第193話 同じ思いだよ
━━砂煙が舞いあがる。それに、周りの空気が熱い。よく見ると、砂煙の他に黒い煙も上がっている。
「酷いもんだな」
真耶は小さく呟いた。そして、ゆっくりと体を起こす。すると、目の前には灼熱の溶岩の海が広がっていた。どうやら活火山の中まで吹き飛ばされたらしい。遠くに見える穴を見てそれを理解した。
「さてさて、どうしたものかね」
ここはアヴァロンにある火山だ。地球で見られる火山とは違って、中に空洞が存在する。噴火する時はここに火山が溜まり、高密度な魔力を核にぶつけることで噴火する。
「……」
「いつまで寝てる!?」
「っ!?」
アーサーの声が聞こえた。それと同時に巨大な剣が落ちてくる。真耶はそれを咄嗟に躱す。そして、すぐに剣を握ろうとした。しかし、手元に剣がない。どうやらどこかに一緒に飛ばされてしまったらしい。
アーサーはそのこともあってか、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けてくる。回復のすきなど与えず、連続で斬りかかってくる。
「”来い”」
真耶は手を伸ばしそう言った。すると、どこからか剣が飛んでくる。真耶はそれを掴んでそのままの勢いで振り下ろした。
二人の剣が強くぶつかる。それと同時に大量の火花が散った。そして、強い衝撃波がその場を駆け抜けていく。
「”真紅・円斬華”」
真耶が攻撃を放つ。剣の軌跡が円を描く。そして、灼熱の炎がアーサーを襲う。3回にも及ぶ攻撃はアーサーに重たい一撃を与えるが、アーサーはその攻撃を剣で防いだ。
「……!重たいなぁ!”王剣・灰塵激”」
アーサーの剣が真耶に向けて振り下ろされた。しかし、その速さはかなり遅く、避けるのも容易い。真耶は周りの地形などを完璧に記憶し、避けてからアーサーに攻撃するまでの道筋を立ててから避けた。すると、剣は空振りし地面に強くたたきつけられる。
その刹那、地面が大きく揺れた。そして、一瞬で地面から壁までに巨大で大量の亀裂が走っていく。
「っ!?」
真耶はその様子を見て思わず動きを止める。しかし、すぐにあることに気がつき火山の上に向かって飛び上がり始めた。なんと、アーサーが攻撃した場所の床が灰と塵になって壊れ始めた。
真耶はかなり速い速度で上まで昇っていく。中央にある巨岩を中心に螺旋状に登ることですぐに上まで登ることが出来た。しかし、火山の中からはまだ出られそうにない。そんなことを考えていると、下の方から強烈な魔力を感じた。
「”王剣・疾風乱舞”」
たった一瞬だった。その一瞬でアーサーは真耶がいる場所まで登ってきた。しかも、攻撃までしてくる。真耶はそれを簡単に弾く。しかし、アーサーの攻撃は止まらない。四方八方から連続で攻撃を仕掛けてくる。真耶は流れるような剣さばきで全て弾いた。
しかし、アーサーの攻撃の方が少し強かった。受け流せない攻撃のせいで真耶は壁まで押し飛ばされる。真耶は飛ばされながら体勢を整え剣を構えた。
「”旋風・つむじ風”」
真耶は地面を強く蹴りアーサーを迎え撃つ。風のような攻撃をを完璧に受け流す。そして、再び壁まで到達し、強く踏み込んだ。しかし、アーサーもそれは同じだ。
「”王剣・雷豪覇王”」
「”雷光・雷騰雲奔”」
一瞬だけ凄まじい音が鳴った。巨大で硬いガラスをバリバリに割るような音が鳴り響く。そして、青白い光と真紫の光がその場を埋め尽くす。
そして、雷が埋め尽くす空間の真ん中に大量の火花が飛び散った。それに合わせて爆発音と金属音が鳴り響いた。
マグマが揺れる。地面も揺れる。壁も空気も何もかもが揺れる。強烈な衝撃波がその場を駆け巡っていく。当然2人はその衝撃波を強く受ける。そのせいで2人とも飛ばされそうになる。
しかし、真耶はアーサーの服を、アーサーは真耶の服を掴み力を釣り合わせその場にとどまらせた。それに、当然のように2人は剣を構えている。
「”王剣・日輪斬”」
「”月光・月輪斬”」
太陽のような光と月のような光がそれぞれの剣に灯る。そして、2人の攻撃が衝突した。その刹那、その空間に強大なエネルギーが発生した。そして、2人をそのエネルギーが包み込む。
真っ白になった空間で真耶はアーサーを見失わなかった。いつ、どのタイミングで攻撃するかを探り続ける。すると、突然足元が爆発をした。そして、大量のマグマが吹き出してくる。
どうやら火山が噴火したらしい。元々かなり強い力を受けていたせいで山の形がかなり崩れていたのだが、そこに先程の技の衝突で発生したエネルギーがコアを刺激し大噴火を起こしたのだ。
しかも、崩れ掛けの山が噴火によって崩れ、火山の至る所からマグマが吹き出し爆発する。そのせいもあってかマグマが真耶達がいる場所まで上がってきた。
「っ!?」
2人をマグマが包み込む。真耶は完全に逃げ道を失う前にアーサーを蹴り飛ばし自分もその場を離れた。
アーサーはかなり遠くまで飛ばされた。しかし、きちんと着地をしてダメージを最小限に抑える。そして、近くに降りた真耶を見た。
「……殺さないのか?」
「殺したいわけじゃない」
「それが甘さだと言うんだ」
「だけど、甘さと弱さは関係ない」
「いやあるさ。”聖剣士状態”」
アーサーの体が白い光に包まれる。そして、アーサーの体に白い光の武装が現れた。どうやら強化状態になるための魔法のようだ。
「”王剣・天神絶”」
速さが上がった。真っ白い閃光が空を切り裂き降り落ちてくる。常人では目で捉えられない。たとえ冒険者をやっていたとしても、熟練でさえ捉えることは難しい。
そんな速さの一撃が降り落ちてくる。真耶はそんな攻撃を剣で受け止めようとした。受け流さず、はじき返すつもりだった。
だが、直前になって気がつく。その力量にはかなりの差があることに。たった一瞬、魔法を使わせただけで実力の差が顕著になる。戦いというのはそういうものだ。
「……甘さが弱さだと言うなら、俺はずっと弱いままってことだな」
そんな一言と共に真耶の心に黒い闇が灯る。
「”冥導状態”」
声が聞こえた。しかし、アーサーはそれを無視する。無いものだと決めつけ、幻想だと思い込む。そして、その強烈な一撃が真耶を殺したと感じた。
「そしてそれは、幻想でした」
真耶の言葉と共に砂煙が飛んでいく。そして、そこから現れたのは、全身を真っ黒に染めたように暗い暗い闇に包まれ、まるで悪魔のような武装をした真耶だった。
「初めて見るな」
「同じくね」
「このために練習した」
「それも同じ」
「あのモードに入らないのか?」
「入るまでもない。そう理解した。お前の力は俺に及ばない」
2人はそんな会話をする。そして、アヴァロン中を駆け巡る激しい戦いは再び始まった。
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