第188話 獄楽の影
━━再び少し時は戻る。たった一瞬でも合図が鳴ってしまった。それは真耶とアーサーの戦いの始まりを意味する。2人は凄まじい速さで駆け出し剣を抜く。そして、2人の剣が同時にぶつかった。
「……!」
「……!」
2人の剣から大量の火花が飛び散る。そして、2人の本当の戦いがその時完全に始まってしまった。
2人はほとんど同時に弾かれる。真耶は弾かれた勢いを使ってそのまま後退する。アーサーはすぐに地面に着地して真耶がいる方向に飛び上がった。
エクスカリバーが刃を光らせ襲いかかってくる。上から叩きつけるように振り下ろしてきたのを見て、真耶は即座に剣を構えた。そして、アーサーの攻撃を防ぐ。
「お前の弱さは覚悟を決められないところだ」
「へぇ、教えてくれてありがとう」
真耶はそう言ってすぐに剣を弾き切りかかる。しかし、アーサーはそれを防ぐ。そして、真耶の空いている部分に向かって切りかかる。
真耶はその攻撃を軽く受け流した。そして、その時2人は理解する。今、2人の力量はほとんど拮抗していると。だからこそ2人には全く同じ選択肢しか無かった。
その選択を決めた瞬間、2人の動きがガラッと変わる。突然2人の体が消えた。と言うより見えなくなった。音よりも速い速度で移動しながら戦っている。片方が攻撃をすれば、片方がそれを防ぎ反撃する。これの繰り返しだ。
真耶とアーサーは縦横無尽に辺りを駆け巡りながら上下左右どの方向からも攻撃を仕掛ける。それはまるで、小さな嵐のようだ。
「……!」
「……!」
2人は何度も何度も剣を交わらせる。そして、の度に2人の頭に同じことが思い浮かぶ。それは、技を『使わなければならない』というものだった。2人にとって今最も大事なのは、いつ、どこで、どのようにして技を使うのかだった。タイミングを間違えれば確実に殺られる。2人はそれがわかっていた。
「どうした!?あれだけあった技の型は出さないのか!?」
「それはお前も同じだろ!」
2人はそんなことを言い合いながらも手足は止めない。そして、技を使うタイミングを見極める。今の状態で拮抗しているのであれば、呼吸や動き、筋肉の使い方などが少しでも変われば窮地に陥りかねない。だからこそ2人とも慎重になる。
「……っ!?」
その時だった。2人共同時に呼吸法が変わる。そして、魔力の流れも変わった。
「”王剣・天神断”」
アーサーが真耶の斜め前に飛び上がって間合いを詰めてきた。
「”水禍・激流一……」
その時、ふとサタンとの会話を思い出す。それは、戦いが始まる前にサタンが言った言葉。『アーサー兄の技に気をつけろ』。その言葉が真耶の脳内に流れてくる。
「”水禍・激流閃・連撃”」
プラネットエトワールに水が纏わりつく。そして、その剣から放たれる水の斬撃がアーサーの剣を受け止める。
そして、その後に着いてくる追撃も防いだ。
「覚えてたのか?」
「……まぁね。ここで使ってくるとは思わなかったけど、何となくサタンが言ってたこと思い出したから。使うかなって考えが変わった」
「……へぇ。我のことよく分かってんだな」
「一応ね」
真耶はそう言って駆け出した。そして、今度は真耶から攻撃を仕掛ける。
「……!」
星のように煌めく刃の軌跡が天の川のようなものを描く。
「あの時の剣じゃないんだな」
「……トラブルはいつだってある訳だしさ。それに、俺にとってはちょうど良かったって、少し感謝してんだ」
真耶はそう言って流れるような動きでアーサーに攻撃を仕掛ける。右から左に左から右に何度も切りつける。しかし、どれだけ滑らかだろうと、どれだけ速かろうとアーサーには届かない。
「”王剣・家屋落とし”」
アーサーの剣が真耶の脛ら辺に向かって振り下ろされる。
「”真紅・炎神”」
真耶はまるでわかっているかのように剣を振った。下から上にすくい上げるように剣を振り上げることで、アーサーの県の軌道を無理やり変える。そして、自分は顔を少し逸らして完璧に回避した。
さらに、その後に来る追撃も炎の斬撃で完全に打ち消す。真耶は無傷でその場を凌いだのだ。
真耶はその後何度かバク転をしてその場から離れる。そして、何度か剣を振って少しだけ手に馴染ませる。
「……慣れないのか?細い剣が」
「そんなことないよ。ただ、少し軽いかな」
「星の原石で作られたそれがか?」
「まぁ、そうだね」
真耶はそう言いながら攻撃を仕掛ける。
「”真紅・円斬華”」
真耶はブラネットエトワールに炎を宿らせる。そして、何度も何度も連続でアーサーに切りかかった。
「守りに集中するか!?後手に回れば不利になるだけだぞ!」
「そういうお前も守ってばっかじゃないのか!?」
「違うな!我は常にお前の先にいる!お前が2つ先の未来を見てるなら、俺は4つ先の未来を見ている!常に先手を取っているのは我の方だ!」
アーサーは自慢げに、そして少し怒ったような声でそう叫んだ。そして、一瞬にも満たない速度で魔力を溜める。
「”王剣・獄楽道”」
その瞬間、真耶の体をとんでもないほど強大な殺意がすり抜けていく。そして、目の前に10人のアーサーの影が現れた。
「辺獄にいる魂をかき集めて作り出した我の影だ。お前はもうじき死ぬ。言い残すことはあるか?」
「……辺獄か。よく分からん場所だよな。冥府とは違うんだよな」
「……そんな事が気になるのか?それとも、それが最後の言葉か?」
「いいや、そんなことは無いよ。俺はお前とちゃんと話がしたいからね」
「覚悟無き者が!」
アーサーはそう言って影とともに襲いかかってくる。真耶はそれを見てすぐに剣を構える。
「覚悟なんてのはな、言い訳に使うものなんだよ!本当にやらなきゃならない時は覚悟なんて必要ない!お前は覚悟という言葉を使って、俺を殺した喪失感から逃げようとしてるだけだ!」
真耶はそう言って影の攻撃を全て弾く。そして、直ぐに影を消そうと攻撃を仕掛けた。しかし、当然攻撃が当たることは無い。防がれるか避けられるかの2択だ。
「……影か。分身や分裂体と違うか……」
真耶は小さくそうつぶやく。そして、影を見た。影というのは分身や分裂体と違う。本来分身や分裂をした場合、力というのは等分されてしまう。しかし、影は違う。等分されることは無い。皆本人と同じ力を持っている。
だから今の状況は真耶にとって大いに不利な状況であった。アーサー1人でも互角なのにも関わらず、目の前には11人いる。普通ならすぐに殺されてもおかしくない状況だ。
「”王剣・沈玉天魔”」
アーサーの攻撃が向かってくる。真っ黒に染った剣が真耶の体をたたきつぶそうとしてくる。
「”真紅・炎神”」
真耶は咄嗟に剣を振り上げその攻撃を防いだ。あとから遅れてくる追撃も全て弾き返す。そして、目の前にいる影をこの場で殺すことを決めた。
(今やっておかなければ、勝てる可能性はなくなる)
真耶は心の中でそう思い剣を突き刺そうとした。しかし、すぐに周囲の殺気に気がつく。真耶はその殺気に気が付きすぐに突き刺す手を止めた。だが、それはもう遅かった。アーサーの影達は次々に真耶に攻撃を仕掛ける。真耶は攻撃を一つ一つ綺麗に躱し、防ぐが、全てを防ぐことは出来なかった。
追撃が真耶の体を襲い、アーサーの影の斬撃がさらに真耶を追い込む。真耶は多少の攻撃は食らっても大丈夫だし、腕が切断されたくらいなら治すことが出来るが、今の戦いでは不利になる一方だ。真耶は何とか攻撃が当たらないように躱そうとする。
だが、真耶にも限界はあった。次々にくる攻撃が段々と防げなくなってきて、遂には全身を切りつけられてしまう。そして、重たい一撃をくらい、壁まで飛ばされた。
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