第196話 赤黒い乱入者
「っ!?」
目の前で起こったものを見てロキは驚く。なんと、目の前にアダマンタイトの壁が残っていたのだ。周りは完全に消し飛ばされている。その証拠に巨大な穴が空いてる。
「何故壊れていない!?まさか魔王が何かやったのか……!?」
ロキは驚き目を見開く。そして、アダマンタイトで出来た壁を見て手の甲にピキピキと血管を走らせた。
「……はぁ……はぁ……」
アイティールは苦しげに咳き込みながら地面に四つん這いになる。そして、ヨダレをダラダラと垂らしながら大きく口を開けて肩で呼吸する。額からは血がダラダラと垂れていた。
「大丈夫か?」
「うん……にゃん……」
「ゆっくり、ゆっくり呼吸して」
ヘファイストスは心配してアイティールに寄り添い優しく介抱をした。
「……あの技は真耶が使ってたものだろ?何故お前が使える?」
「さっきも言った通り元々はにゃあの技にゃ。にゃあが作り出した、にゃあのオリジナルにゃ。真耶がやってるのはそれの模倣」
「っ!?じゃあ、真耶のオリジナルじゃないって言うのか?」
「そうにゃ。そもそも、真耶が使う魔法や技はどれもオリジナルじゃにゃいにゃ。真耶のオリジナルは冥界の魔力だけにゃ」
アイティールはサラッとそんなことを言う。そして、ゆっくりと立ち上がって深呼吸をした。サタンは突如告げられた真実に言葉を失う。
「気付かにゃいのも無理はにゃいにゃ。にゃあもあまり使ってこにゃかったからにゃ。でも、真耶が使う剣技も魔法も、ほとんどが模倣してるものにゃ。技名とかはオリジナルにゃんだけど、根本的なところは全て模倣にゃ」
アイティールはそう言って壁に寄り掛る。すると、アダマンタイトの壁がボロボロと崩れた。
「……2発目はこにゃい感じにゃんね」
アイティールはロキを見ながらそう言う。すると、ロキが向かってきているのが見えた。
「来るにゃ!」
アイティールの合図とともにその場の全員が気を引き締めなおす。そして、武器を構えてロキを返り討ちにしようとする。
「無駄なあがきだ!”金木犀の残光”」
ロキはそう叫んで呪文を唱えた。すると、しおれていたユグドラシルの花が再び咲きほこる。先程と花の形が違うが、危険度は変わってはいない。
「まずいわ!またあの技が来るよ!」
「っ!?次は無理にゃ!」
アイティールとヘファイストスは慌てる。しかし、サタンは慌てていない。防げる自信があるからだ。しかし、ロキが迫ってきている。恐らくサタンの動きを封じるためだろう。
「さっきの技をどう防いだか分かりませんが、あなたが何かしたとしか思えませんからね。あなたには手出しないでもらいたい」
ロキはそう言ってミストルティンで殴りかかってくる。サタンは禍々しい左腕で応戦するが、力は拮抗している。
「……お前の目的はなんだ?」
「目的?教えるわけないですよ」
ロキはそう言って連続で攻撃を繰り出す。サタンはその攻撃を丁寧に捌きながらアイティール達を見た。既に光線が発射され、もうすぐ近くまで来ている。
「またあのモードに入るかにゃ……!?でも、時間が……!」
アイティールは覚悟を決めた。でも、目は閉じなかった。最後まで諦めずに生きるつもりだったから。
そして、光線は迫ってくる。迫ってきて迫ってきて、もう避けられないって分かった時、唐突にそれは起きた。
「「「っ!?」」」
どこからか赤黒い光線が放たれた。それは、ロキの魔法の起動を完璧にずらし、しかも狙いよくロキに攻撃する。ロキは咄嗟にその場から離れて難を逃れた。
「誰!?」
ヘファイストスは光線が来た方向を見る。すると、そこには赤髪の小さな女の子がいた。そう、モルドレッドだ。
「っ!?まさか……お嬢さんには悪いですが、今すぐ退場して頂きたい。”在れ。グングニル”」
ロキはノータイムでグングニルを放つ。すると、まっすぐと飛んでいくグングニルがモルドレッドを殺そうと襲いかかった。
「”重なり合う破壊光線”」
モルドレッドは両手にそれぞれ違う魔力のエネルギー弾を作り出し、それを重ね合わせて放つ。すると、凄まじい勢いで放たれた光線がグングニルの軌道をねじ曲げる。
「……!こんな力が……」
「あなたの技はわかってるわ。”α線レイ”」
さらにモルドレッドの追撃がロキを襲う。針に糸を通すような光線がロキほ腹部に突き刺さる。
「……嫌がらせ……ですかね?」
ロキは額に青筋どころの騒ぎではない。顔に血管を浮き上がらせるほど怒りモルドレッドに殺意を向ける。
「……悪いわね。私も少し譲れないものがあるの。アイティール!あなたは私と1体1で勝負よ!」
モルドレッドはそう言った。突然の宣言にその場の全員は固まる。
「一体何を言うかと思えば……不愉快ですね」
ロキはミストルティンをモルドレッドに向けた。
「いいの?あなたにとってもいいことなはずよ。それとも何?不利な状況で戦いたいの?」
モルドレッドの質問にロキは少しだけ殺気を弱くする。
「あなたは利益を優先するはず。だったら行かせてくれるよね?」
「……ま、引き止めてもいいことは無いですからね。いいですよ。2人をどこかに送ってあげますよ」
ロキはそう言ってミストルティンをアイティールに向ける。危険を察したサタンとヘファイストスがアイティールに飛びつき離れないようにする。
「邪魔ですよ」
ロキは容赦なくグングニルを放つ。ヘファイストスはそれを見て咄嗟に壁を作り軌道を変えた。だが、グングニルに気を取られすぎていたため背後からの攻撃に気づかなかった。
後ろから木の根で首を絞められ両手首を拘束される。全身に木の根が絡まり口の中まで入ってこようとする。
「うぐぅっ……!」
ヘファイストスは思わず呻き声をあげた。しかし、アイティールからは離れようとしない。
「やれやれ。私は性的な遊びを好まないと教えましたよね?でも、利益のためなら嫌いなことでもするのが私なんですよ。”鳴れ。ミョルニル”」
ロキが雷を帯びたハンマーを取りだした。ヘファイストスはそれを見て嫌な気を感じる。
「んんん!んんんんん!」
ヘファイストスは必死に叫んだ。口の中に木の根をねじ込まれているため声にならないが必死に訴えかけた。しかし、その声は届かない。サタンとアイティールが何とか木の根を剥がそうとするが、その力は強く剥がせない。
そうこうしているとロキが既に近くまで来ていた。ヘファイストスは覚悟を決めてアイティールから離れる。その刹那、木の根に超強力な電撃が走った。
「んんんんんんんんん!!!!!!!」
一瞬で頭の中をぐちゃぐちゃにする電撃が体のあちこちを走り回る。痛いところ、苦しいところ、気持ちいいところ、色んなところを走り回る。そのせいでヘファイストスの脳はトロトロに溶かされていく。
「死ね。頭が潰れてな!」
ロキの声が聞こえる。そして、ロキがハンマーをヘファイストスの頭に向けて振り下ろしていた。アイティールはそれに気づいて助けようとするが、全身を木の根が絡みつき動けなくなる。
しかし、まだサタンがいた。サタンは向かってくるロキに正面から立ち向かう。
「”悪夢拳”」
サタンの攻撃がロキに直撃した。ロキはその一撃でかなり遠くまで飛ばされる。そして、ヘファイストスは一命を取り留める。
「今よ!」
モルドレッドの声が聞こえた。それと同時にアイティールと二人で木の中に入っていってしまう。2人を包み込んだ木の根は瞬く間に地面に埋まっていき消えた。アイティールは連れ去られてしまった。
「フフ、手こずらせますね」
ロキは微笑みながらそう言った。残された2人はロキを見ながらアイティールを探すが、全く反応がない。恐らく探知魔法では探知できないほど遠くまで飛ばされたのだ。
サタンはヘファイストスの木の根を無理やり剥がし取り、体に帯びる電気を全て地面に流した。そして、回復魔法をかけて手を差し出す。ヘファイストスはヨダレを拭き取りその手を掴んで立ち上がった。
「第2ラウンドか……」
サタンは小さくそう呟いた。
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