第213話 花が咲く
「ムチは使わないのか?」
オーディンは聞いた。そして、フィトリアが手に握るものを指さす。そこにはムチではなく剣が握りしめられていた。それも、ムチのようにしなっている剣だ。
「あら、分かりましたの?」
「やっとまともに戦えるわけか」
「まともって……あなたはこれから防戦一方になるのよ?」
クロエはそう言って走り出した。そして、オーディン2連続で攻撃を仕掛ける。しかし、それはグングニルに弾かれる。
クロエはそのすぐ後に追撃を繰り出した。しかし、それもすぐに弾かれる。
フィトリアはその間に攻撃を入れてきた。長くしなる特徴を活かして遠くから正確にオーディンの首を狙って斬りかかってきた。オーディンはそれもグングニルで弾く。
やはり、7本のグングニルはどうしても防御が厚い。2人はこの壁に阻まれ手も足も出ない状況となる。
そんな時、唐突にどこからか攻撃が飛んできた。その先を見ると、そこにはカッパが居る。その姿は先程とは違い、禍々しい姿のなっていた。
(召喚した者に呼応して使役した魔物も姿を変えるのか。魔力量も質も全て変わっている)
「しかし、それでは何も変わらん」
オーディンはグングニルを飛ばしてくる。フィトリアはそれを全て綺麗に弾いた。そして、グングニルの動きを封じた瞬間に3匹の魔獣が攻撃を仕掛ける。
しかし、それすら当たらない。オーディンはさらに2つグングニルを増やして攻撃を防ぐ。そして、さらにもう1つグングニルを増やして攻撃してきた。
「10個目!?」
クロエは驚きながらもグングニルを弾き落とす。そして、口元に手を当てて息を吹いた。すると、口から大量の炎が吐き出される。
「”ドラゴン・ブレス”」
クロエの魔法がその場を炎で埋め尽くす。周りにあった木々は燃焼し炎が広がる。そのせいで逆に周りが見えなくなってしまった。
「……っ!?」
それはオーディンにとって好機だった。グングニルを8本2人に向かって飛ばしてくる。残りの2本は防御用なのか、それとも単に舐めているのか、それは分からないが8本で攻撃してくる。
しかし、それが防げない二人ではない。難なく全て弾き返し反撃に出た。それに合わせて魔獣も動き出す。
そんな時だった。突然オーディンの背後から強い魔力が飛んでくる。それは、凄まじい速さでまっすぐオーディンだけを狙う。
「来たか」
オーディンのその言葉と共にその何かはオーディンにぶつかった。しかし、残りの2本で防がれる。そして、防がれたせいで威力を失った何かの正体が見えてきた。なんと、それはアレスと奏だった。
「2人とも!」
「悪いわね!遅くなったわ!」
奏は笑顔でそう言う。そして、すぐにオーディンを見た。アレスは何も言わずに武器を構える。
「やっと揃ったか。遅いな」
「黙れ。全て俺の勝手だ」
「そうか。だとしたら、君達がそうそうに退場するのは俺の勝手か。”グングニル・第4形態・羅針”」
オーディンはすぐに1本だけグングニルを変形させる。すると、3つの小さな槍のような形になり、背中に浮かびだした。
クロエはそれを見るなり即座に魔法を発動する。
「”神竜武装・天凱魔”」
クロエ達に強い防御魔法がかけられた。そして、それと同時にアレスがオーディンに向かって突っ込む。オーディンはそんなアレスを見ながらニヤリと笑った。
そして、その刹那、時は止まる。オーディンとグングニル以外の時は完璧に止まりクロエ達は一切動けなくなった。
「っ!?」
(時間が……止まった……!?)
クロエは心の中でそう呟いた。そして、この状況についていけなくなる。しかし、他の3人は違った。先程の状況とほとんど同じなせいか、動揺はしない。そして、オーディンが攻撃をするのを待つ。
(妾の考えが正しければ、きっと攻撃は躱せる。今の妾なら容易いことですわ)
フィトリアは心の中でそう呟いた。そして、オーディンの背中の槍を見た。それは、先程とは違い少し早いスピードで消えていく。そして、量は3つと少ない。
そして、オーディンの背中の槍が1つ、また1つと消える。最後の1つが消えそうになる瞬間、クロエ達の考えはまとまらなくなった。
(なんで!?なんで何もしてこないの!?さっきより時間がないから……?でも、あの時は結構時間を余らせてた……)
フィトリアは慌てて思考をまとめられない。そして、時を止められているにもかかわらず、顔に出ているのではと思えるほど内心を焦らせた。
「……終わりだな」
オーディンのその言葉が全員に聞こえた瞬間、時間は動き出した。アレスは一気にオーディンを殺すべく攻撃を発動する。奏もフィトリアも魔法を発動する。
しかし、クロエだけは動けなかった。まるで、なにか嫌な予感が見えているのかと言えるほどに動向を開いて怯える。
「……少し性能の差を見せてやるよ。”ユグドラシル・第9形態・ユグドラシル”」
その瞬間、アレスとオーディンの間に巨大な気が咲いた。
「す、すごい……」
クロエは思わずそうつぶやく。二人の間に咲いた花は、奏とフィトリアが放った魔法も消し去り、オーディンの体を完全に覆い隠してしまった。アレスはそのせいでオーディンに攻撃ができなくなる。
「まだだ。”天帝輪廻……」
オーディンの声が聞こえる。フィトリアはすぐに何とかしようと魔法の準備をした。しかし、オーディンの魔法はあまりにも早すぎたため準備できない。フィトリアと奏とアレスが魔法を発動しようとする前にユグドラシルが花を咲かせる。
クロエはその様子を見て動けなくなった。そして、これまで経験したことがない記憶が一気に頭の中に流れ込んでくる。
「っ!?何……これ……!?」
クロエは何も出来なくなった。そして、流れ込む記憶に脳を破壊されそうになる。何とかそれに耐えようとするが、あまりにも気張りすぎたせいかヨダレが垂れていることや、思わず失禁していることにも気が付かない。
「クロエ!逃げるわよ!」
フィトリアの声が聞こえる。しかし、それは言葉として認識されない。頭が何かを理解することに対して拒絶反応を示す。
「終わりだ。”……生命の神樹・開花”」
その瞬間、その空間は光に包まれる。そして、舞い落ちる花びらがその場にいる者を押し潰そうとする。
「気をつけて!」
フィトリアの声が聞こえる。しかし、誰も何も出来なかった。そういったフィトリアでさえ、この攻撃を防げる自信などなかった。ただ、誰か何とかできないか。そんな願いにも近い気持ちでそういっただけだったのだ。
「神樹の花が開く時だ」
オーディンの声が聞こえる。しかし、上を見あげれば巨大な花びらが落ちてきているせいで絶望しか感じない。フィトリアは涙を流しながら考えることをやめた。そして、絶望という闇に自ら飛び込んだ。
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