第21話 さらなる戦いへ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから真耶達はかなり歩いてスタットの街へと戻ってきた。そして、すぐに冒険者ギルドへと向かう。その道中気がついたのだが、ヘファイストスが攻めてきたと言うのは嘘っぽいということだ。もし仮に攻めてきたのであれば、こんなに街が綺麗なままヘファイストスが帰っていくことは無い。
だから、攻めて来たのではなく何かしらの悪知恵を教えに来たのだろう。迷惑なやつだ。
「真耶、君の体に異常は起きてないのか?」
「……さぁな、今のところは何もなっていない。感覚が無いわけでもないし、目も見える」
「じゃあ、普段気づきづらい場所ってことか」
「そうだな」
2人はそんな会話をしてギルドの前まで来る。そして、中に入った。すると、中の人達は皆ピリピリした雰囲気で忙しそうにしている。真耶達はそんな空気の中受付へと向かった。
「これ、達成したよ」
「っ!?な、なんで生きてるの!?」
「俺がこの世界のヤツらごときに殺られるとでも思ってたのか?」
真耶のその言葉を聞いて受付の人は言葉を失う。そして、すぐに真耶の冒険者ランクをあげる手続きをした。なんせ、下手に怒らせれば何をしでかすか分からないからな。
そして、テキパキとした動きで真耶は最高ランクであるSランクへと昇格した。
「こ、これでどんな依頼もこなせます……。お、遅くなって申し訳ございません」
「いや、別にいい。じゃあな」
真耶はそう言ってアーサー達と共にギルドの食堂へと向かった。そこに行けば色々のと料理が食べられる。依頼でかなり稼いだのだ。それに、腹も空いてきている。真耶達はこれからの戦いに備えて腹ごしらえをすることにした。
「今のうちに食っとけよ。ここで食わなかったら俺が作り出したものを食わなくちゃ行けなくなるぜ」
「それは……やだ」
「嫌だよ」
2人ともそう言ってそそくさと椅子に座る。真耶はそんな2人に呆れながら椅子に座り注文した。それから少しして料理が配られてくる。
「はいこれ。さっさと食って出ていってよね」
「そんなこと言っていいのか?」
「ひぃっ!す、すみません!」
真耶のたった一言で、料理を配りに来た人は怯えきってしまった。いちいち面倒くさいが、また何か言ってもどうせ怯えるだけだろう。
真耶は少し目を閉じると、気にせず料理を食べることにした。しかし、その時真耶は自分の体の異変に気づく。
「っ!?嘘だろ!?」
真耶はそんなことを言いながら机を叩きつける。そして、下を向き体を振るえさせた。
「おい、どうした?」
「……いや、まさかこれが無くなるとは思わなくてな」
「何があったんだ?」
「……味覚が無くなった」
「「「っ!?」」」
真耶の言葉を聞いて2人は言葉を失った。なんせ、この料理は味がしないなんてことは無い。どちらかと言うと味が濃い方だと2人は思っている。それにもかかわらず、真耶は味がしないと言った。それは異常な事だ。
「……まぁ、特に支障はないな」
「そうか?美味いものが食えなくなるんだぞ」
「考えてみろよ。俺、嫌いな食べ物めちゃくちゃあるぞ。味がしない方が安全に食えるだろ。それに、本当に美味いものは味がしなくても美味い。モルドレッドの料理みたいにな」
真耶はそう言ってその皿に乗ってあったナスを箸でつまんで持ち上げた。
「このナスだって、食えるんだぜ」
「……いや、やめとけ」
「なんでだよ?普段食えないものが食えるうになるのは、体の栄養を取る点でもかなりのアドバンテージじゃないか」
真耶はそう言ってナスを口にした。その瞬間、真耶の中で何かが死んだ。
「……」
真耶はナスを口に入れた瞬間に気絶する。そして、そのまま椅子から転げ落ちてぐったりしてしまった。
ちょうどその時に帰ってきたルーナは、突然倒れた真耶を見て急いで真耶に駆け寄る。
「ちょっと!なにがあったの!?」
「いや、まあちょっとな」
アーサーは少し呆れたような口振りで言う。そして、少し考えた後に魔法を使う。
「”サイコキネシス”」
アーサーはそう言うと、真耶の口からナスを取り出した。しかし、アーサーは全く手を使っていない。どうやら物体を動かせる魔法を使ったみたいだ。
そして、アーサーはその魔法でナスを取り出した。すると、真耶が体を起こす。
「どうだった?」
「無理だな。味覚がなくなってもナスは無理だ」
「だろうな。そんな気がした」
アーサーはそう言って真耶に手を差し伸べる。真耶はその手を掴むと、立ち上がった。そして、服に着いた汚れをはらいのける。
真耶は自分の体に他に異常がないか確認すると、何も異常がなかったのかそのまま椅子に座った。
「あんた達……何してたのよ」
「飯を食ってただけだ」
「飯食っててそんなことにならないわよ!」
ルーナは的確なツッコミを入れてくる。しかし、真耶はそんなことは気にせずお茶を飲み、皿の上に乗っけてあったナスをアーサーの皿の上へと移動させた。
そして、そそくさと料理を食べ終えると、依頼を受注しに行く。アーサーとモルドレッドはそんな真耶を見ながら優雅にご飯の続きを食べだした。
「あなた達自由ね」
「そうでなきゃ我らはここまで生きて来れてない」
「へぇ、そう……」
ルーナはアーサーの言葉を聞いてそんな相槌をうった。そして、すぐに真耶を見る。どうやらまた何か受付の人と揉めているらしい。ルーナは慌てて近寄る。そして、真耶の受けようとしている依頼を見た。
「っ!?これって……!」
「あ、ルーナさん。この人がこの依頼を受けたいと言ってるんですけど、これってこの街の最難関ですよね?さっきから止めてるのですけど、どうしても聞かなくて」
「なんでもいいから早く受けさせろ」
「受けさせろって……これ、まだ誰も達成出来てないのよ。Sランク冒険者が皆諦めたやつで、到底達成出来る内容じゃないわ」
ルーナはそう言って依頼に書かれている内容を指さした。そこに書かれてあるのはこんな内容だ。
【獄炎龍を討伐せよ】
・獄炎渓谷に住む獄炎龍を討伐せよ。報酬は幻のアイテムである炎王石。
・期間は無制限
といったものだ。これだけを見ると、特に変わったものは無い。ただ、とてつもなく難しいと言うだけだ。
だが、ある1つのことを知っておくだけで、この依頼のおかしなところが全てわかる。まず、炎王石の持ち主はヘファイストスだ。そして、獄炎龍はヘファイストスのペットだ。
さらに言うなら、炎王石はアーティファクトであり、ヘファイストスが作る武器には全て含まれている。
ここからわかる通り、この依頼は全てヘファイストスが関わっているのだ。だから、この依頼を受ければヘファイストスと接触することが出来るかもしれない。
「あなた……いくら強いとはいってもね、これは実質不可能なのよ。人間が龍に勝てるはずがないの」
「いいや、勝てるさ。勝とうとしてないだけだ。戦う前から諦めて、戦わずして死んでいるだけだ」
ルーナの言葉に真耶は速攻で返す。そして、静かに目を瞑り、そして開いた。その目は黄色い光を放っており、何か神々しさを感じる。
「……やはりな。どうやらこれは、俺が受けるべきものらしい。早く受注させてくれ」
「で、ですが……」
「良いわ。でも、失敗しても知らないわよ」
「……俺が失敗するとでも思ってるのか?」
真耶は不敵な笑みを浮かべてそう言う。すると、ルーナは何故か衝撃が頭に走ったような気がした。そして、ぼんやりとだけ記憶を甦らせる。それは、ある男の顔だ。はっきりとまでは覚えてないが、何故か脳裏に焼き付いて離れない。
「っ!?」
「ほら、早くしてくれ。急がないと世界が救えないだろ」
真耶のその言葉を受けて、ルーナは急いでその依頼を受注させる。隣で受付の女性が驚いているが、そんなことを気にすることも無く受注する。
「……あなたが何者かは知らないけど、絶対に生きて帰ってきなさいよ」
「はっ!さっき俺を殺しに来たやつが何を言う?まぁ、俺が死ぬわけねぇけどさ」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべたままアーサーたちの元へと戻った。そして、3人はその依頼で指定された場所に向けて歩き出した。
「……良かったんですか?」
「分からないわ。でも、やるって言ってるんだから。やらせてあげましょう。それに、何故かあの人に見覚えがあるの。理由は分からないけど……」
ルーナは少し寂しそうな声でそう言った。そして、さっきまでアーサー達がいた席を見に行く。そこには、綺麗に食べ終えてある食器が置いてあった。
「……この橋……」
ルーナは机の上に置いてあった橋を手に取る。初めて見るものなのに、何故か見覚えがある。誰かが使っていたような気がする。しかし、思い出せない。
ルーナは、少しの不安を覚えたが、すぐに食器を片付け自分の仕事に取り掛かった。
そして、真耶達は……
3人はかなり急いで目的地へと向かっていた。その道中、アーサーは真耶に対してある質問をする。
「真耶、お前はヘファイストスを倒す算段があるのか?」
「どういうことだ?」
「しらばっくれるな。もう分かっている」
アーサーは真耶に向かってそう言った。すると、真耶は少し考えた後言ってくる。
「あるよ。闇堕ちの騎士との戦いでだいたい理解はしたからね。既に作戦は考えてある」
「わかったこと?何なんだ?説明してくれ」
「分かった。まず1つ目は、俺の体は魔力が無くなった状態で魔法を放つと体に異常が現れるという事だ。例えば、目が見えなくなるとか、味覚が無くなるとかな。実際いま起こっているのも、そのせいだ。2つ目は、憑依系統の魔法を使った場合、自分の魔力を使わなければかなりの間魔法を放てるという事。前みたいにクロエとシンクロすれば無限に戦える。最後は、大気中の魔力を使えばどんなに魔法を放っても大丈夫だということ。やはり、自分の魔力を使わなければ良いみたいだ」
アーサーはその言葉を聞いて少し話を整理する。どうやら真耶は魔力を使うと枯渇してしまい、そのせいで体に異常をきたすようだ。だが、大気中の魔力や、他者の魔力など自分の魔力を使用しなければ無限に魔法が放てる。
こういうことだ。
「なるほどな。じゃあ、それを見越して策を練ってあるんだな?」
「まぁな」
アーサーは真耶のその言葉を聞いてモルドレッドと合図をする。すると、モルドレッドも理解したようで、頷いて答えてきた。
「真耶……」
「分かっている。援護は任せたよ」
真耶はそう言ってそのスピードを保ちながら目的に急いだ。
━━それから30分……
真耶達はずっとトップスピードで来たからか、かなり早く目的地に到着する。3人は目的地に到着すると、すぐに目の前の渓谷を見つめる。
そこには龍はいなかった。それどころか、何も無い。まるで地獄の炎のように燃え盛る火炎が上がっており、そこは本当に地獄のようだった。
「……ここに龍がいるのか?」
「いや、龍は居ないな。だが、本当の敵はいるみたいだな」
真耶はそう言って渓谷を見下ろす。すると、そこにはある1人の女性がいた。その女性は露出度の高い服を着ており、パンツなんて履いてないのと同じ。ちょうどお尻の部分にハート型の穴が空いており、実質ノーパンノーブラ。ほぼ全裸の女性がこっちを見ていた。
「フフフ、やっと会えたな。前は戦闘服じゃなかったけど、今回は戦闘服なんだな」
真耶はそう言って渓谷を降りていく。そして、その女性の目の前に立った。
「やっと会えたわね。待ってたわ」
女性がそう言って来た。
「悪いな。俺も暇じゃないんでね。さっさと始めようよ。なぁ、ヘファイストス」
真耶はそう言ってヘファイストスに向かって剣を突きつけた。ヘファイストスと呼ばれた女性はそれを見て奇妙な笑みを浮かべると、どこからか剣を取り出し構えた。
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