第40話 深淵を読む者
「っ!?」
ディアーナは油断していた真耶の首元にナイフを突き刺しきちんと殺したのを確認してからナイフを抜いた。
真耶の体は一瞬のことについて行かなかったのか、力なくその場に倒れている。ディアーナはそんな真耶の姿を見て少し笑う。そして、まるで本性を表したかのように喋りだした。
「馬鹿な男。正体に気がついたらその時点で殺しておかないと。なんで皆こんな男にやられたのかしら」
ディアーナはそんなことを1人で呟き姿を変えていく。すると、ディアーナは16歳程度の女の子へと変わった。
「あーあ、無邪気の子供のフリするの疲れたわ」
そんなことを言って方をポキポキと鳴らす。そして、弓を召喚し真耶の遺体を消そうとした。
「”空の弓”よ。さよなら」
その刹那、真耶の体が自ら消える。そして、ディアーナの背後から真耶が出てきた。真耶は既にディアーナの体を拘束し、後ろの木に繋げている。
「気が付かなかったのか?正体が分かったらすぐに対策をするものだろ。なぁ、アルテミス」
真耶はそう言ってアルテミスの前に出てくる。すると、さっきまでディアーナと呼ばれていた彼女は、一瞬でその皮を脱ぎ捨てアルテミスとなったのだ。
「良くもやってくれたわね!いつから気づいてたの!?」
「お前がナイフを取り出す前だ。物事の深淵を覗いたらお前がアルテミスだと分かった。名前を言う時はもっと考えてから言うことだな。アルテミスの別名はディアーナだ。あと、ナイフを取り出す時は殺気を出さないようにした方が良いぞ。バレバレだったからな」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべながらアルテミスの頬に手を触れる。そして、撫で回すように手を動かし少し頬をつねる。
「……いつ入れ替わったの?」
「刺される直前だ。刺される直前に魔法陣を描いた。その時に入れ替わった」
真耶はアルテミスの質問にそう答える。そして、人差し指で鼻を押し豚のような形にした。
「フッ、本来ならここからお前を拷問して情報を聞き出すところだが、お前はどうしたい?このまま雌豚として俺の奴隷になるか、拷問を受けて情報を全て吐くか、死ぬかだ。どうしたい?」
「……1つ選択肢が足りないわよ。あなたを殺すわ」
そう言った瞬間、アルテミスを拘束していた糸に向かって矢が飛んできた。それは、アルテミスの持っていた空の弓……いわゆるスカイアローと呼ばれる金の弓から放たれたものだ。
どうやらアルテミスは、真耶が背後に立った瞬間にこうなることを予測して矢を放っていたらしい。そして、その予測は見事的中して拘束を解いたわけだ。
「形勢逆転ね!”星空の流星”」
アルテミスはたった一瞬で無数の矢を放ってきた。その矢は、近距離とか遠距離とか関係なく回避不可能な数飛んできている。さすがは狩猟の神と言うだけはある。
しかし、こういう戦いで大事なのは、次の手を読むことでは無い。次の次の次の手まで読み、かつ次にどういう行動をしたら良いかを考え、その次の行動にいち早く繋げることが出来るという事だ。
だから、当然真耶はこの状況になることも読んでいた。もしそうでなければ、アルテミスを拘束した時点で体の四肢を切り裂き、行動不能にした状態で身ぐるみを剥がしている。
そこまでましてやっと安全に話し合いができるのだ。しかし、真耶はそれが分かっていながらしなかった。それは、真耶にはそうしなくても次に繋げることが出来るということを意味している。
要するに、そうする必要など無かったのだ。なんせ、しなくてもこういう未来になることを予測していたから。
「フッ」
その時、何故か無数の矢が真耶の目の前で止まった。その様子はまるで、時間を止められているかのようだ。
気がつけば、真耶の目の前に魔法陣が描かれている。その魔法陣は突如真耶の前に現れ矢を全て止めてしまった。
「っ!?何で!?」
アルテミスは思わずそう叫んでしまう。その言葉を聞いた真耶がニヤリと笑った。
そして、アルテミスに近づいていく。その時アルテミスは新たなことに気がつく。なんと、体が一切動かないのだ。どれだけ逃げろと体に命令しても、その命令が体に行き渡る前にどこかで消されている。そんな感覚だ。
「何で!?体が……!動かない……!」
「諦めろ。俺はお前の体じゃなくて、お前の魂を拘束……いや、封印した。まぁ封印と言っても拘束型の封印だけどな。そのせいでお前はもう体を動かすことは出来ない。これでやっとまともに話ができるな」
「っ!?封印って、それに、魂ってどういうことよ!?」
真耶はそう言ってアルテミスに近づく。そして、目の前に来るとアルテミスの服を掴んだ。
その刹那、真耶がアルテミスの服を破り捨てる。ビリビリに破りその綺麗な素肌を顕にさせる。
「っ!?イヤ……きゃああああああああああ!」
アルテミスは恥ずかしさのあまり大声で叫んでしまった。やはり、神だと言っても女の子なようだ。こういう恥ずかしいという気持ちは存在するらしい。
しかし、そんなことは真耶にとってどうでもいいことだ。今大事なのは、再び拘束を解かれないようにすること。次また解かれたら戦いは必至だ。
「……これでまともに話せるな。暗器も何も隠してないようだ」
真耶はそう言いながらアルテミスの鼻にフックをかける。そして、そのまま強い力で後ろに引っ張りアルテミスの鼻を豚のように釣り上げた。本当はここからお尻の方にも連結させたいのだが、そっちはやってないので今回は鼻だけで良いだろう。お尻をやるのはまた今度だ。
「ひぐぅぅぅ!」
アルテミスが悲痛な叫びをあげる。その声を聞いて真耶は少し楽しくなってしまった。そして、少しだけニヤつくと、そのまま両頬を握って言う。
「全て話せ。何が目的だ?俺を殺すだけなら暗殺すればいい。だがしなかった。それに、あの街では地脈に干渉してないみたいだからな。さぁ、目的を話してもらおう」
真耶はそう言ってアルテミスを睨みつける。そして、心眼を左目に浮かべた。これで嘘はつけない。
「……」
しかし、アルテミスは一向に話をしない。しかも、考えてすらいないのだ。恐らく思考を読んでいることがバレている。だから、読まれないように何も考えてないのだ。
「まだ負けてないわ」
アルテミスはそう言うと、突如魔力の波のようなものを放ってきた。その波はかなり強く、真耶は弾き飛ばされてしまう。そして、アルテミスは真耶を遠くに退けると、何とか逃げようと動き始めた。しかし、魂を拘束されているため、逃げるどころかまともに動くことさえ出来ない。
「やってくれたな。仕方ないな。もっと苦痛を与えるしかないわけか」
真耶はそう言って小さくため息をつく。そして、アルテミスに近づこうとしたその時、突如斬撃が飛んできた。
真耶はその斬撃を難なく避けると飛んできた方向を見る。そこには、さっきまで居なかったはずのハデスとペルセポネが居る。2人は今度は真耶の敵なようだ。
「ごめんなさいね。彼女を連れ戻せって言われたの」
ペルセポネはそう言ってアルテミスに近づく。その時ハデスは既にアルテミスの拘束を解いていた。そして、鼻フックも外す。すると、アルテミスの鼻はりんごのように赤く染っていた。
真耶はそんな3人を見て構えた。さすがに3対1になったら勝てるかどうか分からないからだ。
しかし、ハデスとペルセポネは少し笑うと扉を開く。そして真耶に言った。
「今日は戦うつもりは無い。だが、いずれ戦う日が来るかもな」
ハデスはそう言い残してアルテミスをゲートに放り込んだ。ペルセポネはにっこりと笑ってハデスと共にゲートを括った。
その場には、一時の静寂が訪れた。
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