第210話 まだ……その時じゃ……
━━クロエを覆う暗闇はさらにクロエを闇へと沈めて行った。先程見たものが本当のものなのか。それすら分からないまま闇の中へとたたき落としていく。
「……真耶……」
クロエの心は少しずつ壊され始めた。しかし、それと同時にある疑問も浮かんだ。それは、真耶もオーディンも昔から仲が良かったということ。そして、少なくともオーディンにとってルシファーは邪魔であるということ。だとしたら、何故オーディンはルシファーに従うのだろうか?
それは全くわからなかった。そして、少なくとも真耶もオーディンも同じ考えを持っていることは分かった。
更にもうひとつ、分からないけど確証を持てることはあった。それは……
「っ!?」
そんな時突然クロエの意識に光がさす。そして、どこかに向かって引き寄せられた。
「待って!まだ……今なら真相が分かりそうなの……!」
クロエの叫びも虚しくクロエの意識は現実へと引き戻される。そして、飛び起きるように目を覚ました。
「っ!?あれ……?ここは……」
クロエは突然現実へと引き戻されて言葉を失う。そして、汗をかいてびしょびしょになった全身を少しだけえっちに思いながら夢の中の出来事を思い返した。
「……あれが本当のことなら、ひとつだけ確証をもてる。……少なくとも……”カナデハミカタジャナイ”」
クロエはそう呟いて前を向きフィトリアの元まで向かった。
━━フィトリアは1人残され立ち尽くしていた。周りには完全に気を失った奏と、多少意識があるアレスが横たわっている。
「っ!?なぜ妾だけ……!?」
「……」
「っ!?」
フィトリアが構えるまもなくオーディンはフィトリアの腹部にグングニルを突き刺した。そして、その勢いのまま飛ばされる。オーディンは少しだけ目を閉じると、グングニルを追って歩き出した。
そして、フィトリアは凄まじい勢いで飛ばされる。たとえ木や石にぶつかっても勢いは収まらない。
フィトリアはそのままの勢いでこれまでぶつかってきたものとは比べ物にならないくらい巨大な岩に激突し止まった。そして、たまたまその隣にいたクロエは、突然フィトリアが飛んできたことに驚いた。
「っ!?フィトリア!?」
クロエは驚き腰を抜かす。そして、状況が掴めないままでいると、オーディンが歩いてくるのが見えた。
「っ!?待ちなさい!」
クロエはフィトリアの前に立つ。そして、オーディンからフィトリアの姿を見えないようにした。
「頑張って自分で抜いて。その間私が引き受けるわ」
クロエはそう言ってオーディンを見る。その刹那、フィトリアが苦しみ始めた。グングニルが突き刺さった腹部を抑えて呻いている。そして、体にはじわじわと呪印が広がって行くのが見えた。
「っ!?何をしてるの!?」
クロエの問いかけにも何も答えない。ただ無言でフィトリアの姿を見るだけだ。
「クッ……!話しなさい!」
クロエは背中から龍の羽を生やしてオーディンに襲いかかった。しかし、オーディンは軽々とクロエの攻撃を受け止める。
「……」
「あなた……本当に……っ!?」
オーディンはクロエを蹴り飛ばした。そして、再び真耶ですら持っていない目を発動する。
「っ!?何……それ……」
「……全く……飛んだじゃじゃ馬だ」
「むきぃ!なによ!じゃじゃ馬だなんて!」
クロエはそう言ってオーディンに襲いかかる。しかし、オーディンから首を絞められ身動きが取れなくなった。
「まぁ待て。期はまだ塾してはいない。俺もお前もコイツも全員もな」
「どう……いう……意味よ……!?」
「少なくとも、未来は俺でもルシファーでもロキでもなく、真耶に託されたということだ」
「え?」
「お前が言った未来……フッ、期は熟したようだ」
オーディンはそう言ってフィトリアに突き刺さったグングニルを引き抜く。そして、禍々しい力を纏い殺気を強める。
「真耶……俺も明日が見たいよ。永遠に続く時の流れに背かず、ゆっくりと明日を望む日々を過ごしたいよ」
オーディンはそう言って2人に襲いかかる。これまでのどの時よりも速いグングニルが連続で2人を襲う。2人はそれを見て慌てて戦闘態勢をとった。
そんな2人にグングニルは襲いかかる。クロエは向かってくるグングニルを受止めた。しかし、その勢いは凄まじく、そのまま体が宙に浮いてしまう。
「え……!?」
クロエは思わず声を漏らした。そして、すぐに離れようとする。だが、それよりも早くグングニルが回転をしてクロエをどこかに飛ばした。
そんなことが行われている間にフィトリアはオーディンを狙った。グングニルがない以上今のオーディンは生身だ。フィトリアのムチがオーディンに襲いかかる。
「は?」
しかし、ムチはオーディンに当たらなかった。普通に躱されたのだ。ムチは上手くしならせた時にソニックムーブを起こす。その速さは並の反射速度であれば避けることは不可能だ。
そして、当然今の攻撃もソニックムーブは起こっていた。パンっと言う軽い爆発のような音を立ててムチがオーディンを襲った。しかし、オーディンは軽い動きでそれを躱したのだった。
「その程度か」
オーディンはそう言ってフィトリアに蹴りかかる。しかし、それはフィトリアに当たらない。フィトリアは体をしゃがませて躱した。
「……」
オーディンは空振りするが、その勢いのままフィトリアの背後をとった。フィトリアは慌てることもなくオーディンを目でおいきちんと確認する。
「……あなたも意外と間抜けなのね」
フィトリアがそう言って足元を指さすと、オーディンは目を丸めた。
「うわっ!汚!はよ言えや」
なんとオーディンは生物のフンを踏んでいたのだ。さすがのオーディンもそれには驚き言葉を荒らげる。
「なんでこんな所にあるんだよ」
先程の冷静な感じとは全く違って荒ぶりながらオーディンは靴を脱ぐ。そして、その靴を投げ捨てて新しい靴を履いた。
「悪い悪い。じゃあ続けようか」
「いや、もう終わりよ。貴方の負け」
フィトリアがそう言った時にはオーディンの周りに何匹もの魔獣がいたのだった。
「……」
オーディンは無言でフィトリアを見つめる。フィトリアはそんなオーディンを気にすることもなく無慈悲に魔獣に命令を下した。
「”潰しなさい”」
その言葉と共に全身を炎で包まれた魔獣がオーディンにゲンコツをした。業火につつまれながら拳が振り下ろされる。
しかし、それはオーディンには当たらなかった。何故か魔獣の拳をオーディンはグングニルで止めている。しかし、グングニルは今クロエの場所にある。そこから戻ってきた形跡はない。
「……」
「……さぁ、続きをやろうか」
オーディンは魔力や禍々しさが減ったグングニルを構えてそう言った。
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