第171話 絶望
その光はこの空間全てを飲み込む。それは、絶望そのものだった。
「……!」
眩い光とともに放たれ魔法が、周りにあるものを全て破壊しながら突き進んでいく。壁は倒され地面はえぐれる。
当たれば一溜りもない。待っているのは死のみだと言われても疑いようがないものだった。そして、その先にはアポロンがいる。アポロンはヘファイストスとアイティールの攻撃によって動けなくなっていた。
アイティールとヘファイストスは既に逃げており、魔法の範囲外にいるが、アポロンは逃げれずにいる。クロエとルリータ、そしてアイティールとヘファイストスは確実にその魔法で倒すことが出来る。そう確信した。
「……!」
アポロンは光に飲み込まれる。
「………………!」
体が少しだけ分解されてきた。いや、見えないくらいの粒子で破壊されているのかもしれない。
「……………………………………!」
アポロンは何とか耐える。耐えて耐えて耐え抜く。自分の体が壊されないように再生する。
「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アポロンの叫び声が聞こえた。それと同時にアポロンが纏う炎がこの戦い史上1番燃え上がる。
しかし、2人の魔法は容赦なくアポロンを襲う。どんなに耐えても破壊する。確実にアポロンを殺すという強い意志を持つ魔法がアポロンを壊す。
「▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊▊」
この時のアポロンがなんと言っているか分からなかった。言葉なのか呪文なのか、それともただの叫び声なのか、それすらも分からない。ただ一つだけ……そう、たった一つだけだったのだ。気づいたことは。アポロンは、光に包まれる中魔法を放っていた。
「「「っ!?」」」
その場の全員が言葉を失った。なんと、アポロンが魔法を放ち、2人の魔法を跳ね返したのだ。
いや、跳ね返したというのには少し語弊がある。2人の魔法を取り込み、その魔法を遥かに凌駕する魔法を放ったのだ。当然2人はそんな魔法に勝てるはずもない。ぐんぐんと押し寄せてくる魔法に半分絶望する。
しかし、残り半分の強い意志で跳ね返そうとした。何とか放つ魔法の威力を高めようと努力した。だが、現実は厳しい。アポロンの魔法を全く抑えられない。
「……そんな……!」
ルリータは涙を流した。アポロンの絶望的な魔法を前に諦めようとした。そして、アポロンが放った魔法はもう目の前まで来ている。
その時だった。突然ルリータとクロエの体が後ろに押し飛ばされた。気がつくと、両手を広げたアイティールが目の前に立っている。
「「「っ!?」」」
「ダメ!逃げて!」
クロエはそう叫んだ。しかし、アイティールは振り返り微笑むだけだ。
「待って……!」
ルリータは何とかアイティールを引き寄せようとする。しかし、クロエに止められる。一瞬だけルリータはクロエの顔を見るが、覚悟を決めた目をしていて理解する。
そして、アポロンの魔法がアイティールに直撃した。凄まじい轟音と熱波がその場にいる3人を襲う。そして、3人の背後にいる真耶達も襲った。しかし、そちら側は既にヘファイストスが身を呈して護っていたのであまり被害は無さそうだ。
だが、アイティールは違った。太陽に近い熱を体全身に受ける。全力で耐熱魔法を使っているが、体が溶けていくのが分かった。アイティールはその痛みに何とか耐えるが、意識はすぐにでもなくなりそうだ。
クロエとルリータはそんなアイティールを見ていられなかった。2人は泣きながら抱き合い目を瞑る。アイティールの涙なのか、クロエとルリータの涙なのか分からないが、少しの水分が飛んで行った。しかし、一瞬で蒸発する。
その後、数分間の地獄のような状況は終わり、この空間は破壊されてしまった。
「……」
魔法が止んでもまだ熱波が残っている。しかも、そのせいで空間が歪んで見える。
「……アイ……ティール……?」
クロエは恐る恐る目を開けた。涙で前が見えない。それに、熱波のせいで体のあちこちが火傷しているのがわかった。
「っ!?」
クロエはその様子を見て言葉を失った。先程までは岩山みたいなところだった場所が、今では溶岩の上みたいになっているのだ。そこにあったものはドロドロに溶けて、あちこちが燃えている。
そして、クロエとルリータの目の前にアイティールがたっていた。後ろ姿を見ると、大丈夫そうな気がする。かなり火傷をおっているが、命に別状は無さそうだ。そう思っていると、アイティールが倒れた。
「っ!?」
アイティールを見たクロエは完全に言葉を失った。そして、恐怖やら何やらよく分からない感情が沢山込み上げてきて、吐き気がする。
「ごめんなさい……!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!!!」
クロエはただその一言しか言えなかった。そして、泣きながらアイティールに近寄る。
そして、クロエは、完全に体の前半身を溶かされ、死んでしまったアイティールを抱きしめた。
「ル……ルリータ……ちゃん……」
「……私は……もう……嫌です……。怖くて……怖くて……目を開けられない……です……!」
ルリータはクロエに抱きつき顔を埋めながらそう言った。確かに、この状況でそうなるのも仕方がない。クロエももう完全に戦意を喪失してしまった。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!!!!」
クロエにはその言葉しか言うことが出来ない。そして、ただ、アイティールを抱きしめるしか出来なかった。
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