第31話 スポイルドラゴン
それから真耶達は結界を抜けて外に出ようとした。しかし、当然のように真耶は結界を抜けられない。
さらに、衛兵まで来てしまい面倒なことになってしまった。
「おい!貴様ら!何をしている!外に出るには通行証を出してもらわなければ困るんだよ!」
衛兵はそんなことを言いながら怒鳴りあげた。だが、その衛兵は明らかにおじいちゃんだ。よく頑張るなと真耶は思う。
「通行証?すまんな。色んな街で通行証作ってるから分からん」
「ん?他の街は違うのか?こんな世界になってからわしはこの街から出たことがないからわからんのじゃ」
「そうだよ。悪いけど見せてくれないかな?」
真耶は平然と嘘をつき通行証を見せてもらうように言う。すると、衛兵は快く見せてくれた。真耶はそれを手に取ると、ポッケに手を突っ込んで何かを探すふりをして、魔法でそっくりなものを作り出した。
「これでどうか?」
「ふむふむ……これじゃな。通って良いぞい」
「助かったよ」
真耶は微笑みそういって通ろうとした。しかし、肝心なことを忘れている。そう、真耶はこの結界を通れないのだ。まさか、入ることは愚か、出れないとは思っていなかった。これでは真耶専用の牢獄のようだ。
「真耶、どうするの?」
「……なぁ、衛兵さん。街の中で魔法を使うのは?」
「一応良いぞい。ただ、この結界を壊すことだけは止めるのじゃ」
「分かった。1部だけ消すだけだから大丈夫だ。すぐに修復する」
真耶はそう言って魔法陣を作り出した。その魔法陣は、真耶が入ってくる時と全く同じものだ。
真耶はその魔法陣から放たれる魔法を結界に放つ。すると、結界に1部だけ穴が空いた。
「っ!?」
「よし。じゃあ行くか」
「ん!」
「待て待て待てぃ!お主らだったのか!?突如結界が破られたと言われ急いで向かったら、壊れてなかっのじゃが、お主らだったのか!?」
「結界を壊したつもりは無いが、それ俺だ」
「ちょっと待て!1度話を……」
「急いでるんだ。後にしてくれ」
真耶はそう言って前を向くと、目的地に向けて凄まじい速さで走り出す。衛兵は話の途中でどっかに行ってしまった真耶を見て呆然としていた。
「……はぁ、帰ってきたら話を聞こうかの」
そう呟いて駐在する場所に座って眠りについた。
真耶達はそれから5分ほどで目的地に着いた。そこは、瘴気が満ち溢れる瘴気谷と呼ばれる場所だ。ここの奥深くに咲く瘴気草を取りに行くというものだ。
「瘴気谷……存在自体は知っていたが、前の召喚では行かなかったんだよな」
「うぅぅ……真耶、ここ嫌だぁ」
モルドレッドがそう言って抱きついてきた。目には少しだけ涙が浮かんでいる。どうやらモルドレッドには瘴気はきついみたいだ。
いや、普通の人ならきつい。恐らくだがアーサーでもここの探索は2時間ほどしか出来ない。
「……モルドレッド、我慢できるか?」
「んんん!出来ないぃ!」
モルドレッドはそう言って泣きついてくる。その様子はまるで、駄々をこねる赤子のようだ。可愛すぎる。
「瘴気耐性は俺はMAXだから普段と変わらないけど、モルドレッドはほぼ初期数値だからなぁ」
「いやだぁ!ここ嫌い!」
「ん〜でもなぁ、ここに置いていく訳にもいかないし。それに、今こうしてずっと触れてたから良かったけど、手を離したらモルドレッドもクロバと同じ目に合わせることになってしまう。でも、俺に触れたままでもこの瘴気谷はキツいか……あ、そうだ」
真耶は何かを思いついたかのようにポッケに手を突っ込み何かを取り出す。それは、ただのペンダントのようなものだった。
「これ、魔界石が埋め込まれてるから瘴気耐性がMAXになるはずだぜ」
そう言いながらモルドレッドの首にかける。すると、モルドレッドはさっきより明るい顔になって喜び始めた。
「よし、じゃあ行こうぜ」
真耶がそう言うと、モルドレッドがウンウンと頷きながらしがみついてくる。2人はそんな状態で瘴気谷へと入って行った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから2時間ほど探索をした。しかし、一向に見つかる気配は無い。
「……やっぱり奥に行かなきゃだよな」
「ん!」
真耶達はそんな会話をしてある道を見つめる。その道は、まだ行ったことがない場所。その奥は真っ暗で何があるのか分からない。
だが、上層部にはそれらしきものはなかった。だとすれば、あるのはこの奥のみ。行くしかない。
そう思ってその道に足を踏み入れる。そして、奥へと歩き始めた。しかし、真耶達は直ぐに気づく。その道が行き止まりだと。
「え?行き止まり?でも、あと残ってるのはこの道くらいだろ?」
「ん。でも、行けない」
2人はそんな異常な光景に目を丸くする。そして、振り返った。すると、そこには謎の人物がいる。その人物は何故かこっちを指さしてゲタゲタと笑っていた。
「……おいお前、何者だ!?こんなところに来れるってことは、普通の人間じゃないだろ!」
「……またどこかで会おう」
謎の人物はそう言って振り返り逃げ出した。真耶は、その人物を急いで追いかける。そして、その行き止まりの道の入口まで来た。その時だった。
「っ!?」
なんと、地面がピキピキと音を立てて崩れ始めたのだ。
「何!?」
「真耶!」
モルドレッドが慌てて真耶の手を掴む。しかし、一足遅かった。そのままモルドレッドもその勢いで穴へと落ちてしまう。そして、2人はそのまま深い穴のそこまで落ちていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶は全く知らない場所に立っていた。さっきまで瘴気谷にいたはずなのに、何故か自分は暗闇に立っている。
周り見渡すと、1つだけ明かりが見えた。真耶はそこに向かって歩いていく。すると、あかりはどんどん大きくなって、中に人影が見えてきた。
「っ!?ケイオス……!?」
なんと、そこに居たのはケイオスだった。ケイオスは誰かと話しているようだった。真耶はその誰かを確認しに行く。
「え?」
すると、その人物の姿が見えてきた。その姿が見えた瞬間真耶は言葉を失う。それは、全く知らない女性と、全く知らない男性だった。
ケイオスはその2人と楽しそうに話して笑っている。その様子からその女性と男性がケイオスの両親だとわかった。
「……そうか、アイツにも両親はいるんだよな……」
真耶はそう呟く。しかし、突如真耶の見ている景色が変わった。なぜか、ケイオスが2人を指さして激怒しているのだ。その様子は何かを叫んでいるかのようだ。
そして、真耶の左目が怒りに満ちた目に変わる。そして、左目が黄色く光り始めた。その瞬間、両親の顔が変わる。
「っ!?」
真耶はその両親の顔を見て絶句した。なんと、その両親の顔が真耶の両親と全く同じだったのだ。
「……な!……ら……が……」
真耶が今の状況を理解しようとしていると、声が聞こえてきた。真耶は耳をすましてその声を聞き取ろうとする。
「いつもそうだったんだろ!俺を近くで監視して押さえ込もうとした!そして何かあればゼウスに報告して俺を殺そうとした!姑息だ!卑怯だ!正々堂々戦えない臆病共!俺はお前らを許さない!ハデス!ペルセポネ!」
ケイオスはそう言って地面に手をついて武器を作り出す。そして、その武器で2人に襲いかかった。
そして、そこでその空間は歪み始め、夢は終わった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
「っ!?」
「あ!起きた!」
真耶は目を覚ました。そして、慌てて体を起こし周りを見渡す。すると、自分に股がるモルドレッドが驚き後ろに転がっていた。
「いたた……」
「あ、ごめん」
真耶はモルドレッドの姿を見て謝る。が、ついそこに目がいってしまった。
「え?なんでパンツ履いてないの?」
「なんでって、落ちたところがちょうど水の上だったの
「でも服は着てるの?」
「ん。だって、怪我したら危ない」
モルドレッドはそう言って真耶の膝の上に妖艶な雰囲気を醸し出しながら乗ってくる。
真耶はそんなモルドレッドを見ながら少し考えた。なぜ、ケイオスの両親が真耶と同じで、そしてハデスとペルセポネなのか。
そもそも、考えてみればまだ真耶はハデスとペルセポネに出会ったことがない。それに、なにかの方法で見たこともない。
いや、実際問題真耶はオリュンポスの殆どに出会ったことが無い。今こうしてオリュンポスの顔がわかるのは、ケイオスの記憶が少し混じっているからだ。だが、それでも何故かハデスとペルセポネの記憶だけは無い。
「……ハデスとペルセポネ……果たして本当に敵なのか。それに、あの夢は果たして本当なのか」
「ん?どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
真耶はそう言ってモルドレッドの頭を撫でた。そして、ゆっくりと立ち上がると周りを見渡して今の状況を確認する。
「……ここは……瘴気谷の深層か?」
「そんな感じだね」
「……上には戻れそうでは無いな。ここは先に進もう」
真耶達はそう言って先へと進み始めた。
それから真耶達は5分ほど歩いて道を覚えていく。そうすることでこの深層の全容を把握することが出来る。
そう考えていると、同じ道に戻ってきてしまった。
「あれ?戻ってきてる……」
「……そんなことより瘴気が満ちてきている」
「本当だ」
「……モルドレッド、気をつけろ。何が来る」
真耶はそう言ってモルドレッドを後ろにさがらせた。そして、背中のリーゾニアスに手をかける。
その数秒後、真耶達に向けて瘴気の弾丸が飛んできた。真耶はその弾丸を切り裂く。すると、その弾丸は弾け飛び瘴気の煙が溢れ出てきた。
「っ!?」
「”真紅・炎神”」
真耶は一瞬で12連撃を繰り出す。その斬撃は溢れてきた煙を燃やし尽くした。そして、斬撃は煙だけでなくその弾丸が飛んできた場所さえも切り裂いた。すると、そこから魔物が現れる。それは、なんと腐り果てたドラゴンだった。
「っ!?おぇ……」
モルドレッドはその姿を見た途端その気持ちの悪さに吐き出してしまう。
「大丈夫か?」
「んんん!」
「そうか、じゃあ少し離れてろ。いっぱい吐き出していいから。後でいっぱい癒してやる」
「ん!」
真耶はそう言ってリーゾニアスを構える。そして、左目に火炎眼を浮かべてそのドラゴンに向かって行った。
そのドラゴンの名はスポイルドラゴン。直訳すると、台無しにする龍だ。スポイルというのには腐らせる、ダメにする、台無しにするという意味がある。
そこから考えても、このドラゴンは腐らせるタイプのドラゴンだと分かる。
「ハハッ!”真紅・紅蓮血斬”」
真耶はドラゴンに近づくなり直ぐに切りつける。しかし、その攻撃が通じることは無い。カビのようなものに阻まれ刃が肉まで届かなかった。
「……」
真耶はそのままその威力を殺さないようにもう一度攻撃を繰り出す。
「”真紅・螺旋する黒炎”」
刃に黒い炎が宿る。真耶はその炎を纏ったリーゾニアスでスポイルドラゴンを切り裂く。しかし、またしてもカビのような壁を作り出し防ごうとする。
真耶はそれを確認するとその壁を切り裂いた。するとその壁は炎で燃やされ連鎖的に全て燃やしてしまう。そのおかげでスポイルドラゴンの懐ががら空きになる。
「やはり、俺の知っているドラゴンと同じドラゴンのようだな!弱点も同じだ!」
真耶はそう言ってリーゾニアスをスポイルドラゴンの首元に突き刺す。これで完全に倒した。真耶はそう確信した。
そして、案の定スポイルドラゴンの体が下に落ちる。真耶はそのドラゴンに途中までしがみつき、途中でジャンプして降りるとモルドレッドのところまでひとっ飛びする。
「真耶、もう倒したの?」
「何とかな。この世界のスポイルドラゴンがアヴァロンにいるのと同じでよかったよ。フッ、スポイルドラゴンと戦ったのなんて3万年ぶりだよ」
真耶はそう言って微笑む。そして、少しだけ服に着いた汚れを落とすとスポイルドラゴンに目をやった。
「じゃあ、敵も倒したから先に行こうどうやらさっきの戦いで道ができたらしい」
真耶はそう言ってその路の奥へと進み出す。そして、真耶は不敵な笑みをうかべた。
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