第189話 小さな何か
サタンは静かに見ていた。真耶とアーサーの戦闘が始まってから、ずっと見ていた。ラウンズが何度も攻撃を仕掛けてくるが、そんなことはお構い無しに真耶達を見ていた。
「お前……舐めるなよ」
ランスロットがそう言って切りかかってくる。その速さはかなり速かった。だが、今この状況だとかなり遅い部類に入るのだろう。サタンより遅い様であれば、速いとは言い難い。
「邪魔をしないでくれ」
サタンは片手を振り払う。すると、ランスロットに向けて重力を集めた球体が飛ばされた。それはランスロットにぶつかり壁まで吹き飛ばす。
「……サタン……よね?アーサーの弟の。あなたはなんで真耶を庇うの?」
突然モルドレッドが聞いてくる。その瞬間も他のラウンズは攻撃を仕掛けてくる。サタンはそんなラウンズの攻撃を捌き、反撃をしながらモルドレッドの問いに答えた。
「仲間だからな」
「”また”裏切るかもしれないのよ」
「”また”?我は1度も裏切られたことは無い。お前はまだ全てを知ってないだけだ」
「知ってるわ!知ってるからこそ真耶をなぜ庇うのか分からないの!真耶は……この世界の、混乱の原因なの」
モルドレッドはそう言った。すると、サタンは少しだけ笑って言った。
「違うな。お前は真耶が”加害者”のように言っているが、あいつは”被害者”だ。本当は苦しみなど無い、ただのんびりとした、幸せな生活を送りたいはずなのに、たった一つのことが足りないだけであいつは混乱に巻き込まれたんだ」
「たった一つのこと?」
「そうさ。たった一……信頼だよ。アイツは生まれてすぐ親から捨てられた。それは知ってるだろ?生まれてすぐ親の信頼を奪われ、伊邪那美が殺されたことで、人からの信頼を奪われた。そして、お前があいつに殺気を向けたから……」
「違うわ!私は真耶に殺気を向けたりなんか……」
「してるだろ!お前はいつだって真耶を憎んでいた!殺したいと願っていた!お前が記憶をなくした真耶に会う前も、会ったあとも、記憶を取り戻した真耶に会った時も、お前はどんな時だって真耶への殺気を消さなかった!俺はずっとみていたからな。分かるんだよ」
サタンの言葉がモルドレッドに突き刺さる。そして、気がつけばラウンズの全員がやられていることに気がついた。
「お前は本当は知っていたんだろ?真耶がした事、そして、記憶を改ざんしたことも」
「っ!?」
「いや、それよりももっと何かあったんだろ?我はそこまでは知らない。だが、お前のその真耶への憎しみや殺意は簡単なことでは手に入らない」
サタンはそう言って背後を振り返る。すると、少しだけ強い魔力を感じた。恐らくムラマサと夢幻達の戦いが激しくなっているのだろう。
「お前はどこまで知っている?気づいたわけではなかろう?見てきたか、誰かに聞いたか、そもそもその場にいて経験したか……。お前は何者だ?なせわそこまで真耶を憎む?」
サタンの言葉が重たくモルドレッドにのしかかる。
「な、何を言ってるのかさっぱりだわ」
「フン、まぁいい。なんにせよお前の行動や思考が真耶なら信頼を奪ったわけだ。お前はそれを人のせいにして責任をなすりつけようとしている。かなり悪質な女の子だな」
「……」
モルドレッドはサタンの言葉に何も言い返さなくなった。そして、ただじっくりと睨みつけるだけ。
「っ!?」
その瞬間、サタンはなんとも言えない恐怖を覚えた。それは、小さい頃にどこかで感じたものだった。まるで何もかもを飲み込み、何もかもを消し去ってしまいそうな、殺気のような、よく分からないものだ。
「なるほどね。何となく理解した。お前はここで消しておくべきだ」
モルドレッドの言葉を聞いた瞬間、サタンは魔法を唱えた。その魔法はピンポイントでモルドレッドにぶつかりモルドレッドを吹き飛ばす。
「”グラビティホール”」
サタンはさらに魔法を唱えた。すると、モルドレッドの体に3つほど重力場が出来る。しかも、この重力場はものすごい吸引力を持っており、体を引き裂こうとする。
「”ハドロンブレイク”」
モルドレッドは何も気にせず魔法を唱えた。黒い粒子砲が重力場を消し去りサタンを狙う。サタンはそれを躱してその場から離れた。すると、先程までサタンがいた場所に光線が降ってくる。
「……あなたって、本当に見透かした目をしてて煩わしいわ。なんかこう……殺したくなる目をしてるわ」
モルドレッドはそう言って手のひらの前に黒いエネルギーの球体を作り出した。恐らくハドロン粒子の塊だろう。
「確実に殺す。絶対ね」
モルドレッドはそう言ってハドロン粒子の球体を握りつぶした。すると、球体が弾け飛んで小さな球体がたくさん出来る。
モルドレッドが手を広げた瞬間、無数のハドロン光線がサタンを襲った。
「”メガハドロン砲”」
サタンは何かを感じモルドレッドを見る。すると、これまで放ってきたハドロン光線が3つ分ほどのエネルギーを持ったハドロン粒子が集められていた。
そして、モルドレッドはそれをサタンに向けて放った。ハドロン光線は地面を抉りながらサタンを襲う。
「”グラビティウォール”」
サタンは咄嗟に魔法を使う。強い重力を持った壁がハドロン光線の軌道をねじ曲げる。そうすることで、サタンに被弾しないようにした。
「当たったらヤバいな」
サタンはそんなことを言って少しだけ隠れた。そして、周りを見渡す。扉の向こうからはとてつもなく強大な魔力を感じる。そして、それは部屋の中からも。
サタンはチラリと真耶達を見た。何故かアーサーが11人いて、真耶が追い詰められている。しかし、今のサタンにはそれを助けるすべがない。
そう思っていると、壁に大きな衝撃が走った。どうやら真耶が飛ばされて壁に衝突したらしい。
「……早めに終わらせなければならないか……」
サタンはそう言って札を取り出した。
「……これはまだ使わないでおこう」
サタンはそう言ってモルドレッドを探した。そんなことをしていると、突然真耶達の方から凄まじいエネルギーを感じた。
読んで頂きありがとうございます。