第166話 炎の地獄
激しい水流がアポロンを襲う。極限まで圧縮された水は全てを切り裂く刃へと変貌する。その変貌した水もアポロンを襲う。
しかし、アポロンには通用しなかった。どれだけ水がアポロンを襲うともアポロンに触れる前に蒸発してしまう。
「……水が弱いですよ」
「そんなこと言わないでぇ!」
クロエはそう言って顔を隠す。
「”水乱歌”」
すると、唐突にフィトリアが魔法を唱えた。そして、優しい歌を歌う。すると、その場の空気が少しだけ湿気を帯びてくるのがわかった。
「よそ見しない!」
フィトリアは喝を入れるようにそう叫び、指から出る糸を操作する。その精密な操作により糸で繋がれた動物達がアイティール達をアシストする。
「キャハハハハハハ!」
アイティールは可愛くもあり、狂気的でもある笑みを浮かべてアポロンに突っ込んだ。
アイティールの黒い右ストレートがアポロンを襲う。先程まではとてつもない程の熱気に阻まれていたが、今はフィトリアが作り出した湿気のおかげで阻まれない。
「キャハハ!」
アイティールはアポロンの顔を殴り飛ばす。そして、飛んでいく先に回り込み、かかと落としをした。アポロンは額にアイティールのかかとが当たり、そのまま地面に強く叩きつけられる。
「”赤波瘴霧”」
無為はアポロンを見てここぞとばかり魔法を唱える。すると、赤い霧がこの空間に発生した。その霧は波を打っており、触れるだけで体に害を及ぼす。
無為はその魔法を使用し、そしてクナイを両手に持ち走り出した。
「”深海魔・斬”」
無為が握るクナイに水がまとわりつく。それは、青々とした光を放ち、波のようなものを起こしていた。
アポロンはそんな無為を1度だけ見ると、すぐに立ち上がろうとする。しかし、先程のアイティールの攻撃が効いているのか、立てずにいる。
さらに、無為が作り出した赤い霧のせいなのか、冷静な判断ができずにいる。アポロンは苦しげにもがきながら、立ち上がれずにいる。
「死ね」
無為の鋭い一撃がアポロンを襲った。水流はアポロンの体に浅い傷を作る。
「硬い」
「”爆▊▊傀▊▊”」
アポロンが魔法を唱える。ギリききとれそうな声で唱えられた呪文はその場にいる人達には少しだけ恐怖を与えるものだった。
そして、それ以上に、無為は唐突に体の自由が効かなくなったことに驚く。アポロンに押付けていたクナイは勝手にアポロンから離され、手からも離れる。
「や……ダメ……!」
無為の両手は勝手に動く。そして、来ている服の胸の部分を鷲掴みして、脱ごうとする。無為はその事実に驚くのと、怯え、そして恥ずかしさが込み上げてくる。
「”凱岩殼”」
ヘファイストスの声が聞こえた。そして、無為の体は岩で押し付けられ拘束される。その隙にクロエが無為に繋がる糸を切った。
「大丈夫?」
「だいじょばない」
「あはは……気にしない気にしない!やるよ!”翡翠風切”」
クロエはそう言って背中に生える羽を大きく羽ばたいた。すると、羽から鋭い斬撃が飛んでいく。そして、アポロンを襲う。
「”残像魂”」
さらにクロエは魔法を唱える。すると、クロエの体がブレているのが見えた。そして、気がつくとクロエの体が3つに分身している。
「”閃撃の三重奏”」
クロエの一撃が放たれた。眩い光が世界を黄色に染めあげる。そして、高エネルギー砲がアポロンを襲った。
「畳み掛けて!」
クロエのその言葉と共に無為とルリータが走り出した。全身に魔力を纏わせアポロンに近づく。そして、高エネルギー砲が当たる先に向かって魔法を放つ。
「”シャイニングスターLv14”」
「”旋風壊”」
2人の魔法がアポロンに当たった。そして、3つの魔法が呼応し合って大爆発する。
「やった?」
フィトリアが聞いた。そして、少しだけ動きを止める。全員はその場に立ち、舞い上がった煙がおさまるのを待った。
「……」
その場に少しの間沈黙が流れる。そして、静かに風が吹いていき、煙をかっさらっていく。
「……」
そして、アポロンの姿が顕になった。
「「「っ!?」」」
なんと、そのからだは無傷だったのだ。少しくらい魔力が減っているとか、少しくらい傷がついているとか、そういうことを思っていたが全て無駄だったみたいだ。一切の消費もなくアポロンはその場に立っている。
「回復した?」
「でも、魔力が減ってませんよ」
「困ったわね」
3人がそう言って少しだけ息を整える。
その刹那、アポロンがフィトリアの目の前に移動した。それも一瞬で。
「っ!?」
まるで瞬間移動とも思えるその速さに、フィトリアは反応できず動けない。そのせいで、アポロンの攻撃も避けられなかった。
アポロンのグーパンがフィトリアの腹に重たく入る。
「おごぇ……!」
ゴキゴキとフィトリアの腹が音を立てた。そして、そのままフィトリア飛ばされる。殴られた勢いのまま飛ばされる。その先には巨大な岩壁があり、フィトリアはそこに衝突した。
「うぐぇ……!ゲボッ……!」
フィトリアは、拳がめり込み凹んでしまった腹を押えながら口から血を履いた。そして、痛みを堪えて何とか立ち上がろうとするが、全くと言っていいほど足に力が入らない。ブルブルと震えて立ち上がるのを拒否している。
「あ……」
フィトリアは思わず顔を上げた。何かを察したからだ。そして、顔を上げるとそこにはアポロンが居る。
「や……だ……!」
フィトリアのその言葉も虚しくアポロンに顔を掴まれてしまった。高熱になったアポロンの腕は、触れられるだけで火傷をしてしまう。何重にも耐性をつけているはずのフィトリアは顔に火傷をおった。
そして、アポロンに何度も地面に顔を叩きつけられみんながいる場所に投げ飛ばされる。
「「「っ!?」」」
凄まじい轟音が鳴り響いた。そして、アイティールの元に顔をボコボコにされたフィトリアが飛んでくる。鼻血を出して泣いている姿は、見るに堪えないものだった。
「っ!?」
アイティールはただ無言でフィトリアが飛んできた方向を見つめる。すると、その先から何か明るいものが向かってきているのが見えた。
「……!」
アイティールは何も言わずただそいつを殴る。しかし、アイティールの拳はその勢いちさに負けてしまう。
「っ!?」
アイティールは少しだけ飛ばされた。だが、上手く着地をして体勢を崩さないでいる。
「無為!逃げろ!」
クロエが唐突に叫んだ。よく見ると分身の2人が消えている。どうやらもう既に消されていたらしい。無為は慌ててその場から逃げ出そうとした。
しかし、その前にアポロンからラリアットを食らって地面に叩きつけられる。
「ダメ!」
クロエのその一言も虚しく無為はその可憐な顔に、硬く熱い拳を叩きつけられた。
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