第18話 冷たい炎と熱い氷
真耶は闇堕ちの騎士の前に立つと、静かに魔力を溜める。そして、背中から羽を生やした。その羽はどこかドラゴンに似ている。
さらに言うなら、纏っている鎧もとこか龍の鱗のようだ。真耶はそんな龍に包まれた状態で闇堕ちの騎士の前に立つ。
「さて、やるとするか」
真耶はそう呟くと、自分の鱗を1つ剥がしてそれを剣に変えた。
「ほぅ、不思議な魔法だな。だが、弱ければ意味は無い」
「弱いと思ってると死ぬよ。いや、思わなくても死ぬよ。てか死ねよ」
真耶はそう言って剣を構えた。その剣には紫色の炎がまとわりついている。
「紫の炎……初めて見たぞ」
「そうか、じゃあ対処は難しそうだな」
闇堕ちの騎士の言葉に対して真耶は少し冷たく言い返す。そして、何も言わずに突然駆け出した。
「突然来るとは……愚かな!”黒雷”」
闇堕ちの騎士は黒い雷を発生させた。その雷は真耶を容赦なく襲う。しかし、真耶もそう簡単にやられる男では無い。
「”氷焔・氷結の魔術”」
真耶の手から凍てつく魔力が放たれた。その魔力は空気さえも凍りつかせながら突き進んでいき、黒い雷を凍りつかせた。
「死ね」
そう言って剣を振り下ろす。しかし、闇堕ちの騎士はそれを防いだ。そして、反撃を仕掛けてくるが真耶はそれを避けて再び距離をとった。
「……っ!?」
その時、真耶は突如体に異変を感じた。そして、心臓に激痛が走る。
「ん?なんだ……その状態も長くは続かないのか……弱いな。そんな状態で勝とうと思ってたとは愚かすぎるぞ!」
「……フフフ、そうかもしれないな。だがな、愚かでもなんでもやるしかないんだよ。世界を変えるためにはな」
真耶はそう言って力を溜めると、背中の羽を羽ばたかせ空に浮かび上がった。そして、その羽で風を起こして嵐を呼び起こす。
「あぁ……なんという力だ!だが、その程度では私には勝てない!」
闇堕ちの騎士はまたもやそんなことを言ってくる。
「お前、さっきからそれしか言わねぇじゃん。頭腐ってんのか?」
真耶はそう呟くと、龍の剣を構え、炎と氷を纏わせた。
「フハハハハハ!”地獄斬”」
闇堕ちの騎士はそう言って剣を構えて向かってきた。
「さっき自分で言ってただろ。その行為は愚かだって。”真紅・炎神・紫”」
真耶は剣にまとわりつく全てを紫色の炎に変えると、目にも止まらぬ速さで剣を振った。すると、無数の紫色の炎の斬撃が飛ばされ闇堕ちの騎士を襲う。
さすがの闇堕ちの騎士もその全てを防ぎ着ることが出来ず、いくつかその斬撃を食らって傷がついた。しかし、それでも闇堕ちの騎士は向かってくる。そして、真耶に攻撃を当てようとする。
だが、今真耶がいるのは上空だ。そして、真耶には羽があって闇堕ちの騎士には羽がない。空中戦では機動力のある真耶の方が有利だ。
真耶は羽を使って攻撃を全て避ける。闇堕ちの騎士はヒラヒラと舞う真耶に中々攻撃を当てられず、そのまま地上へと落ちていく。
「卑怯な。降りてきて戦わぬのか?騎士道の欠けらも無いな」
「俺は騎士じゃないからな。これは殺し合いだ。どんな手を使ってもお前を殺す」
「悲しい男だ」
「どうでもいいよ。そんなこと。それより、もうそろそろ使うとするよ。この状態だからこそ出来る必殺技をね」
真耶はそう言って剣を鞘に収める。そして、右手に炎、左手に氷を作り出した。
「こういう氷とか炎とかってさ、要は温度の変化なんだよね。魔力の温度が高くなればなるほど炎に近づき、低ければ低いほど氷に近づく。じゃあ、この温度が0になった時どうなると思う?」
真耶はそう言いながら両手に作り出したものを合わせていく。すると、2つの魔力が混じり合い白く発光し始めた。
しかし、その白い光は瞬く間に黒い光へと変わっていく。
「答えは簡単。熱い氷と冷たい炎が出来るだ」
その刹那、黒い光が収まり中から紫色の炎が現れた。しかし、不思議なことにその炎を持っている手は凍っている。
「さぁ、始めようか」
真耶はそう言ってその炎を闇堕ちの騎士に向けて放った。すると、炎は空気を凍りつかせながら闇堕ちの騎士を襲う。
「っ!?なんだと……!?」
闇堕ちの騎士は何とかその炎を避けて、炎が触れた部分を見た。すると、その部分は全て凍りついている。
「これがこの状態の真の力だよ。”氷焔・凍てつく炎”」
真耶の右手から再び黒い炎が放たれる。その炎は触れた部分を全て凍りつかせた。闇堕ちの騎士はそれを見ながら色々模索して黒い炎を放つ。
しかし、冷たい炎は冷たいとは言っても炎だ。そのため、炎では消えないし相殺することも出来ない。たとえ水をかけたとしても、その水を凍らせてしまうだろう。
「お前、さっき降りて来いって言ったよな。いいぜ、降りてきてやるよ」
そう言って真耶は地上へと降りてくる。そして、剣を構えた。
「”氷焔・獄炎斬・反転”」
真耶は剣に黒い炎を纏わせると、闇堕ちの騎士に向かって駆け出した。闇堕ちの騎士はそれを見て少し考えると、今度は黒い氷を剣に纏わせる。
そして、2つの刃が交わった。その刹那、2つの剣から砕けた氷が散らばる。その氷は星のように煌めきながら2人を照らす。そして、真耶はそんな中再び羽を羽ばたかせ風を起こした。その風は周りにちらばった氷の破片を全て吹き飛ばす。
「”氷焔・凍結閃・反転”」
真耶は今度は剣に氷をまとわりつかせた。どちらかと言うと凍りついたような形になっているが、その剣で闇堕ちの騎士を切り裂こうとする。
闇堕ちの騎士はそれを見てすぐにその場を離れた。前回は何とか同じ氷で相殺できたが、次に上手くいくとは思えない。それどころか、失敗すれば命は無い。それが分かっているから闇堕ちの騎士はその場から離れた。
「”鳴黒の波動”」
闇堕ちの騎士は黒い波動を放つと、真耶に向かって突っ込んできた。しかも、うるさい。爆音を鳴らしている。
「……フハハハハハ!これが防げるか!?」
「いや、うるさいだけだろ。通用しない。”龍谷閃”」
真耶の剣から白く光る斬撃が放たれた。その斬撃はまるで谷を作るかのように地面を抉りとっていく。
そして、闇堕ちの騎士はその斬撃を剣で受け止めた。しかし、それが愚かな行為だとすぐに知る。
なんと、その斬撃は闇堕ちの騎士の剣すらも抉りとってしまったのだ。そして、そのまま闇堕ちの騎士の右肩も抉りとる。
「っ!?」
「終わりだ。”氷焔・氷焔の剣”」
真耶の刃から紫と黒に光る斬撃が放たれた。そして、その斬撃は周りの空気を燃やし、かつ凍りつかせながら闇堕ちの騎士へと向かって行った。
闇堕ちの騎士はそれを見てすぐに逃げようとする。さすがに片手ではこの攻撃を防げないと思ったのだ。だから、勢いよくその場から離れようとした。
「っ!?」
その時初めて闇堕ちの騎士は気がつく。自分の足が動かないことに。気がつけば闇堕ちの騎士はさっきからその場所を動いていない。そして、その場所は氷に埋めつくされている。最初に真耶が氷の波を作ったことで自分の足まで凍っていると気が付かなかったのだ。それに、この氷は冷たくない。温度は体温と何ら変わらないのだ。
「っ!?何故だ……!?」
「ざまあねぇな。これも氷焔の力さ。それじゃ、これでお別れだ」
真耶がそう言った時、既に斬撃は闇堕ちの騎士の目の前まで来ていた。そして、その斬撃は闇堕ちの騎士の体を真っ二つに切り裂く。
「グォォォォォォ!」
闇堕ちの騎士の断末魔が上がった。そして、闇堕ちの体に火がつき燃え始める。そのせいで、闇堕ちの騎士の苦しみの声がさらに酷くなった。
「……」
真耶は無言で闇堕ちの騎士の目の前に降り立つ。そして、剣を鞘に収めると龍化を解いた。すると、いつも通りの真耶と、1つの魂に別れる。その魂からはクロエの気を強く感じた。
「これが現実だよ。以下に強い騎士の魂を集めたとしても、俺達の相手では無かった」
そう言って真耶は振り返りアーサーの元へと戻っていく。そして、その後ろで闇堕ちの騎士の体が燃え尽きていた。
「討伐完了。さ、帰るぞ」
真耶は2人にそう告げると入口に向かって足を進める。しかし、アーサーとモルドレッドはその場を一切動こうとせず、ただ真耶を見つめるだけだった。
真耶はそんな2人のことなど気にせず歩いていく。いや、気にしないのではなく何かを隠しているようにも見えた。
アーサーはそれが分かるとすぐに真耶に聞く。
「なぁ、お前は我らに何を隠している?」
「っ!?何をって、何も隠してないけど……」
「嘘をつくな。もしお前が何も隠してないなら、今ここでモルドレッドにそう誓えるか?」
「っ!?」
アーサーの言葉を聞いて真耶は言葉を失った。そして、少しだけ苦しそうな顔をしてアーサーを見つめる。その時のアーサーの目は、とても冷たく仲間に向けるようなものではなかった。
「……クッ……!それは……!」
「ハッキリしろ!お前は一体なんなんだ!?あの日、突如我らの前から姿を消したくせに、何も無かったかのように戻ってきた!それなのに!お前は今でも我らに何かを隠している!あの時もお前は全員を騙した!嘘をついて、欺いて、騙して、そのツケが今回り回って帰ってきたんだろ!じゃあ本当のお前はどこなんだよ!?もし今お前が何かを隠しているのなら、ここで我らに説明しろ!真実を全て話せ!」
アーサーは声を荒げてそう言った。その勢いに真耶は気圧されてしまい、一瞬だけ脳の働きが停止する。
「っ!?……っ!?」
真耶はアーサーの言葉を聞いて目を見開いた。そして、霞んだその目で自分の手のひらを見つめる。その手のひらは既に血で赤く染っていた。
真耶はその手を自分の胸に持っていく。すると、自分の心音がよく聞こえた。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク…………
動悸がどんどん激しくなる。呼吸もだんだん荒くなる。真耶は目を瞑って呼吸を整えた。そして、苦しそうな顔を少し抑えると、霞んだ左目でアーサーの目を見つめた。
「話す気になったか?」
「……モルドレッドを俺の目の前に呼んでくれ。俺が動くよりそっちの方が信用できるだろ?」
真耶はそう言ってモルドレッドに手招きをした。
「いや、別にお前を信用してないわけじゃない。ただ、真実を知りたいだけだ」
「そうか……まぁ、それなら尚更モルドレッドに来てもらわないと困るな」
真耶のその言葉を聞いたモルドレッドは急いで真耶の目の前へと行く。
「それで、何を知りたい?」
「まず、なんでお前の体はそこまで弱体化しているのか。なぜ世界がこうなってしまった理由を知っているのか。なぜ神々はお前を狙うのかだ」
「ん?それは分かっていることだろ。別に嘘をついている訳じゃないが……」
「確かに、神々のヤツらがケイオスを狙う理由は分かる。だが、お前は真耶だ。そして、お前がケイオスじゃないことは神々は皆気づいている。それでもお前を狙う理由がわからん」
「……それは、モルドレッドに理由がある」
「何?」
真耶の口から放たれた言葉は意外なものだった。
「多分みんな知らなかっただろうけど、モルドレッドは神々の誰かの娘だ。そのうちの誰かがお前を捨て、たまたま拾ったのがお前の両親という訳だ」
「っ!?」
真耶のその言葉を聞いてアーサーは目を丸くする。そして、真耶は続けた。
「皆は気づいてなかっただろうが、モルドレッドの胸には謎の刺青が入っている。普段は見えないがな」
モルドレッドはその言葉を聞いてすぐにその場を離れる。そして、実際に確認しようとした時、突如真耶の胸に激痛が走った。
「っ!?」
真耶はその事に驚き言葉を失う。なんと、アーサーが真耶の心臓に剣を突き刺したのだ。
「アーサー……何故だ……!?」
「真耶、お前は嘘をついたな。モルドレッドは確かに捨て子だったが神々の者では無い。調べたからな」
アーサーはそう言って周りに7つの空を飛ぶ剣を作り出した。
「嘘をつくな。次嘘をつけば殺す」
アーサーのその辛辣な言葉に真耶は苦しそうな表情を見せる。
「クッ……このままでは条件を満たせない……」
真耶は誰にも聞こえないように小さく呟く。だが、このままでは殺される。喋ってどうなるかは分からないが、それでももう喋るしかない。
「……分かった。真実を話すよ」
遂に、意を決してそう言った。そして、剣を引き抜くと時眼で時間を戻して傷を治す。
真耶は自分の傷を治すと、その場に椅子を作り出して座った。当然3つ作ったから2人も座る。そして、真耶は静かに語り始めた。
読んでいただきありがとうございます。