第214話 魔剣グラム
辺り一面が闇に覆われる。そして、巨大な音が鳴り響き地面が揺れる。それは、まるで巨大なものが落ちてきたような音と衝撃だった。
そして、実際に巨大なものは落ちてきたのだ。かなり広いこの空間を完璧に埋め尽くすような巨大な花びらが落ちてきてフィトリア達を押し潰してしまった。
しかし、オーディンはまだ止まらない。笑みを浮かべて手を掲げる。
「この技の本当の力はここじゃない。花びらなど前座に過ぎん。『神樹』の力を思い知れ」
オーディンがそういうと、神樹の花の中から光が溢れ出てくる。それは、いきなり天高く登って行ったかと思うと、すぐに地面に降ってきた。巨大で大量の光の雨がフィトリア達を襲ったのだ。
「……花びらごときで死んでは無いだろ?」
オーディンはそう言って笑う。すると、花びらを切り開いて出てくる人達がいた。それはフィトリア達だった。フィトリア達は出てくるなり降ってくる光の雨を見て完全に心を折られる。
やっとの思い出耐え抜いた後に、こんな耐えることができないような技が来たのだ。その反応は誰だって普通のことだろう。
「う……そ……!?」
フィトリアは膝から崩れ落ち、額を地面に叩きつける。そして、一見土下座のような格好になりながら泣いた。
「無理……無理ぃ!こんなの無理ぃ!」
顔を隠すようにフィトリアは腕を回して、赤子が駄々をこねるように泣き叫ぶ。
「……こればかりは……」
「なんで……!?方舟が……効かないなんて……!」
3人はそれぞれ何かを言う。しかし、クロエだけは違った。何故かボーッとしている。そして、目は虚ろだった。
「……」
「この記憶はあなたが?」
「……さぁな」
「……”龍蒼天舞・刃”」
クロエは手を空に掲げる。すると、クロエの手から巨大な刃がいくつも出てきた。それは、落ちてくる花びらや光の雨をいとも簡単に切り裂いてしまう。
「っ!?」
オーディンはそれを見て少しだけ慌てる。しかし、冷静にグングニルで防いだ。
「目は虚ろのままか。いや、何かを掴んだか?」
オーディンはそう呟く。そして、クロエの目を見た。クロエはまだ虚ろな目でオーディンを見ている。
「俺の役目はそろそろ終わりか。なら……」
オーディンはニヤリと笑って4人の前におりてきた。そして、グングニルを一つだけにまとめる。
「そろそろ終わらせる。”天威無双”」
オーディンがそう言った瞬間、オーディンの体に再び黒い禍々しい魔力がまとわりつく。
「「「っ!?」」」
「嘘っ!?」
「やはりか。少ししか見えなかったからまさかとは思ったが、やはり手を抜いていたか」
「お前らかま弱すぎたからな」
オーディンはそう言って禍々しい力をコントロールする。しかし、何故か少しだけ動きが鈍い。
「……まだまだか……」
オーディンは少しだけ目を瞑ると、魔法陣を描いた。そして、魔法陣から剣を抜く。
「魔剣グラムだ。俺の剣。まだ……ね」
オーディンはそう言って笑った。その目はどこか優しい雰囲気を感じた。この瞬間、フィトリアは不意に視線を感じた。そして、それがすぐにオーディンのものだと理解する。その目はどこか優しいものがあり、どうしてなのか次にくる攻撃は耐えることができるような気がした。そして、それと同時に耐えなければならない。そんな気がした。
オーディンは少しだけ隙を見せた。すかさずアレスと奏がそれを狙う。しかし、グングニルは隙を見せていなかった。全ての攻撃をグングニルが弾く。
「……」
オーディンは大量の火花が散る光景を見てあの時のことを鮮明に思い出す。それは、4人で遊んだ記憶。誰かに記憶の中を見られている可能性を考えて、完璧には思い出さないようにしてある。顔は見えないし声も違って聞こえるが、子供の時4人で遊んだ記憶をオーディンは思い出す。
「終わりの時間だ。”冥剣……」
「「「っ!?」」」
オーディンの口から放たれた言葉を聞いてその場の全員が固まった。そして、咄嗟に全員逃げ出そうとする。しかし、フィトリアだけが動かなかった。なぜか、耐え切る気がして動かなかった。
フィトリアはオーディンが動き出すコンマ何秒か前に違う剣を抜き前に構える。オーディンが動き出したのは構えて1秒もしなかったため、フィトリアが構える速度は相当速い。
そして、ほとんどの人が何も出来ないような速さでオーディンが攻撃をした。
「……冥界斬り”」
冥界の力を帯びた剣が4人を襲った。その力はとてつもなく強く、離れている人にまでその力が伝わる。
真耶は突如として感じ取った冥界の魔力に疑問を持ち後ろを見た。その方向にはクロエ達がいる。
「この力は……」
真耶はその時あることを思い出した。別に忘れてたという訳では無い。ただ、その時のことが鮮明に頭の中によぎってきたのだ。
「……オーディン、お前まだ……」
そんなことを真耶は呟く。そして、目の前のアーサーを一瞥すると、誰にも聞こえない声で小さく言った。
「死ぬなよ」
その声は、強い風に乗ってクロエ達の元まで届いたような気がした。




