第167話 窮地
ぐしゃりという聞いたことも無いような音が聞こえた。そして、その後すぐにバキボキと悲痛な音が聞こえてくる。見ると、無為の顔面にアポロンの拳がめり込んでいた。
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルリータがその光景を見て大声で叫んだ。そして、杖を構えて歯を食いしばる。
「”グラビティホールLvInfinity”」
凄まじい轟音が鳴り響いた。そして、ビキビキと音を立ててアポロンの周りに超強力な重力場が出来る。その重力場は球状に形成しており、アポロンのみを閉じ込めた。
アポロンはその場に発生する重力で全身を押し潰されそうになる。しかし、それでも負けることは無い。少し体に負担がかかる程度だ。
「まだよ!”ブラックホール・インパクトLvInfinity”」
アポロンの周りにあった重力場がさらに重力を強めていく。そして、強大なエネルギーが重力場をブラックホールへと変えてしまった。
ぐにゃりとアポロンの体が歪む。そして、超強力な重力によって体が引き伸ばされていく。
「……」
アポロンはその重力に流石に苦しげな表情を浮かべた。そして、アポロンの体に傷がついていることに気がつく。
「……”▊▊▊▊”」
アポロンの魔法が発動する。もう声とは思えない声で唱えられた呪文は、なんて言ってるか分からない。ただ、その呪文が強いことだけわかる。
「っ!?」
アポロンはルリータが作り出したブラックホールを燃やしてしまった。ブラックホールが燃えるというのもおかしな話だが、実際にそういうことが起こってしまっている。もしかすると、アポロンの技はもうアイティールたちが考える領域ではないのかもしれない。
「っ!?」
ルリータはその事実を知り言葉を失った。そして、再び魔法を唱えようとする。しかし、発動しようとした瞬間に倒れてしまった。
「ゲホッ……!ゲホッ……!」
ルリータは胸を押えうずくまる。そして、涙目で前を見た。すると、ルリータはアポロンが自分を見ていることに気がつく。
「あ……」
ルリータがなにか言おうとした時にはもう既に遅かった。アポロンは瞬きをする間もなくルリータに殴りかかっており、その拳はルリータの顔の前まで来ている。
「や……」
ルリータはその拳を見つめて涙を流す。目を閉じることさえ出来ない。灼熱の拳が迫ってくる恐怖をルリータは堪えられなかったのだ。
「っ!?」
しかし、その拳がルリータに当たることはなかった。なんと、その前にアイティールがアポロンを蹴り飛ばしたのだ。
「……!」
アイティールは先程とは違い、ただ無言でアポロンに攻撃をすした。そして、手のひらにビー玉サイズの黒い玉を作り出しアポロンに向けて投げた。
蹴り飛ばされるアポロンに黒い玉がぶつかる。すると、黒い玉は大爆発をした。
「っ!?」
「”龍力・起源破壊”」
クロエの右腕に極悪なほどの黒い魔力が溜められ、球体ができる。それは、黒い炎や水、風、雷などの、この世に存在するもの全てが混ぜられている。
「死んで」
クロエはそれをアポロンに向けて投げた。黒い球体は空気さえも闇の力に侵蝕しながらアポロンに直撃した。
「「「っ!?」」」
唐突に黒い衝撃波がその場を走り抜ける。そのことにその場の全員が言葉を失う。そして、アイティール達が驚いている間もなく、黒い球体は魔力を膨張させた。しかも一瞬で。
クロエが作り出した黒い球体の中に核のようなものを見つける。そこからはとてつもない魔力を感じる。そして、アポロンはそこにいた。アポロンはそこでもがき苦しんでいる。
「規格外すぎでしょ……」
ヘファイストスはそう言って苦笑いをした。
「”金剛壁”」
ヘファイストスは両手を地面につけそう唱える。すると、アイティールたちの目の前に強固な壁が形成された。
そして、その数秒後にアイティール達を獄炎が襲う。
「っ!?」
どうやらクロエの攻撃でも倒すことは出来なかったらしい。ダメージは与えたが、致命傷にはならない。
「……ダメ……!魔力が足りなくなっちゃう……!」
クロエはそう言って壁にしがみつきうずくまった。
「このままじゃ全滅しちゃう。こっちの魔力は有限。でも、向こうは無限」
「ゲホッ……!それに……回復……まで……してます……!」
ルリータはそう言った。
「……回復……ゲホッ!何とか……破らないと……!」
クロエは苦しげな声でそう言った。そして、両目から大量の涙を流して歯を食いしばる。
「クロエ!避けて!」
ヘファイストスの声が聞こえた。クロエが顔を上げると、かかと落としをしようとするアポロンがいることが分かる。
「あ……死……」
「っ!?」
しかし、その攻撃がクロエに当たることはなかった。途中でアイティールがアポロンを蹴り飛ばしたことにより、アポロンは少し飛ばされる。
「……!」
アイティールは激怒した目でアポロンを見た。そして、これまで不安定だった黒い魔力を安定させていく。
すると、バラバラだったものが一つにまとまり黒い剣を7つほど形成した。その剣はアイティールの背中に円状に浮かび、黒い輪っかを作る。
「キャハハァ!」
アイティールはその剣を2本ほど飛ばした。変則的な動きをした剣はアポロンに向かって飛んでいき突き刺さる。
「”▊▊炎▊”」
アポロンが魔法を使う。しかし、その剣は燃えない。
「キャハハ!」
そして、アイティールはアポロンの目の前まで一瞬で移動した。右手には黒い玉を作り出し、アポロンにぶつける。
さらに、その玉がぶつかった場所に3本ほど剣を飛ばした。それはグサグサとアポロンに突き刺さり、黒い玉さえも突き刺してしまう。
その刹那、黒い玉は爆発した。単純な爆発ではなく、黒い高密度の魔力を放ちながら爆発した。
空間が侵蝕されていく。黒い力はアポロンの体を黒く蝕んだ。しかし、アポロンはその黒い力を振りほどき爆発の中から飛び出してくる。
「……!」
アポロンがアイティールに向かって拳を構えた。そして、速く重たい右ストレートをぶつけようとする。しかし、アイティールはそれを上手く受け流した。
そして、今度は反撃に出る。アポロンの相手いる場所目掛けて左足で蹴り飛ばそうとした。アポロンはそれを見てすぐに防御をする。
「……」
「……」
2人の戦いはますます激化して行った。ただの拳のぶつかり合いなのに、衝撃波が発生し辺りの地形が崩れ始める。
「……」
「……」
ただ、爆発音だけが聞こえるその戦いは、他のみんなはついていけなかった。魔力が足りないのもあるが、その速さと激しさから、行っても足でまといになるだけだと分かる。
「アイティール!足場に使って!」
ヘファイストスがそう叫んだ。すると、ヘファイストスは魔法で地形を変え、大量の足場を作り出す。それに、巨大な棘や、巨大な岩の拳を作り出し襲いかかる。こうすることでアイティールを援護しようとした。
「……!」
しかし、それでも近くによることは出来ない。こうして遠くから援護をするくらいしかできないのだ。
「っ!?」
そう思っていると、アポロンの右ストレートがアイティールの腹に深く突き刺さった。
「……っ!?」
苦しげな表情をうかべるアイティールの動きが少し鈍くなる。そして、その隙を狙っていたアポロンがアイティールに炎の玉をぶつけた。
「”▊▊▊▊▊▊”」
全くと言っていいほど聞き取れないその一撃は、ただただその場の全員に恐怖を覚えさせただけだった。そして、それと同時にアイティールにかなりのダメージを与えたのだった。
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