第208話 方舟
━━あの時なんて言えば良かったのだろう。それは今になっても分からない。何千年も経過してるはずなのに未だに後悔している自分がいる。
昔誰かが言った。助けを待ってはいけないと。誰が言ったのかは分からない。でも、少なくともそれは当たっている。助けなんか待つんじゃなくて、求めに行かなきゃ。苦しいなら、耐えるんじゃなく、現状維持じゃなく、求めに行かなきゃ。
きっと皆は言うだろう。その集団に入れないと。意見を言いたくても、集団に参加出来なければどうやって言えばいいのかと。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……」
「出来ないんじゃない。しないだけだろ?」
「っ!?」
彼は1人芝居のように、一人で呻き、一人で正論を言い、一人で驚いた。そして、一人で悶えて一人で怒りを溜める。全て一人で行い一人で今への滞在を決めた。
「こっち来いよ」
突然聞こえる2人目の声。それは幼い声だ。小さく高い、でも強い意志を感じる声。その瞬間に彼の顔は前を向きその目は明日を捉えた。
「まやくんっていうの?」
何故か自分も幼い。記憶の世界だからか、頭もはっきりとしない。だが、これが夢だとはっきり判断できる。
「そうだよ。オレはつきしろまや。旅してるんだ。君は?」
「オーディン。僕はオーディンって言うんだ」
その瞬間2人は仲良くなれた気がした。そして、事件発生までのカウントダウンはこの時から始まったのだった。
━━……そんな思い出がオーディンの中に駆け巡る。オーディンは笑顔をさらに強くする。その瞬間、悪魔さえ恐るほどの悪魔が誕生した。
「”グングニル・第4形態・羅針”」
グングニルが6つの刃に変わる。そして、それはオーディンの背中に円状に並んだ。
「っ!?」
3人がそれに気づいた時にはもう時間は止まっていた。
「「「っ!?」」」
(時間が……止まって……)
奏はその状況に驚き戸惑う。そして、横目に見えるオーディンがなにかしているのが見えた。それと同時にオーディンの背中の刃が1秒ごとに消えていくのも見えた。
「終わりの時間……。”天帝輪廻・終焉の鎮魂歌”」
オーディンの魔法が発動する。凄まじい魔力を放つグングニルが天空に打ち上げられ、音よりも速く落ちてきた。
そして、それは、まっすぐフィトリアを貫いた。時を止められていたから、そもそも速すぎて避けられないから、理由を探せばいくらでもある。フィトリアはその一撃を躱しきれず腹の辺りにグングニルが突き刺さる。そして、下半身が弾け飛び腸や胃などの臓器が飛び出してきた。
「っ!?フィトリア!」
奏はそれを見て思わず名前を叫ぶ。そして、絶望の目をしてフィトリアに近づいた。フィトリアの上半身の周りには弾け飛んだ下半身が飛び散っている。
「お願い。死なないで」
奏はそう言いながらフィトリアが生きているか確認した。脈は弱いし目は虚ろだが生きてはいる。呼吸は浅いが意識はほんの少しだけ残っている。
「もう少し耐えて……!お願い……!」
奏はそう言って祈りを捧げる。深く深く頭を下げて祈りを捧げる。すると、奏の背中から天使のはねが生えてきた。
そして、フィトリアの体が光を帯びていく。先程まで飛び出していた臓物が体の中に引っ込んでいき、下半身が再生していく。フィトリアの体は完全に元に戻ったのだ。服は元に戻らなかったが。
「……ふぅ、良かったぁ」
奏はそう言って一息ついた。そして、呼吸が浅いフィトリアの唇に自分の唇を合わせて人工呼吸をする。そうして無理やり肺を動かす。
そうしてフィトリアは目を覚ました。唇に柔らかい感触を感じ、舌でなにかヌメリとしたものを感じ、下半身が何故かスースーする状態で体を起こした。
「あれ……妾は……」
「大丈夫!?再生させたからもう安心していいよ!」
奏はそう言ってフィトリアに抱きつく。
「え?再生?妾はそれほどのダメージを負ったの?」
「えぇ、そうよ!焦ったんだから!まーくんと違って私は体までしか再生できないのよ!だから……その……下着とズボンは……」
奏はそう言って頬を赤らめ顔を隠す。そして、フィトリアは自分が下半身素っ裸なことに気がついた。
「早く言ってちょうだい」
「ごめん……」
フィトリアは恥ずかしがりながらコソコソと着替えた。ちなみに、この着替えは召喚獣が持ってきたものだ。
「よし、行くわよ!」
奏が大きな声でそう言う。そして2人はオーディンの元へ向かって走った。
2人がオーディンの元に着くと、アレスとオーディンが激しい戦闘を繰り広げていた。グングニルとデュポーンが交わり火花が散る。
「オーディン。お前は何故そこまでして俺達を殺そうとする?」
「おかしな話を。お前こそ何故俺を殺すことに執着する?」
「敵だからだ」
「敵だから……じゃあお前は自分が敵だと思う者は皆殺しにするのか?」
「そうだ」
「そうか、なら今すぐ後ろの女共を越した方がいい。そいつらはお前の敵だろ?」
「……」
オーディンの言葉にアレスは黙り込む。
「敵とはなんだ?その定義はあるのか?」
「……」
「お前はいつも不確かだ。そして、自己中極まりない」
オーディンはアレスにそう言う。そして、ニヤリと笑って言った。
「敵は皆殺しにするんだよなぁ?”グングニル・第6形態・星屑の光”」
無数の小さな刃が星のような光を纏わせながらアレス立ちに襲いかかった。そして、星屑のように光は分裂を繰り返し、アレス達の逃げ場を無くした。
「終わりだ」
「”ジャイロブレイド”」
奏が魔法を発動させた。右手に銀色の光を纏わせ光に向かって一振する。すると、まるで機械がこすれるような音が聞こえてオーディンが作り出した光の刃が弾かれた。
「っ!?」
アレスはその様子に驚く。そして、なぜこいつが、という目を向けてすぐに前を向いた。
「力に固執すれば、強くはなれない」
「何が言いたい?」
「お前の力はそれが限界だってことだ」
オーディンのその言葉を聞いてアレスはオーディンに攻撃を仕掛ける。しかし、それも見えているかのように軽々防がれた。
「心の弱さはお前の弱さだ。お前は心が弱すぎる」
オーディンはアレスに畳み掛ける。グングニルが元の形態に戻り、連続攻撃を繰り出してきた。アレスはデュポーンでかろうじてそれを全て防ぎ反撃をする。
「無駄だ」
アレスはオーディンによって弾き飛ばされてしまった。一瞬の油断により一気にピンチに陥ってしまう。アレスは苦しげな顔を見せながら無理やり体を起こそうとした。
しかし、グングニルはもう目の前だ。確実に頭を潰せる場所に来てしまっている。たとえ避けてもその余波は免れない。
「クッ……!」
「”時の方舟”」
グングニルの目の前に巨大な時計が現れる。
「っ!?」
グングニルが時計にぶつかった。すると、金属音を出してグングニルが弾かれる。
「っ!?それは……」
「方舟よ。私の魔法」
奏はそう言ってパチンと指を鳴らす。すると、地面から塔が2つほど出てきた。
「”方舟の塔”」
奏が呪文を唱えると同時に、2つの塔に強大な魔力が宿った。
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