第38話 悲惨な村
アーサー達が到着したのは、真耶が居なくなでてから5分後だった。アーサー達は到着するなり直ぐにデメテルの存在に気が付き近づく。
「大丈夫か!?」
「一足遅かったわ……!」
「そんな……!は、早く治さないと……!」
「まぁ待て、今から取り掛かる」
アーサーはそう言って回復魔法の呪文を唱える。普段は詠唱なんかしないアーサーが詠唱をするのだから相当ヤバい状況なのだろう。
「モルドレッド!近くに真耶は!?」
「いないよ!」
モルドレッド達は真耶の姿を探す。しかし、広範囲に探知魔法を起動しても、全く引っかからない。どうやら既にこの近くにはいないらしい。
アーサー達はその事実を知った途端回復魔法をかける速さを上げる。そして、何とかデメテルの一命を取り留めた。アーサーはデメテルの回復が終わると直ぐに真耶を追いかけようとする。しかし、ヘファイストスがそれを止めた。
「待って!行っちゃダメ!」
その言葉を聞いた瞬間アーサーは足を止める。そして、気がついた。真耶が進んだ道と思われる場所に、大量の罠があったことを。
「っ!?悪い。気が付かなかった……」
「……ねぇ、皆少し落ち着こ。考えないと真耶に殺されちゃうよ」
「ハハハ……否めないな。多分あいつ、心の器が壊れておかしくなってんだろうな」
「……策を練ろう。策を練って真耶を追いかけよう」
モルドレッドは突如そんなことを言い出した。アーサーはそれを聞いて少し考えると、不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、あいつに頭で勝てるとは思えんが、やるだけやるか」
そう言って真耶が進んだと思われる道を見つめた。その方向には真っ黒な負の怨念が漂っていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━その日から3日が経過した。その間アーサー達はルーレイトの街へと戻りデメテルの治療や、これからどうするかの策を練っていた。
真耶も、その間何も動きを見せず、どこにいるのかすら分からないほどだった。そして、3日経ったその日、ついに動きがあった。なんと、偵察に行っていた霞がロストの街のギルドで真耶らしき人物を発見したのだ。その知らせを聞いたアーサー達は慌ててルーレイトの街を目指す。
「行くぞ」
そして、アーサー達はルーレイトの街を出発した。霧音は最後までどうするか悩んでいたが、どうやら着いてくるらしい。アーサー曰くだが、もしかしたら霧音の魔法が真耶に効くかもしれないとか何とか……。
そんなこんなでアーサー達はロストの街へと出発した。
そして真耶は……
「……準備は万全だ。次の敵を殺しに行く」
そう呟いてある依頼を受けた。
真耶はその依頼を受注すると直ぐに目的地へと向かい始める。その依頼の内容とは、方舟の騎士の討伐だ。なぜこの依頼を受けるのか、それには理由がある。それは、少し前に遡る……。
霞が真耶を発見する日の前日、真耶はいつも通りこっそりと依頼を受けていた。2日間滞在してわかったことだが、どうやらロストの街にはオリュンポスはいないらしい。だから、特に何かをやるということは無い。これからの旅費を稼ぐ目的で依頼を受けていた。
そんな時、ギルドの前である女の子に話しかけられた。その女の子はロストの街にいる人とは違った服を着ていて、どこか貧しさを感じる。
「あの……」
「ん?どうした?」
「あの、お願いがあります!最近私達の村の近くで謎の騎士が歩き回ってて、その騎士が私達の村の作物をめちゃくちゃにしてて、それで……!」
女の子はしどろもどろになりながら言った。
「それで、その騎士を俺に倒して欲しいのか?」
真耶は優しく微笑みその女の子の頭の上にてをポンッと乗せて聞いた。すると、女の子はこくりと頷く。
「でも、なんで俺なんだ?他に人はいるだろ?それに、村って……この街と何か関係があるのか?」
「ご、ごめんなさい……。わ、私はよく分かんないです……。お母さんがこの街に行けば必ず助けてくれるって、お兄ちゃんに頼んだら、必ず助けてくれるって」
女の子はそんなことを言ってくる。その言葉を聞いて真耶は少し考えた。
なぜ真耶なのか?その答えは簡単。真耶のことを知っているからだ。そして、少なからず真耶に何かをしたいからだ。例えば、クロバやアロマのように会いたい、とか、オリュンポスみたいに殺したい、とかだ。そして、今回の依頼内容は騎士の討伐。そんな異常な事が起こっていたら、ギルドが勘づかないはずがない。もしかしたら、これは真耶を陥れる罠かもしれない。
「……おもしれぇ。良いよ。その依頼を受ける。それで、色々教えてくれないかな?」
「わーい!ありがとう!ずっと依頼を出てたのに誰も受けてくれなくて、少し悲しかったの!」
「……」
真耶は女の子のその発言を聞いた瞬間少し真顔になってギルドの中に向かって歩き出した。当然女の子も一緒にだ。そして、依頼板を見る。すると、本当にあった。
「……ごめん。疑ってた俺が馬鹿だったわ」
「え?どうしたの?」
「いや、何でもない。とりあえずあっちで話を聞くよ」
真耶はそう言って奥にある食堂のようなところまで向かう。女の子ははぐれないようにしっかりと真耶の服の裾を掴んでいた。
そして、テーブルのところまで来て椅子に座って女の子に話を聞く。
「それで、一体何があった?」
「それがね、なんかね、突然変な人が村に来たの。でね、その人がね、突然村の人を切ったの。それでね、怖くなってね、家にいたらね、お母さんがこの街に男の人が来るからその人に助けてもらいなさいって言って、その人の名前が真耶って言って背中に剣を背負ってる人だって言ってたの。お母さんも会ったことがないって言ってたんだけど、でも優しい顔をしてるからって、でも、心に深い傷を持ってるから優しくしろって言ってね、それで来たの」
「なるほどな。俺の予想は全て外れたわけか。それで、その騎士が危ないから俺のところに来たわけね。でも、君のお母さんが気になるな。占い師か何かか?」
「うん!お母さんは占い師なの!自慢なんだよ!」
女の子は嬉しそうにそんなことを言う。真耶はそんな女の子を見て少しだけ微笑んだ。そして、女の子の頭の上に手を置いて優しく撫でる。
「よく頑張ったな。助けられるかは分からないけど、何とか頑張ってみるよ」
真耶はそう言って椅子から立ち上がるとその依頼を受注した。
「出発は明日の朝。それから急いで行こうな」
「うん!ありがとう!あとね、あとね!お母さんがこんなこと言ってたの!その男の人が帰ってきた時絶対に私達の姿を見ちゃダメだって。全部男の人に任せてだって。だからお兄ちゃんよろしくね!」
女の子は無邪気な笑顔でそんなことを言ってくる。しかし、その言葉を聞いた瞬間真耶は嫌な予感がした。そして、依頼内容や詳細情報を見る。すると、そこに驚くべきことが書いてあった。なんと、その騎士はテクニシャンらしい。そして、その騎士に襲われる者は皆女性なようだ。さらに言うなら、その騎士に襲われたものは皆精神を壊されるほど犯されていたらしい。
「っ!?……クソ野郎だな……」
真耶は顔を暗くし小さな声でそう呟いた。そして、その依頼の紙を誰にもバレないようにクシャクシャにして決意を固めた。
「君、名前は?」
「私?私の名前はディアーナだよ!」
「よし、ディアーナ。お前のことは俺が絶対に守ってやる。何があってもな」
真耶はそう言って拳を強く握りしめた。ディアーナはそんな真耶を見て少しだけ怖がりながらもにっこりと笑った。
「……ん?」
その時、ふとある文字が目に映る。それは、ちょっとした注意書きのようなものを持っている人だ。その人は何かを見せつけるかのようにその注意書きのようなものを持っている。
「”見えてるものが全てじゃありません。詐欺に気をつけよう”って、なんだこれ?あ、裏にも書いてある。”一流の冒険者とは、目で全てを語ることが出来る者”って、お前かっけぇな」
真耶はその注意書きを持っている男にそう言った。すると、男は不敵な笑みを浮かべると真耶の耳元で小さく呟く。
「例え昔の自分を忘れても、例え優しい心を忘れても、目で語る戦いだけは忘れるな」
男はそう言ってニヤリと笑い、どこかへ消えていった。真耶はその言葉を聞いてかなり不思議に思い直ぐに追いかけようとする。しかし、ディアーナに止められてしまい追いかけられなかった。
「ん?どうした?」
「お願い。行かないで」
「あ、あぁ、済まないね」
真耶はそう言われて足を止める。そして、女の子の怖がる顔を見て少し微笑んで言った。
「そう怖がるなよ」
そして、真耶達はその日は宿に泊まって過ごし、次の日になって問題の村へと向かうことにした。
そして、今に戻る。
真耶達はアークナイトを討伐するため、ディアーナが来たという村へと向かう。その道中はかなり険しく、女の子が1人で進むのは難しい程だった。
真耶はそんな悪路を難なく突き進む。しかも、かなり速いスピードで。そんなスピードで進んでいると、ディアーナが出てきたという村が見えてきた。真耶はその村が見えてくると、直ぐに中に入る、なんてことはせず一旦少し離れたところで止まる。そして、その村を見た。
パッと見た感じ罠は仕掛けられていない。恐らくそういう感じの魔法は無いだろう。そう確信して村の中へと入った。
村の中に入ると、ディアーナが直ぐに自分の家を教えてくれた。そこに、真耶の存在を知るお母さんがいるらしい。しかし、最後にディアーナに見ちゃダメだとか言っていたことを思い出した。
だから、真耶はディアーナに見せないように中を確認する。すると、そこにはとんでもない光景が待っていた。
なんと、その家には犯されたお母さんと姉のような存在がいたのだ。その2人は身体中ローションを塗ったかのようにヌメヌメにされており、裸にされ言葉に出来ないほどの辱めを受けていた。
特に、お尻に刺さっている……いや、言葉にするだけでもはばかられそうなものが痛そうだ。しかも、真っ赤に腫れ上がっている。恐らく1000回位はペンペンされてるんじゃないだろうか。そう思えるほど腫れていた。
真耶はそんな光景を見て思う。これは、殺人現場を見るよりも悲惨な光景なのではないだろうかと。なんせ、この2人の女性は犯され女性としての尊厳を奪われた。そして、ぐしゃぐしゃになるまで辱めを受け、まるでゴミのように捨てられている。
まだ、ゴミ箱に入れられるならマシだ。だが、この2人は見世物のように拷問にも近い恥辱を与えられ痛みを感じさせられながら立たされている。真耶はこんなことされたことがないから分からないが、おそらくこの痛みは耐え難いものだろう。心臓を突き刺されるのと同じくらいの痛みなはずだ。
真耶はそう思いながらもその女性2人を下ろし、寝転がらせる。そして、心音を確かめた。心音はまだある。しかし、精神が完全に崩壊してしまっている。これでは生きていたとて人形と同じ。まともに生きていくのは不可能に近い。
「……」
真耶は少しだけ拳を握りしめた。そして、アークナイトを殺すことを決意する。そして、家の外に出た。外にはディアーナが待っていた。ディアーナはキョトンとした目でこっちを見る。
「……それじゃあ、倒しに行くか」
真耶は極力明るい声でそう言ってアークナイトが出現すると言われている場所へと向かい始めた。
ディアーナはそんな真耶を見て少しだけ明るい顔を作ると、直ぐに真耶を追いかける。その時、ふと真耶はある言葉を思い出した。
『見えてる世界が全てじゃない』
この言葉にどんな意味があるのか、それはまだ分からない。ただ、1つ分かることといえば、俺の見ている世界は本当のことでは無いのかもしれないと言うこと。
「……あ、眼帯忘れてた」
その時真耶は自分の右目に眼帯がないことに気がつく。そして、大気に含まれる炭素やら何やらを使って作り出すと、直ぐに右目に被せた。
「……今は、とにかく目の前の敵を倒すことだな。だが、考えることを辞めることは出来ない」
真耶は小さくそう呟いて、左目を黄色く光らせた。
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