第192話 永劫回帰
━━その頃王城では激しい戦闘が繰り広げ……られていなかった。まるで、獲物を確実に仕留める虎のように、全員が静かに睨み合う。
それに、今この場に現れた男はこの場の中では最も警戒すべき者でもある。そのこともあってか全員迂闊には動けなくなった。
「……やれやれ、オリュンポスは出来損ないの集まりですか?」
「何?貴様、オリュンポスを愚弄する気か?」
「どうでしょうね。私は事実を述べた迄。現に1人倒れてる人がいますよ」
ロキはそう言ってアレスを睨みつける。アレスはその目に怯むことなく睨み返した。サタンはそんな2人の間にいてかなり警戒する。敵の敵は友だと言うが、この状況だと三つ巴の戦いだ。
「まぁいいですよ。”咲け、ユグドラシル”」
ロキはそう唱えて杖を地面に付いた。すると、地面から少し小さい木が生える。そして、その木が花を咲かせた。
「私はね、私のやることに不利益かどうかで判断する。そして、判断した結果君達は消すべきだと決定したわけだ。”沈丁花の鱗粉”」
ロキが杖で地面を叩くと、花から大量の鱗粉が撒き散らされる。そして、それは光を帯び集まり、サタン達に向けて光線となり発射された。
「ヤバすぎる……!」
サタンは咄嗟に魔法を使う。最初は避けようと思っていたが、そんな考えはすぐに無くなった。向かってくる光線は想像の100倍以上の量で、避けられないからだ。
咄嗟に出たサタンの魔法が城壁となりサタン達を光線から守る。しかし、外壁などはボロボロに砕かれ砂煙が舞い上がった。
「なんだ?仲間ごと殺す気だったのか?」
「仲間?笑わせる。どこにそんなものがいますか?私はね、弱い者が嫌いなんですよ。不利益でしかない」
ロキはそう言ってさらに杖をサタンに向け攻撃を仕掛けてきた。木の根のような太い何かはサタンを確実に殺そうと狙いを定める。サタンはすぐにその場から離れ攻撃を躱した。
「話が違うぞ!ロキ!貴様らが手を貸してほしいと言ったから……っ!?」
「「「っ!?」」」
「うるさいですよ」
その時、全員が完全に固まった。なんせ、突然アレスの腹に矢が突き刺さったのだから。そんな技誰も見た事がない。普通の武器召喚ならまだしも、召喚する場所を選べるなんて次元が違う。
「魔王。君はまだ自分の力を出していない。さぁ、見せてもらいますよ」
ロキはそんなことを言いながら空中に不思議な形の剣を取り出した。その剣は炎が揺らめいているのを再現してるように少し曲がっている。
「フランベルジェ……?」
「違いますね。レーヴァテインですよ」
ロキがそう言ってその剣を振ると、凄まじい勢いで炎の波が襲ってくる。サタンは咄嗟に飛び上がり炎から遠ざかった。
しかし、ちょうど着地しようとしたところに向けてモルドレッドがハドロン砲を撃ってくる。サタンは防御魔法でそれを弾き背中の剣を抜いた。
「……全く……邪魔をしないでもらえないですかね。私は女性だろうと幼女だろうと関係なく罰を与えますよ」
ロキはそう言ってモルドレッドに殺気を飛ばした。すると、モルドレッドの頭の中に自分の体の四肢が切り落とされ三日三晩どぶとい針を突き刺され続ける映像と痛み、感覚など全てが流れ込んでくる。
「っ!?おぉぇ……!」
モルドレッドはそれに耐えきれずに血の涙を流しながら嘔吐した。その体のどこに入っていたのかと言うほど吐き出してしまう。胃液も全て出てるのではと思うほどだ。
「……弱いですね。私は性的遊びを嗜むのは好きじゃないのでね、こうして痛みを与える方が好きなんですよ。ま、邪魔者も減ったので、4人まとめて来てもらって結構ですよ」
ロキはそう言って微笑む。サタンはそんなロキを見ながら走り出した。その手には禍々しい剣が握りしめられている。
「”グラビティスラッシュ”」
サタンが剣を振ると強い重力を持った斬撃がロキに向かっていくつも飛んでいく。ロキはその斬撃をレーヴァテインで軽く切り裂いた。
「”赤一文字”」
ロキが剣を振った時、その隙を狙ってムラマサが攻撃を仕掛けた。神速に近い速度の抜刀がロキの首を狙う。通常、この速度の攻撃は躱すことも防ぐことも出来ない。
「「「っ!?」」」
しかし、ロキはそれに反応した。軽くあしらうように剣を弾く。そして、灼熱の炎を纏わせ攻撃をしてきた。
「”燃えろレーヴァテイン”」
獄炎が龍のように燃え盛り始めた。今度は確実に2人を殺そうとしている。この距離でこの技を喰らえば避けることは難しい。
「……?」
しかし、炎は当たらなかった。2人の体は霞となって消える。
「あぁ、またそれか」
ロキは小さくつぶやく。そして、気がついた頃には周りはもう煙に包まれていた。
「中々に強い技ですね。攻撃できなくてもこれが出来れば上等ですよ。いやはや、面倒だ。”育てミストルティン”」
ロキのその言葉で花が咲いたミストルティンが突然現れる。そして、ロキはその杖で地面をトンとつついた。すると、大量の植物が生えてくる。その植物は煙を全て吸い込んだ。
「無駄ですよ。全てね。そろそろ終わりにしましょうか」
ロキはミストルティンの花を枯れさせニヤリと笑った。そして、なにか合図のような動きをする。すると、空から凄まじい勢いで何かが飛んでくるのがわかった。
「っ!?」
サタン達は咄嗟にその場から離れる。すると、それまでサタン達がいた場所にとてつもなく邪悪な槍が降ってきた。
「グングニルか!?」
サタンは思わず叫んだ。
「全く……やっとか」
「もっと早めに呼ぶべきだったね。時間がかかるのは嫌いなんだ」
そう言って空から2人の男が降りてくる。1人はオーディン。でも、もう1人は見たことがない。ただ、少なくともオーディンと同じレベルの存在だということはわかる。
「なぜさっさと殺さない?”永劫回帰・蘇る記憶”」
その刹那、再びグングニルが降ってくる。
「っ!?」
サタン達は突然のことに動揺し動きを止める。すると、その隙を狙ってもう1人の男が鎌を持って迫ってきた。
「時間魔法……。クロノスか!」
「今気づいたか」
クロノスは一瞬でサタンの背後に移動した。そして、その首に向けて鎌を振り下ろす。あと少しで首を切り落とされるという時に、ムラマサがその間に入ってサタンを救った。
さらに、ムラマサが鎌の刃を剣で防いだのと同時にペテルギアがクロノスの心臓を太い針で貫いた。
クロノスの胸には女性の腕くらいの大きさの針が突き刺さっている。血はだくだくと流れ、誰がどう見ても瀕死だ。
「意外とあっさりしてるな」
サタンは嘲笑うようにそう言った。しかし、クロノスはかなり聡明だ。そういった挑発には引っ掛かりはしないらしい。それに、胸に大きな傷を負ったにも関わらず慌てもしない。まるで、何も無いかのように平然としている。
「”永劫回帰・巻き戻る時間”」
その瞬間、クロノスの姿は消え、一瞬でオーディンの隣に転移した。しかも、傷は全て治っている。
「能力的には真耶が使う『忘却』と似てるのか?」
「失礼だな。あれと俺の技を同じにするな」
クロノスはそう言って鎌を振り下ろしてくる。しかし、何度もその攻撃をムラマサが弾く。
瞬間的に現れ、瞬間的に消えるクロノスの攻撃はサタンには対処のしようがなかった。しかし、唯一ムラマサのみがその速さについていける。だから、この戦いにおいてムラマサはかなり重要だ。
ロキもオーディンもそれに直ぐに気がついた。そして、ムラマサに向けて攻撃を放つ。サタンもそのことに気づいていたため、ムラマサに向けられた攻撃を全て弾いた。
サタン達の戦いはより一層激しくなったのだった。
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