第191話 剣技の極地
眩い光が一瞬だけ強くなった。そして、紫色の稲光がたった一瞬でいくつもできる。それに合わせてアーサーの体に傷が出来ていく。
「……」
アーサーは冷静に分析した。そして、見えはしないが感覚で攻撃を防ぐ。
「……速えーよ。”王剣・地殻激動”」
アーサーは力強く剣を斜めに振り下ろした。すると、地面が激しく揺れ動く。そのせいで、足場がかなり不安定になり、稲光も少し揺らめき出した。
さらに、湖に大きな波が発生し、二人を飲み込もうとする。アーサーは自信ありげな笑みを浮かべながら飛び上がると、何度も空中を蹴りその場から離れた。
「やられたか……。俺の技を利用してこんな技を。剣を振っただけで軽い天変地異が起こせるとか……俺より人間離れしてんじゃん」
真耶は小さな小島のような場所に止まり、そう呟く。そして、アーサーを見つめた。このまま真耶を波で飲み込んでとどめを刺すつもりだろう。だが、真耶もそこまで甘くは無い。
真耶は向かってくる波を足場に飛び上がりアーサーに攻撃を仕掛ける。
「”雷光・八雷神”」
真耶の剣に雷が落ちる。そして、真耶は瞬きをする暇すら与えず一閃を繰り出した。
「っ!?」
アーサーはそれに対応出来ない。その隙に真耶は全身を雷で包む。
「……終わらせる」
真耶がそう呟いた刹那、アーサーの笑みが真耶の目に映った。そして、アーサーが構えを取っていることに気がつく。
「悪い。負けられねぇんだわ。”覇王の構え”」
「っ!?」
その時、真耶の目には死が写った。周りには鎌を持った死神がいてもおかしくない。そう思えるほどに死が近づいているのだとわかった。そして、真耶の中の防衛本能が全力で体を左にそらす。すると、気がついた時には片腕を失って岩山に激突していた。
微かに覚えていることは、あの瞬間だけスローモーションになったこと。そして、アーサーが秘技を習得していたことくらいだ。
(構え……か。古代の格闘戦術の中にあったな。剣術に似てるが、少し違う。本来跳ね返す系統の魔法は、『魔法のみ』の時や、『物理攻撃のみ』と制限が付くが、あれは違う。制限なしに攻撃と判断したものを全てはねかえす技)
「まさかあれを習得したとは。暇かよ」
真耶はそう呟いて右腕を物理変化で再生させる。全身には電流が流れており、自分の技を食らったのだとわかる。
「そっくりそのままお返しされちまったか。まぁ、最初の段階で跳ね返されてよかったな。最後のは……ほぼ即死だっただろうな」
真耶は少しだけ笑いながらそう呟く。正直なところ、そっくりそのまま跳ね返すだけなら弱い能力だと思うだろう。メタい話をすれば、異世界の王で、かつ真耶の親友ともなればかなり強い部類の敵となる。それならば、2倍にして跳ね返すとかの方が強く思える。
しかし、アーサーの使う『構え』には、それらの能力すら影って見えるほどの能力があった。それは、全てはねかえすことが出来るということ。先程も言った通り、あの技に制限はない。構えさえ取ればたとえ核爆発のエネルギーすら跳ね返してしまう。それがあの技だ。
「……やってらんねぇよな」
真耶はそう呟いてアーサーを探す。すると、目の前の湖の上を歩くアーサーを見つけた。
「”真紅・火之迦具土神”」
真耶はアーサーに向けて獄炎の刃を放つ。その刃はかなり大きく、山と比べても対して変わらないほどの大きさがあった。そんな刃が湖の水を蒸発させながらアーサーを襲う。
「アイティールに向けちゃいけない技なんだけど、どうだろうか」
真耶はそんなことを呟く。すると、アーサーが構えをとっていることに気がついた。
「”羅針の構え”」
そして、アーサーに向かって進んでいた攻撃がそっくりそのまま跳ね返ってくる。真耶はそれを見てすぐさまその場を離れた。
「やっぱり無理か。威力が高いと跳ね返せないなんて言う制約は無しか」
真耶はそう言いながらアーサーに近づこうとする。しかし、その時跳ね返ってきた炎の斬撃が真耶に向かってきていることに気がつく。
「……追尾してるのか?」
真耶は呟く。そして、アーサーの構えを見た。
『構え』という技にはもう1つ隠された能力がある。この能力は『構え』を習得した人にしか分からないのだが、構え方によっては固有の能力を出せる。例えば、最初のアーサーの構えだと自分の中の気力を1段階上げるとか、今の構えだと気力を持つものに追尾するとか。
単純に跳ね返すだけじゃないのがこの技の強みでもある。ただ、構えによっては習得難易度が高いし、時間がかかるため覚えてない人の方が多いのだが……。
「”水禍・速雨”」
真耶は剣を強く握る。すると、突然スピードが上がった。真耶が通った跡には水の残像が残る。
そして、アーサーの近くに一瞬で移動し切りかかった。しかし、アーサーは構えを解き普通に防ぐ。そのまま真耶の剣を弾き返し少しだけ離れた。
「”王剣・雷華残焼”」
アーサーの剣が雷を帯びる。そして、タイミングよく向かってきた真耶の炎の斬撃がアーサーの剣にまとわりつく。
アーサーはその剣を握りしめ真耶に連続攻撃をしかけた。素早い一閃が何度も真耶を殺そうとする。そして、まとわりつく炎と雷がさらに攻撃をしてきた。
真耶はその攻撃を全て躱し、速度をさらに上げる。水面には転々と別の場所で波紋ができ、それがどんどん広がっていく。そして、神速に近づくにつれアーサーに向けて攻撃も仕掛け出した。
アーサーはその攻撃を華麗な剣さばきで全てはじき返す。しかし、どれだけ弾いても全方向から連続して攻撃を仕掛けてくるため、ほとんど終わらない。アーサーは少しだけだが追い詰められたような気分になる。
「……」
真耶の剣がアーサーの首元まで迫った。無言で切りかかってくるその様子はまるでホラー映画のサイコパスのようだ。しかし、アーサーにとってそれはかなり良かった。
「少し遅いかな」
そう言ってアーサーは真耶の剣をはじき飛ばして蹴り飛ばす。それも、かなり強い力で。真耶はとてつもない速さでかなり遠くまで飛ばされた。ちょっとした山なら簡単に貫いてしまうほどの威力でどこかに飛んで行ったのだった。
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