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モブオタクの異世界戦記Re  作者: 五三竜
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第186話 むーちゃんの助っ人っすよ

 ━━アレスとムラマサの戦いも激化した。激しく火花が散り、2人は超高速で剣を交わらせる。


「”龍天下りゅうてんか”」


「”赤色せきしょくさざなみやいば”」


 2人の技がぶつかった。アレスの重たい一撃はムラマサの神速に近い連撃を全て弾く。しかし、アレスの攻撃がムラマサまで届くことはなかった。2人の力はほとんど同じなためなのか、全ての攻撃が途中で相殺されるというのをずっと続けているのだ。


 そして、夢幻の方はまた少し違った。両者ともに攻撃が一切当たらないのだ。アテナはこれまで光の攻撃を何度も繰り出したが、それが夢幻にあたることは1度もなかった。


 逆に、夢幻が使う技は普通にゆっくりなためアテナに当たらない。そもそも夢幻は攻撃をするタイプじゃないからというのもあってか、狙いもそこまで良くない。全く違うところに飛んでいくなどざらだ。


「この……!おちょくるのもたいがいにしなさいよ!」


 アテナはそう叫ぶ。


「そう言われてもねぇ、こうやって逃げ続けてないと、当たったら即死じゃないか。君の攻撃は少し凶暴すぎやしないかい?」


 夢幻はアテナにそう言い返した。そして、再び攻撃を仕掛ける。夢幻の攻撃方法は基本的に幻術にはめて精神を壊すというものだ。しかし、今回の相手……アテナはそれが通用しない。そのせいで攻撃魔法での戦闘を余儀なくされたのだが、これまでそういった類のものを使ってこなかったせいなのか全く当たらない。あさっての方向どころか、1年以上先の方向に飛んでいってしまう。


「だからぁ……!煽ってんの!?変なところばっか狙って!」


「クソっ!やっぱり慣れないことはするもんじゃない!」


 夢幻はそう言いながら本を開いた。本来夢幻が戦闘する時に使う武器である。どうやら少しだけ本気を出すつもりらしい。しかし、本を使っても命中率はあまり変わらないはずだ。そのことはこの場の誰もが知っている。この時アテナは夢幻には何か別の策があるのだと警戒した。


「さてさて、誰か来てくれよ」


 夢幻はそう言って魔力を溜める。そして、本から怪しい煙をもくもくと出した。すると、その煙は一瞬でその部屋を包み込む。ムラマサはそれを見て少しだけ笑った。


 そして、夢幻がニヤリと笑ったのと同時に何者かがアテナを襲う。アテナはその攻撃を見て誰かに気がついた。


「あなた……始めてみる顔だわ」


「悪いっすね。呼ばれちゃったから来たっすよ」


 そう言って頭がクシャクシャな好青年っぽい男の人が立っていた。


「……なんだ、ペテルギアか。ハズレだな」


 夢幻が溜息をつきながらそう言った。そして、本を開いてもう一度呪文を唱えようとする。


「待つっすよ。それ以上その魔法は使えないっすよね?俺に任せるっすよ」


「仕方がないな。まぁ、女の時よりはマシか」


「そんなに女の俺が嫌っすか?こういう女の子で『っす』って使ってるの可愛くないっすか?」


 ペテルギアは女体化して女の声でそう言った。


「止めろ。仲いいヤツが女になったら嫌だろ?小生の好みに合ってるのも気に食わん」


 夢幻はそう言って顔を背ける。


「またまた〜、そんなこと言っちゃって。むーちゃんはいっつもツンケンしてるんだから」


「うるさい。小生のことを気にかける前にあいつを倒せ。小生は攻撃が弱いんだ」


 夢幻がそう言うと、ペテルギアは体を男に戻して笑いながら言う。


「そうっすね。むーちゃんは前から攻撃魔法が得意じゃないっすからね」


「サポートはする。攻撃は任せたよ」


「任されたっすよ」


 ペテルギアはそう言って手をヒラヒラとさせる。そして、小悪魔みたいな笑みを夢幻に見せてすぐにアテナと向き合った。


「……変な魔法を使うのね。転移魔法か何かかしら?」


「んーまぁ、少し違うけどそんな感じの魔法っすね。正確には『思考性夢転移魔法しこうせいゆめてんいまほう』と言って、危機的状況に陥った時使用者が、『コイツなら助けてくれそうっす』って思った人が転移してくるっす。だから、俺が夢みたいな技だと思ってそう名付けたっすよ」


 ペテルギアはそう言って楽しそうに笑った。


「フーン、変な魔法ね。まぁいいわ。誰が来ようと私には叶わないもの。そこの弱虫だって、逃げてばっかりのへっぴり腰だったからね。あなたはどうかしら?」


「俺っすか?俺は基本的な真っ当な戦いはしないっすよ。ずのーぷれーが基本っすから。それに、むーちゃんをいじめるやつとか、悪口言うやつ多かったっすからね。……気に食わないんすよ。お前もその1人っすよ。いい死に方はできないの……お分かり?」


 ペテルギアの雰囲気が話の途中で変わった。先程までのおちゃらけた雰囲気が、突如として殺人鬼のように暗く冷たく変わる。流石にその豹変ぶりはオリュンポス十二神であろうとも恐怖を覚えるものだった。


「っ!?」


 アテナはその雰囲気に圧倒される。先程まで小生意気に挑発していた自分を責めたくなるほど、ペテルギアの刺すような殺意は凄まじかった。


「もぉ〜、そんな泣きそうな目で見ないっすよ。あんたは女っすよね?俺ってば、そういうを見るといじめたくなるんすよ」


「っ!?」


 ペテルギアがそう言った刹那アテナのお腹にぱっくりと大きな裂け目が出来た。そして、そこから大量の血が流れ出してくる。アテナは思わずお腹を押えてへたりこんだ。


「ゲボッ……!」


 アテナは突然の痛みに意識が飛びそうになる。しかし、それを何とか耐えて血を抑えようとするが、口から吐き出すように大量の血を流した。


 しかも、必死に抑える手のひらに柔らかなよく分からない感触のものが当たる。恐る恐るそこに目をやると、なんと小腸が裂け目から溢れ出てきていた。血とともに出てくる小腸はなんとも言えない気持ち悪さを覚える。


「……っ!?オェッ……!ゲボッ……!」


 アテナは気持ち悪くなり思わず酸っぱいアレを吐いてしまった。そして、口からダラダラとヨダレと血を垂らしながら上を見る。すると、目の前にペテルギアが立っていた。ペテルギアはアテナの顎に手を当ててクイッと上を向かせる。


「かわい子ちゃんっすね。そうやってすぐ泣いて助けてもらおうとするんすか?俺は表向きは盗賊とうぞくっすけど一応裏向きでは暗殺者アサシンっすからね。そうやって泣いて助けてもらおうとする人を何人も見てきたっすよ」


 そう言って何かしらのよく分からない薬をアテナに飲ませる。


「さぁ、飲み込むっすよ」


 そう言って無理やり喉に押し付け水を流した。アテナは恐怖で飲み込む他なかった。しかし、その薬を飲んだ途端身体中が火照ってくる。まるで熱が出たように熱くなるのだが、これまで感じたことの無い熱さと感覚だ。


「……んふふ、悪いっすね。今飲ませたのは媚薬っすよ。変に痛み止めとか飲ませるより、媚薬飲ませて痛みを快楽に変えた方が、俺も満足そして相手も満足っす。このまま色んなとこ切ってくっすよ」


 ペテルギアはそう言って悪魔のような笑みを浮かべてメスを取りだした。そして、全く見えない太刀筋でアテナの胸を切り裂く。


「っ!?うぐぇっ……!いだぃよぉ!」


 アテナはそう泣き叫んだ。そして、真っ赤な頬に涙を滴らせながらペテルギアに命乞いをする。そんなことをしていると、肺がありそうな場所からゴロゴロと音がした。そして、それと同時に凄まじい痛みが胸を襲う。


「っ!?うぎぇっ……!痛い……!いだぃよぉ!」


 アテナは泣き叫ぶ。しかし、ペテルギアは止まらない。悪魔という言葉さえ可愛く見えるような笑顔でアテナに近づき言った。


「肺に血が流れちゃったね。胸を切って口に加えさせてあげようと思ったんだけど、笑いすぎて手が震えて間違えてきっちゃったっす。まぁでも大丈夫。まだ死なせないから。ほら、まだ筋肉とか切ってないじゃん。意外と表面切られるより筋肉切られた方が痛かったりするっすよ。あとは、切った小腸を口に詰め込んだりもしたいっすね」


 ペテルギアの言葉にアテナは完全に絶望してしまった。媚薬のせいなのか、痛みも少しは快楽に変わるが、恐怖は変わらなかった。それに、快楽さえもかき消すほどの痛みが全身を襲っている。アテナは真っ赤になった両頬を隠すように地面に額を擦り付け、服を脱ぎ土下座をして言った。


「もゔ……ゆるじでぐらひゃい……!いらいのは……いや……れひゅ……!」


 アテナがそう言った時、ペテルギアは笑った。そして、顔を強く踏みつけながら言った。


「フフ、君の負けっす。今のは全部むーちゃんの見せた俺の夢。ここは俺の夢の中の世界っす」


 そして、ペテルギアが足を退けてアテナの髪の毛を鷲掴みにして周りの景色を見せると、そこは煙に包まれた謎の場所だった。アテナはそれを見て、心の底から絶望した。

読んで頂きありがとうございます。

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