第20話 冒険者の怒り
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「それから俺はこの体を構築するのに役1年かかった。だが、それでもこの体はボロボロだった。魔力回路には穴が開き、体はいつ崩壊してもおかしくなかった。途中でヘファイストスの魔力を取り込んだから、魔力回路の穴は塞ぐことが出来たが、それでもいつ体が崩壊してもおかしくない」
「……」
「まぁ、唯一誤算だったのは目が見えなくなったことだがな」
真耶はそう言って目を瞑る。そして、ゆっくり開きアーサーとモルドレッドの目を見つめた。その目に写っているものは、ぼやけた2人の顔だ。
「……なぜそんなことを隠していた?」
「言ったろ。冥界に行くには条件があるって。俺は冥界に行ったことがないから分からないが、中に入った状態で条件を満たせなくなった時に追い出される可能性があった。だから、そのリスクを回避するためにずっと隠していた」
「確かに。リスク回避は大切」
真耶の言葉にモルドレッドはそう言う。真耶はその言葉に頷くと自分の手のひらを見た。
「この力も、いつまで使えるか分からない。どれだけ戦えるかも分からない」
「分からないことだらけだな」
「そうだな。ただ、唯一わかっているのは、必ずケイオスは帰ってくると言うことだ」
真耶はそう言って拳を強く握りしめた。そして、ゆっくり立ち上がり作った椅子を消す。
「ほら、全て話しただろ。早く帰ろう」
「……待て。最後に、お前の体はあとどれ位持つ?」
「……俺はこれからヘファイストスを殺そうと思う。だから、せいぜいもって3ヶ月ってところだ」
「分かった」
アーサーはそれだけ聞くと、立ち上がり椅子を破壊する。そして、テーブルも破壊した。
モルドレッドは突如そんなことをし始めたアーサーを見て驚き小さくなる。しかし、アーサーはそんなことを気にすることも無く真耶に言う。
「死ぬなよ」
「当たり前だろ」
真耶はアーサーの言葉にそう言って右目に眼帯をつけ、見えなくなった右目を隠した。そして、振り返って入口まで向かう。
モルドレッドは少し怖がりながらも椅子から立ち上がり真耶を急いで追いかけた。アーサーもモルドレッドを待つと、合流して真耶を追いかけた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから30分……
真耶達は城の入口の前へと来ていた。しかし、城の門の前で立ち止まって前を見つめている。その目線の先には冒険者が沢山居た。
「……」
「この悪魔が!」
「お前らのせいでヘファイストス様を怒らせてしまっただろ!」
「責任取りなさいよ!」
「死ね!死んで詫びろ!」
「「「死ーね!死ーね!死ーね!」」」
なんと、真耶達は今死ね死ねコールを浴びていた。理由は分からないが、何故か怒っている。
「ヘファイストス?まさか……」
真耶はヘファイストスという言葉を聞いて何となく理解した。恐らくヘファイストスは真耶達と冒険者達で同士討ちさせたいのだろう。だから、わざと冒険者を奮起させるようなことをしたり言ったりしたのだ。
「おい。お前らは騙されてるぞ」
「うるさい!何事もなく過ごすにはな、ヘファイストス様に逆らっちゃダメなんだよ!それなのに……!それなのに!」
「そうよ!あなた達は死になさいよ!”ファイアーボール”」
「”フレイムバースト”」
「”ウインドショット”」
冒険者達は揃って遠距離魔法を放ってくる。
「どうする?」
「……ちょうどいい。どれだけ魔力を回復できるか、試してみよう」
真耶はそう言って左目に吸収眼を浮かべる。そして、右手を前に突き出して言った。
「”集束”」
その刹那、真耶の右手の目の前に黒い玉が現れ、その玉に向かってとてつもない引力が発生する。そして、その引力に引かれた魔法は全て、その黒い玉に吸収された。
「「「っ!?」」」
「これいらないから返すよ」
真耶はそう言ってその玉を投げ返す。すると、その玉はものすごい速さで飛んでいく。そして、冒険者達は逃げ惑った。真耶はそれを見て左目に時眼を浮かべた。そして、たった今投げた魔力の塊に向けて魔法を発動する。
「”時止”」
その時、真耶の投げた魔力の塊の時間が止まった。そのおかげで爆発せず冒険者達は九死に一生を得る。そして、その事にほっとしていると、真耶が目の前にいることに気が付かなかった。
「「「っ!?」」」
「おい、なぜ俺達を敵だと思った?なぜヘファイストスが攻めてきて戦おうとしなかった?なぜ自分達の弱さを人のせいにした?」
真耶はそう言って冒険者の中のリーダー的存在の人の胸ぐらを掴んで持ち上げた。その冒険者は何とか振りほどこうともがくが、何度逃げようとしても逃げられない。
真耶はそのままもう片方の手のひらに雷を発生させた。その雷はバチバチと音を立て、空気を伝いその場の冒険者を皆震撼させる。
「さぁ選べ。今ここで俺と敵対し死ぬか、生き残る道を選ぶか」
「「「っ!?」」」
真耶が作り出した雷が冒険者の顔の真横をかすめる。その雷は触れていないはずなのに冒険者に静電気を当てた。
「やめなさい!それ以上やったら私達だって容赦しないわよ!」
どこからともなくそんな声が聞こえてくる。その声の方向をむくと、そこにはルーナがいた。ルーナは魔法を放とうとしている。その矛先は真耶を向いていた。
「戦う道を選ぶか……」
真耶は小さくそう呟いて、手に持っている冒険者を投げ飛ばす。そして、真耶は体を反らす。その刹那、さっきまで自分の顔があった場所に炎の槍が通り過ぎた。
真耶はその炎の槍を避けると、ほっと一息を着く間も無くその場所から移動する。そして、バク転のように後ろに後退し、ちょうど手が着いた瞬間に魔法を唱える。
「”物理変化”」
地面が隆起した。そして、巨大な山が作られる。
「「「っ!?」」」
「っ!?何!?」
「フッ、死にたくなかったら早く逃げることだな」
真耶はそう伝えると、火炎眼を右目に浮かべる。そして、待機中に浮かんでいる微弱な魔力で魔法陣を描き始め、一瞬で完成させると魔法を唱えた。
「”紅蓮火山・噴火”」
真耶が魔法を唱えた瞬間、火山が紅く変色する。そして、とてつもない爆発音がその場に響き渡った。その爆発音は、近くにいる者の鼓膜を破り、衝撃波のようなものを放つ。
だが、問題はそこじゃない。爆発音がしたも言うことはどこかで爆発が起こったということだ。そして、目の前には火山がある。しかもその火山は紅く変色している。ここから考えられるのはことは1つ。
「逃げろぉぉぉぉぉ!火山が噴火したぞぉぉぉぉぉぉ!」
冒険者のその掛け声と共に、火山が噴火した。火山から大量のマグマが吹き出してくる。さらに、火山の噴火のエネルギーを逃がすため、地面にエネルギーを流しそのエネルギーが地面を揺らす。
「「「きゃあああああああああ!」」」
女性冒険者が泣き叫んだ。男性冒険者は絶望してその場に立ち尽くした。もう誰もこの状況をどうにかできるものはいない。それがわかったからだ。
そして、ルーナもその様子を見て絶望した。なんでこんな相手を怒らせるようなことを言ったのだろうか。そんなことを考えると、自分が愚かすぎて泣けてきてしまう。と、ルーナは思った。
そして、遂にマグマが目の前まで来た。
「ヤダ……!死にたくない……!」
思わず泣きながらそう叫んでしまう。しかし、そんな言葉を叫んだところで無意味に近い。もう死は目の前に来ている。
「助けて……!」
「”時よ止まれ。時戒・時止”」
その瞬間、その空間の全ての時間が止まった。火山の噴火も止まり、人の動きも止まり、空気の変化さえも止まった。
しかし、その中でも動ける者が2人ほどいる。それは、真耶とルーナだ。全ての時が止まったこの空間で唯一2人だけが動ける。
ルーナは自分が動けることを理解すると、すぐに真耶のいる方向を見つめた。すると、真耶の背後に大きな時計が顕現している。
「……!」
「さぁ、どうする?今お前は意識だけある状態だ。体は動かせない。返事によっては助けてやらんことも無い。さぁ、答えろ。死にたいか?死にたくないか?」
真耶のその問いは暗く冷たく、重苦しい雰囲気を醸し出した。
ルーなはそんな空気に耐えられなくなったのか、目から涙を流す。しかし、真耶はそんなことは気にしない。さらに、怖い目をしてルーナを睨んだ。
ルーナはその目で睨まれ、蛇に睨まれたカエルのようになる。しかし、今はそんなことより大事なことがあった。それは、とにかく生きること。死なないとこと。死にたくないこと。
とにかくそのことだけしか頭に無かった。だから、ルーナは涙目になりながらも答える。泣いて泣いて、鼻水を垂らして、嗚咽を堪えながら膝まづいて答える。
「死……死にたく……ない……です……!殺さないで……ください……!」
ルーナは額を地面に擦り付けながらそう懇願した。すると、真耶から溢れ出すオーラが少し優しくなったような気がする。しかし、そのオーラはすぐに恐怖へと変わった。
「そうか。死にたくないか。だが、人生というのはそう簡単に上手くいくものではない。生きたいと願っても、生きられない者もいる」
真耶はそんなことを言いながらルーナの前まで来る。ルーナはその恐怖で全く顔をあげられなかった。すると、真耶はそんなルーナの髪の毛を掴み持ち上げた。
「いだっ!」
「なぁ、知らないのか?目上の人にお願いをする時は裸で土下座だろ?何普通の土下座してんの?服脱げよ。それとも、ビリビリに破かれたいのか?いや、それがいいなら俺はそれでいいよ。そういうのも嫌いじゃないから」
真耶はそう言って不気味な笑みを浮かべた。その笑みは、まるで何人もの女性を絶望させ犯してきた犯罪者のような笑みだった。その笑みを見てルーナは恐怖心で支配される。
「ひぃっ!や、やめ……て……くら……しゃい……!」
「……さぁ、その言葉が誰に、どれだけ通じるかは俺は知らない。もしかしたら俺にも通じないかもしれない。このままお前は犯され、尊厳を失われ、ボロ雑巾のようになるまで愛玩機として扱われるかもしれない。そこまで考えたことがあるか?」
真耶のその問いに対してルーナはフルフルと首を横に振る。
「だろうな。だってお前馬鹿だもん。そんな馬鹿に教えてやるよ。壊れた玩具捨てられるのが運命なんだぜ」
「っ!?や、やだ……です……!お願い……します……!なんでもしますから……!」
「……出たよ。その”何でもします”ってやつが。それ言っときゃなんとかなると思っている。やめてもらえると思っている。だがな、本当に憎まれてるのならそんなことでやめてはくれない。それはただ逃げようとしているだけだ。そんな見え透いた嘘に騙されるほど俺は馬鹿じゃねぇよ」
真耶のその言葉はルーナをさらに絶望へと突き落としていく。一言一言がルーナの心をズタボロに引き裂いていく。そして、ルーナは死ぬという恐怖に耐えきれず、その場で嘔吐してしまった。
「おぇ……!おぇぇ……!」
「……汚ぇな。知ってるか?アヴァロンではたまに人への罰でこんなことをする」
真耶はそう言ってルーナの髪の毛を掴むと、顔を嘔吐物の前まで持って行った。ルーナはその嘔吐物を目の前にして言葉を失う。
「これは俺を怒らせた罰だ」
真耶はそう言ってルーナの顔を嘔吐物に擦り付けた。そして、直ぐに離す。その時のルーナの顔には食べかすやら何やらが付いていて、到底見れるような顔ではなかった。
「フフフ……馬鹿なヤツだな。俺を怒らせるからそうなる。謝れば許されると思っている。まぁ、嫌いじゃないぜ。そう言うの。強欲で傲慢だ。今回は特別に助けてやるよ」
真耶はそう言って右目に浮かべた時眼の力をさらに強くする。すると、先程真耶の後ろに現れていた時計が光を放ち始めた。
「”時戒・遡時”」
真耶が魔法を唱えた瞬間、巨大な時計の針が逆回転を始める。すると、先程まで時間が止まっていた空間の時間が待ち戻される。
ルーナはその様子を見て驚き言葉を失った。そして、真耶の顔を見る。真耶は右目から血の涙を流しているのか、眼帯の中から血が垂れてきている。それに、眼帯も少し紅い。
そんなことを考えていると、気がつけば火山が消えていた。当然マグマも消えている。そして、その時時間は進み始めた。それに応じて冒険者達の意識も戻ってくる。
「っ!?」
「マグマが消えてるぞ!」
状況判断が凄い冒険者がすぐに火山がなくなっていることに気がついてそう言った。それを聞いた瞬間全員の足が止まる。そして、2人の人物の存在に気がついた。それは、真耶とルーナだ。真耶はルーナの目の前で血の涙を流しながら立っている。ルーナは、腰が抜けたのかへなへなとその場に力なくへたりこんだ。
「ルーナ!逃げろ!」
「早く逃げて!」
後ろの冒険者達がそう言ってくる。素晴らしい野次だ。その時真耶は、『別に殺したくないけど殺すなとか言われたから殺した』って言う言い訳をする人の気持ちがわかった気がした。
「……はぁ、もう良いよ。行け」
真耶はルーナにそう言って冒険者立ちの真ん中を突っ切って街まで戻ろうとする。すると、戦闘に参加しなかったアーサーとモルドレッドが後ろから真耶を追いかけてきた。
「真耶。体は?」
「何か起きたんじゃないのか?あれだけ魔法を連発したんだぞ」
「いや、今のところは何も無いよ。とにかく街に戻って確認しよう」
真耶達はそんな会話をして街へと向かい始める。冒険者達はそんな3人をただ見つめるしか出来なかった。
読んでいただきありがとうございます。