表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブオタクの異世界戦記Re  作者: 五三竜
34/196

第33話 苦しみに囚われた男

「見ろ。あの魔物、さっきまであんなに攻撃したのに一切傷ついていない」


 そう言われて見ると、確かに傷が全くない。あの時真耶の作りだした龍に噛まれたはずなのに、その傷すらもない。


「……もう終わりなんだよ。いっつもそうだ。なにか成功しそうな気がして、成功すると、その成功した何かを破壊するような何かが現れる。なぁ、そう思わないか?」


 突如真耶がそう言い出した。そして、頭を抱えこんでぶつぶつと呟き始める。モルドレッドは痛む腹を抑えながら真耶に近づいて、その言葉を聞き取った。


「……世界というのは成功を望むものに対して厳しい。成功するために努力をすれば、その成功を遠ざけるように硬く、分厚く、重く、高い壁が現れる。その壁を、何とか持ち上げて通っても、目の前にはまだ壁がある。そして、その壁を登っても、そこから見える景色は大量の壁ばかり。運がいいやつはその壁を難なく超えていく。いや、そもそも壁などないんだ。わざと思い悩むふりをして壁があるような素振りを見せる。アヴァロンにいた時だって、俺が苦労してるのに他の奴らはヘラヘラしていた。俺は未だに成功してないのに、成功したやつが俺より悩んでいた。考えてみろよ。お前が出来ないとか悩むとか言ってたらな、それより下の奴らは何なんだ?成功者ほど自分を下に見せようとする……!」


 真耶は誰もいない空間に向かってそう叫び壁を殴り付ける。そして、さらに続けた。


「こうやって俺がどう成功しようか悩んでいても無駄なんだ。どれだけ新しいことをしても、誰も褒めてはくれない。見てすらないんだからな。だが、1度成功した人が新しいことをすれば、当然見てもらえるし褒めてもらえる。応援も貰える。それがたとえ失敗だろうともな。分かってるだろ?この時点で俺は他の人より劣ってるんだ」


 真耶はそう言って体を縮こめる。そして、真っ直ぐ地面だけを見つめて見開く。その様子はまるでなにかに怯える小さな子供のようだ。


「真耶……」


「何もかもが偽りに近い。苦しくて助けを求めても、手を差し伸べてくれる人など居ない。自信があるものでも、誰も見てくれない。暗く重たい何かが非情にも埋めていく。埋もれて埋もれ尽くした俺は、どんなに叫んでも誰も助けてはくれない。手を伸ばしても、その手は掴まれることは無い。無視して無視して無視し続けて、無いものとして、そして新しい何かでその手を埋めていく」


 真耶はそう言って右手の平を地面に叩きつけて力強く握りしめる。


「そんなことないよ!きっと誰かが見つけて……」


「違う!誰かがそんなことないって謳われても、現実はそうなんだ……!その謳いは誰の耳にも聞き届けられることなく、まるでブラックホールのようななにかに吸い込まれて行って、そして無くなる……!もうそうなれば終わりだ。俺がどれだけ叫んでもその声を聞いてくれる人はいなくなる」


「……そ、それは……ちが……」


「それは違うってか?いいや、違くないね。人は皆普通を好む。そして何より他と合わせたがる。だから、他とは違った何かを虐め、辱め、そして自殺に追い込むんだ。俺は他とは違ったから他の人から虐められた。そうやってトラウマは増えていく。29万年前のあの時も、あいつらは俺に石を投げて、剣で刺してきて、殺そうとしてきた。分かるか?人は異形を嫌うんだ。俺が小説を書いた時も、テンプレでは無い小説を書いたらPVは0だった。だから、見られないから何も言われない。煽りや誹謗中傷は無い。その代わり、応援やコメントもない。だから、俺は誰も見ない、見向きもしない虚無の誰かに向かって書いてたんだ。そしてそれは、今の状況と何も変わらない。どれだけ叫んでも、謳っても、誰にも届かないんだ……!」


 真耶の言葉はその場に響き渡った。そして、ぽたぽたと涙を流す。


「人が人として認められる時はいつだと思う?」


「……分かんない」


「そうか、じゃあ覚えておくことだな。人が人として認められるときはな、無いんだよ。誰からも見て貰えず、静かに死んでいく。それが成功しなかった者だ。逆に、失敗したのであれば、それはそれで見てもらえる。成功したら見てもらえる。成功も失敗もしなかった人達は、誰からも見て貰えずひっそりと死んでいくんだ……!」


「……」


「……」


「……」


「……」


 その場に静寂が訪れる。そして、その静寂は2人の空気を重く、冷たく、暗くしていく。その重たい空気は、まるで真耶をどんどん沈め、埋め尽くすかのように真耶を包み込む。


「……じゃあさ、真耶はどうしたいの?」


「どうしたいって?」


「真耶は孤独が好きなの?1人になりたいの?」


「そんなわけないだろ!俺だって仲間が欲しいよ!1人は辛いよ!孤独は嫌だよ!でもな、どんなに寂しがっても、どんなに仲間を求めても、その言葉を聞いてくれる人や、そんな俺を見てくれる人がいなきゃずっと1人なんだ……!」


 真耶はそう叫んで涙を流す。その時モルドレッドは初めて真耶がなく姿を目にした。


「何度もこの話をしてやるよ。俺は小説を書いていた。だが、誰一人として見てくれなかった……!……いや、たった1人だけ見てくれた人がいる。とても優しくて、小説も面白い人だ。だが、俺は文字とかそういうのを呟くアプリである話を見つけた。それは、”小説のPVが伸び悩んでいる”というものだった。だが、俺はその画像を見て絶望したよ。その人のPVは俺の45倍はあったんだ。順位も俺の順位から1300位くらい引いた順位だ。分かるか?これだけ差があるのにその人はまだまだだと言うんだ。話数だって俺より少ないのに、PVは俺の何倍も多い。そんな人がまだまだで、悩んでいるって……じゃあ俺は何なんだ!?その人が下だと言うなら、俺はどこにいるんだ!?地下か!?それともダンジョンの深層か!?教えてくれよ!なぁ!俺はその時に思ったよ。実力があって成功したものは、自分より下の者がいることを理解しなければならないと。だから、上に立つ者が『まだまだ』とか『自分は下の方だよ』とか言っちゃいけないんだ……!」


 真耶はそう叫んでモルドレッドの方を鷲掴みにする。そして、モルドレッドの目の前で涙を滝のように流した。


「こうやって俺が悩んでいても、助けてくれる人はいない。皆見ることさえしないんだ。そう、俺はずっと孤独ひとりなんだ……」


 真耶はそう言って悲しみに埋め尽くされたような表情をして足元を見つめた。そんな真耶のオーラはいつもより黒く、冷たかった。


「……ん!」


 パチィィィン!


 その時、乾いた音がその場に鳴り響いた。そして、真耶は突然頬に痛みを感じる。恐る恐る手で頬を触れると、少し熱くなっているのを感じた。


 そして、すぐにモルドレッドの姿を見る。すると、モルドレッドは手のひらを振り払ったような格好をしていた。


 その時真耶は理解する。自分がモルドレッドにビンタされたことを。真耶はそれを理解するとすぐに頬をさする。すると、一筋の涙が手に当たった。


「……何するんだよ……?」


「何って、真耶がわけわかんないこと言ってるからじゃん!」


 モルドレッドはそう言って叫んだ。その声は、とても大きく真耶の耳に強制的に流れ込んでくる。


「訳わかんないことって、俺はただ事実を……」


「それがわけわかんないって言ってんのよ!なんで1人だって決めつけるの!?私がいるじゃん!なんで私を頼ってくれないのよ!」


 モルドレッドはそう言って涙を流した。そして、泣きながら真耶に怒りをぶつける。


「確かに真耶からしたら私は頼りない存在かもしれない!でも、それでも真耶のために頑張ってるんだよ!何かあったらすぐに助けられるようにしてるし、真耶が辛い時は助けてあげようって思ってるんだよ!どうして私に手を伸ばしてくれないの!?私がどれだけ手を差し伸べても、どうしてその手を取ってくれないの!?」


 モルドレッドはそう言って本格的に泣き出してしまった。怒りながら嗚咽をこらえて涙を拭う。しかし、その涙は止まることを知らない。


「もしかしたら真耶は私の記憶が無くなったからそうやって気を使ってるのかもしれないけど、私の真耶に対するこの思いは全く消えてないのよ!ずっと愛してるの!好きで好きでたまらないの!だから、真耶が苦しんでるのを見たら、胸が苦しいの!だから、私にも相談して欲しいの!」


 モルドレッドはそう言って拳を強く握り締めて、ポカポカと真耶の胸を殴り始める。その目には止まるところを失った涙が、雨のように降り注いでいた。足元には既に水たまりができ始めている。


 真耶はそんなモルドレッドの言葉を聞いて、そしてその姿を見て言葉を失った。


 そう、その通りなのだ。何故真耶はモルドレッドの手を掴まなかったのか、何故モルドレッドに手を伸ばさなかったのか、自分でも分からない。ただ言えることは、真耶は1人では無いということだ。


「これでわかったでしょ!真耶にはアーサーや、ラウンズや、アヴァロンの皆がいるんだよ!だから、1人だって言って泣いちゃダメだよ!」


 モルドレッドはそう言って声を上げて泣き始めた。その泣き顔を見た真耶は、悲しさとか辛さとかそんなのより、モルドレッドという存在が自分のためにいてくれたという嬉しさのあまり涙が止まらなくなる。


 しかし、それでも真耶が1人と言う事実は変わらない。孤独を抱えて生きていかなければならない。何故かそう考えてしまう。


「真耶は自分の前には壁があるって言った。そして、他の人には壁がないとも言ったよね。確かに真耶の前にある壁は大きいわ。簡単に登れそうなものでもない。でもね、登ってみないと分からないのよ!私から見たら、あなたは今壁の下で登らず泣いてるようにしか見えないわ!」


「っ!?」


 真耶はモルドレッドにそう言われ言葉を失う。そして、なにか言おうと思っても、モルドレッドの言っていることが的を得ているため、言い返せない。だが、それでも真耶は口を開く。


「でも……でも、俺が登ってる間に他の人達は悠々とその壁を超えていく!俺だけ置いてけぼりにされて、そんな絶望だけが俺を襲う!その絶望は俺を壁から落とそうとしてくる!そんな状況で壁なんて登れないだろ!」


「登れるわ!」


「っ!?」


 モルドレッドの怒鳴り声に真耶は萎縮してしまう。モルドレッドはそんな真耶を見て続けた。


「確かに1人じゃ登れないかもしれない。でも、私がいる!アーサーがいる!皆がいる!たとえ皆が助けてくれなくても、私は何があっても助ける!1人じゃ登れない壁も、私と一緒なら登れるじゃん!一緒にその壁を登ろうよ!」


「っ!?」


 真耶はモルドレッドの言葉を聞いて遂に何も言い返せなくなった。さっきまでは言いたいことも沢山あったのに、モルドレッドに言われた言葉が嬉しすぎるあまり、言い返すことがなくなってしまった。


 そして、真耶は静かに涙を流す。モルドレッドという大切で特別な存在がいることの嬉しさのあまり泣き出してしまう。


 モルドレッドはそんな真耶を見て手を広げて”来ていいよ”と言わんばかりのポーズを取る。すると、真耶は膝立ちになってモルドレッドの胸に顔を埋め、優しく抱かれた。


「うんうん。よしよし。どう?気は納まった?」


「うん。なんだか楽になった」


 真耶はそう言ってモルドレッドを優しく抱きしめる。そして、モルドレッドの胸の中で再び静かに涙を流した。今度は、悲しさとか辛さとか、苦しさとか、そんな暗い気持ちではなく、モルドレッドという優しい存在がいるということ、そして、自分が好きだと、愛してると言ってくれたこと、そんな明るい気持ちの涙を流した。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ