第219話 覚悟を……
━━太陽のように輝く刃がアーサーを襲う。
「舐めるなよ!”王剣・深海魔”」
アーサーは負けじと技を繰り出した。2つの技は凄まじい勢いでぶつかり合う。そして、大爆発を引き起こした。
2人はその爆発で少しだけ離れた場所まで飛ばされる。2人の距離はまた一段と離れてしまった。
「……真耶。君はいつからか、我の前に現れその強さを見せつけた。君は我の影にいたと言うが、我は君の力という影の中にいたんだよ」
アーサーの言葉が真耶に届く。しかし、真耶にとってそのことは心を動かすものにはならなかった。真耶もアーサーも心の中に黒く渦巻く何かを持っている。そしてそれが、真耶とアーサーの中の何かをえぐるように成長しているから、二人の間の距離は大きくなって行ってしまうのかもしれない。
「……真耶、君にとっての我がどれだけ大切かは分からないけど、我からしてみれば君はただの邪魔ものだったんだ。モブはモブらしく、何もせず、ただ背景とどうかしてればいいのだ!”王剣・波動斬”」
アーサーの攻撃が真耶に向けて飛ばされた。真耶はそれを見て少しだけ胸のわだかまりが取れたような気がした。
━━一方その頃それぞれの戦場は、落ち着きを見せていたのだった。それぞれクロノス、オーディン、ロキの技を弾き返し膠着状態になるとこもあれば、戦いの終わりを迎えるところもあった。
そして、アテナ達のところでは……
「……ハァ……ハァ……」
アテナは方で呼吸をしながら目の前の砂煙の中に目を向けていた、先程のアテナの一撃でクロノスを吹き飛ばしてしまった可能性があるからだ。
そして、確実に勝ったと言うまで油断はできなかった。だから、こうして目を凝らしてクロノスの姿を捉えようとする。
「……っ!?」
その時、アテナはクロノスの姿を見て言葉を失った。なんと、クロノスは何事も無かったかのように立っていたのだ。確かに服の袖が切れているなどの腕が切り落とされたようなあとがあるが、それがクロノスにとっての致命傷ではなかった。
「……よくやったな。期待以上だ」
クロノスはそんなことを言いながら出てきた。そして、楽しそうに笑っている。アテナはその姿を見て深く絶望した。全身から一瞬で力が抜けていくのがわかる。そのせいか、恐怖もあって失禁してしまう。
「時間を操る俺が言うことでもないが、もう時間は無い。これを渡しておいてやる。使うかどうかは、真耶、お前が決めろ」
クロノスはそう言ってキューブのようなものを投げ渡してきた。アテナはそれを咄嗟に手を出し受け取る。そして、すぐに自分のどこか隠せそうなところに隠した。
そして、クロノスは振り返る。空と同時に突然人が現れた。それはルシファーだ。ルシファーは少し怒った表情でアテナ達の前に現れる。
「遅いぞ。なぜこんな雑魚相手に手間をとる?」
「馬鹿か?雑魚相手だからこそ、遊んでやるんだよ。俺が強いことを自覚するためにな」
「理解できん。雑魚どもは早く片付けろ」
ルシファーはそう言ってアテナ立ちに向かって人差し指をスっと横にスライドさせた。すると、アテナ、ルリータ、無為の胸……それも心臓辺りに亀裂が入りぱっくりと割れる。そして血が吹き出してくる。
「……耐えるんだな。まぁいい。どうせもう時期死ぬ」
ルシファーはそう言って指を指した。その指の先にはムラマサがいた。どうやらさっきの攻撃を耐えたらしい。しかし、次にくるルシファーの攻撃は防げなかった。バレないように少しだけ弾いたが右胸を深く貫かれる。そして、その場にいた者は意識を失った。
たった一瞬だったが、クロノスの笑みと、何かを伝えようとする手の動きだけがルシファー以外の全員に見えたのだった。
しかし、それかわかることはなかった。
━━再び場所は変わってクロエ達は……
クロエは消えゆく意識の中フィトリアがオーディンに支えられ、その腕の中で眠りについたのを見た。そして、すぐに目が覚める。すると、目の前にはオーディンが立っていた。そして、フィトリアがお姫様抱っこされている。
「っ!?ま、まさか!連れていくつもり!?」
「まさかな。時はもう満ちすぎたのかもしれない。俺ができるのはここまでだ。真耶にそう伝えておけ」
オーディンはそう言ってフィトリアをクロエの前に優しく置く。そして、座っているクロエと眠っているフィトリアの心臓の位置に向けてグングニルを突き刺した。
「っ!?」
そして、クロエの意識は無くなった。だが、その時、クロエは『死んだ気』はしなかった。
「……」
「まだこんなところにいたのか?」
オーディンの背後から声が聞こえる。しかし、オーディンは驚かない。
「ダメか?」
「あぁ。ダメだ。時間が惜しい」
「……フン」
オーディンは何も言わずに歩き始めた。ルシファーはそんなオーディンを見て少し笑うとクロエとフィトリアの首を切断してしまった。
「……」
「どうしたんだい?用心はしておくべきだろ?」
「……そうだな」
そして2人はどこかに向けて移動を始めた。
2人がいなくなって数分が経過したところで、地面の中からフィトリアを抱えたクロエがはいでてきた。
クロエはグングニルが突き刺さった場所にできた刻印を触り、オーディンが向かった先を見つめた。そして、ぎゅっと自分の胸を掴んだ。
━━……真耶は泣いていた。目の前の男を見て、ただ涙を流していた。
「……なんでそんなことを?」
真耶はくらい声でそう聞く。
「……本心だったから……かな」
アーサーの言葉が聞こえる。しかし、アーサーは右腕を切断され片膝を着いている。
あの瞬間、アーサーの攻撃が真耶に向けて飛ばされた。しかし、真耶はその攻撃ごとアーサーの右腕を切り落としたのだった。
そのせいなのか真耶の額に水滴がぽつりと当たる。真耶はその水滴を少し気にしながらもそのままアーサーを地面に叩きつけたのだった。
「……嘘は嫌いだ。我は王だからな」
「急にどうした?」
「分からないか?この場所がどこなのか」
アーサーの言葉にハッとする。そして、すぐに周りを見渡すとそこは王城の王の間だったのだ。どうやら2人は戦いながら移動し戻ってきてしまったらしい。恐らく爆風や波動の力でここまで無意識に移動していたのだろう。
「……嘘が嫌いなことと何の関係がある?」
真耶は微笑みながら聞く。
「昔と今は変わったんだ。俺もお前も……もうあの時とは違う」
「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、真耶の脳裏にあることが蘇る。それは、真耶とアーサーが出会った次の日のことだ。到達にアーサーが決闘を申し込んできた。その時真耶はアーサーが自分のことを毛嫌いしていることを知った。そして、接戦ながらも真耶が勝利を収めた。
そして、今のアーサーの言葉を頭の中で何度もリピートする。昔と今は違う。それは、昔は負けたが今は負ける気がしないと言うこと。そして、昔は純粋な自分の力で戦ったが、今はそういう訳じゃないということ……。
「真耶!俺からお前への最後の祝福……そして試練だ!お前は俺を超えていけ。そして……そして、心を殺して俺を殺せ」
アーサーはそう言ってサッと立ち上がる。そして、右肩にグサッと天使の羽を突き刺した。
そして、アーサーの姿が変わる。全身からとめどなく魔力が溢れだす。それは、見たことも感じたこともない不思議な魔力だ。
「お前……」
「真耶。これが俺の最後の力だ」
アーサーの声にエコーがかかり始めた。もう人ではないのだとその時理解する。そしてもう1つ。アーサーの体からバキバキと音がした。その音がする度にアーサーの体から鱗のように大きい結晶が剥がれ落ちていく。それはどす黒く、禍々しいものだった。
「”終焉を呼ぶ王”」
その言葉と共に放たれたオーラは体中にへばりつく結晶を全て壊し、周りの草木を枯れ果てさせた。
「……覚悟を……決めろ。俺がいなくなる……覚悟を」
アーサーの言葉が真耶の耳に届く。
「嫌だと言ったら?」
真耶はそう問いかけた。先程まで戦っていたのに、憎まれていたのに、何故か今2人は悲しみあっている。多分、アーサーが言ってた思いは嘘じゃない。嘘じゃないけど嘘なんだと思う。心の奥底で無意識にそう思っていたのを、頑張って気づいて否定し続けてたんだと思う。
アーサーは真耶の言葉を聞いて黙り込んだ。
「……実際俺の両親はお前の両親を殺した。多分、それは合ってると思う。正直俺は俺の過去を知らない。それに、お前の過去も知らない。それでも、お前は俺を憎まないのか?」
まるでさっきと言ってることが逆だ。それは真耶も分かっていた。だが、そう聞かずには居られなかった。
これまで旅をしてきて、真耶を信頼していたのだろうし、親友だとも思っていた。そして、心の奥底で憎んでいて、それを否定し続けてた。真耶はそれに気づいてアーサーの元を離れた。アーサーが真耶を見る度、その憎しみを膨らませているから真耶は逃げたのだ。
だからこそなのかもしれない。真耶にとって大切な親友だったアーサーが、真耶のことを親友だと思うために憎しみを消し続けてきた。それを知ったからそう聞いたのかもしれない。
「……もし本当に俺が覚悟を決めたくないと言ったらお前はどうする?俺を殺すか?」
「……」
アーサーは何も言わない。それもそのはず。2人の絆がどれほど強くても、かぐや姫が月に帰るのと同じように強力な力で絆はちぎられる。
いや、月に帰る程度ならまだマシかもしれない。真耶にとってそれを阻止するのは造作もないことだ。だが……ルシファーの力は全く別物だ。今もこうして二人の仲を引き裂こうとする。
「……覚悟を決めろ。俺はもう決めた」
アーサーの声が聞こえた。
「……」
「……嫌だと言うなら、その力で……常識さえも崩れさせるその力で何とかしてみろ。証明してみろ。その圧倒的な力で。俺がいなくならないと」
アーサーの声が真耶の脳に響く。その瞬間覚悟が決まった。
「……無理だね。覚悟が決まったよ。俺は弱く儚い存在だから、今この時だけは覚悟を決めるよ。”冥王状態”」
そして、2人の戦いは最終ラウンドを迎えた。
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