第215話 苦悶
たった一瞬でオーディンは移動した。しかも、その場にいた者を切りながら。
だが、それは皆できることだ。大抵の人がそれを成している。しかし、オーディンは少し違った。なんと、本来持っているはずの無い技を使ったのだ。クロエはそのことに驚き言葉を失った。
「なんであなたが……?」
「理由などどうでもいい」
「どうでも良くないわ!その技は……」
「真耶の技だ」
「っ!?」
ハッキリと言われたその言葉にクロエは言葉を失う。そして、苦しくなる胸を抑えながら少しだけ呼吸を荒くした。
「俺がどんな技を使おうがどうでもいいことだ。それよりも、俺は龍神族のお前が立っていることは予想してたんだがな。まさか魔王軍のお前まで立っているとは」
オーディンはそう言った。その目線の先にはフィトリアがフラフラではあるが立っていた。既に死獄纏は解かれているが、まだその目にはなにか宿っている。その血まみれの手には機械のような剣が握りしめられていた。
「……魂の形を理解してるんだな。まさか真耶やそこの龍神族の女以外にもいたとはな……。まさか真耶が……?だとすれば、イザナミも自分の魂の形を理解していることになる。それは少しだけマズイな」
オーディンは小さくブツブツと呟いている。その声は、フラフラのフィトリアには愚かピンピンしているクロエにも聞こえなかった。そして、オーディンは少しだけ殺気を強くしてフィトリアに聞く。
「何故今の攻撃を防げた?まぐれではないのは分かっている」
「何故って……?実験……したからよ……」
「実験?なんのだ?」
「……見ればわかるわ」
フィトリアがそう言い終わる頃にはもう既にそれは攻撃をしかけていた。目にも止まらぬ速さでオーディンとの距離を詰め攻撃をしている。
「これは……!?」
オーディンはその手に握る魔剣グラムでその攻撃を防いだ。そして、そこにあるものを見て言葉を失う。なんと、そこにあったのは人形だった。
「人形……!?まさか……」
「そのまさかよ!」
フィトリアはそう言って攻撃を仕掛ける。
「人形に人の魂を込めたか。酷いことするな。何人殺した?」
オーディンはそう言って攻撃を軽々しく躱す。そして、全ての攻撃を完璧に捌き無力化する。
「……!」
「ははは!流石は魔王の配下だ!何人殺したかも覚えてないか!この魂の器……相当大きいぞ!」
オーディンはそう言って笑う。
「なんだよ。お前もそういう奴だったってことかよ。……真耶も俺もそういう人体実験は大嫌いなんだよ。悪いがお仕置だ。少しだけ本気を出してやる」
オーディンはそう言ってグングニルを出現させた。クロエは慌てて二人の間に入り込む。そして、翼を広げて両手に魔力を溜めた。
「ごちゃごちゃうるさいわ!」
「そうか、なら耳を聞こえなくさせてやる」
オーディンはそう言って何かを投げてきた。それは、無防備なクロエの顔の前まですごい速さで飛んでいく。そして、それは文字通り目の前で白い閃光を上げ爆発した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
それは閃光弾だった。閃光弾はクロエの目の前で爆発しクロエの視界を奪う。そして、オーディンはすかさず両耳の横に何かを投げた。
これもクロエは避けられない。クロエが防御をする前に爆発をする。そのせいでクロエは両耳の鼓膜を破られ耳すら聞こえなくさせられてしまう。
「あがぁっ!?」
クロエは思わず倒れてしまった。耳をやられたことにより三半規管に狂いが生じる。そのせいでたっているのも難しくなったのだ。
「魂の人体実験……君みたいな人が……君みたいなクソが、破滅を呼び寄せるんだ!そうやって後先考えずに人体実験するサイコ野郎が、俺達の……!俺達の……!」
オーディンは人が変わったようにフィトリアに怒る。そして、何かをこらえるように手を握りしめ、何かをこらえるように下を向く。そして、ゆっくりとフィトリアを見て言った。
「アイツもその産物みたいなものだしな。悪い子にはお仕置をしてやるよ。キツイお仕置をな」
オーディンはそう言ってグングニルを4つ出した。そして、その4つのグングニルが人型の山羊に変わる。その山羊達はフィトリアの両手両足をがっちりと掴んだ。
「どうやったら殺せるんだろうな」
そう言ってグラムを向ける。その剣先はフィトリアの胸を向いていた。オーディンはゆっくりとグラムを近づけた。恐怖心を煽るようにゆっくりと。
フィトリアは何とかして逃げようともがく。しかし、がっちりと掴まれ動けない。逃げ出すことは不可能だ。
「この……!人体実験なんてね……必要なかったって妾も思っておるのじゃ!あの時……あの時妾も違う道を探せばよかったって思っておるのじゃ!だからこの人形を封印した!」
「だったらなぜこの人形を壊さない!?お前は頭の中で少なからずこう思っている!『人体実験した妾は最低じゃ。でも、強い力は手に入ったから良かった』とな!だからこうしてその成果とも言える人形を残している!嫌な過去を封印して、都合のいい時だけ使ってただ聞こえのいい言い訳を並び立てている!お前は姑息で卑怯で最低な女なんだよ!」
「うぅ……!」
フィトリアは何も言い返せなかった。なんせ、全て図星だったからだ。今も尚こうしてその成果にすがりついている。強いから壊さず残してしまっている。フィトリアはそのことに何も言い返せなくなる。
「お前は人体実験した時本人になんて言った?土下座したのか?それとも犯罪を犯したやつだから当然だと決めつけたか?それとも、非情になって無言でやったか?なんにせよお前は命を軽く見ている」
「そ、それは……」
フィトリアは何も言えない。ただ、目の前にある人体実験の結果を見て胸を痛ませるだけだ。しかし、なんと言っても悪いのは自分。そんな考えで頭の中が埋め尽くされる。
「……」
オーディンはその時なにか言おうとした。しかし、それをやめて剣を右胸に突き刺す。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なんにせよお前らは無力化しろって言われてるからな。悪いがこのまま気絶してもらう。刺したのは人体実験した罰だ」
オーディンはそう言ってグラムを抜いた。フィトリアは魔剣グラムで刺された部分を手で抑えようとした。しかし、掴まれていて何も出来ない。
そのせいで痛みが激しく感じる。それに、なぜだか普通の剣で刺されるより痛く感じた。
「苦しませるのは嫌いだが、罰だと思え」
オーディンの言葉が聞こえる。そして、だんだん意識が遠のいていく。暗くなる視界を何とか明るくしようとするが難しい。フィトリアは意識を持っていかれそうになる。
「……クロエ……?」
その瞬間、クロエの姿が目に映った。涙を流しながらフィトリアに手の平を向けている。
「”魂回復魔法・スピリッツヒール”」
クロエから白く光るなにかが飛ばされる。それはフィトリアの体に当たると不思議な感覚になった。
「何!?魂回復魔法だと!?なぜ貴様が使える?」
「なんでかしらね?」
「貴様……自分の魂の形を知っている……いや、見たことがあるな?」
「自分のは無いわよ。人の……それも魂に干渉する魔法を使う人の魂の形なら見たことあるけど」
「っ!?なるほどな。魂関連の魔法を覚えさせるなら、1度殺して使ったことあるやつの中に入れるのが効率がいいってことか。学びを得たな」
オーディンはそう言ってグラムを強く握りしめる。クロエはそんなオーディンを警戒しながらフィトリアの拘束を解いた。すると、グングニルが薄くなり消える。
「そんなに警戒しなくても、私は見もしないで攻撃なんかできないわ」
「そういうお前も俺のことをかなり警戒しているな」
「あれだけ増えるグングニルを見せられたら、奇襲を考えるのは普通でしょ?」
クロエはそう言って全身に竜の鱗を纏う。
「最終ラウンドよ。次で決める」
クロエはそう言って魔力を全身に纏った。
読んで頂きありがとうございます。




