第165話 強化フォーム
「「「”死獄纏”」」」
3人の魔法が同時に発動した。すると、ルリータ、無為、フィトリアの体は幻想的な光に包まれる。そして、その光の中から姿が変わった3人がでてきた。
「久しぶりになった」
「妾もじゃ。やっぱり、こっちの方が気持ちいい」
「私は最近なりましたけどね」
3人はそんなことを言う。そして、不敵な笑みを浮かべる。
「……」
「何か言いたげじゃの」
「うん。皆、エロいにゃ」
「「「……」」」
アイティールの言葉で3人は無言になった。だが、確かに言われてみれば3人ともエロい。ルリータはロリなのにも関わらず、腹だし肩出しで透明なフリル付きのスカートだ。
無為はいかにも忍びですっと言う感じだが、明らかに布面積が少ない。胸もかなり見えすぎだと思えてしまう。
逆に、フィトリアは布面積は多かった。しかし、服がピチピチなのだ。さすがにそこまでピチピチにするか?と聞きたくなるほどピチピチなのだ。それがまたエロい。
ただ、3人ともかなり強そうだ。アニメや漫画でよくあるかっこいい感じが滲み出ている。それに、3人の雰囲気が変わった。先程よりも殺気は強く、濃く、赤黒い。
「何をそんな……こんな時に私達をエロい目で見てるんですか?変態ですね」
「後でお仕置。真耶に頼む」
「妾の鞭を貸しておくのじゃ」
「ごめんってば!真耶には言わにゃいでだにゃ!」
アイティールは泣きながらそんなことを言う。
「てか、主役2人はどうするのです?本気、出さないんですか?」
「「「っ!?」」」
2人は驚いた。どうやらこの3人の前では隠し事は出来ないらしい。と言うか、恐らく十二死星の前では全員にバレている。
「なぁんだ。知ってたんだ」
クロエはそう言って笑うと少しだけ恐怖を感じるような顔と雰囲気になった。その場にいた人達は少しだけ冷や汗を流す。
「”神龍武装”」
クロエがそう唱えると、足元に巨大な魔法陣が生成される。その魔法陣からは謎の黒い触手のような物体が伸びてきた。それは、ぬるぬるとした動きでクロエを取り巻いていく。クロエはその触手に全身を纏わせると、振り払うように1歩前に歩いた。
「……」
クロエの体は神聖なオーラにまとわれる。服装も神聖なものになり、雰囲気も変わった。
「これが……神龍の本当の力……」
「すごいでしょ?ま、私自身あまり使ったことの無い力なんだけどね」
クロエはそう言って微笑む。そして、その場の全員はアイティールに目をやった。
「にゃにゃ!?にゃんだにゃ!?にゃあだってちゃんと強化フォームみたいなのがあるにゃ!」
アイティールはちょっとだけ怒りながらそう言う。
「ほんとに?」
クロエがおちょくるような顔で笑いながらそう聞いた。すると、頬をプクーっと膨らませたアイティールが不満気な声で言う。
「あるにゃ!ちょっと使いたくにゃいだけにゃ!」
「でも、使わなかったらないのと同じですよ」
ルリータの言葉がアイティールの心にグサリと刺さる。
「今は出し惜しみなどできぬ。嫌がる暇などないのじゃ」
フィトリアは厳しめにそう言った。すると、アイティールは少しだけ泣きそうな顔をした。しかし、我慢してゆっくりと印を結ぶ。
「怖いにゃ。どうにゃるのか……分からにゃいにゃ……」
「暴走したら何とかする」
「……信じるにゃ。”天明を重ねる。地を貫く。神明の先にありし天啓よ、魔の闇へと誘われよ。”……”伊弉諾”」
その時、アイティールの体が黒い闇に包まれた。そして、赤や青、緑、黄色などの光がその闇の中に混ざっていく。
「っ!?」
「何……ですか……!?」
「黒い……力……!」
「これが……アイティール……!」
その場の全員はその光景を目の当たりにして何も言えなくなる。そして、溢れ出てくる黒い闇に少しだけ恐怖を覚えた。
「……キャハハ……」
唐突に変な笑い声が聞こえる。
「キャハハハハハハ!」
その笑い声はどんどん大きくなって行った。そして、黒い闇が唐突に爆発し、辺りに強い衝撃波を放つ。
「「「っ!?」」」
その場の全員は衝撃波に驚き動けなくなった。しかし、アイティールはそんなみんなを見ながら笑うだけだ。そして、笑いながらアポロンを見る。
「キャハッ!」
アイティールは黒いオーラに全身が見えなくなるほど覆われながらアポロンに向かって1人飛び出して行った。そして、アポロンの首筋を殴る。
ドゴォン!という音を立ててアポロンが殴り飛ばされた。そして、地面に強く叩きつけられる。
「アイティール!1人じゃダメだ!」
後ろからヘファイストスがそう叫んだ。その声を聞いてそのほかの4人はハッとする。そして、アポロンに向かって行く。
「キャハハ」
アイティールはチラリとクロエ達を見ると、歪んだ笑みを浮かべた。真耶なら可愛いと言ってくれるのだろうが、クロエ達には怖さしか感じなかった。
「キャハハ!」
アイティールはアポロンに再び殴り掛かる。そして、そのまま後頭部を殴りつけた。
「キャハハハハハハ!」
アイティールは歪んだ笑顔を浮かべて、狂ったように笑う。まるで、違う人格のように。クロエ達はそれを見て少し心配をした。
「アイティール……なんかごめん」
「キャハ!」
アイティール笑った。そして、その心は閉ざされていく。暗く、暗く、暗い、深淵へと堕ちていく。
暗闇で1人踞るアイティールの頭に、『後悔』『恐怖』『楽しみ』などの様々な感情が渦巻いていくのを感じた。そして、あの頃の方が、あの時の方が……そんな、色んな言葉がアイティールになげかけられる。
「……怖いよ……」
アイティールの心は暗闇に取り残された。
「キャハハハハ!」
アイティールは全身を黒く染め、アポロンに肉弾戦を迫る。
「待て!一人で行くな!」
クロエはそう叫んでアイティールを追いかける。他の全員も同じようにアイティールを追いかけた。
「全く、生き急ぐでないのじゃ」
フィトリアはそう言って手をパンッと強く叩く。そして、指先から魔力の糸を出して一気に広げる。
「”神魂霊華”」
フィトリアは魔法を唱えた。すると、突然半透明な動物が現れる。その中には空想動物も存在した。その動物達にフィトリアが出した糸がくっつく。
「行って!」
動物達が雄叫びを上げた。その音で空気が揺れる。そして、アイティール達の身体能力が高まる。
「殺る。”瞬転華”」
無為の体が瞬間的に移動する。そして、アポロンの周りに現れたり消えたりを続ける。アポロンはそんな無為に翻弄される。現れた時に攻撃され、その方向をむくと消えている。それを何度も続ける。
「……”壊▊▊死炎▊”」
アポロンは声にならない声で呪文を唱え、無言でその拳を地面に叩きつけた。すると、凄まじい熱波が爆発的に球状に広がる。
「”氷結界・Lv12”」
ルリータの魔法が発動する。すると、熱波が氷のドームで覆われた。そのおかげで熱波は広がることなく、その場の全員は無事だ。
「”水剣・斬廻凪波羅”」
クロエの手に魔力が集まり巨大な水の剣を形成する。そして、その水の剣でアポロンを攻撃した。
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