第160話 紅蓮駆け巡る中の真実
「応えろにゃ。今すぐに」
アイティールはそう言った。しかし、ヘファイストスは口を開かない。言いたくないのか、言えないのか、それは分からないが言う気配を見せない。
アイティールはそんなヘファイストスを投げ捨てると言った。
「おミャーは強情にゃんね。腕の1本や2本ちぎっておく方がいい気もするにゃ」
アイティールのその言葉にヘファイストスはさらに怯える。そして、少し苦しげな表情を浮かべて言った。
「私だって……こんなことを望んではなかったの……!」
「っ!?」
その言葉にその場の全員は反応する。
「どういうこと?」
クロエは聞いた。すると、ヘファイストスが俯き涙を流しながら言った。
「私の本当の目的は、アポロンと真耶を戦わせることでどちらか片方が瀕死の重症を負うようにしようと思ってたの……」
「「「っ!?」」」
「な、何言ってるんですか……!?あなた……本っ当にクズですね!」
ルリータがそう言って怒鳴りつける。すると、ヘファイストスは泣きそうな顔を見せた。
「それで、なんでそんなことしようとしたの?」
クロエは少し怒りを抑えられない様子で聞いた。
「……だって……もう2人がいがみ合うのを見たくなかったんだもん!アポロンはいつまでもいつまでも真耶を殺すことしか言わなかった……!真耶だって、心の底ではアポロンを殺そうとしていた……。オリュンポスがなんでそんなに真耶を敵対視するのかは知らないけど、私はそれを止めたかったの!」
「でも!それと真耶様かアポロンのどちらかが瀕死になることは関係ないじゃないですか!」
ヘファイストスの言葉にルリータは反応する。
「でも、それ以外に方法が思いつかなかったのよ!これでも私はオリュンポスの一員。だから、アポロンに勝って欲しい!でも、真耶にも勝って欲しい……。だとしたら、どっちか勝敗をつけるなんて出来ないよ……!それに、勝敗がつくってことは、それは、どっちかが死ぬってことじゃん!そんなことはさせられないよ……!」
ヘファイストスは泣きながら叫ぶようにそう言った。アイティールはその言葉を聞いて尚更怒りが込み上げてくる。
「そんなの……わがままにゃ!」
「わかってるよ!今私が言ってることはすごいわがままなことだっていうのは!でも!私には耐えられないの!ずっと2人でいがみ合って、どっちが先に殺されるかドキドキしながら見てるなんて耐えられないの!それに、あの2人の戦いは2人だけの問題じゃない……。どっちかが殺されれば、必ず誰かが復讐に行く。アポロンが死ねば、私達オリュンポスはあなた達を全力で殺しにかかるし、真耶が死ねばあなた達が同じことをする。だから、どちらもかけちゃダメなの……!」
ヘファイストスは涙を流しながら必死に説明をした。そして、拳を強く握りしめ地面を叩く。
「確かに、真耶がやられればわっちらも黙ってはおれんのう」
「妾も同感」
2人はヘファイストスの意見に同意する。
「他の方法も……思いつかにゃいにゃ。でも……」
「あんなのは知らないわ!オリュンポスは聖剣士、聖闘士、聖天使、様々呼ばれ方をしている……。でも!どれも神聖な力を持つからこそそういうふうに呼ばれてたの!オリュンポスであることに誇りを持っていたアポロンがあんな禍々しい魔力を使うはずがないわ!それに、オリュンポスは光明神でもあるの!闇の魔力は使えないはずよ!」
ヘファイストスは泣きながらそう叫ぶように説明する。
「……じゃあ、おミャーの筋書きではどっちが瀕死になるつもりだったにゃ?」
アイティールはヘファイストスにそう聞いた。すると、ヘファイストスの言葉が無くなる。目を見開き口をパクパクさせた。
「そ、それは……」
「嘘はつくなよ。わっちはこれでも忍びの端くれ。嘘かどうかの判別は着く」
「っ!?そ、そんな……!」
ヘファイストスは完全に黙り込んでしまった。手をブルブルと震えさせ、完全にアイティール達に怯えている。
「……そ、それは……その……」
「早く言いなさいよ!」
「ひぃ!ごめんなさい!」
ルリータの怒鳴り声でヘファイストスは更に怯えてしまった。
「それで、どっちにゃ?」
再びアイティールが聞く。
「そ、それは……!」
ヘファイストスはうずくまってしまった。そして、嗚咽を漏らしながら、過呼吸になりながら口を開く。
「ま、真耶よ……!」
「「「っ!?」」」
その言葉に一同驚愕する。
「アポロンが……神羅焼を使って……それで、真耶が追い詰められて……でも、真耶がなにかしらの力を使って……それで……それで、アポロンが瀕死になって終わり……そう考えてたの……!」
「「「っ!?」」」
さらに、アイティール達は驚いた。予想外の答えに戸惑い言葉を失う。
「な、なんで……!?」
「だって!アポロンが勝ったらまだ戦いは続ける!でも、真耶が勝ったらオリュンポスは少しの間攻めなくなるでしょ!」
ヘファイストスのその言葉に一同納得する。そして、全員言葉を失った。
「どうするのよ……!?あれは私にも分からない!真耶が負けたら皆殺しよ!もう理性も何も無くなってる……あれはアポロンじゃないわ!」
ヘファイストスのその言葉を聞いて全員アポロンを見た。確かにあれをアポロンと呼ぶにはおかしすぎる。まるでなにか別の『怪物』になってしまったのかもしれない。
アイティールがそう思っていた時、突如それは起こった。
ドォォォン!というけたましいおととともに、凄まじい威力の魔力がアイティール達を襲った。
アイティール達はその威力に気圧され、更に、とてつもない魔力の波で押し飛ばされそうになる。それでもアイティール達は何とかその波を耐えた。
しかし、そのすぐあとに超巨大な炎が燃え上がった。黒や青、赤に燃え上がる炎は、何故かアイティール達がいる場所を避けている。しかし、そのせいで巨大な炎の壁ができてしまった。
その時アイティールは目を凝らした。この炎が収束している場所には真耶がいたのだ。それで何となく真耶が守ってくれたのだと察する。
しかし、その時突風がアイティール立ちを襲った。どうやら炎のせいで風が起こっているらしい。しかも、熱波までアイティール達を襲う。
「っ!?熱いっ!」
その時、アイティール達の体は宙に浮いた。そして、全員吹き飛ばされてしまった。そして、その後に発生した衝撃波で加速し、遥か彼方まで飛ばされてしまった。
━━それから何分たったのだろうか。アイティールはそう思った。そして、痛む体を無理やり起こし、当たりを確認する。
「っ!?」
なんと、アイティール達がいる場所の両サイドが完全に焼き尽くされてしまい、黒い野原となっていた。後ろを見ると、山さえもやきつくさらているのがわかり、完全にえぐれている。
「にゃ、にゃんだ……!?これ……!」
アイティールがそう呟くと、そこにいたみんなも起き上がった。どうやら全員飛ばされて気絶していたらしい。飛ばされた方向を見ると、木々が倒れているのがみてとれる。
「皆……!大丈夫かにゃ!?」
アイティールはそう聞いた。すると、フィトリアが呼んでいるのがわかった。
「こっちに来ておくれ!ルリータの両足が瓦礫に潰されてるのじゃ!」
「分かったにゃ!」
アイティールは急いでルリータの元まで向かった。そして、直ぐに瓦礫をどかそうとする。と言っても、瓦礫というり大岩なのだが……。それでも、フィトリアと力を合わせて退けた。
「すみません……杖があればよかったんですけど、どこかに飛んでいってしまいました……」
ルリータはそう言って潰されていた両足を抑えて涙を流す。
「杖ならここ」
そう言って無為が杖を持ってきた。
「ありがとう!」
ルリータは顔を明るくさせてその杖を受け取る。
「待って、今回復させたら足の骨が上手くくっつかにゃいにゃ」
アイティールはそう言った。
「そうね。これだと後遺症が残っちゃう」
クロエはそう言って足を優しく触る。そして、魔力で粉々になった骨を動かした。
「ちょっと痛むけど我慢してね」
クロエはそう言って魔力を流し込んでいく。
「待て、そういうちまちましたのは妾に任せるのじゃ」
そう言ってバラバラになった骨を動かして形を作っていく。
「痛っ……!」
フィトリアはルリータの表情も見ながら足の骨を動かしていく。クロエはそんなルリータ達を横目に周囲の確認をした。
「ここはどこなの?」
「かにゃり飛ばされたにゃ」
「そうね……」
クロエはそう言って周りを更に見渡す。すると、あるものを見つけた。
「あれ?何であそこだけ土が盛り上がってるの……?」
クロエはそう言って盛り上がった土がある場所に近寄る。
「っ!?真耶!?」
「「「っ!?」」」
クロエの言葉に全員反応した。そして、アイティールがクロエの近くによる。すると、そこには倒れて気絶した真耶がいたのだ。
「真耶!?大丈夫かにゃ!?」
アイティールはそう言って近寄る。この様子を見て大丈夫なはずは無いのに、気が動転してそう聞いてしまう。
アイティールは真耶の体を見た。その様子はとても痛々しいものだった。どんな火力で焼かれたのかと思うほどの傷だ。左腕の皮膚は焼かれてしまい肉が見えている。というか、左の上半身は同じような症状だった。
「何があったらこんなになるの……!?」
クロエは思わずそう呟いてしまう。
「”ヒールLv8”」
ルリータは自分の足に回復魔法をかけた。すると、ぐちゃぐちゃに潰されていた両足がみるみる治っていく。
「お2人とも!何があったのです!?」
ルリータは立ち上がると直ぐにクロエ達の元に駆け寄った。無為とフィトリアもルリータについて行く。そして、3人も倒れて気絶する真耶の姿を見た。
「酷い怪我じゃ……。手が少し溶解しておるな……」
「ここまで来ると悲惨……。炎に耐性がなかった訳ではないだろう?」
フィトリアと無為はそう言って真耶の体を触る。
「まだ熱い……」
どうやらまだ攻撃された跡が残っているらしい。熱が全身に籠っている。
「……まずい……わ……!もう……私の知るアポロンじゃないわ!ここにいてはダメ!早く逃げないと……」
ヘファイストスがそう言った時、アイティール達の少し離れた後ろにドォォォン!という轟音が鳴り響いた。そして、爆風がアイティール達を襲い、石の礫などが体にぶつかったり突き刺さったりする。
「「「っ!?」」」
そして、その場の全員は絶望する。なぜなら、そこに居たのは、魔力の質も姿も、ほとんどのことが変わり果ててしまったアポロンがいたからだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶はある空間に立っていた。周りは黒く塗りつぶされており、光などひとつもない。それにもかかわらず、自分の体は見ることが出来る。そんな空間に立っていた。
「……冥府……いや、違う。だとしたらまだ死んでないか……もしくは冥府を通り越して死んだかだな」
真耶はそう呟いて少し歩いた。床はある。でも見えない。真耶は何も無いはずの空間に足を置き、何も無いはずの空間の上を歩いていた。
だが、空中を歩いているという感覚は無い。なぜなら、足の裏に感覚があるから。そして、魔法を何も使ってないから。ここがどこかは全く分からないうえ、生きてるかどうかすら分からない。
真耶はそんな空間に1人立っていた。
「……」
「……」
「……」
沈黙が続く。
「……」
「……」
「……」
まだ続く。おそらくここには誰もいないのだろう。だとしたら、1人でここから出る術を見つけなくてはならない。
「……」
「……」
「……」
真耶は沈黙した。
「……」
「……」
「……」
また沈黙する。
「……」
「……」
「……やぁ」
沈黙が破られた。唐突に真耶の背後から声が聞こえる。しかも、これまで聞いたことがないような声。だが、遠い昔、どこかで聞いたことがあるような声。どちらなのかは分からない。ただ、知らなそうで知ってそうな声。そんな声だった。そして、真耶はその声の主を確かめようと振り返る。
「っ!?」
真耶は振り返るなり言葉を失った。
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