第180話 羅刹を切り裂く
「……まぁ、向こうからでも気づいてたよ」
真耶はいきなりそんなことを言う。すると、聞いたことある声で返事が返ってきた。
「へぇ、僕は君を待ってたんだよ」
「……」
真耶はその男を睨む。そんなことをしていると、後ろからアイティールがぶつかってきた。
「痛っ、止まるにゃにゃー」
「真耶様前に行って……っ?」
後から来た人達は目の前にいる男に気が付き疑問に思う。
「あなたは……っ!?」
ルリータが何かを言おうとした時、あることに気がついた。そこには倒されたサタン達がいたのだ。
「っ!?この際あなたが何者かはどうでもいいです。大人しく死んでください」
ルリータは殺気を放ちそう言った。
「へぇ、怖いこと言うじゃん。真耶、躾がなってないよ」
「バカにしないでください」
「バカになんてしてないんだけどなぁ。ま、なんでもいいでしょ。ほら、魔法を使わないのかい?」
男はそう言って手をクイッとさせた。ルリータはそれを見てすぐに魔法を放つ。
「”グラビティスフィアLv14”」
強い重力を帯びた球体が男を襲った。しかし、男はその球体を手でペシっとどこかに弾く。そして、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら言った。
「弱いなぁ。なんで君みたいな人を真耶が連れてるのか……。不思議で仕方がないよ」
「俺はロリコンだから。お前にはわからんだろうがな」
「……フッ、少しわかるよ。僕も軽いロリコンだ!だから、君みたいな少女に拷問するのが好きなんだよ。”ひれ伏せ”」
男がそう言った刹那、ルリータは突然土下座をした。額を地面に擦り付けて綺麗な土下座を男に向かってする。
「……”抵抗するな。もっと顔を擦りつけろ”」
男の言葉に反応してルリータは顔を地面に埋める。そして、顔を埋めすぎたのか血を吹き出していた。
「……”やめろ”」
真耶がそう言った。すると、ルリータを押し付ける力が無くなる。
「わっ、すごい!僕の言霊に対抗できるんだ。しかもノーリスクで」
「ノーリスクでは無いけどな。お前のせいで喉が痒くなる」
「へぇ、そりゃあ大変なことだ」
男はそう言いながら切りかかってきた。しかも、その速さはとんでもなく、真耶以外の全員が気がついた頃にはもうルリータに剣を振り下ろしていた。
「ルシファー。その剣は俺の仲間のものだ。返したまえ」
真耶はそんなことを言って軽々と剣で受け止める。ルシファーと呼ばれた男はニヤリと笑って言った。
「無礼を働いたのはこの子が先だ。小さい子だからと言って特別扱いするつもりは無いし、早めに世の中の厳しさを教える方がいい」
「そうだとしても、それをするのは俺の役目だ。お前じゃない」
「誰だっていいさ。ただ、僕に勝てなきゃ君は役不足だ」
「へぇ、ならお前の力でかかってこいよ」
真耶はそう言ってルシファーの持っている剣を弾く。そして、すぐにルシファーに攻撃を繰り出した。しかし、難なく躱される。
「お前ら逃げろ」
「でも……」
「でもじゃない。逃げろ。もしくは離れろ」
「うぅ……ルリータが気絶してるにゃ……!」
「っ!?」
真耶はその言葉に驚く。そして、目を向けると確かに気絶しているのが見えた。真耶はすぐにルシファーに目を向ける。ルシファーはそれを知っているのか笑っている。
「真耶。その子はまだ若い。今のうちから常識を教えなければならない」
「だから何を言いたい?」
「分かるだろ?僕は女の子をいたぶるのが好きなんだ!大好きで大好きでたまらないんだ!その子は僕の奴隷にしてぐちゃぐちゃにしたいんだ。拷問して、拷問して、拷問がしたいんだ!だから大人しくしておいてよ」
ルシファーはそんなことを言ってくる。
「キモ。お前俺よりキモイわ。しかも考えカスいし。カスでキモ。あと思考強すぎ」
「なんとでも言いたまへ。言葉の暴力など所詮は言葉。心に響くこともなければ肉体を気づつけることもない。分からせたいなら今みたいに力でねじ伏せろ」
「……そうか。お前とは話し合いでなんとかなると思ってたんだけどな」
「昔とはもう違う。僕は君の敵で君は僕の敵」
「仲良くはなれないってことね。分かってるよ」
真耶がそう言った瞬間、ルシファーは再びルリータを狙って攻撃してきた。よく見ると、剣を持っておらず羽を持っている。しかも、今度はアイティールまで狙っていた。
「良くないよ」
真耶はそう言ってルシファーを蹴り飛ばす。しかし、どういう訳かルシファーは真耶の後ろにいた。真耶は慌てて剣を振り下ろすが、羽で防がれてしまう。
「……変わってないね」
「オマエモナ」
「なんでカタコトなの?」
「変わってるだろ?」
真耶はそう言ってルシファーを蹴り飛ばした。そして、剣を構えてニヤリと笑う。
「”真紅・炎斬華”」
真耶は炎を帯びた剣を強く振り下ろした。
「へぇ、言葉は同じなのに効果が違う技か。僕が知ってるのは神速の3連撃なんだけどなぁ」
「へぇ。既に知られている技を使うやつはなかなかいないだろ?」
「それもそうだね」
ルシファーはそう言って再びルリータとアイティールを狙う。どうあってもルリータを殺すつもりらしい。そして、その近くにいるアイティールも巻き添えにしようとする。
「”深紅・天照・聖神楽”」
真耶はルシファーとの距離を一瞬で詰めて剣を首に目掛けて振り下ろした。その剣には白く光る炎がまとわりついており、光を放っている。
「……」
しかし、ルシファーは羽をすぐに真耶に向けた。そして、剣を羽で受け止める。
「……」
だが、真耶の方が一枚上手だった。止められてもすぐに違う方向から攻撃を繰り出す。本来今使った技はそういう技だ。真耶は受け止められること前提に攻撃をしたのだ。
「これは見た事あるよ」
ルシファーはそう言って笑う。この技は真耶が使う中でもかなり有名な方だ。見切られるのは承知の上で攻撃している。
「ま、真耶の技はほとんど知ってるからね」
ルシファーはそう言った。真耶はそれを聞いてさらに何度も攻撃をする。
「そうなんだ。”水禍・小夜時雨”」
黒い水がアンダーヴァースにまとわりついた。そして、無数の針のような雨がルシファーを襲う。
「すごい!高速の突きで雨を再現してるのか!」
ルシファーはそう言って羽を構えた。そして、それを全て弾く。
「やっぱり君は変わってないね。もう終わりだよ」
その刹那、ルシファーはルリータの目の前まで移動した。そして、既に羽を振り下ろしている。その速度は光と同じようなものだった。
真耶はその羽をアンダーヴァースで防ごうとする。しかし、何か嫌な予感がする。
「”羅刹ざ……」
真耶がアンダーヴァースに黒っぽい紫色のエネルギーを纏わせた。そして、その剣で迎え撃つ。しかし、真耶の予想外の出来事が起きた。
「……!?」
なんと、アンダーヴァースが切られたのだ。まるで豆腐でも切ったかのように綺麗に切り裂かれる。真耶はそれがわかった瞬間に体を動かそうとした。
しかし、体は突然には動かない。どんなに体を動かしても、全くと言っていいほど体が動かない。
「真耶……君の負けだ」
ルシファーは完全に勝ちにひたっていた。この一撃は確実にルリータにあたり、ルリータを縦に真っ二つに切り裂く。ルシファーの頭の中ではそこまで想像できていた。
そして、この場の誰もがその光景を想像してしまう。みんなルリータが死ぬと思って目を瞑ってしまう。気を失ったルリータを助けようともせず、現実から目を背けてしまう。
しかし、真耶だけは諦めなかった。左目を見開き転移眼を浮かべる。そして、瞬きをする間もなくルリータの前に転移した。そして、ルシファーが振り下ろした羽の攻撃を自分の体を使って庇ったのだ。
「「「っ!?」」」
その場の全員が驚き言葉を失った。それはルシファーも含まれている。
真耶はルシファーの一撃をもろにくらい、体を右肩から左足の太ももにかけてまっすぐと深く切り裂かれた。
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