第162話 堕天の使徒
「……生きていた……か。真耶はあの時俺が死んだと思ったの?」
「当たり前だろ」
「そうか。なら、俺は生き返ったってことになるな」
ルシファーと呼ばれた男はそう言って楽しそうに笑う。しかし、真耶は全く笑えない。黒い空間に片方だけ光る翼を生やした目の前の男を見て真耶はただ強烈なさっきを放つだけだ。
「なんでそんな怖い顔するんだよ?かつての親友がこうして帰ってきたんだぞ」
ルシファーはお調子者のように振る舞い、そんなことを言って場を和ませようとする。しかし、真耶は全く気にしない。
「……もしかして、僕のこと恨んでる?」
「……」
「それとも、帰ってきた感動で泣きそう?」
「……」
「ねぇ、何か言ってよ。悲しいな〜」
「ベラベラとうるせぇよ!」
真耶の怒号がルシファーに飛んでいく。
「お?何?怒ってんの?珍しいね。もしかして嫌なことでもあったのかい?それとも何か衝撃的なことがあったか……」
ルシファーはそう言いながら笑っていた。表面上ではお調子者のようだが、その笑みの奥底には狂い歪んだ笑みが隠れていた。
「……僕を殺す?」
唐突にルシファーがそんなことを聞いてくる。
「どうかな」
「殺すんだ。僕が嫌いなのかい?それとも、嫌いになった……」
ルシファーの言葉に真耶は全く反応しない。ルシファーはそんな真耶の周りをうろちょろしながら顔をのぞき込む。
「……」
「ハハッ!嫌いなら嫌いだってはっきり言ってくれよ!僕はそういう風に濁されるのが一番嫌いなんだ!」
ルシファーは少し声を大きくして楽しそうにそう言った。真耶はそんなルシファーを見て言った。
「だとしたら、なんでお前はあの時答えを濁した?はっきりと俺に説明しなかった?なぜアイツを殺そうとした?お前はわがままだ。勝手だ。お前の言葉に1つも責任などない。口に出した言葉は帰ってくる。だからこそ今お前に聞く。なぜ俺達を騙した?」
真耶は右目を金色に光らせながら聞いた。
「お?やる気?時間眼なんて僕には通用しないよ。力の無駄遣いだ」
「それで?」
「そうだね……。自白させたいならもっと相手に効く技にしないと。例えばさ……こんなふうにね!」
そう言ってルシファーは羽を広げた。そして、その羽を飛ばしてくる。
「っ!?”クロノクロス”」
咄嗟に真耶は魔法を使う。右目を開いて目に浮かぶ時計の針を少し動かした。その刹那、真耶の背後に2つの巨大な時計が現れる。その時計はカチカチと音を立てて秒針を動かしている。
「”重なれ”」
その時、2つの時間軸の時が重なったのがわかった。肉眼で目視することな出来たわけじゃない。だが、確実に重なったと直感した。
その時、あることが起こった。羽が消えたのだ。燃えたとか粒子になったとかそんな消え方では無い。唐突にその場から無くなったのだ。
「ん?何それ?知らない技だなぁ」
「……時十時の狭間に送り込んだ。返してやるよ」
真耶はそう言ってルシファーの目の前にその扉を開く。すると、その中からルシファーの羽が飛んできた。
ルシファーはその羽を掴む。そして、力強く拳を握りその羽をパキッと折った。
「……あげたものを返すのは失礼だよ」
「人のプレゼントを壊すのも失礼だぜ」
ルシファーの言葉に真耶はそう返す。そして、ニヤリと笑った。真耶のその笑みを見たルシファーは少しだけ心の奥底にある高揚感を”思い出した”。そして、胸の奥から湧き上がってくる力を押さえ込む。
「……ククク……!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
笑い声が空間に響いた。そして、その空間は強く振動する。
「……」
「……はぁ、君はやっばり面白い。だから、ここで殺しておくよ」
ルシファーはそう言って羽の中から1つ大きな羽を握った。そして、それを力強く引っ張り抜く。すると、その羽の先は鋭い剣になっているのがわかった。
「”閃裂”」
「”冥覇楼・霊撃殺”」
二人の大きな力がぶつかり合う。黄色い閃光のように光を散らしながら迫りくる羽の剣と真耶が持つ体内で生成された紫色の力をまとった剣が十字に交差する。そして、甲高い音とともに大量の火花が散った。また、あふれ出る魔力が強い波となって空間を揺るがした。
剣を交えた二人はそれぞれ違う表情を見せる。真耶はルシファーに向かって殺意むき出しの苦しげな表情を見せた。ルシファーは真耶に向かっておちょくるような、楽しそうな、狂気的な笑みを浮かべた。
二人は少し離れて顔を合わせる。その時二人は各々気づいた。
「っ!?」
「……」
ルシファーは顔を縦に切られ、真耶は左肩を切られた。
「僕の顔に……真耶ぁ……!君はなんてことをしてくれたんだ……!」
ルシファーはそう言って真耶に激怒する。真耶は血が滴る左腕を右腕で押えて魔力を流す。すると、その血は止まり傷は治った。
「……顔が大事か?」
「当たり前だね!」
「じゃあ命は要らないな。顔だけ守ってろ。”冥覇楼・暗闇の剣”」
その刹那、真耶の剣が黒く染る。そのせいで真耶の剣は空間に溶け込み見えなくなった。真耶はその見えざる刃を振りかざす。そして、神速にも近しい程の速さで切りつけた。
「……で?」
しかし、ルシファーには通用しなかった。小指と薬指の二本指で剣の腹の部分を抑えている。真耶は剣を持つ手にかなり力を込めるが、剣が少し振動するだけで前に進まない。
「顔だけ守るには威力が低すぎやしないかい?やっぱり君は弱いよ。あの時から何も変わっちゃいない」
「っ!?」
(なんつー力だ……!ここまで力に差があるのか!?いや、そうは思えない。死んで帰ってきたのは同じ。だとしたら、なぜこの男はここまでま強くなる?)
真耶は凄まじい速さで思考をめぐらした。そして、答えを探る。しかし、その答えが出てくることは無い。無敵に近い男を目の前に真耶は為す術を失った。
「……星を拒んだからだよ。君が。僕は受け入れた。それが君と僕のこの力の差だよ」
ルシファーがそう言った瞬間、真耶の右脇腹に巨大な穴が空いた。そして、右胸の辺りに小さな小さな青い星のようなものがうかんでいた。真耶がそれを認識するやいなや、その星は爆発した。
「っ!?」
そのせいで真耶は飛ばされる。そして、とてつもない熱風が襲い、火傷まみれになった右腕を抑えながら真耶は何とか立ち上がった。
「……はぁ、なんだかガッカリだな。君は所詮その程度さ。早く星を受けいれた方がいい。星に勝てるやつはいないんだよ」
ルシファーはそう言って羽を羽ばたかせた。そして、もう片方の羽も生やした。片方は黒で、片方は白色だ。
「君も早く星にその身を捧げるといい。世界が変わるさ」
ルシファーはそう言って楽しそうに笑った。
「……お前も堕ちたな」
真耶はそう言う。
「なんとでも言いたまえ。あと、僕は近々面白いことを起こそうと思っている。参加するかどうかは自由にしてくれ。まぁ、今の状況をどうにかしないと参加するのは無理だけどね」
「……」
ルシファーはそう言って狂気じみた笑みを浮かべる。
「僕のプレゼント……気に入ってくれるかな?まぁ、彼女たちはどうなるか分からないけど、手応えは抜群さ」
「っ!?てめぇ!」
「ハハハハハ!君がどうするか見ものだよ!ハハハハハ!」
ルシファーはそう言ってその空間から消えていった。ルシファーを見ていた真耶は強烈な殺気を放ち、怒りに満ちていた。
「この空間からでなくては……」
真耶はそう言って自分の心臓に剣を突き刺した。
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