第206話 戦場の亡霊
━━……数時間前……
クロエ達はオーディンに連れられある場所に来ていた。
「……襲わないの?」
クロエはそう聞く。なんせ、今こうして敵対する人達が一緒に歩いているのだから。しかし、オーディンはその問いを笑い飛ばし言った。
「まだ、その時じゃない」
オーディンはそう言う。そして、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「俺はお前らに奇襲をかけるほど弱くない」
オーディンの言葉は妙に説得感があった。しかし、それでもクロエ達の猜疑心は晴れない。いつ攻撃されてもいいように警戒する。
「警戒することは無い。それとも、俺の言うことが信用ならんか?」
オーディンは鋭い眼光を向けながら聞いてきた。クロエはその目に少し圧倒されるが顔には出さない。少しだけ汗を垂らすと自分を強く見せるように返事を返す。
「……まぁね。敵だし」
「馬鹿な雌だ。奥にいる天使の方が頭がいいな」
「……」
オーディンの言葉に奏は何も反応しない。そっぽを向いて話を聞いてないようにしている。
「まるで生きる目的を失ったかのようだ。誰か死んだのか?」
「……あなたには関係の無いことよ」
「フン、天使ごときが出しゃばった真似をするからだ。本当に馬鹿なヤツだ」
「……その言い方だとオタクのリーダーさんのことも馬鹿と言ってるように聞こえるわよ」
クロエは少し勝ち誇ったような声で言った。すると、オーディンは不敵な笑みだけうかべて何も言い返さない。
そして完全に黙り込んでしまう。先程まで軽快なトークをしていた空間に静寂が舞い降りてくる。そのせいで、足音や脈動、心臓の鼓動がとてつもなく大きく聞こえた。
「……俺は俺の意思で全てを壊す。シヴァとそう決めたからだ」
突然オーディンは立ち止まりそう言い始めた。その突然のことにクロエ達は少し戸惑う。
「シヴァだと?なぜあいつの名前が出てくる?」
「お前には何一つ関係の無いことだ。無駄な詮索はしない方がいい」
「黙れ。お前に断る権利があると思うな。俺はオリュンポス十二神の1人、戦神だ。俺の前で下手な真似はしない方がいい」
「面白い。だがお前は何も分かってはいない。俺はアースガルズの一員。そして、俺は全だ」
オーディンがそう言った瞬間その場の空気が変わった。そして、この時初めてクロエは気づく。周りの骨や荒れた地を見て理解する。自分達が狩場へと完全に誘い込まれたのだと。
「っ!?」
フィトリアはこの慣れない空気に少しだけ奥手になる。しかし、その場にいるものが皆空気をピリつかせているのを見て何とかついて行こうと気を強く持つ。
「ここはかつてアヴァロンで罪を犯したものを拷問し処刑した場所だ。見ろ、そこの台の上で首を落としていた。男だろうが女だろうが、関係なく殺された。あっちに見える三角柱の真下には、女の涙が染み付いている。あっちに見える十字架には男の血がこびりついている。そして今、お前たちの死霊がここに追加される」
オーディンはそんなことを言い始めた。クロエ達はそれを聞いて疑問に思う。なぜそんなにアヴァロンを知っているのか。なぜここに連れてきたのか。それが分からないままクロエは表皮を体に纏わせた。
その刹那だった。空からグングニルの槍が落ちてきた。
「「「っ!?」」」
しかし、グングニルはクロエ達とは全く違うところに落ちる。それは、オーディンとクロエ達の間だった。ちょうど等間隔の場所に突き刺さる。
「俺はアースガルズの一員。そして……いや、もうそれはいい。捨てたことだ。さぁ、踊れ。激しくな」
オーディンがそう言った瞬間クロエ達に向けてグングニルが飛ばされる。クロエはそのグングニルを素手で掴んだ。しかし、その回転に手の皮が負け焼けるような痛みと共に破けてしまう。そのせいで思わず手を離してしまった。
しかし、何故かグングニルはそれ以上進んでこない。ただ回転するだけで停滞している。
「何よ!手加減のつも……り……」
クロエは思わず言葉を止める。なんせ、オーディンが悲しげな目を向けていたからだ。その目はいつも見てきた目だった。いつも、あの人がしていた目。悲しそうで、苦しそうで、いい事なんてものは1つもない。そう思わせる目。
「オーディン……あの……」
「敵だ」
「「「?」」」
オーディンの言葉にクロエ達は戸惑う。しかし、アレスだけは何も感じてないらしい。
「殺す」
オーディンの言葉が終わると同時にその空間は少しだけ重たくなった。そして、オーディンから放たれる凄まじい殺気がこの空間を埋めつくした。
「”ドラゴニックバースト”」
アレスの声が聞こえた。そして、オーディンに向けて強烈な溶岩の槍が放たれる。それは、まっすぐとオーディンの胸に進んでいき、オーディンの胸を貫いた。
「「「っ!?」」」
「アレス!」
「黙れ。こいつは敵だ。俺らの仲間を殺している」
「あ……そうだけど……」
クロエはその言葉を聞いて完全に黙り込んでしまった。そして、悲しげな目でオーディンを見る。すると、オーディンは笑いながら言った。
「ククク……ハハハ……お前はやっぱり弱いな。あの時と変わらない」
オーディンのその声と共にクロエの左胸にグングニルが突き刺さった。
「っ!?ゴフッ……!」
クロエは吐血し目や鼻から血を吹き出しながらグングニルの威力に負け飛ばされる。そして奥にある壁まで突き飛ばされた。
「うぐぇ……!」
(痛い……!頭が……クラクラする……!これ……初めての……)
「クロエ!大丈……っ!?」
奏はクロエに近づく。しかし、途中であることに気がついた。クロエの雰囲気が少し違うのだ。何故か目に光が帯びていない。どこか虚空を見つめている。
「これって……」
「催眠。もうその雌は現実を見ることは無い。永遠に続く夢の中で死を待つしかない」
オーディンのその言葉と共に奏の中に怒りが込み上げてくる。
「”ゴッドフェニックス”」
凄まじい炎が発生した。それは、眩い光を上げながら不死鳥の姿となりオーディンを襲う。しかし、オーディンは表情一つ変えない。どこからかもう1つのグングニルを出現させ、グングニルを扇風機のように回転させ霧散させた。
「怒ることなかれ。お前たちはここに来た時点で負けている」
オーディンはそう言う。
「いや、違うな。俺と出会った時点で死んでいる」
オーディンのその言葉は3人に重く深く突き刺さった。
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