第24話 死を告げる召喚士
「っ!?」
その刹那、真耶の体から黒い何かが抜け出した。そして、その黒い何かは波のように真耶とヘファイストスを襲う。
しかし、ヘファイストスは動けない。体の四肢を切断され逃げることさえできない。
「ヤダ……!死にたくない……!」
「死なせるわけねぇだろ!お前が敵かどうかまだ分かっていない!それが分かるまで、死なせるわけないだろ!」
真耶はそう言って黒い波を全手吸収し始める。さらに、大気中の魔力を使い一瞬で魔法陣を7つ作り出した。その魔法陣は同時に発動する。
すると、その黒い何かは吸い込まれるように真耶の影の中へと入っていった。
「っ!?」
突然の出来事に、真耶以外のその場の誰もが理解できない。全く状況についていけず、呆然とする。
そんな中真耶は1人だけ不敵な笑みを浮かべてヘファイストスに近寄る。ヘファイストスはそのなんとも言えない恐怖に体がすくみ、動くことさえも出来なくなってしまった。
「俺の勝ちだな。誓約は今果たされた」
そう言ってヘファイストスを指さす。すると、ヘファイストスの目の前に文字が現れた。そこには誓約の内容が書かれてある。どうやらヘファイストスは本当に真耶の奴隷となってしまったらしい。
「……うぅ……負けたなんて……!」
ヘファイストスはその事実に耐えきれず泣き出してしまった。
「そんなに嫌だったのか?なら、存分にお前をこき使ってやるよ」
「うぅ……か、体は絶対に渡さないわよ!」
「要らねぇよ。そんなもん。そんなことよりお前の体を再生させないとだな」
真耶はそう言ってヘファイストスの体を抱き抱えると、渓谷を大ジャンプで上がりモルドレッド達の元へと戻った。
上に上がるとそこにはモルドレッド達の姿がなく、荒れ果てた大地が広がっている。真耶はその様子を見て少し驚きはしたものの、直ぐに周りを見渡してアーサーとモルドレッドを探した。すると、少し離れた部分に2人を見つけた。
「あ、こんなとこにいたのか。何してたんだ?」
「馬鹿か?我ら死にかけたぞ」
「天眼。強力」
2人はそんなことを言いながら近寄ってくる。真耶はその言葉を聞いてニコッと笑って誤魔化した。
「いや、誤魔化すなよ」
「わりぃわりぃ。そんなことより、こいつをどうにかしないとだな」
「そんなことよりって……まぁいい。勝ったんだろ?」
「いや負けた」
「「「っ!?」」」
真耶のその言葉を聞いた3《・》人は目を見開いて驚く。
「いや、嘘だよ。勝ったに決まってるだろ」
「嘘つくな。焦っただろ」
アーサーは真耶に向かってそう言ってどつく。そして、大きくため息をついてヘファイストスの体を見た。その体は体とは言えない。四肢を切り裂かれ生きているのもやっとのようだ。
「ひでぇな」
「無力化しただけだろ」
「いや、そっちじゃない。この傷跡だよ。こんなに雑に切って……これじゃ再生するのが難しいだろ」
「だが、そうしなければ再生される可能性があった。勝つためには手段を選んではいられない」
アーサーは真耶のその言葉を聞いて少しだけ納得してしまった。このことに納得しては行けないとわかっていたのに納得してしまった。その事に対して悲しさが込み上げてくる。
「……まぁ、治せないわけじゃないからな。”ヒーリング”」
アーサーはそう言ってヘファイストスの傷を治し始める。真耶はそんなアーサーを見つめながら自分の手のひらを見つめた。その手には真っ赤な血がべっとりと着いている。これは、自分の目から流れ出た血だ。
真耶はその血を見つめながら思いに耽ける。そして、ヘファイストスの体を見た。
あれだけ苦戦したのにもう傷が治り始めており、四肢もある程度は再生している。
「っ!?」
その時、突如アーサーの手が止まった。そして、目を見開きなにかに怯えるような表情を見せながらヘファイストスの手足の切断面を見る。
そこには紫色と黒色のなにかがくっついていた。アーサーはその何かを見て直ぐに真耶に聞く。
「お前……これ地獄の……」
「……」
「真耶。お前、悪魔を召喚したのか!?」
「まぁな。正確に言うなら、羅刹を召喚してその力を借りたようなものだ」
「じゃあ、悪魔と契約したわけじゃないんだな!?」
「当たり前だろ。なぜ俺が自分より弱いものに魂を売らなければならない?俺は魂を食らう側だ」
真耶はそう言って笑った。アーサーはそれを見て少し安心すると、直ぐにヘファイストスの治療に専念した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから1時間……
アーサーはヘファイストスの傷を全て治療し終えた。あれだけ酷い姿だったが、今はその面影は全く無く、綺麗な素肌が見える。
「治ったぞ。全く、無力化するなら違うやり方でやってくれ」
「悪いな。今度から気をつけるよ」
真耶はアーサーにそう言ってヘファイストスに近づく。ヘファイストスは近づいてくる真耶に対して少し警戒するような表情を見せた。
しかし、真耶はそんなことを気にするようなタイプの人間では無い。ヘファイストスの気分など全く気にせず近寄る。
「それで、お前はどうする?このまま俺と敵対するか?それとも、奴隷になるか?」
「っ!?逃がしてくれるの!?」
「まぁな。ただ、逃げた瞬間殺すがな」
ヘファイストスは真耶のその言葉を聞いて目を見開き驚く。そして、少し考えた。恐らくだが、逃げることは出来ない。敵対すればした瞬間に殺される。例え逃げれたとしても、あの金色の矢で殺される。
「完全に私の負けね。いいわ。奴隷になるわ」
ヘファイストスは諦めたように真耶に言った。真耶はその言葉を聞いて笑うと、直ぐに誓約の印を浮かび上がらせる。その印は1度発光すると、ヘファイストスの胸に刻まれた。
「これで誓約は果たされた。これからは俺の言うことを聞いてもらう。もし命令に背くようであれば、死ぬより厳しい罰が下る」
「フフフ、死ぬより厳しいことってあるの?」
「あるさ。どれだけ傷ついても死ねないんだからな。死なないからと言って痛みが無くなるわけじゃない。無限の苦痛に悩むことになるさ」
真耶はそう言って恐怖に満ちた笑みを浮かべた。その笑みを見た瞬間、ヘファイストスは体に寒気がする。
そして、これから絶対に真耶の命令を聞くことを心に誓った。
そうこうしていると、アーサーとモルドレッドが帰る準備を終えた。と言っても、めちゃくちゃにした大地を整地するだけなのだが……
アーサー達は整地し終えると、真耶達の元へと戻ってくる。そして、帰路につこうとした。その時だった。
「っ!?何かがくる!」
真耶がそう叫んだ。それとほぼ同時にアーサーが結界を張る。すると、その数秒後にその結界に向けて灼熱の炎が襲ってきた。
「っ!?何!?」
「うわぁ……マジかよ。獄炎龍が来やがった」
「「「っ!?」」」
真耶の言葉にその場の誰もが目を疑った。そして、直ぐに炎が来た方向を見る。すると、その方向から紅蓮の炎に包まれたドラゴンがこっちを見ていた。
「っ!?」
真耶はそれを見て武器を構える。しかし、突如左目に激痛を感じて倒れてしまった。目を抑えると、大量の血が流れ出している。そのせいで、ぼやけていた視界が真っ赤になってしまった。
「真耶!……モルドレッド、少しの間やつの時間稼ぎをしてくれ」
「ん!」
「……ヘファイストス……!お前もモルドレッドの援護をしろ……!」
「了解!ご主人様!」
モルドレッドとヘファイストスは真耶とアーサーの言葉を聞いて急いでドラゴンへと向かっていく。
アーサーはそれを確認して直ぐに真耶の治療を始めた。
「”ディスアセンブル砲”」
「”紅蓮・炎羅”」
モルドレッドはドラゴンに向かってディスアセンブル砲を放つ。ヘファイストスはそれに被せるように炎の玉を作り出し放った。
2つの技が合わさり獄炎龍を襲う。しかし、ドラゴンは全くその攻撃を避けようとしない。そして、その攻撃は炸裂した。
その時、ヘルブレイズドラゴンの纏っている炎が強くなった気がした。……いや、確実に強くなった。それに、さっきの攻撃は全く効いていない。どうやら炎の攻撃を当てると強くなるらしい。
「嘘……私絶対相性悪いじゃん!」
ヘファイストスはそう言って泣きそうな顔をする。しかし、そんなヘファイストスに向かって真耶は言った。
「馬鹿……!お前が盾になるんだよ……!」
「あ、そうか。私炎の耐性強いんだ。もぅ!ご主人様の炎が強すぎて忘れてたよ!」
「馬鹿!前を見ろ!」
アーサーは突如慌ててそう叫んだ。そして、その直後にヘファイストスに向かってドラゴンが突進してくる。ヘファイストスはその事に気づくのが遅れてしまい、そのまま遠くまで飛ばされてしまった。
「なんであいつあんなに弱くなってんだよ」
アーサーは呆れたような声で呟く。
「気が抜けてんだ。戦闘終了後はアイツは気が抜けてあんな感じになる」
真耶はアーサーにそう言うと、目を少し擦って、どこから取りだしたのか分からない目薬を打つと立ち上がった。
「もう行けるのか?」
「まぁな。ただ、左目はもうほとんど使えない。これ以上使えば失明してしまうからな」
「なるほど。だいたい分かったぞ。援護は任せろ」
アーサーは真耶の言葉を聞いて全てを理解した。真耶が何をしたいのか、そしてアーサーが何をすれば良いかを。
アーサーと真耶は目を合わせ頷くと、別々の方向へと走り出す。そして、別々の方向からドラゴンとの距離を詰め始めた。
それを見たモルドレッドは直ぐに作戦を理解しその場を離れる。全部わかった訳では無いが、本能的にこうだろうとわかったような気がした。恐らくこれも、前のモルドレッドの記憶が関係しているのだろう。
3人はそれぞれ作戦通りの動きをする。そんな中ヘファイストスは1人だけ作戦を理解していなかった。しかも、先程の突進でかなり離れたところまで飛ばされてしまっている。
「ご主人様が立ち上がってる!?私も頑張らないと!」
ヘファイストスはそう言ってドラゴンに向かって駆け出した。恐らくヘファイストスが到着するまで30~40秒程度だろう。
「2人とも!時間制限は30秒だ!決めるぞ!」
アーサーとモルドレッドは真耶のその言葉を聞いて頷くと、それぞれ広範囲の魔法を放つ。真耶はその魔法で発生した魔力を操り数十個の魔法陣を作り出した。それも、ドラゴンの真上に。
「鉄の雨って言うやつだ。存分に味わえ。”召喚・剣の雨”」
真耶が魔法を発動させた刹那、魔法陣の中から鉄の剣が召喚される。その鉄の剣は同じ魔法陣から何本も召喚され、その魔法陣が数十個もある。そうなると、かなりの数の剣が降ってくることになる。その様子はまるで剣の雨だ。
しかし、真耶はそれだけで終わらなかった。当然だが、こんな攻撃でドラゴンを倒せないことはその場の誰もが分かっている。だからこそ真耶はもう1つ魔法陣を作りあげた。
「初めてやるよ。陣を使ったこの魔法を。”物理変化”」
真耶がそう唱えると地面から巨大な土の剣が現れた。その剣は土で出来ているにも関わらずドラゴンの体を貫く。そのせいで、ドラゴンから大量の血が吹き出し血の雨が降り注いだ。さらに、ドラゴンに隙が生まれる。
「終わりだね」
真耶はそう言って右目に新しい目を浮かべた。正確に言ったら新しくは無いが、最近では使ってなかったので新しいという表現であっているだろう。真耶はその目を浮かべてリーゾニアスを構える。すると、真耶の周りに水が発生した。
そう、真耶は水魔眼を浮かべたのだ。そのため、真耶の周りに水が発生するのだ。
「”紺青・激浪の水禍”」
真耶のリーゾニアスに激しい波を起こす水がまとわりつく。真耶はその剣でドラゴンの首元を切り裂いた。
さすがにドラゴンと言うだけあって一撃で首を切断出来る訳では無い。だが、その一撃の強みはその切れ味などではない。この技の真の強さは、その後に来る何かしらの災いだ。
「お前ら!離れろ!」
真耶がそう叫んだ刹那、突如ドラゴンの首元で大爆発が起きた。近くにいた3人はその爆発の影響を受ける。しかし、事前に真耶が叫んでいたため受身を摂ることが出来、特に支障はなかった。
ヘファイストスも突如爆発したことには驚いたが、直ぐに爆発を防げる体勢をとり爆風に備える。そのおかげで4人とも特に支障はなかった。
真耶は少し飛ばされはしたものの、難なく着地を決めリーゾニアスを背中の鞘に収める。そして、目の前を見つめた。
その目線の先には、首を切断され息絶えたドラゴンが倒れていた。
読んでいただきありがとうございます。