第34話 心の強さ
それから真耶は少しの間モルドレッドに抱きついていた。そうすることで心を落ち着けることが出来たからだ。
モルドレッドもそんな真耶を優しく受け入れ抱きしめていた。しかし、そんな幸せな時間がずっと続くこともない。さっきも言った通り、真耶の前には巨大な壁しかないのだ。そう、今この時間もその壁は存在する。
キシャァァァァァァ!
その時、どこからかそんな鳴き声が聞こえた。その鳴き声を聞いて真耶は、あの魔物だとすぐに気がつく。
「っ!?……行かなきゃ」
「そうね」
真耶はそう言ってモルドレッドから離れると、自分の体の状態を確認する。
「あれ?真耶と私の怪我が治ってる」
「あぁ、それはこの結界のおかげだよ。ここに入る時『防音』『治療』『耐物理』の効果を付与した結界を張ったんだ。だから傷が癒えてるわけさ」
真耶はそう言って自分のの胸を抑える。さっきまで穴が空いて空っぽだった胸には、ぎっしりと思いが詰まっている。
「じゃあ、そろそろ狩りに行かなきゃだな」
「その前に、なんで真耶はあの魔物について知ってたの?」
「……」
「あ、ごめん。言いたくなかった?」
「いや、聞いたら悲しくなるかもしれないからさ。どうする?聞く?」
「ん!真耶の苦しみは分合わないとだから」
モルドレッドはそう言って真耶に強い意志を感じさせる眼差しを向けた。真耶はその目を見て思惑通り強い意志を感じる。すると、真耶は語り出した。
「あれは、3万年くらい前かな。ある日突然謎の魔物が現れたっていう報告がラウンズまで入ってな。俺達ラウンズはその魔物の討伐に駆り出されたんだ。その時はアーサーも一緒だったんだけど、その魔物が強すぎてな。ラウンズは俺とアーサーを残して全滅した。その時現れたのがあの魔物だ。どうやらあの魔物は誰かが過度に理に干渉した時出てくるようだ」
真耶はそう言った。だが、今度は泣かなかった。なんせ、隣りにモルドレッドがいるのだから。
「ま、基本的にあいつは強い。魔法には耐性がついているし、物理攻撃も確実に効くとは限らない。だがな、効かない訳では無いんだよ。だから、別に問題は無い。あと、アイツには理滅が通用する」
真耶はそう言って結界の外を見つめた。そして、自分の手を見つめて決心する。
「勝てるの?」
「勝てるさ。だって俺は理の王だからね。アイツ自信が理の化身なら、理を滅することが出来る俺との相性は最高だろ」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。その笑みを見てモルドレッドは少し安心する。
「名前とかどうするの?」
「さぁ?未確認だから名前はないよな。適当に”理の龍とかでいいんじゃないか?」
「ん!」
2人はそんな会話をする。そして、少し目を閉じて静かに目を見開いた。その左目には金色の輪が浮かんでいる。
「アイツと戦うなら、直接理に干渉するしかない。前回出てきた時も同じことをした。……てか、前回出てきた時って絶対デメテルがやったよな。だって、理に干渉できるのって俺かデメテルくらいだからな。まぁ、そんなことは置いといて、やつには魔法はあまり効かない。それに、下手に撃つと跳ね返されることもある。だから、物理攻撃で攻めるか即死技を決めるかしかないんだ。やれるか?」
「当然!」
モルドレッドは力強く頷いて微笑む。真耶もその笑顔を見て不敵な笑みを浮かべると、結界を壊して外に出た。
「さて、殺るか」
真耶はそう言ってリーゾニアスに手をかけると、右目の眼帯を外した。そして、それを投げ捨てると勢いよく走り出す。その右目には神眼が浮かんでいた。
「目が見えないのなら、直接脳に情報を送り込めばいい。”天撃・天喰”」
その時、真耶の左目が光を放つ。そして、リーゾニアスに金色の光が宿った。真耶はそのリーゾニアスを振り払う。すると、刃から2匹の金色の龍が飛び出してきた。
ルールドラゴンはさっきの真耶の魔法で未だに世界が戻ってきていない。そのため、真耶の攻撃を食らってしまう。
「っ!?」
その時真耶は気がついた。本来なら今の攻撃は良けれたはずなのだ。なんせ、魔力感知が出来るはずだから。だが、避けれ無かった。そのことから真耶はルールドラゴンの能力を見抜く。
「フッ」
真耶は勝ち誇ったような笑みを浮かべて剣を握った。そして、左目を見開き、かつ大気中の魔力を移動させて魔法陣を3つ作る。
「”フレアストリーム””マリンカーテン””エレキフィールド”」
3つの魔法陣から3つの魔法が放たれる。それは、全て空間に作用する魔法だった。ルールドラゴンはその魔法を受けてすぐにその場から離れようとするが、魔法の方が速くドラゴンを包み込む。
「じゃあ殺るか。一撃で終わらせる!”理滅・絶滅の波動斬”」
その瞬間、煌めく刃から白い光を放つ斬撃が放たれた。その斬撃は一瞬でルールドラゴンの目元に到着すると、容赦なくその目を切り裂く。
「何!?」
真耶は思わず声を上げた。なぜなら、今の攻撃は確実に心臓部分を狙ったからだ。だが、どうやらギリギリで視覚がな戻ったらしく、避けられてしまう。
「チッ……!」
「真耶!私も手伝うわ!」
その時モルドレッドがそう叫びながら飛び出してきた。モルドレッドは浮遊魔法で浮かび上がり高速で移動しながらディスアセンブル砲を作り出す。
真耶はそれを見てすぐにモルドレッドの作戦に気がついた。そして、モルドレッドと同じように高速で移動を始める。その道中に真耶は魔法陣をいくつも描いていく。
ルールドラゴンはそんな2人の動きを不審に思いながらも、爪を真耶に向けて狙いを定める。そして、爪を飛ばした。それは、さっきから真耶を苦しめたあの棘だ。
その棘は真っ直ぐ狙いを狂わせることなく真耶を襲った。しかし、真耶もそうバカでは無い。見えている物を避けるのは容易い事だ。
真耶は飛んできた棘を難なく避けて、さらにスピードを上げた。そして、左目の神眼を輝かせる。
「喰らえよ」
真耶はそう言ってルールドラゴンに向かって氷の槍を作り出して放つ。ルールドラゴンはその槍を弾こうとして咆哮を上げた。
その咆哮は空気を振動させて氷の槍を砕け散らせる。そのせいで、その場は砕けた氷が魔法陣から放たれる微かな光で煌めいていた。
キシャァァァァァァ!!!
その時、突如ルールドラゴンが気色悪い雄叫びを上げた。そして、何故か周りをキョロキョロとする。目が見えてない訳では無いはずなのに、真耶達を探しているかのような挙動だ。
「ハハッ!やはりな!この技は有効なようだ!目で魔力を視認する。そして、魔力を視認することによって相手の位置を感知する。芸術点の低いマジックだな。タネが分かればどうってことない」
真耶はそう叫んで一気に地面に降下する。そして、地面スレスレを滑空しながら地面にも魔法陣を描いていく。しかし、ルールドラゴンはその事に全く気が付かない。未だに真耶とモルドレッドの姿を探している。
そうこうしていると、真耶とモルドレッドの準備が出来た。気がつけば、至る所に魔法陣が敷きつめられており、その少し前にはモルドレッドのディスアセンブル砲……ではなく、なんとエンペラーレイがいくつも溜められている。その数を数えると、恐らく100や200どころの騒ぎではないだろう。
「終わりよ。”エンペラーレイ”」
モルドレッドはそう言って全てのエンペラーレイを、全く被らせることなく放った。
「”ミラーウォール”」
真耶はモルドレッドが魔法を放った直後に魔法を唱え、全ての魔法陣を鏡の壁に変えた。その鏡の壁は、全ての魔法をはじき返す。
「まだ終わんねぇよ!神め……いや、新しく作ってやるよ!”理滅・コスモブレイク”」
リーゾニアスからまるで宇宙のような斬撃が飛ばされる。その斬撃は、黒く、無限に続く闇の中に星の光が瞬いているような感じだった。
そして、その2つの技は、一切交わることなくけ魔法陣を反射していく。そして、反射を繰り返しながらルールドラゴンの体を削って行った。
ギジャァァァァァァァ!!!
そのせいか、ルールドラゴンは苦しそうな雄叫びをあげる。そして、体の四肢を激しく動かした。しかし、そんなことをしても無駄である。なんせ、あれだけの攻撃を受けたのだ。無事では済むまい。
真耶はそう考えてそのドラゴンを見た。そのドラゴンは無数の攻撃をくらい体中に穴を開けていく。そして、攻撃が当たる度に暴れ回り咆哮を上げる。
そして遂に、モルドレッドのエンペラーレイがぶつかった。しかも、全て同じ場所で。その場所とはルールドラゴンのちょうどど真ん中だ。そこでぶつかったエンペラーレイは爆発する。そこに真耶の斬撃も加わった。そのせいで、さらに大爆発が起こる。
ルールドラゴンは声を上げることすらも出来ずに消滅してしまった。
「……終わったな」
真耶は何もいなくなった空間を見つめてそう呟く。そして、何かが降ってきていることに気がついた。
それは魔素だった。魔素とは、魔石を破壊した時に出てくるものだ。基本的に害はない。また、その空間の魔力を増やすことが出来るという利点がある。
「とんでもない量の魔素だな」
真耶はモルドレッドにそう言う。すると、モルドレッドがその魔素の光に照らされて何かあるのに気がついた。
「ねぇ、あれって……」
「あ、瘴気草だ。やっと見つけたよ」
真耶はそう言ってその草を丁寧に取る。そして、2人目を合わせて笑った。
「目的は果たしたな。じゃあ帰るか」
真耶はそう言って左目を転移眼に変える。そして、ルーレイトの街にテレポートした。
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