな顔をしてそんなことを言った。すると、その言葉にカネンは食いつく。
やはり、3日近くこの場所をさまよっているとそういう出られそうな話に興味が出てくるみたいだ。
「ほんとか!?出られるなら早く出たい!」
「……うん。まぁ、どうなるか分からないけどな」
「それでもいい!それで、どんな方法なんだ!?」
「……何かしらの方法でサンドドラゴンを呼び寄せるんだ。そして、ここから出してもらう。それが出来なければ殺す」
真耶はカネンにそう言った。カネンは少しびっくりしたような表情をしたが、すぐに考え込み言ってきた。
「確かに、それが一番かもしれんな。だが、そんなこと出来るのか?呼び寄せることさえも出来ん気がするのだが」
「別に呼び寄せるのは簡単だ。方法ならいくつかあるからな。例えば、そこら辺に悪口を書いておくとか、とてつもない魔力を放つとかな」
「そんなんで呼べるのか?それに、とてつもない魔力を放つなんて、余程魔力に余りがあるやつしか出来ねぇぞ」
「……確かに俺の魔力にあまりは無いな。常にカツカツで限界を迎えている。だが、別に俺自身の魔力を使う必要などどこにもない」
「まさか、俺の魔力を使うのか?俺の魔力はあんちゃんが思ってる10倍は少ないぞ」
「違うな。カネンの魔力は使わない。使うのは、大気中に含まれている微量な魔力だ。これらは微量とは言え集まればかなりの量になる。だから、それを集めて集めて集めまくって巨大な魔法陣を作り出せばサンドドラゴンは現れるはずだ」
「なぜそう言い切れる?」
「フッ、考えてみろよ。魔王軍はもし人間が神々に負けても自分達の陣地を確保するためにこういった領域を作り出した。たとえ神々が攻めてきても、この領域に入れば出られない。俺らみたいにな。それに、恐らくだがこの領域内にいるとサンドドラゴンは自由に俺達に攻撃を当てれるはずだ。だから、この領域は魔王軍にとってかなり使い勝手のいい物なんだ。そんなものを壊されたらたまったもんじゃないよな?」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。しかし、カネンは少しだけ不安になりながら言ってくる。
「本当に出来んのか?微量なんだろ?何年かかるか分からねぇよ」
「5分で終わるよ。多分」
「本当か!?」
カネンは驚き思わずそう言ってしまう。真耶はそう言われてこくりと頷き魔法陣を描き始めた。
今回描くのは通常真耶が使う魔法の5倍位の魔法だ。さすがに大きすぎると本気で領域を壊しかねない。壊れない程度の魔力を放出する魔法陣を描かなければならない。
そして、それに1番適した魔法がある。その名も、『強制領域解除魔法・キャンセルスフィア』だ。この魔法は加えた魔力量に応じて消すことが出来る領域の大きさが変わってくる。
「ま、この程度の魔力だと消せねぇよな」
そう言ってどんどん作り上げていく。その時、目の前に炎のようななにかが見えた。そして、微かに真耶の名前を呼ぶ声がする。
『真耶……こっ……いて……。目を……』
真耶はその言葉を聞いた瞬間に察する。そして、魂眼を発動して目の前を見つめた。すると、そこにさっきまでいなかった人が現れる。
「久しいな」
真耶はその姿を目にして笑った。すると、目の前に現れた人はにっこりと笑って抱きついてくる。
『久しぶり!真耶!』
「そうだな。クロエ」
そう、その人物とはクロエだったのだ。
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