第27話 さらなる事実
それから真耶達は街の真ん中で少し話をした。そこには真耶達だけでなくその街の冒険者達も集まってきている。
どうやら先程の騒動を見ていて、全員その恐ろしさに足がすくんで動けなかったらしい。
しかし、冒険者達は真耶の幻術にかかっていなかったから、突如どこかに行ってロキと戦い始めた真耶を不思議に思っていたそうだ。
そう考えてみると、先程の光景はとても異様な雰囲気に包まれていたはずだ。誰を殺しているのか、誰に話しているのか!誰と戦っているのか、それらが全部分からないフリッグに、敵を目の前にして突然違う敵と戦い、前に戦っていた敵を完全放置する真耶。そして、そんな異常な2人を静観するアーサー達。とても人間とは思えない。
「売れない劇団みたいになってたんだな」
「……」
「……」
「……」
真耶の一言でアーサーは黙り込んでしまった。それに呼応するかのようにモルドレッドも黙り込む。そして、突如話すことが無くなった真耶も黙り込んだ。そのせいで、突然3人とも何も喋らなくなるという異常な光景を再び作り出した。
「ね、ねぇ、な、なにか話さないの!?」
その時ヘファイストスが慌てて聞いてくる。3人は無言でそんなヘファイストスを見つめた。すると、ヘファイストスはどんどん気まづくなっていき、ついには心が折れて涙をポロポロと流し始めた。
「……ヘファイストス、泣く前にやることがあるだろ。まず街の人全員に謝れ。その後に上空に魔法を放て。最後に、フリッグについて説明しろ」
「わ、分かりました!ご主人様!」
ヘファイストスは真耶に言われた通り冒険者や街の住民の視線が集まる中裸のまま土下座をする。その格好は本当に綺麗だった。
「皆様!申し訳ありません!この度は私が行った不届きな行為により皆様に多大なる迷惑をお掛けしてしまっまた事を後悔しております!以後、気をつけるように注意致します!」
ヘファイストスはそう言って額を地面に擦り付けた。すると、その様子を見ていた冒険者や街の住民は、さっきとは違って卵をぶつけたり、罵声をあびせたりしない。
しかし、そんな中真耶は言った。
「お前、こんなに街をめちゃくちゃにしておいて誤っまたら許されるなんて思ってないよな?」
「っ!?……は、はい……!お仕置は……なんでも受けます……!」
「そうか。なら、今お前にお仕置を1つ命じる。絶対に俺を裏切るな。そして、何があってもこの街を守護しろ」
「っ!?」
ヘファイストスは真耶のその言葉を聞いて目を丸くした。そして、自分の耳がおかしくなったのかと疑ってしまう。
「返事がないな。俺を裏切るつもりだったのか?」
「い、いえ!ですが……てっきりご主人様の事だからお尻1000叩きとか言うのかと……」
「して欲しかったのか?ならお尻1000叩きも追加ね」
「え!?いや、嫌です!許してください!」
ヘファイストスはそう言って土下座で泣きながら頼んだ。しかし、真耶は表情1つ変えずに言う。
「いや、もう言ったから無理だわ。変更不可だから」
「そ、そんな〜!」
ヘファイストスは泣きながらそう叫んだ。
「それで、誓えるのか?」
「え?あ、はい!」
真耶の問いかけにヘファイストスは勢いよく返事をする。すると、2人の前に白い光の玉が集まりだした。そして、2人の足元に巨大な魔法陣が作られ、そこでその契約は受理された。
「……これって……」
ヘファイストスは自分の胸に出来た印を見て少し不思議に思う。
「それは、契約の証。俺を裏切った瞬間凄まじい苦痛と共に死ぬ」
「っ!?」
「絶対裏切るなよ」
真耶はそう言ってヘファイストスに近寄った。そして、ヘファイストスと同じ目線までしゃがんで人差し指を少し噛んで皮を破る。すると、その部分から血が垂れてきた。
真耶はその指をヘファイストスの唇にくっつける。そして、人差し指から垂れてくる血を無理やり舐めさせた。
「っ!?」
「これでお前をいつでも監視できる。何かあればお前の体を制御出来るし、何かあれば力を貸すことも出来る」
そう言って立ち上がり皆の元へと戻った。
「あ、あ、あ、今のって……!」
その時なぜかヘファイストスは顔を真っ赤にしている。そして、なぜかモルドレッドが頬をふくらませてムスッとしていた。
真耶はそんなモルドレッドの顔を見た瞬間やっちまったと思う。なぜなら、今真耶がやったのは関節キスだからだ。だから、モルドレッドは嫉妬してしまったのだ。
「……モルドレッド……」
モルドレッドはあからさまに嫉妬する。無言でぷいっとそっぽを向いているのだ。それを見て言葉を失う。というより呆れてしまう。
「……はぁ、モルドレッド」
何度呼びかけても答えてはくれない。だから、真耶はモルドレッドに近づき目の前に現れたフリッグ来ると言った。
「ちょっとでいいからこっち向け」
真耶がそう言うと、モルドレッドは少し迷ったような表情を見せた後にゆっくりとこっちをむく。真耶はモルドレッドがこっちを向いたのを確認すると、顎をクイッと持ち上げ優しく唇を合わせた
「っ!?」
「これで満足か?」
「ん!」
モルドレッドはそう言って抱きついてくる。
「……全く、不思議なものだよ。記憶をなくしているのに嫉妬するなんてな……」
「記憶がもどり始めてるのかもしれないぞ」
アーサーはそう言った。
「……かもしれないな」
真耶もそう言ってモルドレッドの顔を見る。だが、とりあえず今はモルドレッドを守ることの方が大事だ。思い出は無くなっても、新しく作ればいいだけだから。
「……あの、私はこれからどうしたら……」
「ヘファイストス、お前には後で色々と説明したい。話が終わったらギルドに来てくれ」
真耶はヘファイストスにそう言ってルーナ達の元へと向かう。ヘファイストスは少し頷くと、アーサーに近寄った。
「真耶はこれから何をするの?」
「……お前がさんざん街を壊したからそれの話し合いだろ」
「え!?」
アーサーの言葉を聞いてヘファイストスは言葉を失う。そして、心の中でめちゃくちゃ真耶に謝った。
そして真耶は……
「それで、お前達はこれからどうするんだ?」
冒険者達は真耶の言葉を聞いて頭を抱える。そして、真耶の顔を見ながら言った。
「私達はもしかしたらゼウスの攻撃があるかもしれません。それの対策をしたいと思ってます」
冒険者がそう答える。さっきとは違って敬語を使っている。どうやらさっきの真耶の戦いを見て怒らせちゃいけないことを理解したらしい。
だから真耶は、その街の1番強いと思われている冒険者とこれからの方針などを考えて欲しいと言われ、ここまで来たのだ。普通は嫌っているやつに街の方針なんか決めさせない。
そんなこんなにで真耶はこの街の冒険者と話しているのだ。
「ゼウスねぇ……なぁ、なんでゼウスが来ると思ったの?」
「え?だって、ヘファイストスを倒し捕虜として捕えているのですから……」
「でもさ、それって俺がじゃん。誓約は誓った本人が破棄しなければ破棄できない。だったら真っ先に俺を狙うはずだろ?だけどお前達はこのが狙われていると思っている。それってさ、俺がここにいてここにゼウスが来るから出ていけってことだろ?」
真耶は椅子に座りながら言った。その言葉を聞いた瞬間冒険者が皆黙り込んでしまう。どうやら図星らしい。
やはり、真耶のことは嫌いなようだ。恐らく幻を見せていたのがヘファイストスでは無いのだ。
そもそも、空を見れば分かる。なぜか地脈のエネルギーを元に戻したのに空は戻らないのだ。地面は元に戻っているのにだ。
答えは簡単、恐らくこの世界自体をゼウスが仕切っている。そして、ゼウスはこの世界のどこかにいて、そこから俺達を見ている。だが、それ以上に問題なのが1つある。それは……
「なるほどな。お前達はゼウスに魂を売ったのか。どうせ、”俺達の旅を邪魔しろ”とか、”俺達に有意義な情報を与えてはならない”とかそんなこと言われてんだろ?」
真耶は冒険者達に向かってそう言った。その言葉を聞いた瞬間冒険者達が皆目を見開き驚くと、何も言わなくなってしまう。どうやら図星らしい。恐らくこの街の冒険者達は、ゼウスの言うことを聞くだけで、この街は助けてやるとか言われたんだろう。それで、我が身可愛さでゼウスにすがったってところだ。
「……辞めだな。この街にヘファイストスを残して守護してもらおうとか思ったが、辞めだ。ヘファイストスは俺が連れていく。どうせこの街に残していても、ゼウスに連れ戻されるかお前達の奴隷になるかの2択しかないからな」
「待ってください!さっきから何を言って……」
「顔がにやけてるぞ」
真耶のその言葉を聞いた瞬間冒険者は自分の顔を触る。そして、鑑で確認するが、特ににやけてもいない。
「っ!?騙しましたね!」
「別に話してる時ににやけててもいいだろ。あれか?ニヤけることさえも許されてないのか?飛んだブラック企業だな」
真耶はそう言って立ち上がると、ギルドを出ようと入口まで行く。しかし、冒険者達がその道を遮り逃がさないようにする。
「退けよ。死にたいのか?」
「お前1人でこの数相手に出来んのか?」
「……今回は街を守るという名目上助けているが、その名目が無くなればこの街潰すぞ」
真耶はそう言って冒険者を押し飛ばすとギルドの扉に手をかける。そして、開いた。すると、そこにはちょうどよくアーサー達がいる。
「次の街に行くぞ。ヘファイストスは連れていく」
「……わかった」
アーサーはその言葉を聞いてすぐに察した。そして、振り返り街の外へと向かう。その後ろで呆然と見つめるルーナが真耶の姿をずっと見ていた。
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