第19話 真実という名の過去
真耶は椅子に座ると静かに語り始めた。静寂に包まれていた空間に真耶の言葉だけがこだましていく。
「まず、なんで俺がこんなにボロボロなのか。それはな、俺の体の中に魂が全然残ってないからだ」
「「「っ!?」」」
「お前の質問は全て理由が同じなんだ。ただ、やってることが違うだけ。全て話すからちゃんと聞いとけよ」
そう言って真耶は語り始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━あの日、真耶とケイオスは生と死の精神世界で話していた。奏を倒したことで世界が平和になったと。
しかし、その時それは起こった。なんと、奏が精神世界へと入ってきた。完全に魂まで消滅させたはずだったのに魂だけの状態で生きていたのだ。
そして、その奏の魂はケイオスの魂へと同調し、精神世界へと介入してきた。
さすがのケイオスも奏が生きていたのは予想外だった。だから、すぐに戦闘態勢を取って殺意を放つ。しかし、奏はニコニコと笑顔を見せて敵対してくることは無かった。
どうやら奏は死んで心変わりしたらしい。そのおかげもあってか2人は前より分かり合えた気がした。
しかしその時、真耶の頭に少し気になったことを思い出す。そして、今奏が目の前に来たことで、気になっていたことが良くないことだと確信した。
「なるほどな。世界は神達に壊されたか」
「っ!?」
真耶の言葉を聞いてケイオスは言葉を失う。そして、すぐに奏の方を向いて確認しようとした。
しかし、ケイオスが聞く前に奏は話を始める。
「よく分かったね。さすがとしか言いようがないよ。……そう、まーくんが死んだ後世界中の人々の記憶からケイオスという存在は無くなった。だけど、まーくんが生き残ってしまったせいで記憶の改ざんが上手くいかなかったみたい。それで神達は皆ケイオスのことを覚えていて、いなくなったのをいいことに世界を滅ぼそうとしているの」
「っ!?何!?なぜそんなことが……!?まさか、俺の理滅が上手く発動しなかったか!?それに、なぜ世界を滅ぼす?あいつらは世界を征服したいんだろ?」
「ゼウス達の考えてる事は私にも分からない。でも、世界を壊そうとしていることだけは分かるよ」
奏はそう言って水晶を見せてきた。その水晶にはペンドラゴンの風景が見えている。そこにはペンドラゴンを破壊しているオリュンポスの姿が映る。
「っ!?」
「なるほどな。世界を壊して作り替えるつもりか。確かにケイオスがいなくなれば簡単になるな」
その時突如真耶がそう言ってくる。そして、真耶は水晶をのぞき込むと、ある場所を指さした。それは、オリュンポス十二神の服に着いているあるマークだ。
「どこでかは言わないが、これみたことあるだろ?」
「なんだよそれ?意地悪だな。だが、確かに見たことがある」
「っ!?まーくん、これって聖教会の人達が来ていた服に着いていたマークじゃん!」
「ご名答。そう、聖教会にいた奴らは全員ゼウスの手先だ。そもそもな、ペンドラゴンにあれほど大規模な召喚魔法を使えるものはいない」
真耶はそう言って水晶の中の男を睨みつけた。
「まぁ、まだなにか気になることはあるが、今は置いとけばいい。それより、こうなってしまってはもうどうしようもないぞ。これからどうする?」
奏とケイオスは真耶の言葉を着 聞いて言葉を失う。そして、すぐに思考をめぐらせるが、いい案は全くと言っていいほど思い浮かばない。
「……」
「……」
2人は完全に黙り込んでしまった。いかに戦闘センスが高く戦いになると強い者でも、こうやって推理をすることを強制されると何も出来なくなってしまう。
真耶はそんな2人を見ると、後ろを振り返って地平線の向こうを見つめた。
「……冥界に行くしかないな」
ボソリと真耶は呟く。
「冥界?なんだそれ?」
「私聞いた事ないよ」
「そりゃあな。お前ら死んだことないから分からないだろうな」
真耶はそんなことを言う。その言葉を聞いてケイオスと奏は頭が混乱した。全くその話についていけないのだ。
真耶は少しの間だけ目を瞑ると、思考をめぐらせる。そして、目を開き言った。
「いや、冥界に行く前にこの物語の起源を調べるぞ。発端がなにか知らない限り、その後の対策を打つのは困難だ」
そう言って真耶は時眼を左目にうかべた。そして、2人の肩に触れると背後に巨大な時計を顕現させる。
「過去改変は出来ない。だから、干渉は出来ないが実際に見てみれば分かるはずだ。”時戒・遡時”」
そう言って真耶は突如時間を遡り始めた。さすがにケイオスも奏も一体何をしようとしているのか分からず混乱する。
「なぁ、何をして……」
「黙って見てろ」
真耶がそう言った刹那、背後の時計の針が逆回転し始める。そして、真耶達の意識が過去へと巻き戻され始めた。
「「「っ!?」」」
奏とケイオスは突然のことに驚く。しかし、2人とも真耶の顔を見て安心する。さすがに真耶の事だ。何か理由があってこんなことをしている。そう思うと、全くと言っていいほど不安が残らない。
「おい、さっき言ってた冥界ってなんだ?」
「まぁ待て、その話は帰ってからしてやるよ。今はこっちに集中させてくれ」
ケイオスの問いかけに対して真耶はそう言うと、時の水晶を作り出し中を覗く。そして、過去の出来事を全て確認し始めた。
「……ターニングポイントを探すんだ……っ!?」
その時、水晶が何かに反応する。その場所を見ると、そこはケイオスと奏が初めて出会った場所だった。
「ここは……」
「私とケイオスが出会った場所だよね?ここに何かあるの?」
「……これだ。この出来事で世界が変わったんだ。ケイオスと奏が出会ったせいでこの物語は始まった……なら、やはり冥界に行くしかない……!」
「おい、1人で納得してないで話せ」
「ん?あぁ、すまん。少し場所を変えて話すよ」
真耶はそう言って時間を少し進めた。その場所は真耶が死んで、ケイオスが真耶となった日だった。
「ここは?」
奏は真耶達に聞く。そう言えば奏は今の真耶が生まれたきっかけを知らなかったなと2人は思う。
「この日は、今の俺が生まれた日だ。この日、真耶は死んでケイオスは真耶となった。そして、その記憶を元に俺を作り出した。だがな、問題はそこじゃない。問題は真耶が死んだことにあるんだ。よく見てろ」
そう言って真耶は魂眼を浮かべると、2人にその能力を渡す。そして、真耶の魂を可視化させた。
「「「っ!?」」」
2人は真耶が死んだのを見て目を疑う。なんと、真耶が死んだ瞬間真耶の魂は強烈な黒い力によって侵食され始めたのだ。
しかし、その事にケイオスは気が付かない。いや、気がつけないと言ったところだ。なんせ、真耶は……
「フッ……そりゃあ、ケイオスも気が付かない訳だ。なんせ俺の本体は……冥界の王の末裔だからな」
「「「っ!?」」」
真耶の口から放たれた言葉は、その場に静寂をもたらすだけでなく、驚きと絶望をもたらした。
「……なぁ、真耶が冥界の王の末裔ってのは本当なのか?」
「当たり前だろ。真耶は俺なんだからな。まぁ、それがわかったのはつい最近の話なんだけどな」
真耶はそんなことを言って笑う。しかし、ケイオス達は全く笑えない。
「ていうかさ、なんでまーくんの魂が冥界の王の末裔だと良くないの?」
「馬鹿か?冥界の王の末裔が冥界に行ったら冥界の王になるのは当たり前だろ」
「あ……そうか……でも、必ずしも冥界の王が敵とは限らないでしょ?」
「……いや、真耶は必ず敵になる」
真耶はそう言って顔を暗くさせた。その目には強い意志が感じられる。
「なんでそう言い切れるの?」
「……俺は真耶だ。そして、アイツも真耶だ。だから、俺はアイツでアイツは俺だ。俺は孤独を常に謳っていた。だから、アイツも孤独を謳う。アイツも俺も孤独の王となるのだ。だから、俺達と分かり合えない」
真耶はそんなことを言う。しかし、その言葉は奏にとって難しく、ケイオスさえも完全に理解することはできなかった。
真耶はキョトンとした様子で見つめてくる奏を見て人差し指を立てると、その指を奏の顔の前に突き立てて鼻を押し、豚のようにさせた。
「ふがっ!?な、何!?」
「案ずるな。全ては上手くいく……と思う。俺もケイオスも全力で策を練る。俺達を信じろ」
「ふぇ?」
真耶の言葉を聞いて奏は頭が混乱する。そして、少し離れて鼻を押えた。強く押されていたせいで鼻が痛い。なんだか鼻フックをされたような痛みだ。
だが、そんな痛みも忘れるくらい真耶の言葉は安心できた。一体真耶が何をするのか全く分からないが、それでも安心できた。
真耶は、そんな様子の奏を見つめると、生と死の精神世界の死の方向に向かって歩き出す。
「っ!?ダメ!そっちに行ったら死んじゃうよ!」
奏は慌てて真耶を止めた。すると、真耶は振り返って言う。
「馬鹿か?死ぬわけないだろ。お前らは死んだ人がどこに行くか知っているか?人は死んだ時、3つの選択肢を突きつけられる。1つ目は、輪廻転生する。輪廻転生して新しい人生をやり直すんだ。2つ目は、魂を消滅させる。魂を消滅させ、本当の死を迎える。人は魂を消滅させた時この世に復活することも、転生することも出来なくなる。それは本当の意味での死だ。3つ目は、冥界の王に導かれ冥界に行く……そう、冥界にだ」
真耶はそう言って何も無いところに禍々しい扉を開けた。その中は真っ暗で何も見えない。それどころか、その扉から手が伸びてきた。
「この門の中に俺の本体がいる。この中に行けばこれから世界で起こる異変が分かるし、それを解決する糸口も見つかるはずだ」
真耶はそう言って伸びてくる手を払い除けた。
「さぁ、行け。今この状況でどうにか出来るのはケイオス、お前だけだ。今の状況でこの冥界の門をくぐることが出来るのはお前しかいない」
「待って!私は行けないの!?」
「お前は条件を満たしていない。お前には俺と一緒に現世に復活す……」
「やだ!なんだか嫌な予感がするの!私もケイオスについて行く!」
奏はそう言ってケイオスに抱きついた。しかし、ケイオスは少し離れようとする。なんせ、真耶の策略では奏は真耶について行くのだから。
「大丈夫なのか?」
「……まぁ、俺の体も心配だが、ケイオス1人で俺に勝てるとも思えんしな。武器も全て持っていけ。俺自身の魂に含まれる魔力もだ。これは全てお前のものだからな」
「待て!それだとお前が復活した時にどうなるか分からんぞ!たとえ体を構築出来ても、その後満足した動きが出来るとも思えん!体はボロボロ、魔力回路は穴が空く。まともに戦うことも出来なくなるぞ!」
「だが、それくらいしないと冥界の王には勝てん。たとえお前が理の王者だろうとな。それに、理の王者は俺とお前が揃って初めて強くなれる。お前一人では真の力を発揮できん」
「……」
真耶はそう言ってケイオスと向き合ったケイオスは苦悶の表情を浮かべながら真耶のことを見つめ返す。
「ちょっと待ってよ!そもそもまーくんは復活して何をしようとしてたの!?」
「俺か?俺はな、復活して神を殺す。そのつもりだ」
「っ!?」
奏は真耶の言葉を聞いて言葉を失う。
「この異変の発端がケイオスと奏の出会いなのであれば、その発端を作った奴に罰を与えなくてはならない。そして、その発端を作ったのはゼウスだ。ゼウスは世界を支配するためにこうして俺を消しに来た。今こうしてケイオスという存在が世界から消滅したことで奴はやりたい放題だ。そんな奴には罰を与えなくてはならない」
「そんな……ダメよ!そんなボロボロな体でゼウスに勝てるわけないわ!」
「あぁそうだ!だから俺は奏を連れていこうとした!だがお前は拒んだ!だがな、もう俺はお前を連れていかない!1度ケイオスについて行くと言ったら曲げずについて行って貰うからな!」
突如として怒鳴り出した真耶の気迫に押され、奏ははいとしか返事が出来なかった。そして、真耶は2人を門の前に連れていって言う。
「必ず生きて帰ってこい。そして、俺の本体を殺してこい。恐らく殺せば取り込めるはずだ。それと奏、お前は条件を満たしていない。だが、今回は特別に俺が理を変えてやる。感謝しろ」
「は、はい!」
「待て!お前、ここでそんなことをしたら……」
「大丈夫だ。お前に渡す分が少なくなるだけだからな。”理滅・理変”。これで道は開けた。行け。そして早く戻って来い」
「あぁ!」
「分かったわ!」
2人は真耶の話を聞いて返事を返すと、門の中へと向かっていった。真耶はそんなケイオスに後ろから力を全て渡す。
そして、2人の姿は見えなくなった。
読んでいただきありがとうございます。