第211話 増え続けるグングニル
「……貴方のグングニル、2つあるのかしら?」
「果たしてどうかな。目で見たものが真実ではない」
「……あら、何かしら。まるで妾にヒントを出してるようじゃの」
フィトリアはそう言ってムチを握りしめる。そして、炎の魔獣を少し後退させ、風の魔獣、雷の魔獣を少し前進させた。
「ヒント?バカバカしい。そんなものがないと分からないほど馬鹿なのか?」
オーディンは笑い飛ばしてそう言った。しかし、フィトリアは冷静さを欠かない。冷静にことは間を選び、オーディンの能力を探る。
「なんとでも言っていいのじゃ。妾にとって言葉なんてどうでもいい」
「違うな。言葉が大切なんだろ?だからこうして言葉を慎重に選んで探りを入れている」
オーディンはそう言って笑う。どうやらフィトリアの考えはバレているらしい。フィトリアは少しだけ胸をドキッとさせるが、顔には出さない。
「……はぁ、もう妾の考えは全てバレておろう。いいのじゃ。オーディン!貴方が使うグングニルは分裂してるのじゃろ?だから魔力が半減している」
フィトリアは冷や汗を垂らしながらそう言う。正直なところ、確証が何もないためただかまをかけているようなものに過ぎない。
「正解。やっとわかったんだ。まぁ、だけどちょっと間違えてるかな」
オーディンはそう言ってグングニルを飛ばしてくる。フィトリアはそれを鞭で絡め取り魔獣に命令を下す。
「”総攻撃よ”」
その言葉と共に魔獣達がオーディンに向かって攻撃をし始めた。1匹は殴り掛かり、残りの2匹は魔法を使う。そうしてオーディンを倒そうとする。
「っ!?」
そんな時突如としてグングニルが空から降ってきた。そして、一緒になってクロエが降ってくる。身体中に少し傷があるが、死ぬほどでは無い。
「クロエ!無事!?」
「どう見ても部じゃないじゃん!私……もうダメ……アハァン♡」
「無事みたいね。黙ってて貰える?」
「ごめんなさい。次はふざけません」
クロエは怒ったフィトリアに全力で謝罪をしてすぐにオーディンを見る。すると、オーディンのグングニルが2つになっていることに気がついた。
「2つ?やっぱり分裂してるのね」
「えぇ、でも少し違うみたいよ」
「へぇ、だったらどう違うか確かめてみしょ」
クロエはそう言って魔力を口に溜める。すると、オーディンもフィトリアもその大量の魔力にすぐ気が付き後退した。魔獣達は慌てて姿を消し、被害を受けないようにする。
「一気に焼き尽くすわ。”龍の吐息”」
クロエの口から凄まじい勢いの火炎が吐き出された。妖艶な唇から出たとは思えない業火は容赦なくオーディンを襲う。
「……っ!?」
しかし、オーディンは無傷だ。グングニルを植物に変えて自分を覆い隠し防いだらしい。
「”グングニル・第9形態・ユグドラシル”」
オーディンはグングニルをユグドラシルに変化させるとその木の根で攻撃をしてきた。遥か上空から振り下ろされる巨大な木の根は2人に恐怖を与える。
「”来て”!」
フィトリアはそう叫ぶ。すると、突如としてユグドラシルの根が切り裂かれた。
「っ!?」
2人の頭の上を切り裂かれた木の根が通り過ぎていく。そして、地面に落ちるなり地面が壊れた。
「ありがとう!カッパくん!」
フィトリアはそう言って目をキラキラさせる。
「か、カッパ?」
「カッパ?」
唐突なカッパにクロエもオーディンも驚き思考を停止させた。そして、一瞬の沈黙がその場に流れる。
「メラちゃん!ライちゃん!フウくん!”トリニティ”よ!」
フィトリアの掛け声により名前を呼ばれた三体の魔獣が魔法を発動した。今この状況でなければ天災級とも思える魔法がオーディンを襲う。
さらに、魔法はオーディンを囲い込み混ざっていく。混ざっていく魔法は特殊な反応を示して新しい魔法へと変わる。
「”トリニティバスター”よ」
フィトリアの声が聞こえると、その魔法は一気に空へと上がっていく。強大な魔力を放つ柱を作るように上に登っていく。クロエはその魔力が出す風を受け飛ばされないように耐えながら少し笑った。
「まぁ、普通なら強いよね」
オーディンの声が聞こえる。そして、突然フィトリアの魔獣が放った魔法が霧散した。
「っ!?」
そして、中から5本のグングニルが出てくる。
「嘘……でしょ……!?」
オーディンは5本のグングニルを自分の手のように扱いながら魔法を全てかき消したのだった。そして、オーディンはフィトリアを見るなり即座に攻撃してくる。クロエはそんなオーディンを見てすぐに反撃に出た。
「”ブラックインファイト”」
クロエは全身に力を込め、全身を真っ黒に変色させる。そして、オーディンに向かっていく。しかし、4本のグングニルがクロエを襲う。その数と力に翻弄されクロエは前に進めなくなる。
「またこれ……!うぐぅっ!?」
しかも、今度は動きが変則的すぎる。本当に5本を1つの脳で動かしているのか疑問に思うほど流動的にかつ変則的に動くグングニルがクロエの腹や顔、足、腕、そして大事な部分をかなり強く殴る。
「あがぁっ!?えげぇっ!?」
クロエは女の子が出さないような呻き声を上げながら地面に強く戦い付けられた。それでも何とか顔をあげると目の前にオーディンが立っている。鼻血を流し、涙も流しながらクロエはオーディンに恐怖を覚える。
「……このぉ……あがっ……!?ケホッ……!ゲホッ……!」
クロエがなにか言おうとすると、グングニルがクロエの喉を攻撃した。潰れはしないものの一時的に声が出なくなる。
「俺は意外とクロノスと同じ趣味の持ち主なのかもな。買ってくるHな本も同じやつだったし」
オーディンはそんなことを言ってグングニルをクロエに向ける。しかし、それが振り下ろされることも、当たることもなかった。オーディンが攻撃する前にカッパがオーディンに攻撃をする。しかし、それはグングニルによって止められる。
「今よ!」
その好きに魔獣が3人でオーディンを襲う。しかし、それもグングニルで止められる。これで4本のグングニルを封じた。残りは1つ。
「これでどうなのじゃ!?」
そして、最後にフィトリアが攻撃を仕掛ける。ムチに強い稲妻を走らせソニックムーブを起こしながら攻撃をする。
オーディンはそれをグングニルで防いだ。そして、これでオーディンはグングニルを全て使ってしまう。その隙を逃さないクロエではない。クロエは即座に起き上がり攻撃をする。
「”ドラゴンステインガー”」
クロエの攻撃が無防備なオーディンに向かって伸びる。オーディンはそれを見て避けようとしない。まるで、当たらないとでも言うかのように呆然と見ている。
「……」
「行って!」
「……」
「終わりよ!」
「……」
なんと言われても何もしない。そして、クロエの攻撃は目の前まで来る。その時、クロエの爪がなにか硬いものに当たった。そのせいで金属音が鳴り響きクロエの手は止まる。
「っ!?」
そして、目の前にあったものを見て言葉を失った。なんと、そこにはグングニルがあったのだ。
「っ!?なんで……!?」
「……俺は一言もグングニルが”5本”しか出せないとは言っていない。そういうことだ」
オーディンはそう言って冷静にクロエの腹を殴る。クロエはそのせいで腹の中のものを全て吐き出してしまった。
「……なんかこんなシーン萌えるんだよな。アイツの言葉で言うなら。てか、萌えるってなんだよって話だけどさ、ギャグ漫画ならこんな時こうするってアイツは言ってたな」
オーディンはなにかブツブツと呟いている。その声が聞こえずらく、クロエは理解できない。そして、突然こちらを向いたオーディンになにか嫌な予感を感じる。
「先に宣言しておく。これは一種の拷問であり、『かなり強い煽り』だ」
オーディンはそう言ってクロエの両鼻に指を突っ込み、そのまま鼻フックで背負い投げをした。
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