第174話 獄炎を切る男
━━真耶の蹴りでアポロンはかなり飛ばされた。なんとか体勢を崩さないように着地をしたアポロンはすぐに辺りを見渡す。すると、近くにクロエたちがいることに気がついた。
「っ!?」
ルリータはアポロンの存在にすぐに気がつく。そして、かなり脅えた。先程真耶達にトドメをさそうとしていたアポロンが目の前に来たのだ。真耶達は殺されたと思ったのだろう。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
ルリータの呼吸はかなり荒くなる。そのせいか、アポロンに切り裂かれた胸の傷がどんどん開いていく。
「っ!?」
その時、胸の辺りに酷い激痛が走った。そして、口から大量の血が流れ落ちてくる。それに、胸から変な音が聞こえる。恐らく肺に血が入っていったのだろう。
「……」
アポロンはそんなルリータを一瞥すると、何も言わずに拳を向けた。
「っ!?」
ルリータはそのせいで完全に体を硬直させてしまう。
「……」
アポロンが1歩ルリータに近づいた時、突然真耶が現れる。真耶は現れるなりアポロンの顔を両足で踏み、そのまま蹴り飛ばした。
「っ!?」
「……」
アポロンの体が飛んでいく。真耶はアポロンが居なくなったのを見ると、ゆっくりとルリータに近づき言った。
「わりぃ、遅れちまった」
その言葉を聞いたルリータは涙を流した。
「……遅いですよ……!」
「……ごめんな。あとは任せてくれ」
「……そうしますよ……でも、その前にアイティールさんを……」
ルリータは泣きながら言った。真耶はその言葉を聞いてアイティールに目を向ける。
本当はルリータ似合う前から気づいていた。多分もう手遅れなんだろうなって。だからこそ目を向けたくなかった。逃げていいって言われたから、現実から逃げようとした。
「ま、逃げちゃダメなものもあるってことか」
真耶はそう言ってアイティールを抱きしめるクロエに近寄る。クロエの身体も悲惨なものだった。本来火に強いはずのクロエの表皮が溶かされている。
「……クロエ」
真耶はクロエを後ろから抱きしめた。しかし、クロエは何も言わない。ただ、アイティールを抱きしめずっと泣いているのだ。
「……ありがとう。今はとりあえずお休み」
真耶はそう言ってクロエに優しく言葉をかけた。そして、クロエを眠らせると、アイティールを見る。
真耶の目には元気なアイティールが浮かんでいた。すやすやと眠るふりをして驚かそうとするアイティールが目に浮かぶ。
「……」
真耶はそんなアイティールを見て涙を流した。ポタポタとアイティールの顔に涙が落ちる。しかし、落ちた直後に蒸発する。
「少し遅かったか……。俺はいつも遅いんだよな」
真耶はそんなことを言いながら頭に触れた。
「髪の毛が濡れちまってるよ。後で乾かしてあげるよ……」
真耶はそう言って涙で濡れる頭を優しく撫でた。その後、ゆっくりとアイティールの遺体を置く。そして、時眼でアイティールの中に流れる時間を止めた。
「遅いかもだけどね……。この戦いが終わったら、必ず生き返らせるよ」
そう言って真耶が立ち上がった時、突然アポロンが真耶の左側に現れる。既にアポロンは拳を構えており、戦闘する気満々だ。
真耶はアポロンの拳を左手で軽く受け止めた。そして、アイティール達を見て言った。
「待っとけ」
そう言って指パッチンをすると、アイティールたちの姿が消える。3人は姿を消すと、ヘファイストスの周りにすぐに姿を現した。そして、それと同時に無為とフィトリアもヘファイストスの周りに移動させた。
「……お前はいつもそうだ。俺の邪魔をする。俺のものを奪っていく。だったら、俺はお前の全てを奪ってやるよ」
真耶はそう言ってアポロンの拳を握りつぶした。アポロンはそのことに驚きすぐさま離れる。
「お前はもういい。死を待つだけだ」
真耶はそう言って左手を真横にあげる。それを見たアポロンは即座に潰された右手を燃やして再生させた。そして、右手を空に掲げて巨大な炎の刃を作る。
「”▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊”」
言葉にならない呪文を唱え、アポロンがその刃を振り下ろした。しかし、真耶は動じない。集中しているのか、逃げる気配を見せない。
しかし、その時突然真耶の体から血が吹きでた。どうやら今の魔法が放つオーラだけで傷をつけられたらしい。真耶の体から血がぽたぽたと落ちる。
「まぁ、ちょうどいいわ。”来い”」
真耶はニヤリと笑って何かを呼んだ。すると、どこか遠くから向かってくる何かを検知する。それは、真っ直ぐ真耶の左手に収まるように飛んできた。
真耶はそれを掴んだ。掴んですぐそれがアンダーヴァースだとわかる。真耶はその剣を掴むとすぐに握り直し構えた。
「”冥閃・魂血斬り”」
真耶は剣を上に振り上げた。すると、真耶の足元に溜まっていた血が真耶の体を作り重なる。さらに、真耶の体から魂のようなものが出てきた。それも真耶の体に重なる。
3つの剣が重なった。そして、奇妙な光を放ちアポロンが作り出した刃を迎え撃つ。
2つの刃が触れた。アポロンは触れるなりすぐに真耶を剣ごと切り裂こうとする。しかし、真耶の方が強かったらしい。炎の刃はまるでハムでも切り裂くかのようにスパッと切り裂かれた。
「……」
巨大な炎の刃が地面に突き刺さる。それだけで地面は大きくゆれ、火の粉が飛び散った。
「”水禍・激流閃”」
真耶は剣を構え走り出す。そして、アポロンの目の前まで一瞬で移動した。そして、その剣をアポロンに向ける。剣には水が纏われていた。激流のように激しく流れる水は剣の鋭さを倍増する。
「”▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊”」
アポロンも負けじと反撃をする。紅蓮の拳で真耶の剣をへし折ろうとした。しかし、やはり炎は水には勝てないのだ。刃に触れる前にアポロンの拳の炎は消される。
そして、真耶はそのままアポロンの腕ごと体を切り裂いた。アポロンの上半身と下半身が真っ二つに別れる。さすがにこれで終わりだろう。真耶もアポロンもそう思った。
しかし、アポロンの中からとてつもない魔力が溢れてきた。それは、二つに分かれた体を繋ぎ合わせようとする。真耶はそれに気が付き魔力を切ろうとした。
しかし、アポロンの下半身が蹴り飛ばしてくるせいで切れない。そして、そのまま飛ばされる。
「ちっ!やられたな。両断してもダメとなると……封印……。いや、効果すらも消してしまえば……」
真耶はアポロンを見ながらそうつぶやく。アポロンは両断された胴体を炎で繋ぎ合わせていた。そして、さらに魔力を増やし、炎も強くする。
「……今の魔力は0に近い……か」
真耶はそう呟いて右目を片手で抑えた。そして、ゆっくりと手を離し目を開く。すると、手にべっとりと血がついていた。そして、真耶の右目に時眼が浮かんでいた。
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