第223話 扉の向こう側
モルドレッドはアイティールの顔を見て少しだけ腹立たしく思った。そして、ふと昔のことを思い出す。それは、2年前とか2年前の話じゃない。ずっと昔……まだモルドレッドの中の魂が、モルドレッドの中に入る前の話。
この話をする前に説明するべきことがある。それは、モルドレッドの中には2つ魂があるということだ。1つはモルドレッドの魂。もう1つは天使の魂だ。これが真耶がモルドレッドをイザナミだと間違えた理由になる。
モルドレッドの中にある天使はごく普通の天使だった。ミカエルやウリエルのように名前が通っているわけでもない。奏と同じくただ天使だってだけだ。
しかし、奏と少し違うことがあるとすれば、この天使はイザナミと真耶に接触し、2人に恋をしていたと言うことだ。
これはずっと前の話になる。真耶とイザナミは2人で遊んでいた。そんな2人のところにある1人の天使が迷い込んできた。それがモルドレッドの中の天使だった。
━━……名前はリリア。おとなしめな性格で、前髪が完全に目を隠してしまっている。背が低い天使だった。
「誰?天使?」
真耶が聞く。
「あ、わ、あ……」
リリアは人とあまり上手く喋れなかったせいで、その時答えられなかった。
「……」
「一緒に遊びましょ」
イザナミは優しくリリアに言った。そして、真耶は無言で手を差し伸べてくる。その瞬間、リリアは真耶とイザナミに恋に落ちた。これが……悪夢の始まりだった。
━━……モルドレッドはハッと目覚めた。今の瞬間、まるで別のものに意識を奪われていたかのようだ。……いや、奪われていたのだ。自分の中のもう1つの魂に。
モルドレッド自身は気づいていた。自分の中にもう1つ魂が存在することを。しかし、それを認めることができなかった。なんせ、その魂は真耶への憎悪を常に向けていたから。もし人格を奪われでもしたら、すぐさま真耶を殺そうとすることが分かっていたから。
しかし、最近この魂は主張を激しくしてきていた。まるでモルドレッドの魂を喰らいつくす勢いだ。
そのせいでモルドレッドは自分が自分じゃないと思う日が増えてきていた。そして先程も、心と体は分離させられ体を奪われていた。
「……ねぇ?」
モルドレッドはアイティールに話しかける。
「にゃんだにゃ?」
アイティールは少し警戒しながら聞いた。
「……」
モルドレッドは無言になる。目元は見えないが、口が固く閉ざされてることは分かった。
「はにゃすにゃ」
アイティールはそう言った。
(さっきと雰囲気が変わったにゃ……。にゃにが起こってるにゃ?)
アイティールは構えながら頭の中でそんなことを考える。
そして、そんなこんなで沈黙が少しほど続いた。少なくとも、今2人がいる場所が別次元である可能性が高いうえ、この場所には風も吹かない。だから、沈黙は通常よりも際立ってしまう。
そんな時、ポツンっと音が聞こえた。そして、モルドレッドの足元に水滴が落ちている。雨なんか振るはずもないし天井は真っ暗闇。だから、アイティールはその水の出処がすぐに分かった。
「……」
「……」
「……殺して……!」
モルドレッドは泣きながらアイティールにそう懇願した。そして、スゥっと何かが抜けていき、モルドレッドの雰囲気がまた変わってしまった。
「死んで」
モルドレッドはそう言って攻撃をしかけてくる。アイティールはその変わりように少し驚くが、何となく理由がわかるから慌てはしない。すぐさまその場から走り出しモルドレッドへと近づこうとする。
しかし、モルドレッドはそれをさせない。再び扉を開いて光線をアイティールの少し前に瞬間移動させる。
「めんどいにゃ」
アイティールはそう言った。そして、胸の前に手を球体を持つような形で置き、ニヤリと笑う。
「”塵灰・天滅”」
アイティールの手のひらの間に白い光の球体ができた。それは、淡く光を放ちながら異様な雰囲気を醸し出す。
そして、アイティールはそれを光線に向けて投げ飛ばした。すると、それは光線とぶつかり光線を塵になるまで消していく。……いや、壊しているとあった方が適切だろう。
「っ!?」
球体は光線を消しながらそのまま扉すらも消してしまった。その異常な強さにモルドレッドは驚き呆然とする。
「残念にゃ。知らにゃいにゃんて。あなたが使う魔法は基本的に粒子が元となっているにゃ。素粒子、複合粒子、準粒子。だから、光線を構成する粒子を分離させ塵にしてしまえば消えるにゃ」
アイティールはニコニコ笑顔でそう説明する。そして、またあの小悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「自分のことくらい知るべきにゃ」
その瞬間モルドレッドの額にピキっと青筋がたつ。そして、怒りに任せて魔法をはなとうとした。その刹那、アイティールがモルドレッドの額を鷲掴みにした。そして、後ろに続く虚空の中に押し込もうとする。
モルドレッドは何かを感じて咄嗟に扉を開いた。当然モルドレッドにくっついているアイティールも扉の中に入る。そして、すぐに扉から出た。その先に広がっていたのはあの謎の空間に行く前の場所。
どうやら2人は戻ってきたらしい。そして、やはり先程いた場所が異空間だと分かる。アイティールはすぐにモルドレッドから離れて武器を構えた。
「……あなた本当に腹が立つわ。あなた、殺す前に拷問にかけたいわね。あなたの尊厳が奪われるような拷問にね」
「無理にゃ。それをしていいのは真耶だけにゃ。おみゃーにゃ無理にゃ!」
アイティールはそう言って指を指す。すると、モルドレッドはため息を着いて言った。
「じゃあ死ね」
そしてモルドレッドはアイティールに目掛けて強大なハドロン粒子砲を放つ。禍々しい色をしたその光線は真っ直ぐアイティールを狙って突き進んだ。
そして、モルドレッドは胸から血を吹き出した。
「っ!?……え!?」
モルドレッドは思わず声が出る。そして、胸に突き刺さった刀を見て涙が出てきた。
「なん……で……!?」
そんなこと聞くまでもないのに聞いてしまう。そして、背後にいるアイティールを睨みつけて何とか離れようとした。しかし、その前にアイティールによって顔に向かってかかと落としをされ鼻血を吹き出しながら地面に叩きつけられた。
「っ!?」
モルドレッドは声が出せなかった。そして、苦しげな顔でアイティールを睨みつける。しかし、アイティールはそんなこと気にせず追撃を放った。
その追撃のかかと落としはモルドレッドの腹に直撃した。そこにある臓器を押しつぶすのかと言わんばかりに腹に食い込む。モルドレッドは目を丸くして横を向き激しく嘔吐した。
「さてさて、にゃあは立ってるにゃんけど、もう終わりにゃ?」
アイティールは少しだけ勝ち誇った顔でそう言い放った。
読んで頂きありがとうございます。




