第190話 水面上の雷光
全身に痛みを感じる。それに、何故か体温が高く感じる。真耶はそんなことを思いながら足元を見た。
大量の血が流れている。まるで水溜まりの上に落ちたかのように血が流れている。それに、瓦礫も落ちている。壁が頑丈だったから貫通はしなかったが、だいぶ壊されたらしい。
「何なんだろうな……」
真耶は呟く。
「俺には覚悟がなかったのかな」
さらに呟く。
「アーサーは決まってたのかな」
真耶の独り言は止まらない。
「俺はお前を……殺したいわけじゃないとか言ってる暇は無いのかな。でも、どうしても後手に回ってしまうんだよ。殺さなくちゃいけないのに、殺せないんだよ。俺の力じゃ無理なのかもしれないけど、殺す以外で何とかしたいんだよ。だからこそ俺は、お前を……殺す気で、倒さなきゃならないんだよな」
真耶はそう言って剣を握りしめた。その瞬間、真耶の体に何かが乗り移ったかのように雰囲気が変わる。そして、魔力の流れ方も、質も、ほとんどが変わってしまった。
「……全部終わったら、アイティールと二人でイチャコラしたいな。アイスとか食べさせたり、ヨガとかさせたいな。あとは……映画見て、漫画読んで、絵本を読み聞かせて、猫耳触って……あの時伊邪那美とやりたかったことを今の伊邪那美……まぁ、アイティールの事だけど、とりあえず遊びたいな。一緒に」
真耶はまるでこれが最後とでも言いたいかのように願望を述べ続ける。
「やりたい事ばっかだ。……てか、まだ日本にいた時やってたゲームクリアしてないし。動画配信者になりたかったし。なんならRTAの世界記録出したかったし。忘れてたけど、オタク家業が忙しかったんだわ。ほんとやれやれだぜ」
真耶はそう言いながら歩く。アーサーがいる場所に向けて歩いていく。しかし、アーサーは馬鹿では無い。即座に真耶を11人で取り囲む。そして、剣を向けて殺す意志を見せた。
「好都合だよ。全部ね」
「この状況を見てもそう言えるのか?」
「うん。俺にとっては、どんな状況であれ好都合だ。覚悟も決まったし」
「……話は……したかったな」
「もういいよ。俺にとって、お前は大切だ。そして、好敵手でもあった。拳とか剣とか交えた時点でもう心の内は分かってる」
「……それは嘘……だろ?」
「……そう思うなら、お前も俺の剣を受けて感じ取ってみろ。俺の考え、意思、思いを!」
真耶がそう叫んだ瞬間、この場を埋め尽くすような魔力と気力を感じた。殺気とは違う気力はアーサーにとって驚きのものだった。そして、何となく真耶の考えを理解する。
「これは使うつもりがなかったんだがな。”冥剣・修羅落とし・斬”」
その刹那、真耶の剣が振り下ろされた。しかも、何回も。全く見えない斬撃はたった一瞬のうちにアーサーの影を全て切り裂き蹴散らす。アーサー本体はギリギリ剣で防ぐことは出来たが、それもただのまぐれだ。
「まだだ。”蓮葉蓮華・阿修羅お……」
その時、突然天井が崩れだした。
「え……?」
そして、壁が無くなる。その光景に真耶は思わず声が出る。しかも、よく見ると真耶の攻撃で王の間の壁はほとんど吹き飛んでいた。ギリギリサタン達がいる場所の壁と天井が残っているくらいだ。アーサーは降ってくる天井を全て粉々に砕き難を逃れる。真耶は降ってくる瓦礫やら何やらを全て躱す。
「技が途中で止められたか。ここからが本番だったんだが、まぁいい。次の機会にしておくか」
真耶がそう言った瞬間、サタン達がいる方の壁が壊された。そして、アレスとムラマサが飛び出してくる。どうやら向こうの戦いもかなり激しくなってきたようだ。
「三つ巴か……戦いにくいな」
そう呟くと、サタンがアレスに攻撃を仕掛ける。どうやらムラマサを手伝おうとしているみたいだ。真耶はムラマサ達はサタンに任せることにして、アーサーを見る。
「真耶……。”王剣・エクスカリバー”!!!」
アーサーは大ぶりの一撃を与えようとしてくる。普通ならこんな攻撃躱すところだが、アーサーのこの攻撃は無力化しない限り避けてもほとんど意味が無い。どうせ余波でかなりダメージを食らう。
今ここでダメージを最小限にするには、受け止めるか無力化するかの二択。そして、無力化するには受け止める意外にない。
「だけど、追撃があるって訳か……。”冥剣・猛り狂う魂の斬撃”」
真耶が剣を握った刹那、真耶の魂が分身する。そして、5つの分身体が現れた。その分身体はそれぞれ斬撃を放つ。そして、当然のように真耶本人も剣を振る。
そして、真耶はアーサーの強烈な一撃を受け止めた。さらに、斬撃がアーサーの追撃をひとつ残らず撃ち落とす。
「……」
「俺は……やっぱり王には向いてないよ」
真耶はそう言ってアーサーを蹴り飛ばそうとする。すると、突然体を誰かに蹴り飛ばされた。そのせいでかなり遠くまで飛ばされる。
真耶は飛ばされる中アーサーを見た。しかし、アーサーの周りには誰も居ない。
「……!俺の知らない……アーサー……」
真耶がそう呟くのと同時に水面に叩きつけられた。そして、そのまま深いところまで突っ込んでいく。真耶が水に入った時とてつもなく大きな水柱が立ったせいで、辺りには雨が降った。
真耶は水の中で頭を冷やした。そして、冷静に考える。
(……湖……あそこか。それで、アーサーの攻撃……あれは……)
真耶はすぐに水面に上がる。そして、陸地に上がって息を整えた。水に落ちたせいで服が濡れて重くなっている。それに、ここはかなり冷たい地域だ。アヴァロンにいた時に何度が来たことがあるが、冷帯の地域で冬には湖に氷が張っていた。
そのせいか手足が震えている。どんなに真耶が嘘つきでも、体はかなり正直なようだ。
「強がりも、体は見抜いているわけだよ。真耶、君は我には勝てない。諦めろ」
「……水に落ちたのは2度目かな。でもその言葉は何度も聞いたよ。悪いけどその要求は応えられない。みんな忘れてると思うけど、俺はこれでもオタクなんでね。こういう激アツ展開の流れは知ってるよ」
「……そう言えばそういうキャラ付けだったな」
「キャラ付けって……これはギャグ小説じゃないんだけどね。まぁ、それの他にも理由はあるけど、とにかく俺は諦めることは出来ないんだ」
真耶はそう言ってアーサーに人差し指を差し向ける。
「……なんだ?失礼なや……っ!?」
アーサーがなにか言おうとした時、真耶が指を横に向けた。すると、アーサーの体がその指の方向に向かって飛ばされる。そして、その方向にあった山に激突した。
「ちょうどいいステージだ!ここは山に囲まれてるからな!雷系統の技は呼吸法とか型とかよく分からんし、速くて光るから気分悪くなるし目が痛くなるけど、ここはやっぱりあれ使わなきゃだよな」
真耶はそう言って地面の土を少しとってその土を『物理変化』でサングラスに変える。そして、それをかけて剣を構えた。
「”雷光・飛電残響”」
そして、真耶は雷のような速さでアーサーに突撃した。アーサーは避けきれずに何とか県で防ごうとする。しかし、真耶が山に足をつけた瞬間、山が少し削れた。そして、波のようなものが周りの山と反響しているのがわかった。
「これは……っ!?」
アーサーら慌ててその場から離れる。しかし、その反響は既にかなりの強さになっていた。超音波のような反響の波がアーサーの聴覚を奪う。そして、真耶は並の視覚ではとらえきれない速さでアーサーに斬りかかった。