第168話 作戦
アイティールはおまわずその場にうずくまってしまった。しかし、すぐに逃げようと体を動かそうとする。だが、動かない。恐怖なのか、ダメージのせいなのかは分からないが、全く体が動かない。
「……!」
アイティールは目の前のアポロンを見る。アポロンは既に戦闘態勢に入っていた。このままでは殺られる。アイティールの頭にその一言が浮かぶ。
「”神成の剛拳”」
ヘファイストスの魔法が発動する。すると、そこら辺にある巨大な棘から岩の巨人が1人出てきてアポロンに襲いかかった。
その硬く大きい拳がアポロン目掛けて向かっていく。常人なら当たった瞬間に潰されるだろう。しかし、アポロンはその拳を片手で粉砕した。
その隙にクロエはアイティールを回収する。フラフラの状態で何とか安全地帯まで移動する。
「……!」
「クロエ!アイティール!大丈夫!?」
ヘファイストスは慌ててクロエ達に近寄りそう聞いた。
「大丈夫……!」
「良かった」
「それ……より、アポロンを……どうにかしないと……!」
クロエは方で呼吸をしながらそう言う。2人はその様子を心配しながら見る。
「皆様方、良い手が……ありますよ」
唐突に声が聞こえた。振り返ると、ルリータが杖で体を支えながらアイティール達のところに来ていた。
「良い手って?」
「……最大火力を合わせるのです」
「あーね。確かにそれならダメージは入るかも。でも、2人とももう魔力が無いんじゃないの?」
「ハイエリクサー持ってきてます。回復してください」
ルリータはそう言ってハイエリクサーを1本飲みほした。そして、少し良くなった顔色を見せてハイエリクサーを人数分配る。
「あ、私いらないわ。まだ魔力残ってるから」
ヘファイストスはそう言ってハイエリクサーを返す。
「そうですか。わかりました」
「ねぇ、待って。最大火力を合わせるって言っても、そんなことできるの?」
「多分出来ますよ。陣と式さえ合わせてしまえばいいのですから」
「いや、それもだけど、アポロンが待ってくれるのか分からないから……」
クロエはそう言って少しだけ暗い顔をした。すると、アイティールが3人の前に出た。そして、振り返り無言で見つめる。
「……私とアイティールで隙を作るわ」
ヘファイストスがそう言った。そして、ハンマーを強く握り締め2人の前に出てアイティールと並ぶ。
「そう言えば2人はどうしたの?」
クロエが聞いた。
「私が真耶様の隣に寝かせてきました」
「そうだったのね。ありがとう」
クロエはそう言って少しだけ安心する。そして、すぐに気持ちを入れ直した。そんなクロエ達を見ていたアイティールが少しだけ笑った。
「……任せる」
そして、アイティールは小さくそう言って飛び出した。ヘファイストスはすぐにハンマーを地面に叩きつけてアシストする。
「とにかく戦いやすくしなくちゃ!」
ヘファイストスはアポロンと自分達を一直線上に来るように左右に巨大な壁を作った。
「バカでしょ。狙われるわよ」
「でも、こっちの方が戦いやすいでしょ?」
ヘファイストスはアイティールにそう聞く。すると、アイティールはにっこりと狂気的な笑みを浮かべて走り出した。
それと同時にアポロンも動き出した。全身から強大な炎を放ちこちらに向かって突っ込んでくる。
「舐めんなぁ!」
ヘファイストスはそう言ってハンマー叩きつけた。すると、地面や壁から大量の巨大な棘が出てくる。その棘はアイティールに当たらないように生成され、アポロンの襲いかかる。
「これでも喰らえ!”灼熱裂破”」
ヘファイストスが魔法を唱えた。すると、紅蓮に染った裂破がアポロンに向かって飛んでいく。その裂破は触れるものを溶解していき、マグマを撒き散らしていた。
アポロンはその裂破を素手で受け止める。そして、その裂破を向かってくるアイティールに向けて投げ返した。しかし、アイティールはそれを難なく躱し、背中の剣を1つ握って振り下ろした。
無慈悲な一撃がアポロンに炸裂する。しかし、アポロンは特に支障はないみたいだ。平然とした様子でアイティールに攻撃を仕掛ける。
「”流星壁”」
ヘファイストスが魔法を唱える。すると、空からアイティールの目の前に岩が落ちてきた。アポロンの拳はその岩に衝突する。
「……」
アイティールはその隙に攻撃を仕掛ける。岩の反対側にいるアポロンに向けて拳を突き出す。そして、アイティールはその岩を破壊しながらアポロンの顔を殴り飛ばした。
「っ!?」
飛ばされたアポロンは真っ直ぐ壁に激突する。そして、そのまま壁をつきぬけ奥の森にまで飛んでいく。
「ちょっ!やりすぎ!やりすぎ!」
アイティールはヘファイストスのそんな言葉を聞くこともなくアポロンを追いかける。
「もぅ!」
ヘファイストスは魔法を発動させた。すると、アポロンの真下の地面が盛り上がり、アポロンを持ち上げる。
「……!」
アイティールはそんなアポロンに向けて剣を全て飛ばした。そして、全ての剣で全身を突き刺し殴り掛かる。
「っ!?」
アイティールの一撃が完璧に決まった。砂煙が巻き上がり、その中でアポロンは苦しげな表情を浮かべていた。
━━数分前……
「行った。アイティールちゃんがばてる前に完成させるよ!」
クロエはそう言って両手をパンッて合わせた。そして、両手を前に突き出し魔法陣を描いていく。
「それに合わせます」
ルリータは杖を地面に突き刺し、クロエと同じように両手を前に突き出し呪文を唱え始める。すると、魔法陣が描かれ始める。
「……こんなこと初めてだよ」
「私もですよ」
2人はそんなことを話す。そして、チラリとアイティールの方に目を向けた。そこでは激しい戦闘が行われている。砂煙が大量に巻き上がっているが、黒いオーラと炎が激しい戦闘を行っているのを表していた。
両サイドの壁からは大量の棘が出てきているが、その棘は近づくだけで壊されている。粉々になっていく岩がその戦いの激しさを物語っていた。
「……!」
クロエはアイティールの姿を見て心を痛める。アイティールは必死に戦っているのに、クロエ達はこうしてただ魔法陣を描くだけだ。それに、まだ小さい。合体するなど不可能なほど小さい。
「お願い……!持ちこたえて……!」
クロエはそう呟いて魔法陣を描くスピードを少し早めた。
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