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モブオタクの異世界戦記Re  作者: 五三竜
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第35話 怒りと悲しみ

 真耶とモルドレッドは一瞬でルーレイトの街に戻ってきた。そして、直ぐにギルドへと向かう。


「アーサー!間に合ったか!?」


 真耶はそう聞きながら扉を開けた。すると、真耶の作りだした巨大な時計はもう少しで3日というところだった。恐らく、あと1時間程で3日経っていただろう。


「ギリギリ間に合ったな。すぐに治療を始める」


 アーサーはそう言って奥から何かを取りだした。それは、調合した薬だ。あと瘴気草を入れれば完成というところまで来ている。


 真耶はそれを見てすぐに瘴気草をアーサーに渡した。アーサーはそれを受けとるとすぐに薬を調合させ作り出す。


 そして、アーサーはクロバの前に来て薬を飲ませようと構えた。真耶も反対側からクロバに近づき魔力を流し始める。これで、ギリギリまで死ぬ時間を遅らせるのだ。


 そして、真耶は止めていた時間を進めた。その瞬間、クロバが死の道を全速力で駆け出していく。真耶は魔力を流しそれを何とか遅くし、その隙にアーサーは薬を飲ませた。すると、その薬が効いたのか、少しずつ顔色が良くなっていく。


「効くの早いな」


「これは即効性だ」


 2人はそんな会話をしながらそれぞれ魔力を流し込み続ける。そして、薬の効果が全盛期を迎えた。クロバの顔色がどんどん良くなり、体から瘴気が抜けていく。


 それから5分経つと、遂にクロバの体から瘴気が全て無くなった。さらに、顔色も良くなり死ぬ心配がないと思われるような表情になる。


 真耶達はそんなグロバを見て安心した。そして、全員どっと疲れが流れ込んできたせいでその場に座り込む。


「……はぁ、何とかなったな」


「そうだな」


 真耶とアーサーはそう言って笑いあった。モルドレッドも嬉しかったのかてくてくと歩いてきて真耶に飛びつく。真耶はそんなモルドレッドを受け止めると、優しく頭を撫でた。


「……何かあったのか?」


 アーサーが真耶に向かって聞いてくる。


「……いや、ちょっとな」


「……真耶、あまり思いつめるな。俺とお前は仲間であり友でもある。もしお前が悩んでいるのなら、すぐに我に相談しろ」


「そうするよ。でも、今回はモルドレッドのおかげで助かったよ」


「フッ、それは良かったな。だが、それでいいのか?愛する人を助けるのが男の役目なのに、助けられてるぞ」


 アーサーはそう言って煽るように笑う。真耶はそんなアーサーを見て少し怒りそうになったが、図星すぎて何も言えなくなった。


「あ、そうだ。瘴気谷に行ったらな、デメテルがいたんだよ。それで色々起こってな」


 真耶はアーサーに瘴気谷で起こった全てを話した。すると、アーサーは真耶の話を聞いて少し頭を抱える。


「……やつがいたということは、この街付近の瘴気は全て奴が作り出したものだろう。だったら、奴を殺せばいいわけか」


「ま、待って!私の時みたいに仲間にするとかできないの⁉︎」


 その時、アーサーの言葉を聞いたへファイストスが慌てて聞いてきた。しかし、真耶は静かに言う。


「無理だろうな。全員お前と同じと思うなよ。オリュンポスのほとんどは俺のことを嫌ってるんだ。俺達が何を言ってもあいつらは聞く耳を持たない」


 真耶は少し冷たくそう言った。しかし、へファイストスからしてみれば仲間を殺すと目の前で言われたのだ。仲のいい人もいるはずだから、そんな人まで殺すと言われれれば止めるのは当たり前だ。


 だから、へファイストスは少ししつこいくらいに食いつく。そして、何とか殺すのをやめてもらうように懇願する。しかし、真耶は一切表情を変えない。冷たい目つきでへファイストスを見つめる。


「お願い!きっと言うことを聞いてくれるから!」


「……」


 ヘファイストスが何を言っても真耶は返事を返さない。


「本当にお願い!私の友達だっているの!だから殺さないで!どんなに痛めつけても良い、奴隷にしたっていい、拷問でもなんでもしたっていいから殺さないで!」


「……」


「お願いだからぁ!ご主人様ぁぁぁぁ!何でもしますからぁぁぁぁ!」


 ヘファイストスはそう言って真耶に縋り付く。そして、肩や腰、体を揺らして何とか説得しようとする。その様子はまるで、駄々をこねる子供のようだ。


「お願いだからぁぁぁぁ!ねーぇー!ねーぇー!おーねーがーいーだーかーらー!!!」


 ヘファイストスは黙り込む真耶にしつこくすがりつく。


「……なぁ、なぜ俺なんだ?」


 真耶は小さな声でそう聞いた。すると、ヘファイストスは少しキョトンとした顔で言ってきた。


「え?だって、こういうめんどくさいことってご主人様が適任じゃん。いっつもしてるし」


 そんなことを平然と言ってくる。その言葉を聞いた瞬間真耶の中で何かがプツンッと音を立てて切れた。


「あれ?ねぇ、ねぇねぇ、ご主人さ……」


「うるさいな!」


 その真耶の一言でその場の全員が言葉を失った。さすがのアーサーも真耶が怒鳴るのを見るのは初めてなようで、突然ピリつくような空気を受け言葉を失う。


 そんな空気を重たくさせた真耶は暗く低い声で言った。


「なんで俺なんだよ!なんでいっつも俺なんだよ!俺は万事屋か!?それとも雑用係か!?お前達は俺をなんだと思っている!?俺だって……!俺だってめんどくさいことはやりたくねぇよ!何もせずひっそりと暮らしていたいよ!でもそれを邪魔したのはお前らオリュンポスだろ!?なんでお前らが先にしかけておいて、殺さないでなんて言えるんだよ!」


 真耶は思わずそう叫ぶ。何故か、頭では何も考えられなくなってそう叫んでしまう。しかも、何故か叫べば叫ぶほどどんどん言いたいことも増えていき、怒りも収まらなくなる。


「親が死んだくらいでギャーギャー喚きやがって……!」


「っ!?何よ!私の両親を殺したのはあなたでしょ!あなたのせいで私は悲しい思いをしなくちゃならなかったのよ!それなのに文句なんか言わないでよ!」


 ヘファイストスも負けじとそう叫ぶ。真耶はその言葉を聞いた瞬間、心のストッパーは砕け散り、これまで抑え続けていた気持ちが溢れかえって止まらなかった。


「……うるさいなぁ……!もう、うるさすぎるんだよ!いい加減黙れよ!人の気持ちを知らないくせに、自分の気持ちは分からないと言い張る!愚かだ!お前の気持ちなんか、すぐに分かるんだよ!たった数人の大切な存在が死んだだけで、ギャーギャー喚くな!両親が死んだ!?たったそれくらいで、何が悲しいんだ!」


 真耶はそう叫びながら壁を殴りつける。その一撃で壁は大破し外が見えた。アロマはそんな真耶を見て少し慌てる。そして、止めようとするがアーサーにそれを止められた。


「どうせお前はこう言うんだろ!繋がりがあるからこそ、その繋がりを絶たれた時悲しみは襲う。その悲しみがどれほどなものか分かるわけないってな!でもな、お前は知らないんだよ……!繋がりがあるからこそ悲しみが増大するなら、じゃあ初めから孤独ひとりのやつは悲しみは増大しないのか?いいや違う。初めから孤独ひとりだった俺は、お前らのような誰かと一緒にいる人を見て悲しみは毎日増大していた……!自分には誰もいないと言う事実は、俺を地の底まで叩きつけた……!分かるか!?生まれた時から孤独ひとりだった俺は、生まれた時から悲しみを増大させ続けていたんだ!何をしても両親がいないという事実は変わらない!何をしても、両親がいなかった俺は異質な存在として扱われ、友達が出来ない!そして、何をしても、大切な存在は命の灯火を消していく!こんなに悲しみを味わった俺の気持ちがわかるのか!?」


 真耶は怒りながら、そして泣きながらそう叫んだ。そして、拳を握りしめて床を殴り付ける。すると、今度は床が抜けてしまった。


「初めから全て揃っていたお前に、俺の何が分かる……!?どれだけ時間が経っても、孤独ひとりという呪縛から抜けられない俺の気持ちが分かるわけないだろ……!」


 真耶はそう言ってドアの前に立つ。


「……もう全てがどうでも良くなった。早く逃げた方がいいかもな。俺は今虫の居所が悪い。気がついたら世界の半分消してるかもな」


 真耶はそう言い残してドアを破壊し外へと出ていった。ヘファイストスはすぐに追いかけたが、ドアを出た瞬間どこかに転移したのか、既に真耶の姿は無い。ヘファイストスはへなへなとその場にへたりこんでしまった。


「……今のはあなたが悪いわ。真耶の心の広さに甘えたあなたがね」


 モルドレッドはそう言ってヘファイストスの背後に立つ。そして、冷たい視線を送りながら腕を組んでため息を1つついた。


「真耶を探してくるわ。アーサー、他の皆をよろしく」


「まぁ待て。お前も行くなら俺も行こう」


「ダメよ。こうなったのも私があの時きちんと真耶の心を癒せなかったから。心の器に溜まった不満を全て流すことが出来なかったから……」


 モルドレッドはそう言って少し思い詰めた表情をした。


「……はぁ、お前もそう思いつめるな。お前まで心が折れてしまえば、我はもう手がつけられん。我はカウンセラーじゃないんのだからな」


「……分かったわ」


「それで良い。それと、ヘファイストス、どうやら我はここに残るようだ。だから、お前にはたっぷりと説教をしてやる」


「っ!?ご、ごめんなさい……!」


「謝れば済むような話では無い。これは我にも言えることだが、真耶の心の器が満杯なのに気づくことだな」


 アーサーはそう言って壁によりかかった。そして、腕を組んで静かに語る。その時、モルドレッドが静かに言った。


「今にしてみれば、真耶が泣いたり怒ったりしてる姿を私は見たことがないわ。もしかしたら前の記憶ではあったのかもだけど、今は無いわ」


「我も無い。だから、真耶は生まれた時から泣いてないんだ。心はズタズタに引き裂かれ泣いていても、それを表情には出さないんだ。どんなに怒りたくなっても、どんなに辛いことがあっても、どんなに泣きたくなっても真耶は我慢してきたんだ。そしてそれは、ケイオスも同じ。あの二人はどこか同じ雰囲気を感じる。ケイオスに両親が居ないことは知っていたが、もしかしたら真耶にもいなかったのかもな」


「あれ?真耶はいるって言ってたよ。確かケイオスにも」


「いや、居ないよ。ただ、捨て子だったケイオスを拾った家族はいた。もしかしたら、真耶も同じで捨て子だったのかもしれない。そして、その事実を知るような何かが真耶の身に起こったのかもしれない」


 アーサーはそう言って少し歩き出すと、真耶が開けた地面や壁の穴を修繕していく。そして、その直っていく壁を見ながら言った。


「まぁ、我も我が物心つく前に両親が他界したが、我には偽物とはいえ両親と似たような者がいた。それに、マーリンだって」


「マーリン?マーリンって3万歳じゃないの!?」


「マーリンの年齢は30万歳以上だ」


 アーサーはモルドレッドに向かってそういう。すると、モルドレッドは言葉を失う。そして、尚更早く真耶を見つけるべきだと分かった。


「私はもう行くわ。分かったの。この中でずっと孤独ひとりだったのが真耶だけだって。だから、すぐに見つけるわ」


 モルドレッドはそう言って壊れた扉の前に立って、少し深呼吸すると急いで出ていった。


「……気をつけろよ」


 アーサーは小さくそう呟いて扉を直した。


「じゃあ、お前には真耶のやつとはまた別でお仕置だな」


 アーサーはそんなことを言って椅子に座る。ヘファイストスはそんなアーサーを見てすぐに何をするか気がついき、怯えながら近づいた。


「……真耶、少しは俺達も頼れよな」


 その言葉は小さくその場に響き、遠くに行くことなくとどまった。

読んでいただきありがとうございます。

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