第25話 暗闇の襲撃者
「……」
真耶は目の前で横たわっているドラゴンを見つめる。そのドラゴンの首は先程の爆発で切断されてしまった。
「全く……理の王者が聞いて呆れるよな。こんな何が起こるかわからんものに頼らなくちゃならなくなるなんて……」
「フッ、確かにそれは笑えてくるな」
真耶が独り言を呟いていると、アーサーが話しかけてきた。どうやらアーサーも無傷なようだ。
まぁ、事前に教えてやったのだから無傷じゃないわけが無いのだがな。
「疑問。今の技何?」
気がついたら後ろにモルドレッドがいた。モルドレッドはいつの間にか背後を摂るとそんなことを聞いてくる。
「今の技は何かしらの水に関する災いを起こす魔法だ。負の魔力を詰め込んだ水を放出することによって、その水に何かしらの災いが起こるようにする。今回は炎と反応して水蒸気爆発が起こったんだろうな。だからこんなに水蒸気が飛び散っているんだ」
アーサー達はそう言われて周りを見た。確かに言われてみれば水蒸気が多い気がする。単純に霧が出ているのだと思っていたが、考えてみればここは獄炎渓谷だ。霧が出来るほど水分は無い。
「なるほどな。それでその爆発も使って首を切断したのか」
「そう言うこと。本来は大地の剣でとどめを刺すつもりだったんだがな」
「そうだ、それこそ疑問なんだが、なぜただの土がドラゴンの体を貫通できたんだ?神眼を使ったのか?」
「いや、使ってないよ。ただ単純に地中深くに含まれている鉄分や金などを集めて凝固させただけだ」
アーサーは真耶の説明を受けて納得した。確かに鉄分や金が含まれていれば硬くなるわけだ。それに、先端を尖らせれば剣で刺すこともできるからな。
アーサーは真耶の説明を聞いたあと、直ぐに周りを見渡す。さすがにもうドラゴンは来てないようだ。しかし、その代わりにヘファイストスが来ている。
「おい、遅いぞ」
「う、うるさいわね!」
「わりぃわりぃ。そんなことより早く帰るぞ」
真耶はそう言ってドラゴンの1部を剥ぎ取ると、帰路に着く準備をした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから1時間後……
真耶達は何事もなくスタットの街に着いた。さすがに街のなかをヘファイストスが平然と歩いてたらやばいので変装をすることになった。
幸いにも服は真耶との戦いやドラゴンとの戦いで使い物にならなくなっていて、今は裸の状態だ。そのため、新しい服を着せる延長線だと思えて良かった。
「……てか、裸で奴隷みたいに首輪付けて歩けばよくね?」
突如真耶がそんなことを言い始める。ヘファイストスはそれを聞いて驚き顔を真っ赤にするが、確かにそれが理にかなっているのだ。
その時ヘファイストスはこんなこと言ってもアーサーが止めてくれると思っていた。確かにアーサーは一見勇者のような心優しいやつに見える。だが、アーサーは真耶と似た者。考え方も似ている。だから、アーサーはヘファイストスの思うようなことを言わない。
「確かにな。それは我も思っていた」
「ふぇっ!?や、やだよ!街中の人に裸を見られるじゃん!」
「は?いや、あんな露出度高い服着ててそれ言うか?」
「あれは大事な部分は隠してたの!見られて恥ずかしいところとかもちゃんと隠してたの!」
ヘファイストスは顔を真っ赤に染め上げて必死に真耶を説得しようとする。だが、基本的に真耶は1度決めたことを曲げることは無い。
「いや、お前俺の奴隷だからな。お前に否定する権利は無い。それに、どちらにせよお前にはこの大地を元に戻してもらわなくてはならない。その時バレるだろ」
「そんなの、街から離れたところでやればいいじゃん!」
「無理だな。今回お前が干渉したのが地脈だろ?地脈に干渉した異物を取り除く場合1番干渉しやすい場所でやらなければ上手く行きにくくなる」
「でも、できないわけじゃないからここでも……」
「お前、俺の言うことが聞けないのか?」
「え!?いや、そういうわけじゃ……」
「……少しお仕置をしておいた方が良いな」
真耶はそう言ってヘファイストスに近寄った。ヘファイストスは嫌な予感がして後ずさるが、突然体を不思議な力で拘束されて身動きが取れなくなる。そして、真耶にお尻を突き出すような格好をさせられる。
「は、恥ずかしいよ!」
「それもお仕置の1つだとりあえず100回な」
真耶はそう言って平べったい木の板を作り出した。その板はとても硬そうで重そうだった。
真耶は何回かヘファイストスのお尻に当て場所を確認すると、全力でヘファイストスのお尻を叩いた。
「いだぁぁぁぁぁぁ!」
ヘファイストスの悲痛な叫びが聞こえる。そして、たった1発しか叩いてないのにヘファイストスは大粒の涙を流し始めた。そして、お尻は真っ赤に腫れ上がっている。
しかし、真耶はそんなこと気にしない。とりあえず言うことを聞くようになるまで叩くことにした。
━━それから5分程度で100回叩き終えた。その頃にはヘファイストスは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。真耶はヘファイストスがそんな状態になっているのを確認すると、目の前に移動して言った。
「裸で首輪つけて街を歩く。それでいいな?」
その問いかけにヘファイストスは力なく答える。
「ふぁ、ふぁい」
真耶の無表情の圧力からそう答えるしか無かった。そして、拘束は解除される。ヘファイストスは力なくその場に倒れ込み、涙を拭う。そして、震える足で必死に立ち上がると、真耶に首を近づけた。
「ん?お前言うこと聞くようになったのか。フッ、俺は俺に従順な犬は好きだぞ」
真耶はそんなことを言いながら首輪を作り出しつける。そして、その首輪を鎖で繋いだ。
「準備は出来たか?」
アーサーは待ちくたびれたように腕を組んで壁によりかかりながら待っていた。
「あぁ」
「よし、じゃあ行くぞ」
真耶達はスタットの街の中へと入った……
……真耶達が街に入ると、街の住民は皆真耶達から逃げていく。また、家の中から睨みつける人もいる。中には物を投げつけてくるんだろうね人もいた。
「歓迎されてねぇな」
「当たりえだろ。こんな迷惑かけた捨て犬拾ってきてんだから」
「それもそうだな」
真耶とアーサーはそんなことを言って笑い合う。
「真耶、なんだか臭う」
突如モルドレッドがそんなことを言い出した。
「え?俺が!?」
真耶はモルドレッドに自分が臭いと言われたと思い、慌てて服を臭う。だが、そこまで臭くは無い。
「違う。ヘファイストスが臭い」
そう言ってモルドレッドは指を指した。すると、ヘファイストスの体には大量の卵がぶつけられている。
「……」
真耶はその異様な光景を目にして言葉を失った。そして、直ぐにその状況を理解しヘファイストスに近寄る。そして、水を発生させて体に着いている卵の黄身を全て洗い流した。
「あ、ありがとうございます……」
「全く、めんどくさいやつらだな」
真耶はそう言って飛んできた卵をキャッチして投げ返した。
「うげっ!?おい!何すんだよ!」
街の住民が激怒して叫んでくる。そして、真耶達を殺すだのなんだの言い出したが、一向に家の中から出てくる気配がない。
そうこうしていると、その住民に続いて他の住民もとやかく言い始めた。どうやらヘファイストスを連れてきたのは失敗だったらしい。やはり変装させるべきだったか……
「「「死ね!死ね!死ね!……」」」
街の住民は死ね死ねコールを始めた。そして、物を投げてくる。さすがに真耶とアーサーはこんなものが通用するわけないが、モルドレッドには少し厳しい環境となってしまったかもしれない。
「うぅぅ……怖いよ……。真耶……助けてよ……」
モルドレッドが泣きそうな目で真耶にしがみついてきた。やはりモルドレッドには少しキツいようだ。
真耶は弱りきってしまったモルドレッドの姿を見ると、静かに殺気を強めた。そして、その殺気をだんだんと強めていき、具現化させる直前まで言った。
その時の真耶の目は力を使ってないのに真っ赤に光って見えた。
街の住民はそんな真耶を見て怖気付いた。中には泣き出す子供もいたが、真耶はそれでも辞めない。大人は身体を震わせながら腰を抜かしたり、戦おうとするも家から出れなくなったりしていた。
そして、遂に真耶は人を殺せるレベルの殺気を放とうとした。しかし、その直前でヘファイストスがある行動を取ったことで、真耶は殺気を放つのを辞めた。
なんと、ヘファイストスは街の住民に向かって土下座をしたのだ。そして、そのまま土下座の姿勢のまま懇願する。
「ごめんなさい!私がこの街をめちゃくちゃにしたからこんなことになっちゃって……!でも、罪は全て償うので許してください!それに、この方達は関係ないんです!私がこの方達に負けて奴隷となっているだけで、この方達はいい人なんです!だからやるなら私だけにしてください!」
ヘファイストスはそう言って額を地面に擦り付ける。さすがにそんな姿を見せられたら住民達も申し訳ないと思ったのか、罵声を浴びせるのを辞めた。
「……ったく、余計なことを」
「まぁ良いだろ。あのままだったらこの街の住民は全員死んでたぞ。世界を救うのに、住民を皆殺しにしたらダメだろ」
「……ま、それもそうだな」
真耶はそう呟いてヘファイストスに近寄る。そして、ヘファイストスに向けて言った。
「良くやったな」
真耶はそう言ってしゃがみこむと、頭を撫でた。そして、立ち上がり街の住民に向かって言う。
「お前ら!聞け!これからこの街の周りの地脈を抑え込む!危ないからこの広場に近寄るなよ!」
そう言ってしゃがみこみ地面に手をつけた。その時、太背後に人気を感じる。振り向くと、冒険者が集まっていた。
どうやら街の異変を感じて来たらしい。しかし、さっき真耶が言ったこともあってか近寄ってこない。
「……フッ、利口な奴らだ」
真耶は不敵な笑みを浮かべると、眼帯を外して世界眼を右目に浮かべた。そして、体中から白いオーブのようなものを出す。
その刹那、地面から大量の熱気を帯びた魔力が真耶の体に流れ込んできた。その魔力は波のように地面から噴き出してきて、周りの地面を赤く変色させる。
「熱い……」
モルドレッドは小さな声でそう呟いた。確かに少し熱い。恐らく地脈に含まれているヘファイストスの魔力が周りの温度を急上昇させているのだろう。
そのせいもあってか真耶の手のひらが赤く変色し始めた。そして、発火する。
「「「っ!?」」」
「真耶!危険!」
「まぁ待て。まだ大丈夫だ」
慌ててモルドレッドが近づこうとしたが真耶はそれを止める。そして、優しく笑って地脈を抑えることを続けた。
しかし、それでもモルドレッドは心配する。何故か嫌な予感がするのだ。いつもこうしてなにか上手くいっていると、それをぶち壊そうとする何かが来るのだ。モルドレッドは今回もそれが来るような気がした。
しかし、モルドレッドの予想は外れる。それから少しして地脈に流れ込んだヘファイストスの魔力を全て吸収し終えたのだ。
真耶はそれを終えると勝ち誇ったような笑顔で近づいてくる。その体は何故か紅く光っていた。
「真耶……それ……」
「これか?これはな、ヘファイストスの焔の魔力が体に流れ込んで紅く光ってるんだよ。まぁ、特に体に支障はない。どちらかと言うと強化された感じだな」
真耶はそう言って微笑む。モルドレッドはその顔を見て安心した。
「安心……」
「いや、待て。まだ安心するのは早い」
「え?」
「アーサー、気づいてるか?」
「あぁ。何かいるな」
「……この感じ……上か!?」
その時、上空から黒い光線が落ちてきた。真耶達はその光線を咄嗟に避ける。
「何者!?」
「うふふ、私よ。ヘファイストス」
そう言って空から女性が降りてきた。その女性は黒い衣装に黒い髪。胸元に真っ赤な薔薇をさしている。その姿はまるで烏のようだった。
「っ!?あなたは……!」
「うふふ、久しぶりなのに歓迎してくれないのかしら?あれだけ可愛がってあげたのに。ほら、こっちに来てお尻を出しなさい。負けたらどうなるか教えてあげるわ」
「ひぃっ!や、ヤダ……!」
「ヤダじゃないわよ。悪い子にお仕置するのはルールでしょ」
そう言ってその女性は地上に降りてきて、ヘファイストスに近づこうとする。真耶はヘファイストスの様子を見た。かなり怯えきっている。
「……」
「あら?あなた、邪魔をするの?」
真耶は近づいてくる女性を手を前に出してバリケードのようにして止めた。すると、その女性は少し恐怖感を逆撫でするような笑みを浮かべて言ってくる。
「あなた、死にたいのかしら?悪い子を庇ったら一緒にお仕置よ。それがルールだもの」
「ルールルールうるせぇな。そんなルール消し去ってやるよ。お前だって俺が何者か知ってるだろ?なぁ、フリッグ」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。その言葉を聞いたフリッグと呼ばれた女性は、悪魔のような笑みを浮かべて真耶から距離をとる。
そして、どこからか鎌を取り出し真耶に向けて言った。
「そうね。あなたにルールは通用しないわよね。理の王者さん。今日は失敗したヘファイストスを連れ戻しに来たわ。邪魔するなら殺すわよ」
ヘファイストスはそう言ってクスリと笑った。
読んでいただきありがとうございます。