第28話 分岐点
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━1万5000年前……
ケイオスはある任務でアーサー王の前に来ていた。その任務とは、ケイオス以外に知られては行けないという極秘の任務だ。
ケイオスは誰にもバレないようにアーサー王の元まで向かう。そして、アーサー王の前に来た時、その空間に結界を張り声を漏らさないようにした。そして、アーサー王が話を始める。
「ケイオス、今日お前に来てもらったのはある任務を頼もうと思ったからだ」
「なんの任務だ?」
「この任務は、他でもないお前だけができる任務だ」
「……それで、どんな任務なんだ?俺だけにしか出来ないということは、理に干渉する任務ってことか?」
「そうだ。それに、記憶にも干渉してもらいたい。この世界で邪眼と記憶眼を使えるのはお前しかいない」
「マーリンがいるだろ?マーリンじゃだめなのか?」
「ダメだ。アイツの魔法の精度では全世界にかけることは出来ない」
アーサー王はそう言って目を瞑る。ケイオスはアーサー王の話を聞いて、世界に干渉するレベルの魔法を使わなければならないとわかった。
だが、世界の理を変えるという話を聞いた時、ケイオスは少し迷いを見せた。世界に干渉するレベルとなると、その分の代償を受けることになるからだ。
「アーサー、世界に干渉するとなると、それだけ代償は大きくなる。俺一人で背負いきれなくなるかもしれないぞ」
「その時はアヴァロン全土を代償にすればいい」
「……それだけ重要なのか?」
ケイオスのその問いかけにアーサー王は力強く頷く。ケイオスはそんなアーサー王を見て決意を固める。
「説明してくれ」
ケイオスはアーサー王にそう言った。すると、アーサー王はへその緒を取り出してケイオスに言う。
「モルドレッドの記憶を改変してくれ。そして、このへその緒をどこかに封印してくれ」
「……なぜ、そんなことを?」
「……我が死んだ時に悲しませたくないからだ」
アーサー王はそう言った。しかし、ケイオスはその言葉に少し疑問を感じた。もしそれが本当なのであれば、モルドレッドの兄弟にあたるガウェインは、父親は違えどアーサー王の息子だ。
「嘘だな」
ケイオスは優しく微笑んでそう言った。しかし、アーサー王はその言葉に対して少し微笑んで言う。
「嘘じゃないさ」
だが、ケイオスは言った。
「嘘だな」
ケイオスは変わらず優しく微笑んでそう言った。
「……なんで分かった?」
「何年友達やってると思うんだよ」
ケイオスはそう言って微笑む。アーサー王はその笑顔を見て少し安心すると、言った。
「この前マーリンから予言を受けてな。どうやらモルドレッドが世界に大きな衝撃を与えるらしい。だから、その前にモルドレッドの記憶を消してその衝撃をなくそうかと思う」
「なるほどな。衝撃ね……。確かにマーリンの予言はよく当たる。と言うかほぼ確実に当たる。だが、それは実際どうなんだろうな。その予言はもしかしたら、アーサーがモルドレッドの記憶を消すと考える前提での話なのかもしれない」
「そうかもしれない。だが、それでも危険に陥る前になにかしておいた方がいいかもしれん。それに、今回は世界を変えるのだ。予言も変わるかもしれん」
アーサー王はそう言った。やはり、王として国を、世界を守る義務を果たそうとしているようだ。
「……そこまでは俺も分からん。だが、アーサーの決意は受け取った。引き受けるよ。ただ、これだけは言っておく。世界の理を変えるということは、世界を変えることだ。世界を変えることは、歴史を変えることだ。そして、歴史を変えるということは……」
「分かっている。それを加味しての作戦だ」
「ほんとか?」
ケイオスは少しいたずらっぽい表情で聞いた。それに対してアーサー王は言う。
「本当だ。それに、たとえこの世界がどう変わろうとも、俺とお前が協力すれば全て上手くいくだろ?」
アーサー王はそう言った。その言葉を聞いてケイオスは少し感動する。そして、溢れ出てきそうな涙を堪えながら、それを悟られないようにいつも通りの表情を浮かべて言った。
「……そう……だな。まさかお前の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。てっきり、過程より結果を重視するタイプだと思ってたからな」
「どういうことだ?まぁいいが、それより頼めるか?」
「任せろ。このへその緒は誰も振れないような場所に封印しておくよ。いや、触れさせないって言った方が良いかな?それと、モルドレッドの記憶改変にあたってだが、もうわかっていると思うが世界を改変する。何が起こるかは俺も分からない。一応未来予知で改変後の世界も見ることは出来るが、何百万通りもある中の一つを当てることは出来ない。俺は運が悪いからな。だから、改変後の世界がどうなるかはアーサー、お前の行動しだいだ。最後に、モルドレッドは俺が絶対に守る。何があってもな。俺は、モルドレッドが生まれた時からそう決めてたんだ。これは、使命だからとか、宿命だからとか、命令だからとか関係ない。俺がモルドレッドのことが好きだから。生まれてすぐのモルドレッドに惚れたからだ。そこは勘違いするなよ?」
「フッ、それくらいわかっているさ。だが、だからといってへその緒をお前が管理するとかはやめてくれよ。なんせ、それにモルドレッドの記憶を閉じ込めようと思っているのだからな」
「記憶を閉じこめる?アーサーはそんな魔法使えたのか?」
「フッ、まぁな。ただ、この魔法は無条件で発動してしまってな、その物体が近くにあった場合希望してなくても記憶してしまうようでな」
アーサーはそう言って少し困ったような表情をした。しかし、その時ケイオスはあることを思いつく。
「なら、これをあそこに封印するのはどうだ?」
「あそことは……まさか、お前……!」
「そうさ。その魔法具の力を逆手にとるんだ。勝手に記憶していくなら、昔の記憶とこれからの記憶を分けて保存させるんだ」
「なるほどな。そうすれば、何かあった時に助かるわけか」
2人は何かを思いついて喜び合う。そして、その策を実行することにした。ケイオスはモルドレッドのへその緒を持ってモルドレッドの近くへと向かう。アーサー王は王なので、持ち場を離れる訳にも行かず、その場から動けなかった。
「さて、じゃあやるか」
その時ケイオスはその目にある目を浮かべる。そして、その日、世界は大きく改変された。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━そして現在……
「……アーサー、モルドレッド、ヘファイストス、さっさとこの街を出るぞ」
真耶は3人にそう言って街の外へ向けて歩き始める。
「何があった?」
アーサーはそんな真耶にそう聞いた。すると、真耶は朝足を止めて言う。
「恐らくこの街はゼウスとグルだ。何かしらのことで繋がっている」
真耶がそう言うと、アーサーは目を丸くし驚いた。そして、すぐにギルドの方を見る。
「本当か?」
「本当だ。色々不自然なところが浮き彫りになってな。向こうに行って発覚した」
真耶はそう言ってギルドを一瞥すると、すぐに街の入口に向けて歩き始めた。アーサー達もギルドを一瞥すると真耶について行く。
「ねぇ、じゃあ私はこの街を守らなくていいの?」
「あぁ。守る必要が無くなった。なんなら俺の手で潰したいところだが、今回はやめておこう」
真耶はそう言ってギルドを見る。
「……なんであんなこと思い出したんだろ。……いや、なんであんなに大事なことを忘れてたんだろ」
真耶はそう呟いて空を見上げた。その空にはまだ黒いモヤがかかっている。真耶はその空を見上げながらもう一度あの時のことを思い出す。
(あの日俺はへその緒を封印しモルドレッドの記憶を書き換えた。そして、その記憶の改変が気づかれないように世界の理ごと改変した。それも、アヴァロンだけじゃない。神界、魔界、人間界……全ての世界の理を変えた。そして俺は、そうすることで世界は大きく変わるとわかっていた。だからかな……あんなことが起こったのは……)
真耶はそんなことを考える。そして、モルドレッドの姿を見つめた。今はこうして笑ったり泣いたりと表情は余り変わらないが感情を表に出せるようになった。だが、昔は違った。
(あの日俺はアーサーの言っていた、”信頼のおける貴族”に預けた。だが、そいつは表の顔は信頼できても、裏の顔は信頼できなかった。その貴族は世界が改変したあとモルドレッドが初めから居た娘のように接した。いや、そもそも世界の理上モルドレッドはその貴族の娘だ。だからなのか、その貴族はモルドレッドに対して体罰を与えていた。俺は、モルドレッドをちょくちょく監視していたが、いつ見てもお仕置を受けていた。最初はおしりペンペン。お尻が真っ赤に腫れ上がるまで叩かれていた。その時モルドレッドは泣いていたが、途中から涙も枯れ果てて意識があるのかも怪しかった。次は鞭打ち、その次は高温の鉄板の上に一日中立たされる。その次は……)
真耶はそう考えていると自然と足が泊止まってしまった。そして、空を見上げるのをやめて目の前を見つめる。
アーサー達は突如止まった真耶に疑問を抱いた。そして、問いかける。
「どした?」
「……」
しかし、真耶は何も答えない。そのまま無言でモルドレッドの前まで歩いていく。そして、静かに見つめた。
「ん?疑問。何か……っ!?」
その時、突如真耶がモルドレッドに抱きついた。その突然のことにモルドレッドは動揺して言葉を失う。しかし、真耶の異変に気づいて離れることはしなかった。
「真耶……安心」
真耶にそう言う。すると、真耶は落ち着いたのかモルドレッドから離れる。
「なんで、俺あんなことしたんだろうな……」
真耶は小さく呟くとモルドレッドを悲しい目をして見つめる。
「……真耶……安心しろ!」
その時、突如モルドレッドがそう怒鳴って頭をポカッと叩いてきた。そして、怒った表情で言う。
「安心しろ!たとえ何かあっても、私がついてる!私の記憶が無くなったせいで落ち込んでるんだろうけど、あなたへの愛情は忘れてないよ!だから安心しろ!」
「っ!?」
真耶はその言葉を聞いて目を覚ます。そして、目の前のモルドレッドを見つめた。その目には悲しみの他にも嬉しさも混じっていた。
「悪かったな。安心したよ」
真耶はそう言って微笑んだ。しかし、まだ心の中はたくさんの色がまぜ合わさってぐちゃぐちゃになっている。だが、それでも真耶は微笑んだ。皆その笑顔が嘘だとわかっていても笑った。そして、心の中で祈る。
「ケイオス、早く帰ってこい。俺はもう限界かもしれない」
真耶は小さくそう呟いて再び街の外へ歩き始めた。
「真耶、おんぶ」
「え?」
「ずっと見守りたい。だからおんぶして」
モルドレッドがそんなことを言ってくる。真耶は嬉しい気持ちを隠してモルドレッドに近づくと、そのままおんぶした。
「まぁ、こういうのも悪くないな」
「ふふん!」
「なんでお前がそんなに威張ってんだよ?」
「私が真耶より強い」
「お?言ったな。じゃあ今日の夜はどちらが上かベッドの上で勝負だな」
「私に勝てない。この私のゴッドハンドがあなたを最高にさせる。トロトロにとろけさせて、降参するあなたが目に見える」
モルドレッドがそんなことを言ってくる。その笑顔はとてつもなく可愛かった。だが、真耶はそんなことよりも、ベッドの上で勝負するということしか頭になかった。
「絶対負けねぇよ。俺は鈍感だからな」
「あれ?お前鈍感なのか?」
突如アーサーが聞いてくる。
「ん?知らなかったのか?俺は鈍感だぜ。じゃないと体に穴が空いて戦うとか無理だろ」
真耶のその言葉にその場の誰もが納得する。そして、笑いあった。そのおかげで心が晴れやかになる。
「じゃあ次の街に行くか」
真耶達はそう言ってスタットの街を後にした。
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