第195話 花開く
「……」
サタンはロキを見て拳をにぎりしめる。
「……フッ、さっきまでの威勢はどうしましたか?」
ロキは不敵な笑みを浮かべて問いかけてくる。その問いかけにサタンは答えない。ただ、睨みつけるだけで何もしない。
「……真耶。お前はいつもこんな……」
サタンは小さく呟いた。これまでサタンは話に聞くだけのことが多かった。魔界の王として君臨する以上殺されることは許されざることだ。だからこそサタンが前線に赴くことは無かった。いつも後ろから指揮を執るだけだったのだ。
そして、当然ロキのことは真耶の口から耳にしていた。これまで戦ってきたどの敵よりもそこがしれない。この世界で最も危険な存在だと知らされてきた。だが、それはただの言葉でしか無かった。実際に目で見た訳では無いし、感じた訳でもない。
だが、こうして今ロキという存在を目の前にして理解し実感する。真耶の言っていたことの正当性を。アースガルズという団体で……いや、神や人、天使、悪魔に動物、この世界に存在する全ての……それらの種族を超えて、その中で頂点だと思わせる存在。それがロキなのだと理解する。
「……」
「……」
「……」
沈黙が続く。
「そろそろ、終わりの時間ですよ”咲け。ユグドラシル”」
ロキがミストルティンを握りしめ天に掲げた途端地面から巨大な木の根が生えてきた。それは、瞬く間に空高く昇っていく。そして、かなり高いところまで行くと謎の花を咲かせた。
「デカっ!?あれはやばいにゃ!」
アイティールは小さな胸をポヨンポヨン揺らしながら慌てふためく。サタンは目の前に現れた巨大な物体に驚き何も言えずにいた。
その木は不思議だった。特殊な模様で魔力を帯びている。色は黒く、中を金色の血管が通っている。そこには魔力のようなものが流れており、他を寄せつけない恐ろしさを感じる。
「消えろ。”槿花一日の光”」
ロキの言葉と共にてっぺんの花が開く。そして、花はサタン達に向いた。ロキはニヤリと笑ってユグドラシルの上まで登っていき始める。それと同時に花に高密度の魔力が溜まり始めた。
「……!」
「ヘファイストス!壁を作れ!1番硬いやつだ!」
「っ!?ま、待って!今は無理よぉ!」
ヘファイストスは顔を真っ赤にしてそう言い返す。
「なぜだ!?」
「だって!私全裸よ!こんな状態でハンマーなんて振ったら私お嫁に行けない!」
ヘファイストスは真っ赤な顔を隠し涙を流しながらそう叫ぶ。
「……全く、なんで真耶の仲間はこんな変なやつが多いんだ……?」
サタンは呆れながら小さく呟いた。そして、ヘファイストスの体に黒い影のようなものをまとわりつかせた。
「これで隠してやる。これなら良いだろ?」
「うん……ちょっとスースーするけどありがとう」
「……はっ倒すぞ」
サタンはそう言ってヘファイストスの首に闇の魔力を当てた。
「や、こ、殺さないでぇ。ちゃんとするから」
ヘファイストスは涙目でそう言う。そして、ハンマーを構えて振り上げた。
「”神官の城壁”」
ヘファイストスの技で3人の目の前にアダマンタイトでできた壁が作り上げられる。
「壁……無駄なことを」
ロキは小さく呟いた。
「……ねぇ、私の壁じゃあれは防げないわよ。見たでしょ?私の装備が全て壊されたの」
ヘファイストスはそう言って不安げな顔を見せた。そして、ちゃっかり自分の装備を作っている。
「アイツの攻撃はアダマンタイトでも防げないってことか?」
「うん。そういうこと。だから、この壁だけじゃ防げないわ」
「……分厚ければ何とかなるわけでもなさそうだからな。そんな気はしていたが、どんな威力が想像もつかん。だが安心しろ。今回は我の力も……」
「やめるにゃ。にゃあが力を貸すにゃ」
そう言ってアイティールがサタンを止めた。
「「「っ!?」」」
2人はそのアイティールの様子に驚き言葉を失う。
「何も言うにゃ。こっそり服を結んで胸を隠したことは」
「いやいや、違うってば!アイティールちゃんどうしたの!?目が3つあるよ!」
ヘファイストスは驚きながらそう言う。
「猫又か?そんな力があったとは知らなかったな」
「嫌われるから隠してたにゃ」
アイティールは涙目でそう言う。そんなアイティールの姿はなんとも言えない異形の姿だった。普通の人が見れば『怖い』や『気持ち悪い』と思うだろう。真耶なら可愛いとか言って抱き枕にするだろうが、それは真耶が特殊だからだ。
今のアイティールは少しだけ可愛くなかった。額に縦に目が開き、そこから血が垂れている。しっぽは日本に増えている。牙が大きくなり、両手が黄色い毛で覆われる。
「”来なさい。玄武”」
アイティールの一言とともに屈強な男が突如現れた。
「やるにゃんよ。”思いを繋げる。光を重ねる。共鳴””玄武天帝・亀城核壁”」
アイティールの姿がさらに変わった。そして、それと同時にアダマンタイトの壁に亀の甲羅の柄をした壁ができる。
「その技、お前も使えたんだな」
「……当たり前にゃ。これは、にゃあの技にゃ」
そう言ってアイティールはロキを見た。ロキの方からはアイティールの姿は見えていない。ロキは方誇ったような笑みで技を放つ。
ユグドラシルの花から凄まじい威力の光線が放たれた。周りの空気さえも壊してしまうような光線がアイティール達を守る壁に直撃する。バリバリと音を立てて壁は壊れ始めた。
アイティールは必死に壁を強くしようとする。壊される度に結界を生成し防ぎ切ろうとする。
そして、その光線は長く続き、空間は白い光で埋め尽くされた。
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