第220話 覚悟が無いんだ
真耶の体が淡い紫色の光に包まれ始めた。そして、光り輝く魔力がその場を飛び交う。
しかし、その時それは起こった。真耶の体にまとわりつく光が弾け飛ぶ。そのせいで、真耶の冥王状態は強制解除された。
「っ!?」
「……覚悟が決まらなかったか……」
「悪いね。かぐや姫だって、帰らない道を選びたかったはずだろ?」
「運命というのは変えられないものさ。道はもう決まっている。たとえどれだけ強い力で足掻こうとも、それは適応し必ずその道へと進み始める」
「決まらないものさ。最後までね。それに、道が決まってたら……人生楽しくないだろ?」
真耶は笑いながらそう言って再び冥導状態を発動する。
「またそれか。それは弱い。それは勝てない。お前は弱いままだ。覚悟無きお前は俺に勝てない」
「覚悟なんかない方が自由で楽だぜ」
「戯言を。”皇剣・天神絶”」
アーサーが剣を振り下ろした。その一撃は先程とは打って変わって禍々しいものとなっている。希望の王であったはずのアーサーが、今は絶望を与える黒い斬撃を放ってきているのだ。
「黒い刃……お前が……」
真耶はそんな光景に呆気を取られ手が動かなかった。向かってくる刃に対して反撃をすることが出来なかった。
そのせいで黒い刃は真耶の体を切断する。右腕を肩のあたりから切り裂いていく。真耶はその瞬間すらも動けなかったし痛がることすらも出来なかった。感覚が麻痺してる訳じゃないのに痛みは襲ってこないし、脳が死んでる訳じゃないのに現状を理解出来なかった。
「だから……お前は弱いんだ」
アーサーはエコーがかかったような、違う何かが喋っているような声でそう言った。真耶はその瞬間これまでの思い出が走馬灯のように走る。まるで自分の死を予感するように駆け巡る。
「……あ」
真耶は思わず声が出た。その時には既にアーサーの剣が胸を貫いていた。吹き出る血が当たりを赤く染め、真耶は目を見開く。その目には桜の花びらのような模様が浮かんでいた。しかし、それは少し不思議だった。その模様を細かく見ると枝のようなものがある。たくさん枝分かれした何かが集まり桜の花びらのようになっていた。
「なんだろ?」
真耶は言う。
「不思議な感覚」
真耶は言う。
「でも、悲しい」
真耶は手を伸ばした。それも右手を。無くなったはずの右手を伸ばしてアーサーの首を掴んでいた。
「っ!?」
真耶はそのままアーサーを地面に叩きつけた。右手で首を血管が浮き出るほどの力で握りしめ左手には波動を集め作り出した球体を持っている。
「”波動弾”」
真耶の攻撃がアーサーに直撃した。波動は瞬く間に巨大化し真耶の体を吹き飛ばす。真耶は空中で体制を整え着地しアーサーを見た。
アーサーはどうもしていなかった。体に着いた砂埃を払い除けると黒くなったその目で真耶を見る。
「戦う気になったか?」
「……」
真耶は答えない。いや、答えられない。今の行動も真耶自身の行いではないからだ。恐らく、自分の中の無意識の領域に足を踏み込んだからだ。死を直感した時の反射と同じだ。
真耶自身は動けなかった。脳はまだアーサーと戦うことを……いや、『今のアーサー』と戦うことを拒んでいた。
「……俺を殺す覚悟はとうの昔に決まってたんじゃなかったのか?」
「そのつもりだった」
「だが心は違ったと?」
「いや、それも違う。心も決まっていた。だけど……」
「無駄なことだ。言論で和解できるならとうの昔に世界は平和になっている。武力の無い世界が出来ているなら、俺達の存在意義はもう無い。だが、俺達には存在意義がある。この時点で言論による和解の道は絶たれている」
「少し前まではできたのにな。もう、話し合いで解決出来ない領域にお前が足を突っ込んだんだ……」
「……」
真耶の言葉にアーサーは黙り込む。それを見て真耶も黙り込んだ。そのせいでしばらくの間沈黙が続く。
「……その覚悟はあった。だから俺はこうしてお前の前に立っている。黒き身体に侵食されながらも、お前の前にいる」
「っ!?……俺には……」
「覚悟なきお前はもういい。死ね」
アーサーの言葉と共に真耶の首が切られた。そして、いつの間にかアーサーが真耶の後ろにいた。
ような気がした。
「そう。気がしただけなんだよな」
真耶がそう言うとアーサーが今見た後継と全くおなじ光景を繰り返してきた。真耶は右腕で剣を握りしめ振り下ろす。すると、甲高い金属音が鳴り響いた。
「っ!?良く見えたな」
「それは『今』のことか?それとも『これから』のことか?」
「『これから』だ!」
アーサーの言葉と共にもう一度攻撃が来る。真耶はそれを軽々と防いだ。そして、まるで何かを交わすように飛び上がる。そして、剣を振る。
すると、何かが弾かれた。それは、アーサーの追撃だった。
「やはり見えてるのか」
「見えてるんじゃないよ。見えたんだよ」
「どちらでもいい。見えたところで次の攻撃は躱せない。”皇剣・赤の剣”」
その瞬間真耶は何か嫌なものを感じた。何となく次の攻撃がヤバそうなのは予想できるが、やばいの一言で終わらせていいものじゃない。それを分からされるような気を感じた。
しかし、真耶は動けなかった。別に怖いとか恐ろしいとかではない。ただ、体が動いてくれなかったのだ。先程のアーサーの攻撃は防げたつもりでいた。しかし、攻撃を受けた時の衝撃のせいで体は痙攣を起こし、脳の信号を無視し始めてしまったのだ。こうなってしまえばもうどうしようもない。いくら手を動かそうとしても、言うことを聞かない。
「……」
真耶は力が入らない手に力を入れようと必死になる。しかし、やはり力は入らない。足は立つ力で精一杯だ。
そして、アーサーの赤い剣が振り下ろされた。その刹那、空間が赤く染め上げられる。1番簡単な例えでいくとしたら、テレビの画面が真っ赤になるみたいな感じだ。真耶の視界は赤に染め上げられた。
「っ!?」
だが、現実としてそんなのありえない話だ。空間が赤く染まるなんて聞いたこともない。だから、この状況で考えられること。それは、幻覚を見せられている、もしくは、真耶の目に血がたまった。この二択だ。
そして、真耶は倒れた。胸から大量の血を流し、目を赤く充血させ血の涙を流しながら静かに倒れ込んだのだった。
「終わり……だよ」
アーサーの言葉は何も無いところに飛ばされるように、小さく遠くにこだました。
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