第175話 強すぎだろ
「”時喰い”」
真耶の技が発動した。時眼から薄い色の何かが飛び出してくる。それは、クネクネとした動きをしながらアポロンに襲いかかった。
「”▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊”」
アポロンは苦しげな動きで魔法を唱える。唱える魔法一つ一つがかなり負担になっているのだろう。
しかし、アポロンの攻撃は無意味だ。真耶が発動した魔法の前では何も通用しない。本来この能力は対照者の時間を奪うもの。しかし、冥界の力を得た今、その能力も強化されている。
「喰らい尽くせ」
真耶はそう言った。すると、薄い色の何かはアポロンが作り出した炎を飲み込んだ。炎がどんどん消えていく。真耶によって時を奪われているのだ。
「っ!?……やべぇよな」
真耶はそう呟いて右目を押えて倒れる。そして、力を振り絞って立ち上がると、手を少しだけ離した。その手にはべっとりと血がついている。
アポロンはその好機を逃さなかった。倒れる真耶の真上に移動し、炎の拳を向ける。
しかし、真耶にとってそれを躱すことは造作でもなかった。無駄のない動きでアポロンの攻撃を全て躱す。そして、再びその目の力を使用する。
「”狂時計・乱転”」
真耶の背後にいくつか時計が現れる。その時計は普通の時計とは違ってかなり歪んでいた。針もきちんと動いてはいないようで、歪な動きをしている。
真耶はそんな時計から2つのエネルギー弾を放った。そのエネルギー弾はまるで霊体のように様々なものをすりぬける。炎の壁も、岩の壁も、地面さえもすり抜ける。
そして、アポロンの右手と左足にぶつかった。すると、突然アポロンの右手と左足が違う動きをした。それぞれなにか意志を持ったように別の場所へと向かおうとする。
アポロンはそのことに一瞬驚く。しかし、即座にその腕と足を切り落とすことで逃れた。
「”▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊”」
アポロンの攻撃が放たれる。紅蓮に包まれた魔力が容赦なく真耶を襲った。真耶はその魔力を見て剣を構える。
「”冥閃・森羅万象斬”」
凄まじい轟音を鳴らしながら真耶はその剣を縦に振り下ろした。すると、アポロンが放った魔力どころか、次元さえも切り裂いてしまう。
すると、突然次元の裂け目から引力を感じた。恐らく壊れた次元を直し、乱れた時空を元に戻そうと辺にあるものを吸い尽くしているのだ。
アポロンが放った魔力はその時空の裂け目に吸い込まれる。そして、それと一緒に近くにあった炎も吸い込まれて行った。
真耶はその瞬間に動き出した。全身から冷たい殺意を振りまきアポロンに切り掛る。そして、神速の4連撃を繰り出した。
鋭い刃が瞬く間にアポロンを切り裂いた。アポロンは全身から血を吹き出し体を硬直させる。逃げようとするが、真耶の殺気に満ちた目は逃がさない。少しでも後退すれば即座に斬り殺す。そんな強い意志を感じた。
アポロンは心の奥底で何かを感じとった。閉鎖的な空間に閉じ込められた本心が、真耶だけは殺しておかなければと思ってしまう。それに、体は完全に乗っ取られているが、その体さえも真耶を殺さなければと思っている。
「”時戒冥閃・時の鎮魂歌”」
真耶の周りの空間の時間が歪んだ。重たい鐘の音と共に真耶の足元に巨大な時計が現れる。アポロンはそれを見て完全に動きを止めた。
「……終わらせる」
その刹那、足元の時計の針が回り始める。
「……」
真耶はその時計の中心でただ立ち尽くすだけだった。しかし、アポロンはそこから直ぐに逃げようとする。目にも止まらぬ速さで範囲外へと向けて走り出した。
「時計の針は戻り始めた。もう進むことは出来ない」
真耶がそう言うと、突然アポロンの体が真耶へとひきつけられた。と、言うより、体の時間がもどり始めたのだ。足はこれまでの軌跡をたどって元の場所へと戻っていく。腕も、顔も、体も、全てが元の場所へと戻っていく。
「……ま、本来はこのまま死ぬまで戻し続けるんだけどな、俺の命が持たねぇからここらで終わりだ」
アポロンがちょうど真耶の目の前に来た時、真耶はそう言った。そして、アンダーヴァースを構える。
アポロンはそれを見て逃げようとした。しかし、体が動かない。時を止められているのか、手も足も出ない。
「”冥閃・神羅万象斬”」
そして、真耶の攻撃がアポロンに当たった。金属が擦れ合うような尖った音を立てながら真耶はアポロンの首をはねる。さらに、その空間に特殊な斬撃が残った。
上は右に、下は左に向かって魔力の波が流れている。そのせいで、切られた場合確実に切り離されてしまう。
アポロンの首はそのせいで完全に切り離されてしまった。
「……」
アポロンの体が完全に動きを止める。恐らく絶命したのだろう。真耶は倒れて動かなくなったアポロンを見て少しだけほっと息をついた。
その時だった。アポロンの体が獄炎に包まれる。そして、中から無傷のアポロンが現れた。
「っ!?」
真耶はそのことに驚きすぐさま離れる。しかし、アポロンの方が1歩早かった。アポロンの手が真耶を掴む。
「”▊▊▊▊▊▊▊▊▊”」
アポロンの体から黒い炎が出てきた。その炎は生きているかのように動き、真耶を飲み込もうとする。
「ちっ……！”冥炎・紫至雷堂”」
真耶は黒い炎に向けて炎を放つ。真耶を飲み込んでいた炎を押し返し始めた。そして、真耶はその場から逃げ出す。
「強すぎだろ」
真耶はそう呟く。すると、今度は黒炎を身にまとったアポロンが真耶を睨んでいた。
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