第22話 紅蓮の試練
真耶は目の前のヘファイストスを見ながら眼帯の下で神眼を発動した。そして、周りの地形を確認する。
ヘファイストスも剣を構えると周りの地形を確認した。
「さて、どうしようかしらね。負けた方は勝った方の言うことを聞くとかどう?」
「無理な話だな。この勝負は勝ちか負けかじゃない。殺すか殺されるかだ」
「フフフ、あらそう?私が負けたらあなたに何でもしてあげようと思ったのに」
「……本当か?それは誰かに誓えるか?」
「えぇ。なんなら誓いの魔法をかけるわよ」
「……フッ、面白い。”誓約鎖”」
真耶はそう言ってヘファイストスと誓約を結ぶ。基本的に神達は誓いを破ることは無い。破ってしまえば、それはもう恐ろしい罰が下るからだ。
真耶はそれを知っているからこそヘファイストスと誓約を結ぶ。まぁ、はっきり言ってゼウス以外殺す必要は無いからな。
真耶はそれをわかっているからこそ、ヘファイストスの言ったことを受け入れることにした。そして、誓約を結ぶ。
「これで殺し合いじゃなくなったわね」
「そうだな。じゃあ、始めようか。俺が勝ったらゼウスを裏切ってもらうからな。そして、俺のペットになってもらう」
真耶はそう言って気味の悪い笑顔を見せた。その顔はまるで犯罪者予備軍だ。もし、今の真耶が『今から女の子を犯してきます』と言ってもおかしくないくらいの笑みだった。
ヘファイストスはその顔を見ると、不思議と体に悪寒が走る。そして、とてつもない恐怖心に駆られて剣を構えて襲ってきた。
「”神焔流・炎羅”」
ヘファイストスは一瞬で距離を詰めるとすぐに攻撃を繰り出してくる。さすがは神といったところだ。どれだけ感情を揺らしても、剣筋は変わらない。剣に全くと言っていいほど迷いがない。
「さすがだな。伊達に剣を作ってる訳じゃないみたいだな」
真耶はそんなことを言いながら迫り来る刃を体を反らし避ける。そして、その勢いを使ってバク転をし、その途中でヘファイストスを蹴り上げた。
ヘファイストスはその蹴りを剣で防ぐと、1度その場を離れる。そして、再び剣を構えた。
「……状況判断も上手いな」
「これでも私、近接戦闘はオリュンポスでもかなり上位に食い込むのよ舐めないで貰える?」
ヘファイストスはそう言って呼吸を整えると、再び駆け出してきた。今度はさっきよりさらに速い。瞬きをする間もなく距離を詰められる。
「っ!?速いな……」
「当たり前でしょ!」
ヘファイストスは凄まじい勢いで剣を振り下ろしてきた。その目は、まるで親の仇を見るような殺意の籠った目だ。真耶はその迫り来る刃を横に移動し避けると、距離をとるため1度後退する。
「やる時は本気でやるわけね」
「なぜ逃げる!?恐れを生したか!?弱虫め!」
「なんとでも言っていいよ。そもそも俺は、剣士じゃなくて魔道士だからね」
真耶はそんなことを言って不敵な笑みを浮かべる。そして、人差し指を動かして空気中に魔法陣を作り出した。
「っ!?」
「まぁ、咄嗟に作ったならこの程度が限界かな。”波動水”」
真耶はそう言って水の球体を作り出しヘファイストスに向かって飛ばす。その球体はどこかゆらゆらと揺れていた。
ヘファイストスはその玉を切り裂き壊す。しかし、ヘファイストスがその玉を切り裂いた瞬間、その玉から波動が放たれた。
突然の波動にヘファイストスは対応しきれずその場に尻もちを着く。そのせいで少しの隙が出来てしまった。
そして、真耶はその隙を見逃さない。すかさず剣を大気中に含まれ炭素やら何やらを変化させ作り出し、大気中の魔力を吸い込んで剣に纏わせる。そして、ヘファイストスに飛びついた。
「これでどうだ?」
真耶はそう言って剣を構えた。その剣からは謎の炎が放たれ続けている。それを見たヘファイストスは手のひらに魔力を溜めた。しかし、今更攻撃しようとしてももう間に合わない。
真耶はどんな魔法が来ても対応できるように集中する。そして、ギリギリまで引きつけようとした時、ヘファイストスが何か魔法を放つ。
「っ!?」
真耶はその魔法が出た瞬間、体をねじりながら剣を振り下ろした。しかし、真耶の攻撃は通用しなかった。なんとヘファイストスが出したのは盾だった。そのせいで真耶の攻撃は盾すらも壊すことが出来ず攻撃をヘファイストスに当てることは出来ない。
「あら、これは壊せないのね。まぁ、それもそうね。だって、これは不壊をエンチャントしてるから」
そう言ってヘファイストスは勝ち誇った笑みを見せる。しかし、真耶はそれを聞いてさっきより楽しそうに笑う。
「何が楽しいのよ?」
「いやね、お前やっぱり先頭に向いてないなって思ってさ。どちらかと言うと闇堕ちの騎士の方が強かったぜ」
「っ!?ふざけないでよ!私の方が強いのよ!あの木偶の坊の方が強いなんて言わせないわ!”神焔流・紅蓮の太刀”」
ヘファイストスは怒り狂いながら剣を振り払う。しかし、どれだけ怒っても全く剣にブレがない。やはり、一流の剣使いなだけはある。恐らくどれだけ感情が揺れてもその剣に支障をきたすことは無いだろう。
「流石だな」
真耶はそう言って左手を前に突き出し手を握りしめるような動きをした。すると、左手の前に魔法陣が現れる。
なんと、真耶は今のたった一瞬で魔法陣を完成させたのだ。しかも、この魔法陣は初めて作ったもの。だから、威力はどんなものかは知らない。
「そんなもの!壊してやるわよ!」
ヘファイストスはそう言って真耶の作りだした魔法陣を壊した。しかし、それが間違いだった。
なんと、その魔法陣は罠だった。ヘファイストスがその魔法陣を破壊した時、急に魔力の流れを変えたせいで小さな爆発が起こる。しかし、いくら小さいとはいえ爆発だ。ヘファイストスの剣はその爆発で弾かれてしまった。
「っ!?」
その爆発のせいでヘファイストスは剣を弾き飛ばされ無防備になる。再び隙が出来たのだ。何度も言うが、真耶はその隙を見逃さない。剣を構え振り下ろす。
「”ディスアセンブル砲”」
その時、遠くからモルドレッドが魔法を放つ。すると、その魔法は吸い込まれるかのように真耶の剣に当たった。そして、真耶の剣が紅い光を放ち始める。
「”光明剣”」
紅く光る刃は、空気さえも切り裂きながらヘファイストスを襲う。そして、ヘファイストスの体を左肩から右脇腹にかけて切り裂いた。
紅い光に紛れて紅い鮮血が飛び散る。真耶はそれを見るまもなく2回目の攻撃を繰り出す。ヘファイストスは自分が切られたことを認識した時には、再び刃が迫ってきていた。
「クッ……!舐めないで!”神焔流・渦巻く炎”」
ヘファイストスは咄嗟に手を振り払う。その刹那、ヘファイストスを中心として炎の竜巻が発生した。真耶はそれを見た瞬間転移眼を発動する。そして、一瞬でかなり離れた位置まで移動した。
そして、真耶はヘファイストスを見る。すると、ヘファイストスは体に炎を纏わせ、さらに渦巻かせていた。真耶はそれを見て少し考えると、体に着いた誇りを少し払って魔法陣を描き始めた。
「無駄よ。この炎は全てを燃やす。水さえもね。諦めなさい」
「いや、炎だから水を使うって言う考え方はどうかと思うぞ。べつに、炎を消すのに水しか使えない訳では無い。砂で消す手もあれば、二酸化炭素を使うてもある。それに、炎という事象そのものを消してしまえば良い」
真耶はそう言って魔法陣を完成させる。その魔法陣はこれまで誰も見た事のないようなものだった。ヘファイストスはその魔法陣を見て少し身構える。
「そんな怯えなくていい。すぐ終わるさ。”白き波動”」
真耶は魔法陣から白い波動を放った。その波動は広範囲に広がりヘファイストスの纏っている炎を消す。
「っ!?」
ヘファイストスは突然自分の魔法が消され、一体何が起きているのか分からずただ呆然とする。しかし、すぐにその事を理解し身構える。
すると、突然真耶がヘファイストスの目の前に現れた。ヘファイストスは真耶が突然現れたことに対して驚いてしまい上手く対応できない。
「しまっ……!」
「終わりだね。”紺青・水面の揺らぎ”」
真耶がそう言った瞬間、ヘファイストスの見えている景色が変わった。何故かヘファイストスは水の上に立っており、周りには何も無い。そして、その水は波一つ無く水平線が続いている。
そんな仲良くヘファイストスは1人立ち尽くしていた。そして、周りを見て状況を確認しようとする。
しかし、そんなことは出来なかった。振り返るとそこには真耶がいる。そして、真耶は剣を静かに振り下ろし水面に揺らぎを作った。その揺らぎは段々ヘファイストスへと近づいていく。
気がつけば、水面にヘファイストスが映っていた。水面の揺らぎはその映りこんだヘファイストスを切るかのように揺らぐ。
そしてその時、ヘファイストスの体は縦に切り裂かれた。
「っ!?」
ヘファイストスは何が起きたのか分からず混乱する。そして、自分の体を見た。視点もおかしい。何故かいつもより離れている。
そう思ってみると、なんと、自分の体が2つに裂けていた。しかも、縦に真っ直ぐだ。
それを認識した途端とてつもない痛みがヘファイストスを襲う。そして、その場に血が吹き散らかされ真っ赤に染め上げられる。
「そん……な……!」
ヘファイストスは呻くようにことはを吐き出した。そして、薄くなる意識を何とか繋ぎ止める。この時、この場の誰もが思っただろう。これは真耶の勝ちだと。だが、真耶はそうは思わなかった。なぜなら、もし真耶が勝利した場合交わした誓約が成立しヘファイストスは自分の奴隷となるからだ。
だが、ヘファイストスはまだ奴隷になっていない。ということは、まだヘファイストスは負け判定されていないという事になる。
真耶はそれを分かっているからこそ地面に手を付き魔法を唱える。
「”物理変化”」
地面が隆起し鋭くなり巨大な棘となる。その棘はヘファイストスを囲むように作られていき、そして、ヘファイストスがいる場所に向けて作る。これで、地面から出てきた棘で串刺しに出来る。
「……」
しかし、何故かヘファイストスのいる場所だけ棘を作ることが出来ない。それに、ヘファイストスが炎を纏い始めた。
その炎はヘファイストスの体を燃やしだすと、体をくっつけてしまい傷を全て治した。
「よくもやってくれたわね……!絶対に許さないわ!”顕現せよ。溶岩龍・ラヴァドラゴン”」
その時、ヘファイストスの目の前に巨大な魔法陣が現れる。その魔法陣は紅色の光を強く発すると、その場の空気をピリつかせる。そして、龍を召喚した。
「っ!?」
真耶はそのドラゴンが現れた瞬間、転移眼を使って一瞬で逃げる。そして、神眼を浮かべてその龍を見つめる。すると、その龍の情報が頭に流れ込んできた。
【溶岩龍】
・全ステータス不明
・溶岩地帯に住むドラゴン。基本的に大人しい性格ではあるが、主人思いで仲間思い。1度怒り出すと手が付けられない。
・背鰭に着いている棘は飛ばすことも出来る。それに触れた場合その部分は溶ける。
・溶岩龍は死んだ場合爆発する。その爆発はその場にあるものをほとんど破壊し、その爆発に巻き込まれ生き残った者はいないと言われている。
と言った内容だった。
「うん……まぁ、嘘だな」
真耶はそれを見てそう呟く。そして、直ぐに身構えた。なんせ、溶岩龍がこちらを見ていたからだ。
「フフフ、あなたはこの龍に勝てないわ。でもね、この子は私のペット。殺される訳には行かないの。だからね、あなたと同じことをするわ」
ヘファイストスはそう言って魔法陣を構成する。そして、その魔法陣を自分と龍に描いた。
「”融合”」
その刹那、ヘファイストスと溶岩龍の体が発光する。そして、その光はその場を埋めつくし、さらに爆音を鳴らした。
そして、音と光が止んだ時、真耶の目の前にいたドラゴンは消えていた。しかし、代わりにとてつもなく強化されたヘファイストスが立っていた。
「さぁ、やりましょ」
「ハッ!最終ラウンドか!面白いね!」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべる。しかし、その頬には1滴ほど汗が垂れていた。
アーサーとモルドレッドは遠くからそんな真耶を見て、目を合し頷く。
「真耶!援護は任せろ!」
アーサーはそう叫んだ。真耶はその声に対して合図を送ると、背中のリーゾニアスを抜き構える。
「絶対に負けないよ!だって俺は最強だから」
真耶はそう言って眼帯の下で目を青白く光らせた。
読んでいただきありがとうございます。