第209話 闇のグングニル
━━クロエは闇の中にいた。すごい、暗闇の中に。周りは何もない。空気があるかどうかも分からない。そもそも、呼吸もできているのか分からない。何も分からない。そんな空間にクロエはいた。
そんな中クロエの頭の中に不思議な思い出が流れ込んでくる。しかし、そんな体験をした記憶が無い。クロエは体験してない記憶に戸惑いながらも、それに目を向けた。
「……真耶……」
「だからぁ!」
「っ!?」
クロエが真耶に声をかけようとした時、不意に真耶が叫んだ。そして、前にいる人に何かを言っているみたいだ。
「お前は何も分かっちゃいない!」
「フフ……分かってるさ。何もかも」
「違う!それは知った気になってるだけだ!本当のお前は何も知らない!無知なままだ!」
真耶はそう言って叫ぶ。クロエはそんな真耶に戸惑いの様子を見せる。そして、真耶の目線の先に目を向けた。すると、そこにはなんとルシファーがいた。
「……君は……君は何も分かっちゃいない!人々は歴史から何も学ばなかった!だからこうして失敗するんだ!僕は過去を調べた!過去を知り尽くした!そんな僕を無知だとは言わせない!」
「だからこそ!お前は無知だと言うんだ!お前は間違っている!今のお前は歴史から何かを学んでるんじゃない!過去にすがってるだけだ!人々は歴史から何も学ばないとことを歴史から学んだと言うが、お前は歴史から学ぶことに執着しすぎて未来が見えていない!お前の言う歴史に……歴史の中に……そんな場所に未来はない!」
「未来ならあるさ。星……この力で僕は世界を掌握する!そこに未来が生まれるんだ!」
「それが一番間違ってる!」
「間違ってなどいない!僕は過去を知り、過去から学び星の力を知り尽くした!そんな僕が間違えるはずはない!この力があれば、死せる者すら生き返らせることができる!もう繋がれない人と繋がることができるんだ!」
「それは未来じゃない!死んだ人はもう戻ってこないんだ!死んだ人と繋がるんじゃなくて、未来を担う、新しい世代の子供達と繋がらなくちゃならないんだ!」
「黙れぇぇぇぇぇ!もはや止まることは許されない!この場でお前諸共消し去ってくれる!」
ルシファーはそう言って羽を広げる。真耶はそんなルシファーを見て悲しげな目を見せた。そして、2人の戦いが始まりそうになる。
そんな瞬間にクロエはどこかに向かって引き寄せられた。強い力で引っばられ、再び暗闇の世界へと戻ってくる。
「っ!?」
唐突に光も音もなくなった世界でクロエは少し不安感を覚えた。そして、何とか脱出しようと力を込めた。
━━奏が作り出した2つの塔はこれまで感じたこともないような不穏な雰囲気を醸し出している。オーディンでさえも、その雰囲気に少しだけ気圧された。
「……見たことないな」
「そうでしょうね。私オリジナルだもの」
「だけど、俺にはなんの意味もない。”グングニル・第2形態・電光”」
オーディンのグングニルが2つある塔の片方に直撃した。しかし、それにも関わらず塔はビクともしない。壊れるどころかヒビすらない。
「方舟は天変地異から人々を守るために作られたもの。容易に壊すことはできないわ」
「……面白い」
オーディンはそう言って連続で攻撃を仕掛ける。しかし、本当にヒビすら入らない。どうやら奏の言っていることは本当のことらしい。
「方舟……お前……」
オーディンは何かを察したのか思い出したのか、唐突に奏を睨みつける。しかし、オーディンが何かをする前に奏が動いた。方舟から大砲を出し発射する。
オーディンはグングニルを回転させて弾幕を全て防ぐ。その隙にアレスが攻撃をしかけてきた。
「無駄だ」
オーディンはアレスの攻撃を全て躱す。軽いステップで躱されるアレスは少しずつ苛立ちを覚えながらも冷静にオーディンを狙った。
「逃げてばかりだな」
「そうでもないさ」
「ほざけ!”ドラゴニック・パニッシャー”」
アレスのデュポーンがドラゴンのオーラを帯びる。そして、ドラゴンの形をした気弾がオーディンに襲いかかった。オーディンはそんなアレスの攻撃を見てニヤリと笑うと静かに立ち止まる。
「”グングニル・第3形態・蜃気楼”」
オーディンが技を発動する。すると、周りに無数のグングニルが発生した。それと同時に濃い霧も発生する。アレスは少しだけ戸惑いながらもすぐに状況を理解した。
「偽物か。無駄なことを!」
ドラゴンの形をした気弾は全てのグングニルを無視してオーディンを襲う。しかし、偽物だと思っているグングニルがオーディンの前に現れる。それは、気弾を受けると霧散して霧に変わった。そして、当然気弾はオーディンに直撃する。
しかし、それも偽物だった。アレスが霧の中に入った時点で、既に幻術にかかった状態となっているらしい。
「……面倒だ。”ドラゴンフォース・バースト”」
アレスは一瞬にして大量の気を放つ。それは、周りにある大量の霧を全て吹き飛ばす。
「アレス……お前は本当に単純だ。森を見て木を見ていない。もっと深く物事を見るべきだ」
「くだらないな。木を見る前に森ごと焼き払えばいい話だろ?」
「だからこそお前は何も成せない。弱いガキのまま成長しない」
オーディンはそう言ってグングニルを向ける。そして、すぐにグングニルを放った。空を切り裂きながらグングニルがアレスを襲う。
「……!」
アレスはグングニルを弾いた。グングニルはすごい勢いで遠くに飛んでいく。オーディンはそれを見ながら少しだけ目を閉じた。
「呼び覚ます時が来たのかもしれない。少し早いが……」
オーディンはそう言って目を開けた。その目にはこれまで見たこともないような模様が浮かんでいる。その目はかなり禍々しく恐怖そのものだ。
「見た時ない目だ」
「だろうな。真耶ですら持っていない目だ」
「っ!?その話は本当なの!?」
オーディンの言葉に奏が執拗に食いつく。
「そんなことはどうでもいい」
「どうでも良くないわ!あなただけの目……今のうちに……」
奏は誰にも聞こえないような声で何かをつぶやく。
「何か言った?」
フィトリアは疑問に思い問いかけた。
「なんでもないわ」
奏は恐怖に包まれた笑みを浮かべながらフィトリアにそういう。そして、狂気的な笑みを浮かべてオーディンに襲いかかった。
「今のうちに消しておくわ!”方舟の剣”」
奏の剣がオーディンを襲う。しかし、オーディンは微動だにしない。まるで、この先何が起こるのかがわかっているかのような目で奏を見るだけだ。
「……期は……まだ熟していないか。だが、背に腹はかえられん。あとは真耶……お前がやるべき問題だ」
オーディンはそう言ってどこからかグングニルを引き寄せた。それは、先程のグングニルよりも速く動き、奏に連続で攻撃をする。奏はその速さに目が追いつかず全身にきり傷を負った。
「っ!?クッ……!」
奏は慌てて後ろに下がる。そして、オーディンを見た。オーディンの手元に戻ってきたグングニルを見ると、先程よりも禍々しい力を感じる。
「クロエに刺さってたやつ……力を戻したって感じなのじゃ」
「チッ……!面倒な男……」
奏は小さく舌打ちをする。
「何か……」
フィトリアは再び聞いた。
「何も無いわよ!ほら!前を向きなさい!」
奏は怒った声でそう叫ぶ。フィトリアはその気迫に少し怖くなりもう聞かないことにした。
「……一瞬だ。全てはすぐに終わる。”天威無双”」
オーディンがそう言って力を解放する。すると、全身が禍々しいオーラで埋め尽くされ、装飾がされている。華美な服を着たオーディンは殺意が高いグングニルを先程よりも速く動かす。
「真耶。お前はあの時……」
オーディンは少しだけ思い出に浸りながら、たった一瞬でアレスと奏を再起不能にした。
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