第32話 死を呼び込む魔物
それから真耶は3歩ほど歩いたところで足を止め言った。
「出てきたらどうだ?隠れんぼは飽き飽きだ。それに、大地の神と聞いていたが、まさか瘴気すらも作り出すことができるとはな。なぁ、デメテル」
真耶はそう言って振り返った。そして、モルドレッドの肩に手を乗せ自分に引きつける。
「あーあ、なんでバレたのかな?あのスポイルドラゴンだって上手くしむけられたと思ったのに」
そんな言葉が聞こえた後、天井近くから男の子が降りてくる。真耶はそれを見て少し集中した。
「そんな構えなくて良いよ。どうせ君達はここで死ぬんだ」
「殺されるってわかってて抵抗しないのも珍しいがな」
「……まぁ、それはそうだけどね。僕の話に口を挟まないで貰えるかな?」
「……まぁ良いよ」
真耶達はそんな会話をする。モルドレッドはそんな2人を見て、この2人は出会い方がもっと良ければ良い友達になれたのではとおもう。
「フン、まぁ別に君達がどこで死のうが、勝手なんだけどね。そんなことよりもっと大事なことがあるんだよ。君なら、理に過度に干渉するとどうなるか分かるだろ?世界を2度も変えた君ならね」
「っ!?」
真耶はその言葉を聞いて嫌な予感がした。そして、すぐにデメテルを睨みつける。
「おぉ怖い怖い。そんな睨んだって辞めはしないよ。僕もね、一応理に干渉できるんだよ。大地の神だからね。まぁ、今回理に干渉するのはこの範囲だけだから、一体にが起こるか分からないよねぇ?」
デメテルはそう言って恐怖に満ちた笑みを浮かべる。その笑みを見たモルドレッドは怖くなって真耶の後ろに隠れてしまった。
真耶はデメテルを睨みつけながらモルドレッドを守るように手で抱き寄せる。そして、左目に天眼を浮かべた。
「フフ、良い目をしている。まるで目だけで人を100人くらい殺したような目だ。そんな君に1つ教えてあげるよ。この瘴気谷はね、元々洞窟だったんだ。考えてみれば分かる事だ。本来洞窟内にしか発生しない瘴気が谷に満ち溢れることなんて無いからね。じゃあ何故その洞窟が谷になったのか?答えは簡単。ある魔物が1人でその洞窟を壊したからだよ」
デメテルはそう言って不敵な笑みを浮かべた。真耶はその笑みを見て苦悶の表情を浮かべる。
「君もわかっているんだろ!あいつが来ればどうなるのかを!神達ですら手に負えなかったあの魔物を!あの日、僕の失敗で突如現れたあの魔物はこの洞窟を壊して突如消えた!僕はそれのせいでこんな世界の監視をしなければならなくなったんだ!」
デメテルはそう言って怒る。
「フフフ……アハハハハハ!じゃあ、君達がどれだけ奮闘出来るか、楽しみだね!」
デメテルはそういった瞬間、膨大な魔力を地面に向けてはなった。その魔力は地面に触れた途端溶け込むように消えていく。
「クソッ!本当に理に干渉してやがる!」
真耶はそう叫んでその場から後退する。そして、モルドレッドに自分の来ている上着を着せて自分とモルドレッドを結界で覆った。
そして、壁まで後退するとその壁にしがみつき何重にも結界を張る。さらに、自分の目の前に8つの強力な結界を張った。
「真耶、一体何が……っ!?」
パリィィィィィィン!!!
その時、ガラスが割れるような音と共にとても硬く素早いく大きいものが壁に突き刺さったような音がした。
そして、その際で煙がたつ。その煙の中にかすかに見えたのは、左胸を謎の先端が鋭くとがった突起物に突き刺された真耶の姿だった。
さらに、その突起物は突如ぐにゃぐにゃと蠢き出す。そして、その突起物は根のようなものを生やし始めた。その根のようなものは真耶の胸に突き刺さっている部分でも生える。
そして、真耶の体は中からぐちゃぐちゃにされ突き破られ悲惨な姿に変わってしまった。
「嫌……真耶ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
モルドレッドの悲痛な叫びが聞こえる。その刹那、突如真耶の手のひらがモルドレッド腹の部分に触れた。そして、手首から弾け飛びその場から離れた。
モルドレッドはその突然のことに驚き言葉を失うが、すぐに真耶から離れまいともがき始める。しかし、その手首はすぐにモルドレッドを遠くへと飛ばしてしまう。モルドレッドは真耶がいなくなっていくような気分になり悲しくなった。
その時、真耶の体があった場所に謎の魔物が飛びかかってきて真耶の体をぐちゃぐちゃと食い散らかす。そして、血を滴らせ気色の悪い笑い声を上げた。
「そんな……嫌だ……嫌ぁ……っ!?」
その時、モルドレッドは突如後ろから口を押えられる。驚いて振り返ると、全裸の真耶がいた。
「むむぅ!」
「でかい声出すな。気づかれたら終わりだ」
「ん」
モルドレッドが頷くと、真耶はゆっくりと手を離す。
「真耶ぁ……!生きてて良かった……!」
モルドレッドはそう言って涙を流す。そして、真耶の腹に顔を埋めた。
「でも、なんで生きてたの?それになんで裸なの?」
「いやさ、ほら、突然攻撃が来て焦ったけど、左手を飛ばしたじゃん。あの左手から再生したんだよ」
そう言って左手をヒラヒラさせる。そして、地面に手を触れて魔法を使って服を作り出した。まず、パンツを作ってその後にズボンを作って……
「っ!?」
その時、真耶立ちめがけてさっきと同じものが飛んできた。ちなみに、この飛んできているものはあの魔物の鱗だ。その鱗を飛ばした瞬間に弾け飛び無数の棘となって飛んできている。
「まずい。逃げるぞ」
真耶はそう言ってその場から全速力で逃げた。そして、逃げながら服を再生させていく。
服の再生を終えると真耶はモルドレッドをしっかりと抱きしめ落とさないように壁を走る。
「最悪なやつを呼びやがったよ……全く、これじゃあ連戦続きになりそうだ。モルドレッド、おんぶだ」
真耶はそう呟いて剣を構えた。モルドレッドは何とか真耶にしがみつき背中に移動する。そして、力強くしがみついた。
その刹那、真耶のスピードが急上昇する。
「”真紅・炎神”」
真耶の刃に炎が宿る。そして、その刃から最大数である100個の斬撃が放たれた。しかし、なんということだろうか。その斬撃は一切通用しない。その硬い表皮で全て防がれてしまった。
「っ!?やはりか……前回より強くなってやがる。モルドレッド、舌噛むから口閉じてろ」
「ん!」
その瞬間、モルドレッドの見ていた景色が一変する。そして、さっきまで普通に見えていた景色は、まるで漫画やアニメでとてつもなく早い表現をする時に周りの景色をわざと見えなくするような景色になる。
要するに、まともに見えないのだ。真耶はそんな速さで走り回る。そのせいでモルドレッドは今真耶がどこにいるのか分からない。
「”閃光・九龍真夢”」
その時、真耶のリーゾニアスから黄色い閃光が放たれる。その閃光はその速さから9つの首を持つ龍のように見えた。
そして、その9つの首を持つ龍は謎の魔物の首や両手足など、様々なところに噛みつき動きを止める。その隙に真耶は剣を振り上げ攻撃態勢を取りながら魔物に近づいた。
「これで終わりしてやる!”紺青・青い宝玉の奇跡”」
真耶は刃を青く光らせて剣を振るう。その刃は洞窟内にもかかわらず、その場を青く染めあげた。
「っ!?」
しかし、その時になって真耶は気づく。自分のした選択は間違いだったと。そして、その間違いに気づいた時にはもう遅いと。
「っ!?グッ……!クソッ!」
なんと、真耶の左胸を再びあの棘が貫いたのだ。そして、当然その後ろにいたモルドレッドの体も貫く。幸いにもモルドレッドは心臓ではなく腹で済んだからよかった。
しかし、このままでは再びあの技を食らってしまう。そう思った真耶は咄嗟にその剣でその棘を切り裂いた。そして、勢いよく棘を抜く。すると、棘が形を変える前にな抜くことが出来た。
「クソッ!」
真耶は苦し紛れに叫ぶとそのまま力なく落ちていく。モルドレッドも腹を刺されて力が出なくなり、真耶と一緒に落ちていく。
そして、地面に着いた。その瞬間地面が崩れ落ちさらに下の層へと落ちる。しかし、真耶はそれに抗う力が残っておらず、そのままさらに下へと落ちて行ってしまった。
そして、その謎の魔物も一緒に落ちて行った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから何時間経過したのだろうか。気がつけばそこは真っ暗な空間だった。周りには何も無い。あるのは終わりのない闇と、全てを諦めさせてしまう絶望だけ。
モルドレッドは真耶より先に起きてその絶望を目の当たりにした。
その光景が目に入った瞬間モルドレッドは言葉を失う。どれだけ声を出そうとしても、その絶望に心が折られ言葉を出せない。
涙は止めどなく落ちてきて、足元に水たまりを作る。
立ち上がろうとすれば、腹の傷が痛んで立ち上がれない。さらに、血が流れすぎたことと、その痛みから気絶しそうだ。
「痛い……痛いよぉ……!」
思わずそう呟いた。絶望よりその痛みが勝ったのか、声が出る。モルドレッドはそれを確認すると、声を出して泣いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!真耶ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!起きてよぉぉぉぉぉぉ!死にたくないよぉぉぉぉぉぉ!」
モルドレッドの悲痛な鳴き声がその空間に響き渡った。そして、真耶の周りには涙が落ち続ける。しかし、それでもモルドレッドはやめない。嗚咽を堪えながら泣き続ける。そんな真耶の胸には穴が空いており、そこからドクドクと血が流れ続けていた。
「死んじゃやだよぉ……!」
モルドレッドはそう言って真耶に跨り抱きつく。そして、その唇に自分の唇を合わせた。
物語であれば、愛する人のキスで目を覚ますだろう。だが、現実というのは非情で残酷だ。起きるはずもない。それでもモルドレッドは続けた。もしかしたらという可能性を信じて。
(起きて……!起きて……!起きてよ!)
モルドレッドは頭の中で強く念じる。その時だった。
「っ!?」
なんと、後ろからあの魔物が来たのだ。あの魔物はヨダレを垂らしてモルドレッドを見つめている。
「あ……あ……あ……やだ……!」
モルドレッドはその姿を目にして逃げようとする。しかし、何故か体が動かない。物語でよくある、”恐怖で腰が抜けて動けなくなる”というのは嘘だと思っていたが本当らしい。
モルドレッドはその恐怖から一切体を動かすことが出来なくなった。
「し……死ぬ……!」
モルドレッドはそう思って目を瞑る。そして、死ぬことを覚悟した。しかし、いつになってもその攻撃が来ることがない。恐る恐る目を開けると、なんと真耶が立ち上がっていた。真耶は立ち上がるとすぐにその魔物と戦っていたのだ。
「これでもやるよ」
真耶はそう言って光る玉を作り出し投げ渡す。魔物はそれを破壊した。その瞬間、その光る玉から強烈な光が放たれる。真耶はその光が発生するとすぐにモルドレッドの目を塞いで走り出した。
そして、近くにあった溝のような場所に逃げ込む。そして、あの魔物が攻撃してこないと思われる安全な場所まで移動すると、真耶はその場に座り込む。
「真耶ぁ!」
モルドレッドはそんな真耶に向かって名前を呼び名がら飛びつく。そして、泣きながら何度もキスをした。
「落ち着け落ち着け。悪かったな。1人にさせて」
真耶は何とかモルドレッドを離しそうい 言う。
「怖かった!すっごく怖かった!」
モルドレッドは頬をパンパンに膨らませてそう怒ってくる。
「すまんな」
真耶は優しい笑顔でそう言った。
「ん!許す!でも、もう1人にしないで欲しい」
「そのつもりだよ」
真耶はそう言ってモルドレッドの頭を撫でた。
「あ、そうだ。教えて欲しいんだけど、あの魔物って何?」
「ん〜、一言で言ったら、”理の化身”だな。人間でも神でも亜人でも誰でも良い。誰かが理に過度に干渉することでその理を元に戻そうとあの魔物が現れる。今回はデメテルが過度に干渉しすぎたから出てきたんだ」
「そうだったんだ。でも、真耶が世界を変えたって言ったよね?その時はなんで出てこなかったの?」
「範囲が違うんだよ。俺は世界に対して少しづつ変えたから。でもあいつは一点だけの理を変えまくったからこうなったんだ」
モルドレッドはその話を聞いて頷く。そして、その魔物がいるであろう方向を見た。
読んでいただきありがとうございます。