第194話 集結
━━王城内……
「”永劫回帰・時喰らう鎌”」
クロノスの魔法が発動した。鋭い鎌が青い光の斬撃を放ってくる。サタン達はそれを躱し、反撃の隙を伺う。
しかし、4対1とは言えど相手は相当の手練。下手に攻撃をして全滅することも有り得る。サタン達は簡単に攻撃することは出来ない。
それに、今この状況でクロノスの攻撃に反応できるのはムラマサしかいない。そんな状況だとまとまって動かなければすぐに全滅だ。
「……何か手はないのか?」
サタンは呟く。そして、魔法を使う。その場はかなり激しい戦場になっているが、誰一人として攻撃を当てた者はいない。それは敵も味方もおなじ。
燃え盛る火炎が舞い上がる中サタンはただムラマサの援護をするしか無かった。
そんな時、突如どこからか炎の弾丸が降ってきた。その弾丸はかなり強く周りの炎さえも焼き尽くしてしまう。ロキはその炎を見て少しだけ気を荒らげた。
「またせたにゃ」
そう言ってクロノスの背後に人が現れる。クロノスは咄嗟に魔法を使い時間を止める。その隙にその場から離れた。
「何故貴様らがいる?」
クロノスは問いかける。すると、猫耳の少女は言った。
「倒してきたにゃんよ。おみゃーらの味方さんは」
そう言って高らかに笑うのはアイティールだった。
「……これはかなり嫌な状況ですね」
「皆殺しにするだけだ」
ロキとオーディンはそう言って少しだけ殺気を強める。しかし、アイティール達は怖気付くこともないし、何かそれで力が弱まることもない。
「これがアースガルズですか……」
「神とはまた少し違う何かを感じるのじゃ」
ルリータとフィトリアはそう言って少しだけ冷や汗を垂らす。
「……まぁ、何人増えようと同じですよ。”在れ、グングニル”」
その言葉と共にロキは手を前に突き出す。すると、掌の目の前に黒い槍が現れた。
「正直なところ、私にとってもあなたたちにとっても戦う今などありません。義理もなければ道理もない。ですが、殺すと決めた以上確実に殺しますよ」
ロキのその言葉と共に黒い槍が放たれる。凄まじい回転をしながら空を切り裂き、闇のオーラが空間を包み込む。たった一瞬でも気を抜けば、即座に命を刈り取られる。そう思えるような闇がサタン達を襲う。
「……まぁ、そう簡単に戦況が変わることはないか。”天元神符・黒爪麟”」
サタンはそう言って札を取り出す。そして、呪文のようなものを唱え札を前に飛ばした。すると、札から奇妙な魔力が流れ始める。その魔力は燃えるように熱くなり、札の上に文字を描く。
サタンはその札に向けて左腕を突き出した。すると、左腕にぞの文字が絡まっていき、魔力が禍々しい腕を形成する。
「「「っ!?」」」
その場の全員が驚愕した。なんと、サタンは向かってくるグングニルを武装した左腕で掴んでとめたのだ。禍々しい闇の力などものともせず、平然とグングニルを掴んだ。
「いやはや、やっとその力を拝めるのですね」
「出すつもりはなかったけどね」
「いえいえ、あなたは初めから出そうと思っていた。そして、出す機会を狙っていた」
「……」
「フフフ、まぁいいです。私もずっと狙っていたのですからね。”咲け、ミストルティ……」
ロキが魔法を唱えようとした刹那、その場の全員が固まる。そして、思考をとめた。
「っ!?何っ!?」
ロキは思わずそう叫ぶ。そして、自分の胸から飛び散る赤い液体を見て苦しげな表情を見せた。
「悪いわ。わっちらの勝ち」
そう言って現れたのは無為だった。無為はいつの間にかロキの背後に忍び寄り、その手ににぎりしめるクナイでロキの心臓を1突きしたみたいだ。
「ははっ。君みたいな美女を忘れはしないよ」
そんなことを言ってニヤリと笑う。そして、無為の体ごとロキ自身の体をユグドラシルの根で包み込もうとした。しかし、途中でユグドラシルの根が切り落とされその技も途切れさせられる。
「まぁ、させないよね」
サタンのそんな言葉と共にロキはさらに楽しそうな笑みを浮かべた。そして、ミストルティンを構えて言う。
「君達は今、勝てる可能性を感じただろ?」
突然そんなことを言うせいで、その場の全員は戸惑う。
「いいかい?それはね……私も同じなんだ」
その瞬間、ロキを中心として魔法陣が展開された。サタン達は咄嗟にその魔法陣から出ようとする。しかし、その大きさはとてつもなくでかく、逃げることを許さない。
さらに、オーディンとクロノスが攻撃を仕掛けてきた。2人の攻撃によってサタン達は分断され、先程までの多数対3人の構図が完全に壊される。
オーディンとクロノスは何人かを巻き込みながらどこかに向けて飛んでいき、この場にはサタン、アイティール、ヘファイストスの3人が残る。
「……これくらいで十分ですかね。私も少々遊びましょうか」
ロキの雰囲気が変わる。そして、ロキは丁寧にお辞儀をしながら言った。
「私はロキ。遊び人です」
そして、サタン達の足元から突然ユグドラシルの根が生えてくる。サタン達は咄嗟にそれを躱した。
「たとえ分断されても、3対1で有利にゃことに変わりはにゃいにゃ!”真紅・日輪天馬”」
3匹の黄色い炎を放つ天馬がロキに向かって突撃していく。ロキはそれを見て即座に武器を召喚した。
「”突き刺せ。フロッティ”」
ロキの言葉と共に武器が召喚された。煌めく小さな粒子を撒き散らしながら禍々しい剣が天馬を貫き霧散させる。
「有利なことに変わりはない……。それは、勝ってから言うものですよ。”燃えろ。レーヴァテイン”」
ロキはそう言ってレーヴァテインを召喚する。そして、その剣を持ってサタン達に襲いかかった。
サタン達はその攻撃を難なく躱す。しかし、連続して繰り出される攻撃に多少掠ってしまうことも増えてきた。そして、ロキの鋭い一撃がアイティールを襲う。スレスレのところで躱すが、レーヴァテインの先端がアイティールの服を切り裂いた。
服は縦に切れ下着まで切られる。肉は切られはしないものの、小さな胸がはだけボヨンと弾む。
「はにゃ!?」
アイティールは顔を真っ赤にして咄嗟に胸を抱きしめる。そして、怒ったようにロキを見る。
「変態にゃ!」
「何を言ってる?私は紳士ですよ」
ロキはそう言って笑う。
「”災害の拳”」
唐突にサタンが攻撃を仕掛けた。真っ黒な拳がロキに襲いかかる。ロキはすぐにユグドラシルの根で盾を作り防いだ。
しかし、それでも少しだけダメージはあったらしい。少しだけよろけてアイティールとサタンを見る。
「”灼熱の神槌”」
ヘファイストスが上から攻撃を仕掛けた。紅蓮に燃えるハンマーでロキを攻撃する。
「全く……舐められたものですね!”消せ。ダーインスレイヴ””流星光底”」
煌めく斬撃がヘファイストスを襲う。ヘファイストスは咄嗟に防御の姿勢をとった。しかし、ロキが放った攻撃は強く、守りきることは出来ない。来ていた装備は全て砕かれ洋服は引きちぎられる。
漫画でよくある大事な部分だけさ守られるなんてこともないくらいボロボロに砕かれる。そして、身体中に切り傷をつけられ飛ばされた。右腕にちぎれそうなほどの傷が出来る。ヘファイストスは血と涙を大量に流してロキを見た。
「終わりだ!”月桂樹絢爛”」
今度は眩い閃光がヘファイストスを襲う。今、生身でこの技を受ければ生き残ることは難しい。ヘファイストスは覚悟を決めた。
「……!」
しかし、ロキの攻撃はヘファイストスに当たらなかった。なんと、途中でサタンがヘファイストスを掴んだのだ。掴んだその腕はかなり大きく、しかも伸びている。
サタンはその腕を元に戻しゆっくりとヘファイストスを引き寄せた。そして、地面におろしてロキを見る。
「変態にゃ。あいつは変態にゃ」
「紳士とか言ってるけど嘘よ」
「あいつは変態紳士にゃ」
2人はそんなことをヒソヒソと言い合っている。
「前を見ろ。お前らももう気づいてるだろ?やつの強さは異常だ」
サタンの言葉でその場の全員が気を引き締め直す。そして、ダーインスレイヴを構えるロキを見て少しだけ勝てる未来が減った気がした。
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