第37話 体を襲う恐怖と絶望
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━少し前……
アーサーは全てやりきったかのような表情で腕を降っていた。そして、その近くのベッドの上にはお尻を突き出して泣くヘファイストスがいる。そんなヘファイストスのお尻はりんごより真っ赤に腫れ上がり、通常の2倍以上に膨れ上がっていた。しかも、怪我しているのか血が出ている。
「分かったか?これに懲りたらわがままなんか言うな。それに、クロバにも迷惑をかけやがって」
アーサーは憎たらしそうにそう言う。そして、ため息を1つついた。しかし、ヘファイストスは何も言わない。なにか言えばまた同じことをされかねないから。
「……さて、あとはモルドレッドからの連絡を……っ!?」
その時、突如強大な力を感じた。そして、それはアーサーだけではなくその場にいた全員が感じている。それで直ぐに神の力だとアーサーは気がついた。
「っ!?これはオリュンポスの……じゃあ、今のはデメテルか!?」
「分からないです!とりあえず外に行きましょう!」
アロマが慌ててアーサーにそう言う。アーサー達は慌てて外に向けて駆け出した。ヘファイストスも、その異常さに気がついて直ぐにパンツを履き、着替えて外に出てきた。
そして、アーサー達は外に出た瞬間気がつく。なんと、力を感じた方角に嵐が起きているのだ。
「っ!?あれって、デメテルの!」
思わずヘファイストスがそう叫ぶ。その言葉にその場の全員が食いついた。
「おい!どういうことだ!?まさか、デメテルが誰かと戦ってるのか!?」
「わかんない!でも、あの技はデメテルの最強の技、『天変地異』よ!あの技はデメテルが1つの世界を破壊するのに使っているわ!見てて!あの技は、時間が経つことに周りの魔力を吸い取り大きく、強くなるの!」
ヘファイストスは慌ててデメテルの技について説明する。そして、そこからわかったのは、とにかく天変地異を喰らえば終わり。1度食らってしまえば逃げ出すことは出来ないのだ。
「クソッ!一体何が起こってんだよ!」
アーサーは呻くようにそう叫んだ。そして、直ぐにその天変地異が起きている場所に向かおうとする。しかし、本当の恐怖はその後に来るものだった。
「「「っ!?」」」
突如アーサー達を何かが襲う。その何かはとてつもなく怖く、体をつきぬけていくような感じがした。
アーサーはそれが何かすぐに分かる。殺気だ。ただ、誰の殺気かは分からない。それでも殺気だということだけは分かった。
その殺気はその場にいる者……いや、その街にいる人全員を恐怖のどん底に落としてしまう。そのせいでアーサー達と一緒にいた女性陣は皆力なくその場にへたりこみおしっこを漏らしてしまった。
さらに、その恐怖心はアーサー達の心を壊そうとする。さすがにアーサーは耐えることが出来たが、ヘファイストスやクロバ、アロマ、霧音は耐えることが出来ずに滝のように涙を流す。気がつけば、4人の足元には大きな水溜りが出来ていた。
アーサーは何とかその殺気に耐え足を動かし天変地異が起こっている場所へと向かおうとする。その時、目の前から何かが飛んでくるのが分かった。
「っ!?モルドレッド!」
「アーサー!真耶が……!真耶が!」
「何!?真耶がどうした!?……まさか、あそこにいるのか!?」
アーサーはモルドレッドに慌てて聞く。モルドレッドは息を切らせながらこくりと頷いた。
「クソッ!このままじゃアイツが殺されてしまうってことか!」
「違うの!このままじゃデメテルが殺されちゃう!いや、それだけじゃない!神が……皆殺されちゃう!」
モルドレッドはアーサー達にそう叫んだ。そして、アーサーはその言葉を聞いて全て理解する。さっきアーサー立ちを襲った恐怖。アーサー達を絶望に陥れた殺気。その正体は、真耶が放った殺気だったということを。
「クソッ!次から次に!おい!ヘファイストス!早く立て!直ぐに真耶のいる場所に行くぞ!クロバ!アロマ!お前らはそこの暗殺者の女と同じようになっているやつを見つけ出して治療しろ!」
アーサーはそう言って半ギレになりながら急いで真耶のいる場所へと向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━そして今……
(っ!?……何が起きた!?なんでいきなり僕の魔法が消えたんだ!?一体何をした!?一体……)
デメテルは突然のことに混乱しながら考えた。そして、突如感覚がなくなってしまった右胸らへんを見る。すると、その部分が無くなっていることに気がついた。
「っ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
無くなっていることに気がついた時、唐突に痛みが混み上がってくる。その痛みはこの世のもので与えられるものとは比べ物にならず、気を失わずに保っているのもやっとなくらいだ。
「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
思わず痛みで泣き叫んでしまう。そして、何とか意識を保つがやはり難しそうだ。気を抜けば直ぐに意識が無くなる。
「弱いな。この程度で叫ぶとは……。弱虫はこの世に存在する価値なんかないよなぁ?」
真耶は人が変わったようにそう言って笑う。そして、地面から石を数個取り、それを鉄の棘に変える。そして、容赦なくデメテルの四肢に突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いちいち叫ぶな。うるさいな。どうせお前は死ぬ。叫ぶ暇があったらやりたいことでもしてろ。まぁ、右腕は何も出来ないけどな。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
そう言って真耶は高々と笑った。そして、服に着いている埃を払うと、次の街に向けて歩き始める。その方向にはロストの街があった。
「クソッ!待て!まだ僕は負けてないぞ!」
「あっそ、別に勝ち負けは関係ないよ。あ、1つ忘れてたな。地脈に流れるお前の魔力を貰っていくよ」
真耶はそう言って地面に両手を触れた。そして、地脈に干渉する。その刹那、とんでもないほどの魔力が真耶の体の中に流れ込んできた。
「っ!?何故だ!?地脈に干渉出来るのは、地脈に最も近い場所だけなはずだろ!何故出来る!?」
「別に、地脈に近くなくてもいい。ただ、しにくくなるってだけだからな」
真耶はそんなことを言いながらどんどん干渉していく。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
「「「っ!?」」」
その時、遠くにいたアーサー達も異変を感じた。
「誰かが地脈な干渉してる!」
「待って!地脈に干渉出来るのって、地脈に近い場所じゃないとダメなんじゃないの!?」
「いや、地脈に近くなくても出来ないことは無い!地脈はどこからでも干渉することが出来る!だが、そんなことが出来るやつを俺は1人しか知らない……!」
アーサーのその言葉で全員は同じことを思い浮かべた。そう、今地脈に干渉している人物が1人だけいる。そしてそれが、真耶だと言うことだ。
だが、問題はそこじゃない。今真耶が地脈に干渉しているということは、当然だがデメテルは敗北したということ。だとしたら、デメテルはもう殺されている可能性が高いということだ。
「お願い……!間に合って……!」
モルドレッドは祈るような気持ちで足早に真耶がいるであろう場所へと向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
「これで全てか……」
真耶はそう呟いて地脈の中にある魔力を集めるイメージをした。そして、地脈の中に自分の魔力を少し流し込み、地脈を流れる異色な魔力を球体のような形の塊に纏める。そして、いとも簡単に地脈から魔力の塊を取り出した。
「ほら、取れただろ。貰ってくよ、これは」
真耶はそう言って魔力の塊を自分の胸に押し込んでいく。そして、全て吸収してしまった。
「嘘……だろ……!?」
デメテルはその異様な光景に言葉を失ってしまった。
「……フッ、これでお前の技も貰ったな。あ、そうだ、1つ言い忘れてたけど、俺は吸収した魔力からその人が使っていた魔法を複製出来るんだよ。じゃあな、ありがたく使わせてもらうよ。あと、最後に、誰かに見つけて貰えたらいいな。そしたら助かるかもだぜ」
真耶はそう言って振り返りロストの街に向かって歩き始める。そして、2人がいたその空間は一時の静寂に包まれた。その静寂は、真耶の心をどんどん暗く冷たくしていき、デメテルの心を沈めていった。
その時、突如風が吹いてきた。その風は生えている草をなびかせながら真耶とデメテルの体を抜けていく。デメテルはその風のせいで目がしみてしまい少し閉じる。そして、直ぐに目を開けて真耶の姿を確認した。しかしその時には既に、そこに真耶の姿は無かった。
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