第164話 見えない未来
━━……またまた一方その頃、フィトリアは熱波を避けながら走っていた。そこら辺の地面はボコボコで、石なのに燃えている。
「酷いものじゃ」
フィトリアはそう呟きながら辺りを見渡す。すると、少し遠くにクレーターを見つけた。フィトリアはそこに向かって走り出す。
クレーターの近くまで来ると、ちょうど真ん中にクロエがいることがわかった。フィトリアは慌ててクロエに近寄った。
「熱い……!」
思わずフィトリアはそう叫んでしまう。だが、それも仕方の無いことなのだ。クロエの体はとんでもないほどの熱気に包まれ、腕の龍の表皮は溶けている。
「”ブリザードホール”」
フィトリアは魔法を唱えた。すると、クロエの溶けている部分や焼けている部分を氷の球体が覆う。すると、氷は音を立てて燃えだした。
水蒸気がもんもんと上がる。そして、その場は白く見えなくなって行った。フィトリアはその状況に少し驚きながらも、休まず氷を生成し続ける。
「ごめんなさいね。私は回復魔法は得意じゃないの」
「いい……よ。ヴァンパイアだもんね」
クロエは目を覚ましそう言って笑った。その声はかなり弱々しく、でも震えていた。
「……勝てると思う?」
思わずフィトリアはそう聞いてしまう。
「どうしたの?突然そんな弱気になっちゃって」
クロエは優しく微笑みそう聞いた。
「……あの力は異常なのじゃ。雰囲気も、力も、何もかもが違う……。まるで別人としか思えないのじゃ」
「……うん。……うん。そうだね」
「あの力を目の当たりにした時、2人は前に飛び出した。でも、妾は動くことすら出来なかった。怖くてただ足を震わせるだけだった。あんなのを見て、勝てると思えない」
「そうだね……。勝てないかもしれない。でも、未来に絶対は無いんだよ。やってみないと分からないことしかないんだから、初めから勝てないっていうのは間違ってるよ」
「……でも……」
「知ってる?本当の敗北は諦めた時だよ。諦めて、負けを認めた時が本当の敗北。だからさ、まだ負けてないんだから頑張ろうよ」
クロエはそう言って立ち上がる。震える足を何とかシャキッとさせて立ち上がる。そして、フィトリアに元気な姿を見せ笑笑顔で言った。
「行こ!私達は1人じゃ無いよ!」
そう言ってフィトリアの手を掴みクロエは走り出した。
━━場所は戻って……
ルリータはアポロンとの戦闘を続けていた。
「”紅蓮南原”」
アポロンはそう唱えて地面を殴る。すると、地面がぼこぼこと音を立てて灼熱の溶岩へと変わり始めた。
「”フライLv2”」
ルリータは魔法を唱える。すると、ルリータの体が浮かび始めた。
「灼熱化……。触れたらやばそうだわ」
ルリータはそう呟いて飛び回る。そして、かなりスピードを上げて杖を構えた。
「”逆鱗の太陽華”」
ルリータが魔法を唱えると、地面から巨大な花が荒れ狂いながら3つほど咲いた。そして、アポロンに向かって太陽光線を浴びける。
しかし、アポロンには通用しない。
「ま、それもそっか。元が太陽神だもんね」
ルリータはそう言って冷や汗を垂らす。そして、次の手を打とうとした時、等々に左頬に圧力と熱気を感じた。そして、凄まじい勢いで殴り飛ばされる。
「うごぉ……!おごぇ……!あがぅ……!」
ルリータは地面に3回ほどバウンドし崖から落ちた。そして、勢いを殺すことが出来ないまま、崖の下まで一直線に落ちていく。
しかし、その途中でルリータを誰かがキャッチした。そして、目にも止まらぬ早さで崖をかけ登り、アポロンの前まで来て蹴り飛ばす。
「にゃん!」
どうやらアイティールだったらしい。アポロンはアイティールの蹴りを食らって少しだけ後ずさる。
「”雷傀儡糸”」
無為が魔法を唱えた。そして、雷を纏う糸がアポロンを襲う。その糸はアポロンの体にくっつき体の制御を奪う。
更に、アポロンの周りに数人の妖精が飛び回っていることに気がついた。その妖精は鱗粉を撒き散らしながらアポロンを取り囲むようにして飛びまわる。
「”アストロフレア”」
そして、クロエの魔法が炸裂した。炎を使う相手に炎の魔法を使うというのもおかしな話だが、クロエが放った青白い光を放つ炎がアポロンを襲う。しかし、特に効果はないようだ。
「なんで炎に炎なんですか?効くわけないですよ」
ルリータが冷静にそう言う。
「その事は言わないでよぉ!」
クロエは赤くなった顔を隠しながらそう言う。
「ま、まだ冗談言えるだけ良いですよね」
「あれ、勝てる気しない」
「どうするつもりなのじゃ?」
それぞれ皆何かしら言う。アイティールはその言葉を聞きながら集中した。そして、勝つ方法を模索する。
「……ダメ、にゃんにも思いつかにゃいにゃ。とりかく、全力で立ち向かうしかにゃい。出し惜しみは出来にゃいにゃ」
アイティールはそう言った。すると、他の4人は覚悟を決める。
「初めからそのつもりじゃない?やりましょ」
クロエはそう言って伸びをした。すると、ルリータ達がニヤリと笑ってアイティールとクロエの前に出る。
「今度は私達が前に行きますよ。私達は陽動。メインはお2人です」
「隙は作る。行って」
「支援魔法は任せるのじゃ」
3人はそう言った。すると、後ろからヘファイストスが言ってくる。
「ダメよ!今のアポロンには何も通じないわ!」
「やる前からそんなことは分からないわ」
「逃げたいにゃらおみゃーだけ逃げるにゃ」
「っ!?」
ヘファイストスはアイティールの言葉を聞いて歯を食いしばる。そして、拳に力を込めると、ゆっくりと立ち上がって言った。
「良いわ。私もやる。私は大規模な魔法を使うわ。上手く使って」
そう言ってハンマーを手に持った。
「私はこれでも十二神の一人。その力を見せてあげる。”神格化”」
その刹那、ヘファイストスの体に金色の光がまとわりつく。そして、服装が変わっていき、神々しいオーラを放つようになった。
「本当は気乗りしない……。怖いから、死にたくないから、勝てないから、理由を数えだしたらキリがない。でも、未来は分からない。その言葉にかけて見ようと思う。皆を……そして真耶を信じるわ。さっきまで敵だったかもしれない。だけど、どうか今だけは見方として信頼して欲しい」
ヘファイストスはそう言って少しだけ俯いた。その場にいた5人は少しだけ驚いたような表情を見せて笑う。
「何?急にしおらしくなって」
「私達が嫌というとでも思ったのですか?」
「浅はか。協力しないわけない」
「そもそも、お主の力なしでは勝てんのじゃ。それより、先程までのあの弱々しい感じはどこに行ったのじゃ?」
「おみゃーがなんと言うとこっちは勝手に仲間だと思ってたにゃ。弱々しいのも今のも、仲間と思っても悪くはにゃいにゃ」
5人はそう言って茶化すように笑う。ヘファイストスはそんな5人に感謝しながら笑みを浮かべた。そして、ハンマーを大きくふりかざし地面に叩きつける。
「”地殻凱変来華”」
その瞬間、地面が動き始めた。そこら辺にあった岩山はぐにゃぐにゃと動き、崖ができたり山ができたりと地形が変わりまくる。しかも、その範囲はかなり広く、規模もかなり大きい。
「これが本当の力……!?」
「行って!道は作ったわ!」
ヘファイストスはそう言った。5人はその言葉を聞いてアポロンを見る。そして、ルリータ達3人は魔法を唱えた。
読んでいただきありがとうございます。